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竜眼のハーフエルフ  作者: 二砂音 
二章 湖の街編
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60話 待て

 ドサッ!

「がはっ」

 壁に激突しへこませてその下に落ち倒れたが、まだ意識はある。


 ふらつくが立つ。

 肉が酷く焼け焦げた片腕で折れた長剣を握り、同じく腹が衣服と肌を巻き込み同じになった状態だ。

 ?

 奴は追撃してこないな。


 来ると思っていたが。

 鞭もあそこからだと届かないか。


 ヴァイン「はあっはあっマジでなんなんだてめぇ! 俺の力に“拮抗”するわけがねえ! 鉄塊だって真っ二つにするんだぞ!? んぐっはぁっはぁ、はぁ、このモンスターが!」

 ジュウッ。

 垂れ落ちる汗が蒸発してる。

 あいつ何故最初の位置から全く動かないんだ。


 気が付くと隣に目を丸くするビクターが来ている。

 いや……私が彼の傍に吹き飛んで来てしまったんだ。


 それよりあっち、ヴァイン背後の中年が魔術を放とうとしているな。

 だが……。


 チャキ。

 ガストン「おおっと、待ってもらうぜ魔術士さんよ」

 中年「なんっ! く、下賤な冒険者めが」

 背後に“にじり寄っていた”彼がよいタイミング? で短剣を男の首に当て動きを止めさせた。


 殺さないのか?


 ヴァイン「あ! シュトレイさん! てってめえ!」

 ずいぶん汗だくだな、やっぱり本人も暑いのか、私もだが。


 ビクターがヴァインに見えないよう、腰から抜いた自分の長剣の柄を私が掴めるように用意してくれてる。

 さて、どうしようか。


 その時だ。


 ヴァインの背後、いや鎧の背面と思われる箇所から蒸気が噴き出した。

 バシュウーッ。

「チッ」

 奴の床周りが蒸気の煙で包まれる。


 なんだかあの様子、蒸気馬車と同じだな。

 ああ、確かあのとき、動力、と思われる機械が停止したのだったな。

 奴の機械らしき鎧の内部の音も、限界を迎えたのか静かになった。


 ひょっとして、今は剛腕が出せないのではないだろうか?


 ガストン「何だか知らんがそこの赤っ髪の小僧、このおっさんを殺られたくなきゃ大人しくしな」

 シュトレイ「貴様っ!」


 あの魔術士も油断できないな、まだ魔力が練られていて乱れていない。

 何を放つか知らんがいつでも撃てそうだな。

 私やセレナールとはいかないが、中々魔力が多い。


「シュトレイさん、悪ぃけど関係ねぇな! 俺の邪魔するこのクソ女だけはぶっ殺す!」

 ずっと怒っていて炎みたいな奴だな。


 そして炎剣の鞭を振りかぶると、なんと鞭の先が元に戻った。

 斬ってもだめなのか。


 あれでこっちまで届きそうだな。


 今度は躱せるだろうか。


 ビクターから刺突長剣を瞬時に受け取り構え飛び出そうと動く。


 その時だった。


「もぉーーうるさいのよあんたぁ! こんにゃろ!」

 ベルが起きた声がしたと思ったら、天井のつり下がる灯が遮られ辺りに影がさす。


 食堂の丸テーブルが空を飛んでいる。

 そしてヴァインに突っ込んでいった。

 かろうじて、鞭で何とかしようとしていたが、びくともしなかった。

 ヴァイン「なっ、ひゃ――」

 

 バキャドガアアアアアアアアンッ!


