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竜眼のハーフエルフ  作者: 二砂音 
二章 湖の街編
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61話 宿

 ケイラッドはシュトレイを促し、先に行かせ、ロムガルを連れ立ってさっさと出ていった。


 途中、ヴァインの小剣を返せとか言って歩き出さないので、ガストンがヴァインのへこみを探して、落ちていたのをケイラッドに手渡す。


 ケイラッド「話は聞いてるぞ、元気でやってるみたいだな? たまにはこっちにも顔を出せよ、妙な遠慮すんじゃねえぞ」

 小剣を少し見てから、担いだヴァインの鞘に納め彼に話していた。

「ええ、なんとか、ありがとうございます」


 小さいが、やはり知り合いのような話が聞こえた。


 シュトレイ「……忘れんぞエルフ! ぬ? エルフ、か? ……フンッ!」

 魔術士はこちらをすごく睨んで立ち去った。

 私の眼を見た際、自分でそう言って疑問に思っていたようだが、知らんな。

 眼から火を出しそうだった。


「べーっだ!」

 よくやったぞベル。

 む、ソニーが止めないな。

 あぁ、止めなくていいやつなのかな。


 ロムガル「グル、救助、感謝するぞ」

 組合長ギルマスはそれだけ言って爪の引っ込んだ手を私に挙げ、ガストン達にも頷き合って、尾をくるりと回して後をついて出ていった。


 後ろ姿を見送っていると、ケイラッドの背にある大きな大剣を見ることができた。

 皮ではなく、紺の素材不明な優雅な装丁に優雅な金具や装飾、宝石のような粒も施された見事なものだ。


 やはり剣自体が魔道具のようだ。強大な魔力を内包していた。

 刃はどんなものだろう。


 邪魔するように担がれたヴァインの気絶した顔と、間近でそれを眺めている青蛇が見える。

«シュルルル……»


 妙だな、ベルがまったく興味を示さない。

「ベル、あそこに青い蛇がいるぞ」

「ふぇ? どこ? ……そんなのいないよー?」

 あれ?


 ソニー「ル、ルーナさん? もう少し、頭の方に治療をかけときましょうか」

 むぅ、心配された。

 ビクター「青い蛇……」


 そしてケイラッドは、戸口の従業員に袋を渡して出ていった。

(ジャラ……)

 中の音がわずかに聞こえた。たくさんの硬貨が重なる音だ。

 従業員は重そうに、目を丸くして焦りながら、何度もお辞儀をしている。


 保障、か。


 見渡して改めて眺めて見ると、ひどいありさまだった。

 そういえばここは、上等な店だった。


 天井も焦げた切り傷があるな、あれは鞭か。

 灯や、調度品、や壁の絵や、ちょっと荒らし過ぎたな。


 修理代は彼が出してくれたということだろうか、一体幾らかかるのだろう。

 さっきの金でちゃんと保障できるのだろうか。


 治療魔術でこれらは治せないのだろうか。


 そして、愛着も沸いていたが、長剣が折れてしまった。


 いや、折ってしまったんだな。

 自分の腕不足ゆえに。

 すまん。


 そして……「よい剣だった」


 眼前に折れた剣をかざした。


 ガストン「よく戦ったなルーナ! 剣も本望だろ」

 ビクター「す、すごかったです! 納めた団長様もですけど」

 ケンウッド「ルーナ殿、同胞をお救い下さり、感謝いたします。いや、大変でしたね、眼も止まらぬ戦いと展開でした、はぁ」

 ソニー「ホントに平気です? 傷見せてくださいルーナさ~ん……」――。


 ――――


 ダロムは感銘を受けて膝をついた。

 一部の獣人族も。


 街の噂は真だった。

 ついに現れたのだ。

 遠い盟約の主たる種族が。


 魔法協会のエルフのセレナール様とは違う。

 畏れ多くも、あの非凡なるエルフの魔道師様は、ただソれだけに過ぎない。

 何故かは頭でわからないが、あの方とは違うのだ。


 我らの遠い祖先を救い出シて下サった、“王朝”の“女王陛下”、“上のエルフ”の奥方のソれだ。


 ダロムは後に、そう気が付くことになる――。


 ――――


 ケンウッド「どうしましたダロム?」

「い、いえ若、ルーナ殿、お見事でシた。剣の破片を拾い集めてもよろシいでスかな? 武器屋で治セるやもシれまセん」

「何! よし、全部拾おう」


 ガストン「ほっ、ボロボロだったけど、動けるようだな」

 ソニー「ケイラッド様の治療術、すごかったでしたっ!」


 ダロムとわずかな獣人達の大げさなお辞儀に驚いたが、更に喜ばしい驚きがあった。


 ???「コホン、ルーナ様、少々お待ちを、破片で指を傷つけてしまいます。こちらのちりとりをお使いください。私はこの宿の支配人を務めております、ノーデンと申します。この度は当店の従業員を助けて頂き大変ありがとうございます」


