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にいだ、ののみや、ふじさきかなで。
ふじわら、ほり、まさつき、まつだ、まとば、みずきさちこ。
奏は新しいクラスの自分の席に着席してにんまりした。
藤咲と水木。
新学期は名前順で席が決まる故に、近くの席だろうとは思っていた。
しかし、まさかまさかの偶然。
運命の女神様のご加護。
奏と水木は同じクラスだっただけではなく、隣の席だった。
「これはこれは、やっぱり桜のご利益かなー?」
そう言って上機嫌の奏はにやけ顏を隠しきれていない。
「…さあねえ」
曖昧な返事で振り返る、城田七海。
何に願ったわけでもない彼女も、奏の斜め右前の席にいた。
「ふじが隣の席でべったりじゃ、水木も席替えまで苦労するかもねえ」
「むー!そんなことないよ!」
怒ったように言いながらも、顔は笑っている。
だめだこりゃ。
「ふふ…ふじちゃん、相変わらずね」
「あ、ゆみちゃん!おはよー!」
しろたの後ろはすずき。鈴木由美子。
登校してきたばかりの彼女は七海の後ろの席に鞄を置いた。
「ふじちゃん、今年も同じクラスだね。よろしくね。」
そう言ってふふっと笑う。
柔らかそうな茶色がかかった髪は胸にかかるほど長く、前髪は斜めに、ブラウンのピンで留めている。
大人っぽい印象の由美子と奏が並ぶと、まるで高校生と小学生のように見えた。
「ゆみちゃんとまた同じクラスで嬉しい!」
「私もだよー。でもミズキちゃんと隣の席でよかったね」
「ふふふ、そうなのー。あ、ゆみちゃん、この子、ななちゃん、城田七海ちゃん。私と同じ部活なの。」
奏と七海は一年生は違うクラス。
よって、七海と由美子は初対面である。
「あら、じゃあ弓道部なの?鈴木由美子です。よろしくね」
「うん、そう。弓道部。よろしくー」
「ゆみちゃんは、紅茶研究会なんだよ!」
「へー、紅茶?なんか似合うね」
「ふふ…毎週月曜と木曜は紅茶をいれてるから、二人とも今度のみに来てね」
いくいく、と盛り上がっていると、担任である西園寺先生が教室に入ってきた。
西園寺先生は優しくて少し可愛い、人気のおじいちゃん先生である。
教科は日本史。
先生のクラスで居眠りをすると、先生に教科書で頭をぽかりとされるが、それを目当てで居眠りをする生徒がいる、なんて逸話も。
一年生のときにも日本史を教えてもらっているので、みんな馴染みの先生でもある。
「そういえば、水木、遅いね」
「ミズキってば、新学期早々遅刻かな」
奏はそわそわと時計をみる。
水木は一年生のときから遅刻常習犯だ。
「あ」
奏の顔がぱっと明るくなる。
まったくわかりやすい、と七海はあきれる。
噂をしたとたん、前の扉から駆け足で入ってきたショートカットの女の子。
急いできたらしく、後ろ髪が少しはねている。
水木佐知子は奏に目をむけることもなく、教壇の先生に声をかけた。
「おはようございます。先生、私、目が悪くて黒板が見えないと思うので、一番前の席に変えて欲しいんですけど」
「…」
由美子も七海も、思わず同時に奏の顔をみた。
「…えーーっ!!ミズキ、なぜっー??!」
先生がうなずくとほぼ同時に、思わず叫んだ奏の声が、教室に響いていた。