14 裸の獣・竜の刺客
狼が人で登場と、竜の卵の話を少し書いてみました。
また主人公が、何かに勘違いされ、また面倒な設定になっておりましたら、いつもすみません。
ぬっと、ごつごつとした無骨な手が私に伸ばされた。
「……!!」
知らない男の人だ。銀の短めの髪、金色の鋭い目つきの顔の男。
年齢は、20代前半、いや、私と同じ年かもしれない。魔王のように気品溢れたといったものではないが、野生的な魅力のある顔立ちの男だ。
けれど、…その頭には、狼のような獣の耳が見えた。
そして、その手は私の着物の襟元をぐいっと摑み、そのまま乱暴に右肩を開いた。
「だ、誰?! 止めて下さい!」
男に襟元をつかまれ、上半身だけ、浮かばされている体勢になってしまった私は、
男の呪縛を解こうと抵抗するが、男の腕はびくともしない。
「うるさい、黙れ」
私が抵抗した事が癇に障ったのか、低く不機嫌そうな声を浴びせられた。
キツイ瞳を向けられ、萎縮してしまう。
「お前の治癒力か?」
「治癒力? こ、この肩なら、リロートが魔法で…」
「ち…。あいつか…」
ああ、怪我の様子を見ていたのかと、理解した。
理解したところで、私は、はっと気が付く、どうして『日本語』を話せるのかと?!
『文字の繭』をあげたのは、リロートと…、狼の…バゼル?
あの鋭い目のバゼル…。そうだ! 彼も金色の目をしていた、銀の毛並みで…。
「バゼル? もしかして貴方はバゼル…?」
「あ? 当たり前だろう」
そうさらりと流されてしまった。そうか当たり前のことなのかと…。
いつもの冷たい、私を拒否する口調は、やはり彼なのだと、私は理解した。
だが、目の前にいる彼からは、いつもの殺気は見られなかった。
かわらず、鋭い目つきは変わらないが…。
「ふん」
人型のバゼルは乱暴に襟を放した。
今度は、踏ん反りがえるように、私の目の前でバゼルは、胡坐をかいた。
「……!!」
狼が人型になる驚愕を飲み込んだ。
だが、それ以上に、私はわが目を疑う、
「……!! バゼル! 何で、裸!?」
そう、バゼルはその体に何も身につけておらず…!
たくましい筋肉、引き締まった腕、割れた腹筋の野生的さ。
頭には狼の耳、それに尻尾もあるようだ。
いい、筋肉だなとか、
あの太い腕なら、道場に飾ってあった、あの大きな一途月城の弓も引けるだろうな…。
とか、色々目の前の現状の逃避に励んでみたが…。
ここはどうすべきか?
毛布を投げ渡した方がいいでしょうか?
それとも悲鳴をあげてみるべきでしょうか?
「……」
ギシ。
バゼルがかけた重みでベットがなった。私はその音に負け、
バサッ!
手元にあった毛布をとっさに、力の限り彼に投げていた。
「…このアマ…」
案の定、布は、彼の頭にあたり、そのまま、彼を隠すように、垂れた。
まずい、明らかにまずい…。いつも機嫌が悪そうな彼がさらに険悪な目つきになる。
「人がおとなしくしていりゃいい気になりやがって」
「ごめんなさい。だけど、とりあえず何かを着て!」
どこがおとなしくなんだろう? と声を大にして問いかけてもいいだろうか? との理不尽さを飲み込んだ。
「ああん?」
また、不機嫌そうな声をあげ、ベットをきしませ、降りた。
絨毯よろしく床にひいてあった、毛皮風の布をずりりと拾い上げ、
不器用にソレを腰に巻着付ける。巻きつけ終わったところで、銀色のふさふさの尻尾が毛皮からひょこりと顔をだし、ふりふりと不規則に揺れた。
(どうしよう…。私はこれを可愛いと思うべきか…、可笑しいと笑うべきか…)
鍛え上げた肉体と狼の尻尾と耳のアンバランスさが…。
「ち、今までお前、俺に服を着ろ!とは言わなかったじゃねーか」
「え? だって、それは狼だったし…」
ああ? 馬鹿かこいつ、なに言ってやがるんだ? との雰囲気をかもし出し睨まれた。…単純に恐い。
でもこれでわかったことがある。バゼルにとって、狼型でも、人型でも自分の姿には重点は置いていないらしい。
「服を着ると感覚が鈍る」
…犬に服を着せるのは、至難の業だ。それに私も犬は服など着ていない方が、いいと思う。
あのしなやかな体型に 全身を覆う短髪の毛。完璧とさえ思っている。彼は狼だけれど、同じこと。
けれど、それは犬や狼ならば、の話だ。
(だって、バゼルは現に目の前に人の形としている…)
これは、服を着せる習慣をぜひともつけておかなくてはいけないのでは? と私は心配になった。
魔王や、リロートの前でもこんな風なのだろうか? 外で、いきなり人型になって変な目で見られるのではないのだろうか? と心配してしまう。
「……」
そして、ここまで考えて、私は笑ってしまった。先日まで、恐いと思っていた彼のことを心配するだなんて、
私は、どこまでお人よしなのだろうと…。
(あれほど、彼が憎くて嫌いだと言ったのに…)
「…何を薄気味悪く笑ってやがる…」
そう彼の不機嫌そうな声が聞こえ、私はふと思った。
(ああそうだった…、もともと、他人を『嫌う』ことは苦手だった)
物事を穏便に済ませることをいつの間にか覚えた、
だから苦手な他者でも、嫌うことはせず、いつの間にか遠避けていたり、可愛そうな人だと思ったり…。
つまり人を恐いや嫌いと思うよりも早く、私は関係を切り捨てきたのに、
(ああ、そうか、彼には、『嫌い』をそのまま通していたんだ!)