 赤毛の猿獣人の、一番良い制服を着た壮年の落ち着いた感じの大柄な男がいた。

 彼が店の主か。


「ああ、こんばんわ。助かる。そうか……あ、ノーデン、店を壊して済まなかった」

 しゃく? だがヴァインのぶんも謝っておく。


「いえいえいえ、お構いなく。ルーナ様のして頂いたことに比べれば大したことではございません。なぁ皆……街長さまのお慈悲も頂きましたことですし」

 支配人の呼びかけに、食堂を忙しく片付けていた従業員達が足を止め、お辞儀をした。


 先ほどから私の近くを通る度にされていたが、全員にされた。

 むう、さっきの無様な戦いのことをこれ以上言われるのはごめんだ、帰ろう。

 

 早々に破片を回収し終わる。

 このチリトリと言う道具は便利だな。

 棒の部分を強化すれば、戦いや杖にも使えるだろうか?


 そもそも、杖がどういうものなのかもよくわかってないが。


 ガストン「そろそお開きだな、ルーナ、土産で酒でも買ってけよ」

 ほう?

 いい考えだ。


 あぁ、これも、保証というやつだろうか?

 やるなガストン。


 ヴァインがまた来て全部投げ割られる前に買っておこう。


 ベル「お土産? ゼリーがいい!」

 ビクター「た、確か、僕らが最後に頼んだので売り切れって言ってたような……」

「ふにゅ~~」


 一番良い酒はまだ残っていたので一本だけ買えた。

 さすがにタダでとはいかない、だが割引してくれた。

 その支払いで蜂蜜の報酬の半分くらいだったようで、兄妹が目を丸くしていた。


 ゼリーは売り切れだった。


 バタバタしたが、良い食事だったと酒瓶を手に気持ちよく出ようとしたが、それはかなわなかった。


 主にケンウッドにだが、私たちに獣人商人達が群がって話しかけて来た。


 商人達「いやぁ噂のエルフ殿の実力、この目で見ましたで! 聞けばゴブリン王を倒したって噂も本当やったんですな!」「いやいや疑ってたわけではないんですが」

「あの勇猛ぶりを見たら納得でんな!」


「まだ新人とはいえ、帝国騎士と対等にそのような装備で戦うなど実際に見なければ誰も信じませんで!」「あの眼、見たか?」「エルフ様なのになゼ我らのような瞳なんだ?」「なぁ、本当に竜眼だゾ」「まさか……」「噂の通りだ!」「竜眼の、ハーフエルフ?」


「帝国の奴ら、ザマミロやで!」「しいっ! アホッ! その口閉じなはれ!」

「なんでやねん!」「アホ、どこに間諜がいるか知れへんのやでっ」

「それホンマでっか!?」


「あの剣はどこの製品ですのん?」

「ぜひ私どもの商品をご覧なってぇな!」「いえいえワイんとこの店の鋼鉄剣を是非!」

「盗賊の拠点をつぶしたのも本当にあなた方が!? 戦利品はいつ販売されるんでっか!?」「巨大森蛙に続いてまた武勇を広めましたな!」

「戦利品の買取はぜひウチらも参加させてーな!」


「ルーナ殿っ、マーチ伯爵様とはお知り合いで!?」

「ものを知らないなぁ君は、お弟子さんのガストンさんが一緒にいるだろう」


 ベル「わぁ~! いっぱいだぁ!」

 なんだか皆、背が低めで、ふわふわだな。


 今は酒瓶と折れた剣で手が塞がっている。

 しかし、商人達の一部が、同じような話し方だな。


 ケンウッド「まぁまぁ落ち着いてください、すいませんルーナさん。ガストンさん、彼女をお願いします。ここは私が全部お引き受けしますから」

 彼が商人達を一手に引き受けてもみくちゃにされた。


 ダロムが彼らに比べれば大きな体で、ケンウッドに興奮して掴みかかる商人を優しく押し戻す。

 正確には、持ち上げて少し離れた場所に置いた。


 ガストン「あ、ああ、すまねえケンウッドさん、今日はごちそうさんな! 明日にでも様子見に行くよ! とりあえず行こうぜ皆」

 