 ガストン「うおっ!?」

 シュトレイ「なああっ!? ヴァッヴァインッ!」

 目の前に大きな木の卓がものすごい勢いで落ちて来て、危うく巻き添えをくらいかけた二人。

 皆「「うわああ!」」


 砕けた木片や埃がはじけ飛ぶ。

 奥側だが、食堂が少し滅茶苦茶になった。

 すぐそばの床板も切り傷、焦げ傷だらけだが。


 あ、ガストンが男を離してしまったぞ。


「己ええ下賤の民どもめが! やはり抵抗するかぁ!」

 突如、辺りが熱くなる。熱が急激に放射される。

 なんだ。

 シュトレイを中心に高熱が吹き荒れ始めた。

 奴の小杖の赤い石の輝きがどんどん強くなる。


 なんと足元の木床が黒く焦げだしている。

 自身は平気そうなのに。


 ソニーが水の魔術を唱え始めた。

 こいつ、誰でもなく、この部屋中を狙っているように思える。

 爆発でもするのだろうか。

 ――ゴオオオオオオッ!。

 視界にはまだ大勢の者が壁際、戸口や厨房から見ている。


 私は痛む腕を無視し、シュトレイの喉に剣の狙いを定めた。

 突っ込む、あそこが灼熱だろうが、止める。

 ダッ――。


 ???「待てえええええええいい!!」


 シュワァーーーーーーッ。


 放射される咆哮と、さわやかな水の気配。

 瞬時に熱波がかき消された。


 太く大きな声が部屋中に響き渡った。

 ベル「わあっ!」

 流石にベルも驚く大声だった。

 戸口に長身の男が立っている。


 これは、あの男は。


 こいつが最強だ。


 彼が、この街の長だな。

 すぐわかった。


 ヴァインなんて相手にもならないな。

 汗が引き、足が少し震えた。

 ふう。

 構えを解き、彼を見て硬直しているビクターの持つ鞘に戻した。


 シュトレイも杖を上げたまま、固まっている。

 彼が発動しようとしていた炎の部屋を燃やし尽くそうとするかのような大魔術、はなかったことにされたかのようにかき消された。

 凝縮していた魔力も広がる水気によって霧散? した。

 私の火傷の痛みと熱さえ、収まった気がするのだ。


 見回すと、皆固まってしまっているな。


 ベル「なんか気持ちよかったねルーナ」

 彼女は平気だったようだ。


 テーブルの下のヴァインはわからないが、生きて、気絶しているのがくぐもった声でわかる。


 だが、次第に口々に皆が囁く。

「……ケイラッド様だ」「団長様っ」「ケイラッド様!」

「ああ、衛兵団長様が来てくれたで、これで大丈夫や」「街長さんよっ、もう大丈夫!」

「帝国の奴らが突然剣を抜いたのです!」「エルフ様が店の者を守っていまス!」

 団長、街長、ケイラッド。


 ゆっくりと男は私達の方へ歩いて来る。


 あれ?

 ロムガルも後ろにいた。冒険者組合長の。

 戸口には立っていたのか、ここからは見えなかったな。

 彼について来る。


 途中でケンウッドとソニー、ダロムがホッとしていた。

 心配させてしまっただろうな。


 そして、お辞儀をしている。

 彼を見る皆もそうだ。

 私とシュトレイ以外は。


 ベル「おじちゃんでっかいね! 声も体も!」

 男「んお? よう、フェアリーの嬢ちゃん」

 彼女もだった。

 そしてすごいな、興味津々で男の周りを飛び回っている。


 その男はとんでもない強者だぞ。


 長身にたくましい筋肉隆々の、柄頭が青い、透き通った鉱物の、極大の大剣を背に担いだ男だ。

 金髪、青眼、あご髭、上質な皮の鎧に妙な色の鉄の胸当て。

 外套をなびかせ、装身具はきらびやかだ。

 物腰、足運び、見れば見る程かなりの強者だ。


 今の私では絶対に勝てない。

 内包する魔力はシュトレイ以上だ。

 魔道具も幾つも所持している。

 背にある大剣もそれだろう、重なって見辛いが、ただの魔法の武器とは思えない魔力だ。

 さっきの咆哮と共に発せられた水の気配と関係してそうだな。


 それと、気のせいではないと思うが、男に比べると小さく見えるが大きな青い蛇が、剣の柄に巻きついてうねっている。

 時々、あちこちが透き通るように見えたりして、なんだか本当の蛇じゃないようだ。

 どこかで見たような気もするが。


 さっきまでずっと私を見ていた気がするが、今は舌をチロチロと出して、ベルを目で追っているが、心配だ。

 うん?

