ひとりでおるすばん
ひとりでおるすばん
タラパンピンポンペポ、ポンカララン……。
かけ時計が「小さな世界」のメロディーをかなでた。十二時だ。フカフカ、そろそろお昼にしようか。フカフカというのはパンダのぬいぐるみ、ぼくの一番の友だちだよ。
テーブルにはママが作ってくれたサンドイッチがある。ぼくは、フカフカを椅子に座らせ、冷蔵庫から牛乳を取り出して慎重にカップについだ。ふーっ、こぼさずにできた。
「いっただっきまーす」
ぼくはサンドイッチをほおばった。
電話がトゥルルルと鳴った。ぼくは椅子からおりて受話器を取った。
「ママよ。シンちゃん困ったことなあい?」
「大丈夫だよ」
「お昼ごはん食べた?」
「今、食べてるとこ」
「食べた後は、ちゃんと歯みがきするのよ」
「はーい」
「ママ、五時には帰れると思うわ。テレビ見たり絵本読んだりして待っててね」
「ママ、ぼくもう四つだよ、時間だってわかるし。心配しないでまかしといて」
ぼくは電話を切った。
今朝、ママはぼくに言った。
「ママ、急に親せきのうちに行かなきゃならなくなっちゃったの。とても大事な用事でシンちゃんつれて行けないの。シンちゃん、おうちにいてくれる?」
そんなことで、ぼくははじめてひとりでおるすばんすることになったのだ。朝からフカフカとつみき遊びしてすごしている。
窓に雨のしずくがたれている。ビューン、ブォーンって音が聞こえる。ものすごく強い風が吹いてるみたい。なんかいやなお天気。
お昼を食べた。歯みがきも終わった。さあ、つみきの続きやろっと。
ピンポーン、インターホンが鳴った。だれか来たらしい。インターホンの受話器はとても高いところにあってぼくには届かない。玄関が見える窓まで行って、そおっと外を見た。男の人がかさとカバンを持って立っている。
「なにかご用ですか」って聞かなきゃ。でもなんかこわそうな人……。ぼくがなにもできないでいると、男の人は去っていった。
まっ、いいか。さっ、つみきの続きだよ。つぎ、フカフカの番だったよね。
ゴロロロ、ゴルゴロロロ。遠くでかみなりさんが太鼓をたたきはじめた。急に暗くなった。おへそ、かくしとかなきゃ。フカフカ、きみもおなかにタオル巻いとこうよ。おへそがなくても、おなかむき出しのところ見て、かみなりさん来ちゃうかも知んないもんね。
ピカピカーッ、ドゥオーン。突然、窓が光って、大きな音がした。
キャッ! ぼくはフカフカを抱いて急いでテーブルの下にもぐった。ぼくのおへそなんかおいしくないよ。かみなりさん、来ないで、来ないで! お願いだから、ねっ、来ないで。
電話がまたトゥルルルと鳴った。ママだ。ぼくは急いで電話までかけより、受話器を取って「ママ!」と呼びかけた。
「わたくし、ピカピカ銀行のきみなりと申しますが……」
受話器から男の人の声が聞こえた。ピカピカのかみなりさん! ぼくは「だれもいません!」と叫んでガチャンと受話器をおいた。
かみなりさんから電話かかってくるなんて。ぼくのおへそ取りに来たんだ。たいへんだ。
ぼくはカーテンを閉めて部屋の電気をつけた。時計を見る。三時だ。ゴロゴロって音はまだ聞こえる。フカフカと一緒に毛布にくるまった。からだのふるえが止まんないよう。
そうだ、テレビでも見よっと。
「ピュルル。わしはカミナリ妖怪だじょー」
テレビにいきなり、カミナリ妖怪の姿が映った。ぼくらの方に近づいてくる。ぼくはあわてて電源を切った。
フカフカを抱いたまま毛布をしっかりからだに巻いた。また、ドォーンと大きな音。突然、電気が消えた。こわいよう、こわいよう。ぼくは毛布を頭からかぶった。
いつの間にかぼくは、毛布の中で眠ってしまっていた。目をさますと、太鼓の音は消えていた。電気もちゃんとついている。
ふーっ、かみなりさん行っちゃったみたいだ。よかったね、フカフカ。
また電話が鳴った。ママかなあ。ひょっとして、かみなりさんかも。ぼくがいることを確かめようとしてるのかも。受話器を取るのがこわい。どうしよう、どうしよう。ぼくが迷ってるうちに、電話のベルはやんだ。
時計を見た。三時を指している。あれ、さっきも三時じゃなかった? なんだ、振り子、止まってるじゃん。
待てよ。ママは確か五時に帰ってくるって言ってた。時計が止まったってことは……。いつまでたっても五時にならない、ママが帰ってこないってことじゃないか! たいへんだ! こんな、こんなことって……。
目から涙があふれ出した。いつもパパから「泣くな」って言われてるけど、泣けてくるのはどうしようもない。ぼくは叫んだ。「ママーッ、ママーッ」
そのときだ。玄関の方でカチャッと音がした。
「シンちゃん大丈夫? 電話したのに出てくれないから、急いで帰ってきたのよ」
ママだ! ぼくは玄関まで走って行って、ママに抱きついた。今まで泣いてたけど、ママを見てもっと涙が出てしまった。
フカフカがぼくを見て笑っていた。