 ビクター「あ! 先輩っルーナさんっ装備を忘れてます!」

 ガストン「ああいけねぇ、おいっ控室に逃げるぞ」


 バタン。

「ふう、いや~たまげた」

 ソニー「びっくりしました、あれ? ベルちゃん?」

 ベルはたくさんのふわふわに夢中だ。


 控室に入り、装備を身に付ける。

 もしこれを装備したままだったら、どうなっていただろうな。

 いや、恐らく、あの速度についていけなかったかもしれない。


 恐るべき鎧と、奴の剣の腕だった。


「あの帝国の連中は、なんだったのだろう」

 冒険者の荒々しさに似ているが、彼らはみだりに乱暴はしない、多分。

 あれではまるで盗賊や魔物と変わらん。


 ガストン「あぁ、どこまで話したもんかね。簡単に言えば、連中はケイラッドさんの客なのさ」

 あれでか。

「ま、色々あんのさ、偉い人らには」


 ソニー「あの炎の魔術士の人ですよね? 騎士様は護衛でしょうか」

 ああ、やはり火の魔術だったのかあの熱波は。

 ガストン「そうそう、役人って言って、国に仕える文官だな。わかるかルーナ?」


「ああ、確か、紙や筆で戦う者達だろう」

 奴は魔術を放とうとしたがな。

 ビクター「おー、わかりやすい」


「的を得てるじゃねぇか。奴はタチの悪いことに中々の魔術士だったけどな」


「帝国騎士と言う奴の変化する小剣が、“魔法剣”とやらなのか」

「ああ、連中のよく使う得意技だな。あいつらみんな魔法使いらしいぜ。どういう仕組みかは俺もよくわかってないんだけどな」

 ふうん。


「……帝国とこの国は、仲が良くないのか」

「それをなんとかしようって、ケイラッドさんは奴らを“受け入れた”みたいだけどな」

 ビクター「僕は嫌いです」

 ソニー「お兄ちゃん……」

「安心しろ、みんな嫌いだから」


「そうか」


 どうもケイラッドは無理そうだな。



 だがそれより……。

「ガストン、ケイラッドは師匠なのか」

「お? ああ、一応そうだぜ。って言ってもよぉ、あの人の弟子っていや何百人もいるんだぜ?」

 ふむ?


 ビクター「あ、ケイラッド様は、元冒険者なんです。“上級”に上がった頃には、街ですごく有名になってて、皆で剣術を教わってたんですよ。僕はまだ村にいて小っちゃくてダメだったんですけどね(あれ、“等級”の話って先輩したのかな?)」

 ああ、なるほど。


 ガストン「うう、ちょっと腹周りがきついぜ、食い過ぎた」

 しかし、二人とも装具を点けるのが素早いな。

 ソニーは二人の後ろの装具を着けるのを手伝っている。


「へへ、あぁ、こういうのもその一つさ。ま、ここの冒険者は皆あの人から生き方を学んだのさ」

 ほうほう。

 ビクター「ルーナさんは教わってないのに一番早く装着してますけどね?」


 ガストン「大丈夫だと思うけどよ、ルーナ、絶対にケンカするなよ」

「まかせろ」

 ソニー「……えっ、どっちの意味だろ今の!?」


 装備を取り戻して部屋を出ると、ケンウッドと商人達は玄関にズレていっていた。

 商人達「なんでやねん!」「あかんでほんま!」「あなた達、いい加減にしなさいっ」

「おい押すなっ」「なんやのこの騒ぎ?」「やめるわん!」「あ! エルフ様~」「エルフ様!」「私共の商品にっ良い剣がありますぞ!」「竜眼様!」「いて! 尾を踏むな!」


 従業員達「押さないでくださいっ」「お客様どうか落ち着いてっ」「むぎゅっ」「にゃー!?」「お客様~」

 さっきよりも混み合っている。


 ああ、宿泊客や外の人々も、玄関、に集まっていた。

 なかなかの騒ぎになっていたんだな。

 ケンウッドはいるのだろうが声しか聞こえない。


 他と比べ巨体の獣人の商人と遊んでいるベルを呼び確保する。


 通り過ぎようとすると戦利品について聞かれるな。

 ガストンがわからない、ケンウッドが知っている、やつはそこにいる、を繰り返してすませている。


 玄関を出る際、職員達が集まってお辞儀をしていた。

 手を挙げておいた。


 ううむ、ケイラッドにもお礼をしなければならないな。

 壊したのを弁償、してくれたのだ。



 外に出て涼しい空気を吸い込む。

 先の戦いの炎の熱さと違い、肌にあたるもわずかに風が心地よい。

 夜空に月が二つ輝いている。


 何人か、騒ぎを聞きつけ宿に入ろうとしているが、私たちは知らん顔をした。



 ガストン「さて、ルーナとベルの今晩の面倒はお前達兄妹にまかせるとして、俺は帰って寝るぜ」

 ビクター「了解です先輩、って先輩! ケンウッドさんを放っといていいんですか?」

「無理無理、商人のことは商人に任せとけって。あれでまたあの人も商機が生まれるし、名前を売って得になるんだよ」

 ソニー「あ、なるほど」


 ああ、ゴブリンの戦利品は、まだ分けてないのだったか、これから売ったりするのか。そういえば盗賊のはまだ受け取ってもいないな。

 

 ガストン「ルーナ、明日俺達はケンウッドさんと戦利品の話もあるしよ、盗賊の分け前もらいに衛兵団に顔出すのはまだ無理だろうから……明日はのんびり、武器屋にでも行こうぜ」

 お。いいな。


「剣とか、ベルの防具の発注もあるしな。道具屋にも行きてぇしな。じゃ、ぼちぼちギルドで会おうぜ、そんじゃあばよ」


「ああ、ありがとう。お休み」


 そう言って、ガストンは酒を必ず少し分けてくれと念を押してから、自分の寝る場所へ帰って行った。

 例の、情報屋?

 のところだろうか。


 私は兄妹にお勧めの宿だと案内されそこへ移動した。


 読んでくださりありがとうございます。

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