15 死の婚姻1
魔界の設定を詰め込みました。説明文が長くて、読み飽きてしまいましたら、申し訳ございません。
特に中盤下の、魔界の国とかの話あたりがうまくまとめられず、だらだらとつづってあるかもしれません。よろしくお願いいたします!
面倒な場合は 下から数えて30行あたりの
>「バゼルが貴殿に、『殺す』『いいな』と問うたのか?」
あたりからお読み下されば、次話の内容につながると思います。
「キ、キクネ様…。バゼルの『妻』に、…なるの、です、か…!」
カシャン。
リロートのグラスが彼の手から落ちた。勢い良くこぼれた赤い液体が、金の刺繍入の施された高価そうなテーブルクロスを赤く染めた。
「ふむ、『死の婚姻』か?」
「そ、そんな…。い、嫌です、キクネ様…、わらわ、わらわ…」
魔王が意味ありげににやりと静かに笑い、次いでリロートのよわよわしい声が私の耳に届いた。
…リロートが、今にも泣きそうな表情で私を見つめている。
(つ、妻…?)
今は、魔王とリロート、私の3人で食事中。食事と言っても、私以外はお茶会に近いかもしれない。
リロートとは、時間が数時間狂っているし、魔王は私と同じ人間時間らしいのだが、月に数度、食物は摂取すれば事足りるとの事で、気が向いたときしか食事は取らない。
つまりは、私1人が昼食の真っ最中。
寝室の隣に、舞踏会でも開くのでしょうか? とのばかりの広さの部屋があり、
その無駄に広い部屋に、これまた無駄に長いテーブルが用意され…。
テーブルの上には、どこぞの王族様の晩餐会でしょうか?
とばかりの豪華な料理が用意されている…。それが毎回なのだから、まったく…、なんとも…。
何度、こんなにはいらない、申し訳ない、と言っても、相手にはされず…。
それどころか、断るたびに品数が増えていくのだから…。
そして、驚くことに、この目の前の豪華な食事は、魔王作。
くるり くるり
魔王が、長テーブルに置かれた食材に向け、大小さまざまな魔方陣を描いていく度、食材が次々と、料理に変わるのだ!
湯気のたったおいしそうなスープ、
やわらかそうな肉料理、
白身魚のソテーにポテトのようなサラダ添え、
ぷるんとお皿に盛られた、透明度の高い自然な色合いのゼリーのようなデザート、ケーキ…、
……
くるり くるり
そのあまりに無駄の無い優雅なさまは、まるで、軽やかな曲を奏でる指揮者のようだ。
ただ1つだけ、救いといえば、魔王が悪食やゲテモノ食いでなかったこと。
「ふむ、僕と同じ食事でいいだろう」と言いながら用意されたので。
…生の目玉とか、わけのわからない魂などの食事事情でなくて本当に良かった…。
(和食が食べたいなんて、贅沢は絶対に言いません。神様ありがとうございます…)
けれど、それでも…。
くるり くるり くるり くるり と出てくる量が半端ではないのだ。
どう考えても、この量を私は食べきれない…。
『僕が後で食べる』と魔王はひょうひょうと言うが、おそらく嘘だ。
私の恐縮し困る様子をみて、魔王はひそかに楽しんでいる節さえ見えた。
(ああ、どうしてこの人は…。確実に、人をからかうことが好きなタイプだ…。見た目はとても神経質そうに見えるのに…)
ああ、それにしても、もったいない。
本当に、もったいない…。
そう何度思ってみても、私の胃袋にはやはり限度があった…。
ちらりと、量の多さにリロートに助けを求めてみるが、
『どうぞ』
と、柔らかな笑みで返されるだけで…。
リロートは食事として、悪夢を見せたときの、負の感情を食べるらしい。
嗜好品として、時々、新鮮な血を飲んでいるようだ。
先ほどこぼれたのはこの血。血の出処は、詮索はしない…。
いつも、血入りグラスは手乗りサイズの兎が、ふわふわと飛んで器用に運んでくる。
耳が蝶の羽のようなピンク色の毛糸を丸め込んだようなまあるいフォルムの兎。
それが廊下をふわふわ上下に浮遊する光景は、奇妙ではあるが、風船のようにゆるくゆっくりと動く様子は、どことなく癒される感じがした。
確か、
『ロッジ家よりの献上品になります。ワーリナル種の珍しい使い魔なのです、キクネ様』といわれたのだが…。そもそも、ロッジ家が分からない。
実は、私は触ってみたい衝動に駆られ、ふわふわ浮いていた、蝶兎をさわさわと触った事がある。
(あ、ふわふわだ…)
思った以上のふわふわ感に、私はとても満足した。目を細め、キューキューと気持ちいいのだと鳴く。
(あ、何だろう、懐かれた気がして、嬉しい…)
「キクネ様? 蝶兎に触れられた、のですか?!」
そう、リロートに見つかり、声をかけられた。
「あ、ごめんね、リロート。やっぱり触ってはいけなかった?」
