11 銀の狼2
ぐるぐる~ ぐるるる~!!
ものすごい形相だ、怒りの爆発が私にも伝わってくる。
「ぐるるる~、!!」
唸りとともに後ろに周られ、その強靭な前足で私は床に押し付けられた。
「ぐ…」
すさまじい力で動きを封じられ、そのまま胸元をまさぐられる。白い着物が乱れた。
ぷちんっ
(私のお守り!)
一番目の無口な兄が私に持たせてくれたお守り、今度の弓道の昇段試験に受かりますようにと、もらったモノなのに!
それに、『文字の繭』をそれにこっそりとしまい込んである。無くさないようにと。
狼は朱色のお守りの紐を千切り、その鋭い牙で見せびらかすように、だらりと咥えた。
「ダメ! それは大切なものなの! 返して」
取り返そうと、手を伸ばすが、私はためらってしまった。
恐いのだ、恐い。この私を押さえつけている大きな狼が、恐い。
いつもは、魔王やリロートがいるときは、おとなしくしているのに、
だから、少し嫌われているかもしれないけれど、さわって、その毛に埋もれてみたいなど、妄想さえ抱きもできたが、
やはり、恐い。特に今のように、牙を向けられると、恐い。
「……」
狼は動き出す。私を重みから開放し、部屋の入り口へむかう。
のそりのそり。
乱暴に開かれたドアの前で、狼は一度停止し、数秒の停止後、駆け去った。
ふわりと、ドアに彼の綺麗な尾の先が見えた。駆ける去る瞬間、私に一度も視線を投げることなどせず。
「あ、待って!」
私は、狼を追うために、慌てて部屋を出た。
銀毛の狼を追ってたどり着いた場所は。城の奥の小さな庭園だった。
朽ち果てた木が1本。枯れた花々がまばらに点在する。寂しい寂しい、庭園。
その朽ち果てた木の下に、狼がいた。その足元には無残にも引き裂かれた朱色のお守り。私のお守り。
「…!!」
引き裂かれたお守りから、文字の繭が、2つ転げ落ちていた。
ぱくり。
と、それを1つ狼は、口にし、忌々しげに、朱色のお守りを踏みにじる。
「! どうして、こんなひどいことを!」
「私が、嫌いなの? 嫌いなら、それでもいい。けれど、これはひどすぎる!」
貴方に『私の言葉が分かるのなら』、こんな事をする貴方なんて嫌いって、嫌味の1つでも言えるのに!
「!!」
そう思った瞬間、狼ののど付近から、光の輪が首輪のように出現し、消えた。
「ち、お前の言葉など!」
低く低く苛立ちを持った不機嫌な声が、狼から聞こえた気がした。
「えっ?!」
私は聞きなれた言葉を聴いて驚きの声をもらした。すると狼は跳躍し私の目の前に!
「痛いっ!」
頭突きだ、頭突きをされた。
顔面が痛い…。鼻が、唇が…。痛い…。唇から血が出てるかもしれない、痛い!
「は、このウスノロめ」
とはっきりとした日本語が、狼から、そうだ、狼の口から発せられたのだ。
(彼は、会話ができる? え? あ、ちがう。日本語、何で日本語を話せるの?!)
あ、そうだ、狼は文字の繭を確かに食べた。そして、私は怒ったんだ『私の言葉が分かるのなら』嫌味を言うのだと!
「うそ、それで、日本語…を…」
「騒ぐな、しゃべるな! 俺はお前を、信用していない」
無駄口を叩けば、この牙で切り裂く。
高圧的な口調だ、強く乱暴で、私を拒絶している口調だ…。
やっぱり、彼は私を嫌っているのだと、確信できた。嫌われるのはいやな気持ち。
万人に好かれようとは思っていない、けれど、これほどまでに、拒絶の言葉を浴びせられたことは無かった。
「俺の質問だけに答えろ」
金色の冷たい視線に、ぞくりとする。
「お前は、誰だ? いや、何だ!」
「え…、それってどういう意…」
「俺の質問にだけに答えろ!」
苛立ちの声とともに、右肩に焼けるような痛みを感じた。
「っ…」
ぎりぎりと、肩に鋭い爪がくいこむ。
爪の進入に私の肩の肉が爪の体積に攻められ、逃げ場を逃し、きゅうきゅうと気持ち悪く体内に響いた。
「…私は、…鳥居菊音。
ここじゃない、ちゃんとした世界の人間よ!」
「人間? はっ! 嘘を言うな! お前は「人」じゃない。
血魔の若造は、お前を「始祖族」だとうそぶいていた」
ぎりぎりぎり。
さらに爪がねじ込まれる。
「だが、「始祖族」は、始まりの『魔』だ。魔王以外に存在しない『魔』。
いくら、同じ闇色の髪、闇色の目を持っていても、お前は違う。そうだ、お前は違う!
お前からは、人間の匂いも、魔の匂いもしない」
「俺は、闇の主を守護するモノだ。だから、お前を消す。人で無いなら、また魔でもないのなら、お前は何だ!」
そう、空を裂くように狼に叫ばれ、私は虚無を覚えた。
魔王は私を「女神」だという。
リロートは私を「始祖族さま」だという。
そして、貴方は私を…「人でない」といった…!
虚無を覚え、虚無を覚え、その得体も知れない恐から抜け出すように、私も叫ぶ。
「しらない、しらない、私はしらない。私は、人間だもの!」
狼の太い凶暴な前足をつかんだ。両腕で勢い良く肩から抜き取る。
「だったら、私は何? 何だというの! せっかくこの理不尽な世界に順応しようと努力しているのに、
私が私の存在を否定でもすれば、貴方は満足だとでも言うの?!」
「……!」
涙があふれ出た。ああ、そうだこれは涙だ。悲しいのか、悔しいのか、憎いのか…。
感情のすべてが麻痺をし、
私は、声も無く、ただ、ただ、涙を流した。
始祖族の設定を無理やり、詰め込みました。本当は、リロートとのイベントで血魔族の設定とともに、出す予定でしたが、こちらに詰め込み…。
どうしても、キャラとの甘いイベントが書けず、どうすればいいのか日々 苦悩しております。
らぶらぶ設定にするには、女神の立ち位置を複雑にせず、いきなり目が覚めたら、魔王のベットで、魔王 狼 ゴスロリ男娘 に「おはようございます、女神様」という、流れの方が良かったのだと、いまさら気づくことができました。
そして、女神として、ちやほやされて、魔界でデートして、ついでに世界すくって、彼とハッピーEND がぶなんであったと・・・。