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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第65話 もう一度、水が湧く場所

砂に埋もれていた第一配送者の給水所が見つかった。


そこは、ただ水を配る場所ではなく、人が休み、語り合い、再び旅へ出るための拠点だった。


誠司たちは急いで完成を目指さない。


二十八年待ち続けた場所だからこそ、一歩ずつ丁寧に元へ戻していく。

翌朝。


満タン便の荷台は、いつもより石材が多かった。


切り出した石。


石灰。


木材。


新しく編まれた蔓。


修復用の工具。


もちろん、飲み物も満タン。


ガソリンも朝には満タンになっている。


誠司は荷台を見渡して頷いた。


「今日は運ぶだけじゃない。」


「昔の仕事を、もう一度始める日だ。」


ロウグは静かに笑った。


「第一配送者の続きを、ですね。」


「……ああ。」


満宿へ着くと、すでに大勢が集まっていた。


ガラン率いる鍛冶職人。


水車町の石工。


北砦の兵士。


西方第一集落の人々。


森の民。


そして、復旧市で出会った老人も杖をつきながら来ていた。


老人は崩れた給水所を見て、小さく呟く。


「懐かしい……。」


誰も急がない。


まずは周囲の砂を丁寧に取り除く。


井戸を傷つけないよう、木製の道具を使う。


森の民が蔓で砂止めを作り、風で埋まりにくいよう工夫する。


ガランは古い滑車を外し、新しく鍛えた軸を合わせていく。


「全部新品にはしねぇ。」


誠司が理由を尋ねると、ガランは笑った。


「使える物まで捨てる必要はねぇ。」


「昔の仕事も残してやる。」


誠司は深く頷いた。


物流も同じだ。


全部作り直すのではない。


続いてきたものを活かして繋げる。


昼前。


井戸の中を確認する作業が始まった。


北砦の兵士が安全帯を付け、ゆっくり降りていく。


やがて下から声が響いた。


「水だ!」


全員が井戸を覗き込む。


底には、澄んだ水が静かに揺れていた。


砂に埋もれて見えなかっただけで、井戸そのものは生きていた。


サーラは目を潤ませる。


「生きてた……。」


老人も静かに目を閉じた。


「よく耐えた。」


誠司は胸の奥が熱くなる。


二十八年間。


誰にも使われなくても、水はそこにあり続けたのだ。


午後。


滑車を取り付ける。


ロープを通す。


木桶を下ろす。


誠司はサーラへ合図した。


「引いてみて。」


ゆっくり。


ゆっくりと桶が上がる。


やがて水面から現れた桶には、透き通った水が満ちていた。


誰も声を出さない。


サーラは木桶を両手で抱え、長へ差し出した。


長は静かに一口飲む。


それから小さく笑った。


「昔と同じ味だ。」


通訳された瞬間、拍手が起こった。


大きな歓声ではない。


安堵の拍手だった。


誠司は荷台から一枚の布を取り出す。


包まれていたのは、修復した看板。


木目はそのまま残し、割れた部分だけ補修した。


新しく塗り直さない。


時間の跡も、この場所の歴史だからだ。


皆で看板を運ぶ。


台座へ合わせる。


ゆっくりと差し込む。


風が吹く。


満タン便 給水所


二十八年ぶりに、その文字が西方街道へ戻った。


帳面が強く光る。


旧給水所 復旧完了


西方補給拠点 登録


第一配送網復元率 46%


その直後、帳面へ新しい記録が浮かび上がる。


私はこの井戸が好きだった。


水があるからではない。


ここへ来れば、誰かに会えた。


商人がいて、


子どもがいて、


旅人が笑っていた。


私は毎日、水を運んだ。


でも、本当は笑顔を見に来ていたのかもしれない。


誠司はゆっくりページを撫でた。


「同じだな。」


ロウグが隣で頷く。


「あなたも、水だけを運んではいません。」


夕方。


給水所へ、偶然一組の旅人が立ち寄った。


目印柱を見つけ、灯を頼りに歩いてきたという。


看板を見て驚く。


井戸を見て安心する。


水を飲み、満宿の場所を教わる。


そして笑顔で旅を再開した。


誠司は、その後ろ姿を静かに見送った。


第一配送者も、きっと同じ景色を見ていた。


帰り際、老人が誠司へ古びた革の手帳を差し出した。


「給水所の掃除当番帳だ。」


「昔の者が使っていた。」


誠司は驚いてページを開く。


掃除。


滑車点検。


井戸水確認。


灯の交換。


当番の名前。


そして最後のページだけが空白だった。


老人が微笑む。


「続きを書いてくれ。」


誠司はゆっくり頷いた。


そして最後のページへ最初の一行を書いた。


給水所復旧 一日目 異常なし。


帳面が淡く光る。


管理記録継承


施設は、使い続けることで完成する。


夜。


水車町へ戻る頃には、満月が西の空へ浮かんでいた。


誠司は荷台を閉める。


今日も荷物は減った。


だが、心は不思議と満たされている。


届けたのは水だけではない。


止まっていた時間を、もう一度動かしたのだ。


翌朝。


荷台はいつものように満タンだった。


飲み物も。


ガソリンも。


そして帳面には、新しい予定が表示されていた。


西方第二集落より配送依頼を確認。


誠司は静かに笑った。


一本道だった西方街道が、少しずつ枝を伸ばし始めている。


第一配送網は、もう過去の遺産ではない。


今日も誰かが歩く、現在の道になり始めていた。

第65話では、第一配送者の給水所が正式に復旧しました。


重要なのは、「新しく作る」のではなく、「受け継ぐ」という姿勢です。


最後に登場した掃除当番帳は、施設を維持する文化そのものを受け継ぐ象徴として描きました。


次回、第66話では、西方第二集落から初めての配送依頼が届きます。第一集落を経由した"道が道を呼ぶ物流"が始まり、西方配送網は新たな広がりを見せます。

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