表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ひとりでおるすばん

作者: おだアール

   ひとりでおるすばん


 タラパンピンポンペポ、ポンカララン……。

 かけ時計が「小さな世界」のメロディーをかなでた。十二時だ。フカフカ、そろそろお昼にしようか。フカフカというのはパンダのぬいぐるみ、ぼくの一番の友だちだよ。

 テーブルにはママが作ってくれたサンドイッチがある。ぼくは、フカフカを椅子に座らせ、冷蔵庫から牛乳を取り出して慎重にカップについだ。ふーっ、こぼさずにできた。

「いっただっきまーす」

 ぼくはサンドイッチをほおばった。

 電話がトゥルルルと鳴った。ぼくは椅子からおりて受話器を取った。

「ママよ。シンちゃん困ったことなあい?」

「大丈夫だよ」

「お昼ごはん食べた?」

「今、食べてるとこ」

「食べた後は、ちゃんと歯みがきするのよ」

「はーい」

「ママ、五時には帰れると思うわ。テレビ見たり絵本読んだりして待っててね」

「ママ、ぼくもう四つだよ、時間だってわかるし。心配しないでまかしといて」

 ぼくは電話を切った。


 今朝、ママはぼくに言った。

「ママ、急に親せきのうちに行かなきゃならなくなっちゃったの。とても大事な用事でシンちゃんつれて行けないの。シンちゃん、おうちにいてくれる?」

 そんなことで、ぼくははじめてひとりでおるすばんすることになったのだ。朝からフカフカとつみき遊びしてすごしている。

 窓に雨のしずくがたれている。ビューン、ブォーンって音が聞こえる。ものすごく強い風が吹いてるみたい。なんかいやなお天気。

 お昼を食べた。歯みがきも終わった。さあ、つみきの続きやろっと。

 ピンポーン、インターホンが鳴った。だれか来たらしい。インターホンの受話器はとても高いところにあってぼくには届かない。玄関が見える窓まで行って、そおっと外を見た。男の人がかさとカバンを持って立っている。

「なにかご用ですか」って聞かなきゃ。でもなんかこわそうな人……。ぼくがなにもできないでいると、男の人は去っていった。

 まっ、いいか。さっ、つみきの続きだよ。つぎ、フカフカの番だったよね。


 ゴロロロ、ゴルゴロロロ。遠くでかみなりさんが太鼓をたたきはじめた。急に暗くなった。おへそ、かくしとかなきゃ。フカフカ、きみもおなかにタオル巻いとこうよ。おへそがなくても、おなかむき出しのところ見て、かみなりさん来ちゃうかも知んないもんね。

 ピカピカーッ、ドゥオーン。突然、窓が光って、大きな音がした。

 キャッ! ぼくはフカフカを抱いて急いでテーブルの下にもぐった。ぼくのおへそなんかおいしくないよ。かみなりさん、来ないで、来ないで! お願いだから、ねっ、来ないで。

 電話がまたトゥルルルと鳴った。ママだ。ぼくは急いで電話までかけより、受話器を取って「ママ!」と呼びかけた。

「わたくし、ピカピカ銀行のきみなりと申しますが……」

 受話器から男の人の声が聞こえた。ピカピカのかみなりさん! ぼくは「だれもいません!」と叫んでガチャンと受話器をおいた。

 かみなりさんから電話かかってくるなんて。ぼくのおへそ取りに来たんだ。たいへんだ。


 ぼくはカーテンを閉めて部屋の電気をつけた。時計を見る。三時だ。ゴロゴロって音はまだ聞こえる。フカフカと一緒に毛布にくるまった。からだのふるえが止まんないよう。

 そうだ、テレビでも見よっと。

「ピュルル。わしはカミナリ妖怪だじょー」

 テレビにいきなり、カミナリ妖怪の姿が映った。ぼくらの方に近づいてくる。ぼくはあわてて電源を切った。

 フカフカを抱いたまま毛布をしっかりからだに巻いた。また、ドォーンと大きな音。突然、電気が消えた。こわいよう、こわいよう。ぼくは毛布を頭からかぶった。


 いつの間にかぼくは、毛布の中で眠ってしまっていた。目をさますと、太鼓の音は消えていた。電気もちゃんとついている。

 ふーっ、かみなりさん行っちゃったみたいだ。よかったね、フカフカ。

 また電話が鳴った。ママかなあ。ひょっとして、かみなりさんかも。ぼくがいることを確かめようとしてるのかも。受話器を取るのがこわい。どうしよう、どうしよう。ぼくが迷ってるうちに、電話のベルはやんだ。


 時計を見た。三時を指している。あれ、さっきも三時じゃなかった? なんだ、振り子、止まってるじゃん。

 待てよ。ママは確か五時に帰ってくるって言ってた。時計が止まったってことは……。いつまでたっても五時にならない、ママが帰ってこないってことじゃないか! たいへんだ! こんな、こんなことって……。

 目から涙があふれ出した。いつもパパから「泣くな」って言われてるけど、泣けてくるのはどうしようもない。ぼくは叫んだ。「ママーッ、ママーッ」

 そのときだ。玄関の方でカチャッと音がした。

「シンちゃん大丈夫? 電話したのに出てくれないから、急いで帰ってきたのよ」

 ママだ! ぼくは玄関まで走って行って、ママに抱きついた。今まで泣いてたけど、ママを見てもっと涙が出てしまった。


 フカフカがぼくを見て笑っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