バナナに旬がある!?〜一年中あるバナナの意外なお話〜
熱帯作物のバナナは、現代、スーパーで一年中見ることができる果実である。物価の高騰でだいぶ値上がりしたとはいえ、ふつうは値段も一年中変わることはない。
だから、というかなんというか、バナナの「旬」というやつを、我々はほとんど考えたこともないまま、日々バナナを食べている。
私も就職するまで、いや、八百屋として働きだしてからも、実に数年ほど、バナナに旬はないと思っていた。
だがしかし、バナナには、実は旬が存在する。ほかの作物と違って不明瞭だが、年間ずっと扱っていると、どこかのタイミングで、「あれ?」と思うのだ。
今回は、知らなくても困らないけれど知ると楽しくて面白い、バナナの旬について語ろうと思う。
これを読んでいる皆さんも、バナナは買ったことがあると思う。どんなバナナを選ぶだろうか?長持ちするように青めのバナナ?一袋に入っている本数がちょうどよいもの?甘いのがいいからと、割引きシールの貼ってある黒い斑点の出ているものを買う人もいるかもしれない。どれも素敵な選び方だ。
そして暇庭は、バナナのお尻の膨らみ具合を見る。いきなりセクハラかと思った方は申し訳ない。バナナの果実の端の部分、黒くコルク状になった花の跡のあたりである。説明しようとすると、お尻としか形容できない。もっとよい言い換えがある方はコメントにて教えてください。
とにかく、バナナのお尻部分。これを毎日売り場で見てみてほしい。
慣れればすぐに分かるようになる。花の跡に向けてスッと細くすぼまっているバナナと、逆に、花の跡ギリギリまで丸くパンパンに膨らんでいるバナナが見つけられるはずだ。この2つのうち、後者が暇庭の狙いのバナナだ。バナナは茎に近いほうから栄養を果肉に貯め始め、お尻付近の果肉が最後に充実する生態をもつ。すなわち、お尻側までパンッ!と張ったバナナは、栄養を最後まで果肉に注ぎ込んでから収穫された、出来のよいバナナ、ということになる。これはちと説明だけでは不十分だ。比較画像でもあれば……いや、画像より、毎日スーパーなり八百屋さんに行って、バナナ一つ一つを見比べて、叶うことなら買っていただくのが一番楽しいと思う。ぜひ明日から最寄りのお店へ行ってみてほしい。
ちょっと雑然とした説明になったものの、バナナにも特別出来がいいものが存在することがお分かりいただけたと思う。
このバナナの判別方法を完全に覚えると、安いけどハイグレードのバナナにも負けない素晴らしい味のバナナと巡り会うことがある。
名の知れた、一袋400円ちかい高級バナナと味の面で張り合う200円そこそこのバナナはある。断言していい。高地栽培だのプレミアムだのの文言相手に真っ向勝負できるお買い得バナナは、時たまひっそりと売り場に並ぶ。実際食べ比べても違いが分からないというようなケースも、私は一度や二度でなく経験している。
そういった素晴らしいバナナを選べたら、バナナ好きな方は今日からちょっと人生が楽しくなるはずだ。大げさを言ったつもりはない。お手頃価格なのに甘くて滑らかでクリーミーな果肉をもつアタリのバナナは、我々の朝食やおやつをちょっとだけ幸せにしてくれる。
さて、すっかり脱線したが、よいバナナの特徴の次に、いよいよバナナの旬の話をしようと思う。
上に書いたような、200円台で高級バナナにも負けない素晴らしい出来のバナナに出会うチャンスの多い季節が確かに存在する。普段値段相応なバナナが、価格以上の品質を示す時期がある。今回は値段でなく、良いものの比率が増す時期を旬として紹介する。
バナナの旬、それはズバリ今、春だ。3月くらいから徐々にお尻パンパンのバナナが増え、これを書いている4月前半から、5月の終わりくらいまでがバナナの旬だ。実物をお見せできないのがもどかしいが、4月のバナナは特売品であっても、容易に、お尻まで甘さのぎゅっと詰まった素晴らしいバナナを見つけることができる。
逆に、産地にもよるが冬、特に11月はじめ〜クリスマス頃までは、お尻のキュッとすぼまったバナナが多い。もちろんそのバナナが悪いということではなくて、今の時期のバナナが良すぎるのだ。
良すぎるという文言を八百屋が発することは珍しいと思って頂きたい。価格競争のなかで値段の割に良すぎる商品が入荷するなどということはたいへんまれだからだ。なおさら、これを読んでいる方々には、目を皿のようにしてよいバナナ探しに全力をそそぐ理由になるかと思う。
ところでなぜ、バナナが明確によくなる季節が存在するのだろうか?その答えは、気温と日照の関係にある。
ずっと前にトマトでも述べたことがあるかもしれない。
熟すかどうかと果実の甘さは必ずしも連動しない。熟したけど味はそんなに乗ってないや、という事態がよく起きるのが夏のトマトである。
同じことがバナナにも起こる。バナナも暑ければ早く熟してしまうため、輸入するにあたってのタイムラグを考えれば、より暑い時期には早めに収穫せざるを得なくなる。逆に、気温が少し低めの時期であれば、バナナを収穫する前に存分に甘みを蓄えられる時間的余裕が出るのだ。かつ、バナナの生産地では夏は台風シーズンだが、春は晴天が多く日光をたっぷり浴びられる。これがまたバナナの味を良くするわけだ。
夏のバナナは花が咲いてから収穫するまで70日間とよく言われる。夏休みに子供たちのおやつになるバナナは、ゴールデンウィークが終わってしばらくくらいに花を咲かせたものである。
対して、今現在店頭に並んでいるバナナの花は、実はお正月前後に咲いている。そこから約90〜100日間くらい、栄養を実に蓄える事ができるのだ。より長い時間、樹の上で存分に栄養を貯め続けたバナナは、日本であのおなじみの黄色い熟した色に熟すとき、ギッシリと蓄えたデンプンを糖に変えて甘みをぐんぐん増す。かくして、特売チラシに入ったお安いバナナも、びっくりするくらいおいしくなるのである。
というわけで、春の果物とは色々あって迷うものだが、暇庭からはぜひ、果肉の端っこまでギッシリ甘さの詰まったバナナをおすすめさせて頂きたい。新生活や、あるいは新年度の慌ただしい現代人の生活に、あの濃厚な甘さと舌に吸い付くようなもっちりした食感で、バナナは活力を与えてくれるはずだから。
バナナの旬のお話は、書かないとなーとは思っていたのだが、いや、スッカリ忘れていた。危ない危ない。
もちろんお尻がすぼまっていたら出来が悪いということではない。最近は特に日本に入ってきてからの追熟技術が飛躍的に向上して、食べるときに果皮がまだ青っぽいとかでなければ十分にうまい。
作中で描かなかったが、バナナは果実の中で最も、売れずに生ゴミ行きになる重量の大きな商品である。値下げ品に抵抗のない方は、せっかく海の向こうからやってきたバナナを無駄にすることなく、廃棄の運命からバナナを救ったという心持ちで値下げ品のバナナも買ってあげてほしい。それは回り回って、ごみの削減にも大いに貢献する行いである。




