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異性と豚

私が常々思っているのは、小田のタフさと行動力の素晴しさだ。カエルの様に目が離れ、スタイルもたいしたことない、しかし周りの人間を引き込む行動力で、クラスでも一目おかれる存在で女子にも人気がある。

 目の前でサンプラザに向かい自転車を漕いでいる小田は、その持ち前のタフさで軽々と気持ちをリフレッシュしたようだ。

「誰かいるかな?誰がいるかな?」 

 鼻歌を歌いながら自転車を漕いでいる小田を見ていると、守山の部屋の鍵が閉まっていた理由など、何でも良くなっていた。

 私も何か一つでも自信を持てればなと思う。学校の成績、運動、見た目など平凡すぎて個性がないのだ。それがコンプレックスで余計に引っ込み思案になってしまって、目立たない存在になってしまっている、悪循環だ。

 私以外の大川塾のメンバーは学校でも目立つ存在ばかりで、その一員になっているだけで少し鼻が高かったりもする。

 サンプラザに到着して自転車を降りると、前にいる小田が突然叫びだした。

「ごらー、いのばらー、でーとがー、どごいっでんだー。」 大声で叫んでいるせいで声が割れてしまっている。

 叫んでいるほうを向くと、猪原が彼女と二人で道の向かいの公園に入っていく姿が見える。

「ごらーっ、むじがーっ。」 小田は顔を真っ赤にしながら、先ほどの憂鬱を吹き飛ばすがごとく叫んでいる。

「畜生、あの豚野郎めー、無視しやがった。不細工な彼女つれて歩きやがって、それで勝ったつもりかぁ?コラぁっ。」

 なんだかものすごく失礼なことを、ブツブツ言っている。

 そうなのだ、太っている猪原でさえ彼女がいるのだ。まあ確かにかなり個性的な顔をしている娘なので、

 全然うらやましくない。


 フリをしているが、


 実は少し、

 うらやましい。


 田舎は不良がもてるという都市伝説は事実で、猪原はがさつでガラが悪い。

 そのくせ塾に通う変わり者だ。成績も当然良いわけがないのだが塾には毎日キチンと来ている。周りの友達達もガラが悪い人間ばかりのくせに、私達とも遊んだりする。私みたいな凡人には理解できない行動だ。

 まったく女子にモテる要素がなくても、不良というだけで学校で目立つ。

 不良になることさえできない私は


 正直少し、

 うらやましい。


「小田、ほら暑いし、早く入ろうや。」

「空谷に負けるならまだしも、豚にまで負けるなんて、守山のせいでズボンまで破れるし。」

「いや、そりゃ自分が悪いって、ほら入るぞ。」 小田の汗にまみれた背中を押し、店内に入る。

「ちょっと文房具屋に寄って。」 二階のゲームコーナーに向っている途中で小田が言う。

 

 私は小田や早崎、空谷達大川塾メンバーで遊んでいるだけで、十分に楽しい日々を過ごせている。

 学校は墓場のようなもので、放課後までの時間つぶしだ、すでに塾でならった授業をうけ、部活をしていない私は体育の授業でも目立たないようにそれなりに過ごす。

 なんで小田は彼女と遊ばないのかな、

 私なんかと遊んで楽しいのかな、

 なぜだか今日はネガティブだ。

 暑さで疲れてしまっているのか、家で明日の試験勉強でもしておけばよかったかなと思う。

 普段は家で勉強なんかしたことないのだが。


 エスカレーターで二階に向う。

 小田の裾が破れたズボンは文房具屋で買った安全ピンで留められている。

 パンクロッカー気取りで、エスカレーターを駆け上がって行く姿を見ていると、

 ネガティブな考えが少し吹き飛んだ。

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