彼のある意味まっすぐなまでの、私への拒絶は…、強烈だった。その強烈さは私の心は揺さぶられていたのかも知れない。
(それに、私を食べるといったときの、困惑の彼の表情も気になるのも事実…)
「何故、主に俺の処分を請わなかった?」
「お前は、主のお気に入りだ、俺の命1つぐらいの願いは、どうとでもできたはずだ」
バゼルは壁に立てかけてあった、私の弓を乱暴に触る。
そして、おそらく見よう見まねだろう、その無いはずの矢先を私に向け、そのたくましい腕の限りで弦を引く。
(ああ、もっと、弓はまっすぐに縦に構えなくちゃいけないのに)
その斜めに構える姿に、弓を持ち始めたころの幼い私を重ねてしまった。
ぎりぎりと弦が悲鳴を上げた。ブチンと弦の切れる音がし、切れた弦が彼の頬を打った。
びゅっ!
瞬間、あるはずのない矢が びゅっとなり、私の髪を掠める。じりじりと髪先が少し焼けた。けれどそれはほんの少し。炎の矢だ。赤く燃える炎の矢が、私の髪をかすめていった。
「バカが! 俺が脅しをかけているうちに逃げてしまえ場良かったんだ!
お前は!!!」
ガランッ。
と音を立て床に、弓が投げ捨てられた。
「え…」
ぎょっとした、彼の顔が青ざめていた。
その言いようは、私に逃げてほしかったというもの、
ああそうか、今までの、彼の拒絶は、私への脅しだったのだと初めて気が付いた。
なんて、まっすぐで不器用な人なのだろう…。まるで私のようだと…。
それに、もう彼をそれほど恐いと思わない…。
ほら、矢に殺気が乗っていない。ほら、今度は私の肌は傷すら付いていない。
「くそっ」
そう、腕を伸ばされ、私は腰掛けていたベットから引き摺り下ろされた。
そして、そのまま抱きしめられ。、いや、抱きしめるではないのかもしれない、その力がいたいぎりぎりと…
「お前は『竜』か?
主の『竜の卵』を取り返しにきたか?」
竜の卵? …そういえば、魔王が眠りに行く部屋の名前。そうか、卵を魔王は育てていたのか、と私は思った。
「主が、かの魔力を注ぎ、慈しみ育てている卵を取り返しに来たか? 竜王の手のものか? それとも…、次期竜王か?」
あまりの話の飛躍に、頭が付いていっていない。
魔王は私を「女神」だといい。
リロートは「始祖族さま」だといい
今度は彼に「竜」かと問われた。
「…ちがう、私は単なる人間、『鳥居菊音』」
私が自身の存在を確認するように、ポツリとつぶやくと、彼の瞳が驚愕の色を宿した。
「これだけ、俺が脅しても、口を割らないのか……」
「違う。割る口がないだけ」
彼の表情がさらに怪訝になる。もともとの鋭い眼光がさらに鋭さを増す。
(だって、私には何も無い。この知らない世界にぽいっとほおり込まれたのだから。
このちっぽけな私に、彼らは一体『誰』を見ているのだろう…?)
「このまま絞め殺すぞ」
「それはいや…。けれど、本当に私は何も知らない」
ぎりりぎりり
彼の腕に力がこもる。締め上げられ。肺に酸素が取り込めない。ひゅーひゅーと、私の口から音が漏れた。
それでも、私は知らないものは知らないのだと訴え続けた。
「し、…知らない…、何かを話せという方が無理、な………」
そう、私が毅然と答えると、バゼルはその険しく鋭い目を、これでもかと思うほどまんまるにさせた。
「ははは! 強情な女だ」
「……!?」
そして、勢い良く笑い出す。本当に可笑しくてならないといった笑いだ。
「お前みたいな女は初めてだ。俺の脅しにあっても、顔色ひとつ変えないのか、なんて女だ!
そうだ、そうだな、ああ、悪くない、お前わるくないぜ」
満月になった目は本当にとても楽しげに輝いたので、私は面食らってしまった。
きつく締め付けられていた、腕が緩められ、私はその機会を逃すまいと、息を吸うが、勢い良くすいすぎたためか。
げほげほと数回むせた。
「お前、気に入った」
「そうだな、お前が密約により、『竜の卵』をねらったとしても、俺がお前を阻止すればいい!
何だ、そんな単純なことか!」
ははは! とバンバンと私の背を叩く。
「お前の挑戦、俺は受けた。この狼人族の長として、受けた」
ちょっと待って! と口をはさもうとするが、まだ呼吸が定まらず、満足に言葉も発せない。
無論私は、竜ではないし、魔王が竜の卵を育てているなんて話も今聞いたというのに…。
「ああそうだ、安心しろ、もしお前が主の『竜の卵』をまんまと奪い返し、主の怒りに触れたとしても、そのときは俺が殺してやる。
ああ、そうだ、お前は俺が殺す、誰にも殺させない、俺が殺す、いいな!」
いいな!とまで念を押され、私は色々と誤解をされ、どうしたものかと困惑したが、
とりあえず、私は熱烈な彼の告白を受け、彼は満面の笑みで笑った。
主人公は、狼をゲットしました。
彼の心わしづかみです。
今後彼は、主人公に貢ぎまくります。狼流に、それはそれは色々と…。を予定しております。