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雨の日、影法師。

作者: 名切 麻代

 雨の日に影法師は見えない。

 ずっと前から、そう思っている。


 しとしとと雨の降る日だ。静かな、しかし確かに聴こえる雨の音は、やたらと鬱屈した空気を作り出していた。

 手にした赤い傘を、少し、揺らしてみる。すると、ぱらぱらと傘についていた雨粒が、濡れたアスファルトの地面に落ちていった。そのまま、足元の水溜まりの一部となって、波紋を画く。

 その水溜まりに、私の姿が映った。


 雨の日だから、影法師は見えない。

 雨の日の光は、弱い。


 水溜まりに映った私の姿は、ひどく小さく見えた。

 年齢のわりに幼い顔のせいか。身長に対して非常に長い髪のせいか。傘と同じく赤いレインコートのせいか。

 違う、きっとーー映しきれない表情のせいだ。


 雨の日は影法師が見えない。

 影のない人間は、存在しないはずなのに。


 私が浮かべているのは、恐らく絶望の表情だろう。

 自分のことだ。見なくたって分かる。

 “死んじゃえばいいのに”

 昨日知り合いに言われて、今日私が自分に向かって言い続けている言葉だ。


 雨の日の影法師は見えない。

 消えた訳でもないだろうに。


 思えば、何てことのない人生だった。

 たった1人しか友達が出来ず、そのたった1人に嫌われた。

 家族なんて元からいない。

 うん、独りぼっちだ。


 足下の影法師は見えない。

 影にすら存在を否定されるくらいなら。

 こんな命、続ける意味はない。


 雨の日に影法師は見えない。

 見えるはずも、ないんだ。


 気がつくと、雨脚が随分弱まっていた。

 波紋で歪んでいた水溜まりの中の私が、今ははっきりと見える。

 地に脚をつけた、私がちゃんとそこにいた。


 雨の日じゃ影法師は見えない。

 それは、見ようとしないから。


 ふと、水溜まりの中の私がまた少し、歪んだ。

 歪んで、崩れて、そしてまた元に戻る。

 再起。

 そんな言葉が頭に浮かんで、水溜まりをまた、こぼれ落ちた涙が揺らした。


 雨の日では影法師は見えない。

 見えないだけで、そこにある。


 そうだ、どんなに傷ついたって、人は生きていくものなんだ。

 それなら――


 雨はすっかりやんでいた。

 雲の隙間から、日の光が射し込んでいる。その柔らかな光は、私の思いを決意に変えた。

 私は傘を閉じ、来た道をーー家へと向かう道を歩みだした。

 きっと私の顔にはもう、絶望の表情は浮かんでいない。


 雨の日に影法師は見えない。

 その瞬間は見えないだけ。

 雨上がりの空は、隠れていた影を色濃く映し出した。


この文に深い意味はありません。

だから私鬱ではないです。断じて!


また、予想外にベタな展開になったような……小説は難しいですね。


ともかく、読んで下さりありがとうございました。

またどこかでお会い出来れば。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 前述の通り。 [気になる点]  個人的な見解ですが、真ん中あたり、ちょうど負から正へ感情のベクトルが変わるあたりですね。リズムというか、テンポというか、流れが悪い――物語がうまく流れていな…
[良い点] 「雨の日の影法師」というファクターを何度も繰り返して印象付ける、そこはよかったと感じます。それを中心に据えたことで、小説の形としては一貫して安定していました。 [一言]  こんにちは…
[良い点] 嫌なことや辛いことがあったとき、他の全てもそれに関連づけてしまうような、気持ちの揺れというか落ち込み方が丁寧に書かれていて良かったです。 そしてちょっとしたきっかけで、気持ちが上向きになり…
2013/06/10 11:53 退会済み
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