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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第67話 修理便という約束

西方第二集落との新しい道がつながった。


その最初の依頼は、新しい品物ではなく、壊れた水瓶を直してほしいというものだった。


満タン便は物を届けるだけではない。


「長く使うための物流」が、新たに始まる。

朝。


水車町の集荷所には、一枚の赤い荷札が置かれていた。


修理便


誠司は荷札を手に取り、少しだけ笑った。


「こんな札を使う日が来るとはな。」


ロウグが帳面を開く。


「新品配送ではありません。」


「修理して戻す便ですね。」


「うん。」


「物を大切に使う町なら、きっと増える仕事だ。」


今回の荷台は少し変わっていた。


飲み物。


ガソリン。


いつもの荷物。


そして中央には、大きな木箱が固定されている。


中には工具がぎっしり入っていた。


鍛冶町のガランが作った携帯鍛冶道具。


陶工が使う補修用の粘土。


木工道具。


革細工の針。


交換部品。


誠司は木箱を軽く叩いた。


「今日は工房ごと運ぶ。」


鍛冶町へ立ち寄ると、ガランが待っていた。


その隣には、小柄な女性が立っている。


髪を後ろで束ね、粘土で汚れた前掛けを着けていた。


「陶工のリネアだ。」


ガランが紹介する。


リネアは少し照れたように頭を下げた。


「割れた器なら任せて。」


荷台へ乗り込む。


「揺れても平気か?」


「粘土は揺れ慣れてる。」


誠司は思わず笑った。


満宿へ到着すると、宿はほぼ完成していた。


旅人が二組、朝食を食べている。


井戸では北砦の兵士が水位を確認し、掃除当番帳には新しい名前が増えていた。


第一集落の子ども。


旅商人。


そして「リネア」。


彼女は到着するとすぐに帳面へ名前を書いた。


「使う場所は掃除する。」


当たり前のように言う。


誠司は少し嬉しかった。


文化が広がっている。


第二集落へ着くと、人々は荷物ではなくリネアを見て驚いた。


「職人?」


サーラが通訳する。


「修理しに来ました。」


最初に持ち込まれたのは、前回見た水瓶だった。


取っ手が割れ、口も少し欠けている。


リネアはすぐに修理しない。


まず持ち主へ尋ねる。


「いつ割れました?」


「どこで使っています?」


「熱い物を入れますか?」


誠司はその様子を見て感心した。


配送前に荷物の状態を確認するのと同じだ。


使い方を知らなければ、正しく直せない。


リネアは欠けた部分を丁寧に削り、新しい粘土を詰める。


割れ目には細い補強を入れる。


乾燥させる間に、別の器も見始めた。


「これはまだ使える。」


「こっちは持ち手だけ交換。」


「これは修理より作り直した方がいい。」


一つずつ判断していく。


その間、誠司は集落を歩いていた。


荷車は毎日使われている。


滑車も順調。


水運び当番も続いていた。


だが、一つ気になることがあった。


荷車の車輪が少し削れている。


砂利道を毎日走るからだ。


ガランがしゃがみ込んで車輪を見る。


「早いな。」


「思ったより減る。」


誠司は帳面へ記録した。


砂地用車輪 耐久確認


交換部品 必要


新品を届けるだけでは終わらない。


使えば減る。


減れば直す。


直すための部品も運ぶ。


物流は、暮らしと一緒に回り続ける。


昼過ぎ。


リネアが修理を終えた水瓶を持ち上げる。


「できました。」


持ち主の女性が恐る恐る受け取る。


水を入れる。


漏れない。


取っ手もしっかりしている。


女性は何度も水瓶を撫でた。


新品ではない。


割れた跡も少し残っている。


それでも、その表情はとても嬉しそうだった。


サーラが通訳する。


「祖母から受け継いだ水瓶。」


「捨てたくなかった。」


誠司は静かに頷いた。


新品を渡せば済む話ではなかった。


思い出も一緒に直したのだ。


午後になると、次々と修理品が集まってきた。


包丁。


鍬。


木椅子。


革袋。


子どもの木のおもちゃ。


ガランが笑う。


「修理屋になっちまったな。」


誠司も笑う。


「配送屋だけどな。」


「でも運ぶのは、新品だけじゃない。」


壊れた物を預かり、直し、返す。


それも立派な物流だった。


帰る前。


第二集落の長が、一枚の木札を差し出した。


そこには新しい文字が刻まれていた。


修理受付所


「ここへ集める。」


サーラが説明する。


修理したい物はここへ置く。


次の修理便まで保管する。


誠司は嬉しくなった。


また一つ、仕組みが生まれた。


帳面が光る。


修理便 運行開始


循環物流 登録


第一配送網復元率 51%


「半分を超えた。」


ロウグが静かに言う。


誠司は数字を見つめ、それから集落の人々を見た。


水瓶を抱える女性。


車輪を手入れする若者。


修理された木のおもちゃで遊ぶ子ども。


その景色の方が、数字より嬉しかった。


帰り道。


給水所へ寄ると、一人の旅商人が看板を眺めていた。


「ここは昔からあるのか?」


誠司は少し考えて答えた。


「昔からあって。」


「今も続いています。」


旅商人は笑って頷いた。


「なら安心だ。」


その言葉が、何よりの褒め言葉だった。


夜。


第一配送者の記録が現れる。


私は新品ばかり運んでいた。


壊れた物は置いてきた。


ある日、一人の老人に言われた。


「新しい器は買える。


でも、妻が作った器は買えない。」


その日から私は、


修理する人も運ぶようになった。


配送とは、


品物だけではなく、


技術も届ける仕事だった。


誠司は静かに帳面を閉じた。


修理便。


それは物を長く使うための物流。


そして、人の想いを運び続ける物流でもあった。


翌朝。


荷台には、いつもの飲み物に加えて、小さな工具箱が二つ増えていた。


修理の依頼は、これからもっと増えるだろう。


満タン便は今日も走る。


新しい物を届けるためだけではなく。


大切な物を、明日へ繋ぐために。

第67話では、新たな物流として**「修理便」**が始まりました。


単なる配送ではなく、職人そのものを運び、技術を届けることで、「長く使う文化」が物流へ組み込まれていきます。


次回、第68話では、西方第二集落で修理便が定着したことで、さらに西の第三集落から「修理ではなく、助けてほしい」という緊急依頼が届きます。新たな出会いと、西方乾燥地帯のさらなる広がりが描かれます。

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