「い、いえ、その子は、血魔族当主一族の、わらわ達アリジナーリ家以外のものには懐かないモノでしたので、驚いてしまいまして…。…やはり、キクネ様は不思議なお方ですね」
と、驚かれた事に、逆に驚いた。
それから今更になるのだが、この魔界についてもいくつか分かったことがある。
ここは「魔王国」とかの城じゃなかった…。
いいや、正確には『国事体なかった』。
てっきり…、
魔族とは、魔王をトップとした国が形成されていると思っていた、のだが、違うらしい。
よくある、王、貴族、兵士、平民…などのそういった階級自体存在せず、だった。
つまり、この城自体 魔王の個人所有物で、単なる家で、
参謀とか、財産管理職とか、それどころか料理人、メイドそういう担当専門者すらいないというのだ。
では、この城にうろうろいる魔族たちは? と思って問いかけてみると、
「ああ、魔族にはすべて、この城(僕の家)の出入りを許可している、来るも帰るも、住み着くも、彼らの自由なのだよ」
と、さらりと言われた…。
よくよく話を聞いてみると、リロートにしても、バゼルにしても、魔王に惚れ込んで、
自らそばにいるというものなのだそうだ。
つまり、バゼルの魔王の護衛というのは、あくまでもバゼル自身の行動の産物らしい。
ああ、何だろう、報酬や、義務ではなく、己の信念で主を決め、尽くすなんて、武士道の模範のようだと、感服してしまった。
「魔族は、あくまでも種族単位で存在し、一定の生態系を維持しているではないか」
と、さも当たり前のように話されるのだが…。
ええっと、イメージ的には、野生の動物などの縄張り、共存、弱肉強食といった自然界の動物の生態系が、近いのかもしれないと思った。
リロートの血魔族は、血魔族の城を構えているし、
バゼルの種族は、もっと魔界の深くの森を縄張りに持っているらしい、
狼人族は、めったに人前に姿を現さない。
その中でも、魔王は別格で、魔族の畏怖と憧憬の存在の絶対性を持っているらしい。
異種族間での争いが、激化してしまったときや、一体の魔族の暴走などで、
『あのときの魔王は、強く、獰猛で、美しかったのです…。
一撃の魔法で、すべてを蹴散らし、森を焼き、山を消し、その圧倒的な魔力で、わらわ達を魅了するのです』
と、リロートが、崇拝に瞳をうるませ、ほうぅと ため息で話すのだから、
簡単に言うと、喧嘩の仲裁? まとめ役? 『絶対的な力で、魔族の上に君臨する存在が魔王』たぶん、そんな感じだろう。たぶん。
いや、それよりも、私がバゼルの妻になる件だ。
一体、どうして、そんな話になったのだろうと…。
バゼルに殺すと念を押されたので、じゃあ、その竜の卵に近寄らなければいいや
と思い、その場所を把握する必要があると思い…。
「あの、竜の卵の部屋の場所を聞いてもいいですか?」
「何故だ?」
「バゼルに近づくなという感じの忠告を受けたので、行かないようにしようと…」
「? 別に貴殿が卵に会っても問題なかろう?」
「いえ、忠告の延長で、『俺がお前を殺す、誰にも殺させない、いいな』と念を押されましたので」
(一応、自分の命の保障のために)
「バゼルが貴殿に、『殺す』『いいな』と問うたのか?」
「あ、はい…」
(それはそれは、楽しげに…。狼人族って、血の気の多い種族なんですね…)
「ふむ…、『いいな』とまで念を押したか…、『死の婚姻』か…?」
「『死の婚姻』…?」
また、聞きなれない単語に私は困惑し、リロートをちらりと見た。
「魔王、それは一体、どういった儀式なのでございますか?」
リロートも、分からない様子で、素直に魔王に問い直している。
「ふむ。獣族の古い風習なのだよ、とうに廃れたものだと思っていたが…」
「風習でございますか?」
「ああそうだ。特に狼は誇り高き種族だ、故に他者にその命を奪われるのならば、自らその命を喰う契約を交わす。その契約が 『死の婚姻』であり、伴侶とすべき相手だけに行われる儀式」
「キクネ様! それは本当でございますか…」
そうリロートに、まっすぐに見つめられ本当かと聞かれたのだが、聞かれた私自身が、初耳のことだったので…。
「あ、あの、私ちょっと、行ってきます」
何かの間違いだろう。間違いならば、バゼルに教えておかなくてはと思い、私は大きくうろたえながらも、勢い良く部屋を出た。
それから、目次にひっそりと、キャラのイラストをこっそり貼ってあります。
本当は、イラスト書きますよ!との募集しておられる方に、無謀にも頼もうかと思ったのですが、勇気が出ず、自分で書いたので、とても下手ですが…。よろしかったらどうぞです。
(12/22 血魔族を夢魔と書いていたのをひっそりと手直し)