 気付いていないのか? ベルは。


 二人して歩いて来るのは迫力があるな。

 長身の筋骨隆々とした男と、巨躯の獅子獣人。


「師匠」

 ガストン彼が小さく囁いたな。

 見ると、男も顎を少し動かして答えたな。

 ふむ?


 シュトレイ「ま、マーチ伯爵、くっ、我々、帝国は断固抗議するぞ! この様な無礼、到底許されん!」

 マーチ伯爵、帝国。


 ん? ケイラッドという名じゃないのか?


 男「まぁ待て、シュトレイ殿、ロッドを下げてくれ」

 手でシュトレイが何か言っているのを止め、私の方に来たな。

 ちょっと疲れていて、もう戦いたくないんだが。

 ロッドとは、あの短めの杖のことを言うのか。


 男「貴様がルーナだな。俺はケイラッド、衛兵団長でこの街の長だ。話には聞いてたが大したもんだな」

 ロムガルはシュトレイという魔術士が妙な動きをしないよう見ている。

 睨み合っているな。


 腕を組まずにだらりと下げているが、爪が限界まで飛び出しその手は鉤爪のように構えられている。

 その表情は今にも飛び掛からんとしてシュトレイから目を離さず、微動だにしてない。

 これは、シュトレイが何かすれば瞬時に飛び掛かって八つ裂きにしそうだな。

 恐らく、同じ獣人が殺されかけたのを聞いたのだと思うが。

 シュトレイの放つ熱とは違う、威圧の熱を感じる。


「俺の街で暴れてるバカ共がいるってすっ飛んで来たら、外に出ていた連中からお前が宿の者を助けてくれて、そんで危機に陥ってるって聞いて、飛び込んできたんだぞ。ありがとうな」

 斬られかけた従業員が戸口にいて、小さくお辞儀している。

 耳の大きな獣人なので耳がぴらぴら大きく揺れている。

 彼が助けを呼んでくれたのかもな。


 うん? 何かかざしている手から出ている。

 パアァ……。

 おお、感謝されて、治療もかけてくれたぞ。

 青い妙な蛇«シュルルル……»

 彼が私の腹に手をかざすと治療術の光が温かく輝き、青蛇がクネクネ動いた。

 しゃべり終わるときには傷が治るところだった。


「こんばんわ。そうだ、私はルーナだ」


 金持ちらしい男「なんと無礼な、マーチ卿に対して……」

 ?

 あぁ、貴族か。

 ケイラッド・マーチと言う名なのかもしれない。

 ゼラもそんな感じだったな。

 この男は“隠す”というよりは、気にしてないみたいだが。


 パアアア……む、治りが早い、強力な治療術だろうか。

 驚いていて、魔力の出どころを見てなかったな。

 ケイラッドの包むような良い声のせいだな。


「助かった。治療をありがとう」

 手を握って調べる。

 完全に治っている。

 蛇はクネクネ動くのをやめた。


 ケイラッド「フフフ、おもしろい奴だな貴様、よろしくなルーナ。もう大丈夫だからな。それに、この礼は必ずするぞ。さて、困ったもんだな」


 そう言ってポンポンと頭を叩くが、力が強い、少し痛いぞ、手加減してくれ。

 嵌めてる指輪も当たって痛い。

 青い宝石が嵌っている古そうなものだった。


 それに私は子供ではないぞ、多分。


 ケイラッドが振り返るとシュトレイが身を固くした。

 悪いことをしてしまった自覚? はちょっとはあるようだな。


 床にめり込んだ卓をケイラッドが片手で持ち上げる。 が、重たかったのか、両手で持ち直す、慌ててガストンやビクターが手伝いどけた。

 卓をどけると、へこんだ床に、鎧がひしゃげたヴァインが埋まっていた。

 ヴァイン「……ぅ」

 残念だがまだ死んでないみたいだ。


 奴にまでケイラッドが治療をかけてやった、光はすぐにやんだな。


 あぁ、眼を覚まさない程度に直したのかもしれない。

 青蛇もくねくねしないで、ヴァインを見つめて舌をチロチロし続けている。

 なんだか獲物を前にしたような感じだな……。

 奴はうるさいからな。


 天才なんだろうが、同じ若者のビクターよりも落ち着きがなかった。

 しかし、危ない奴だし、とどめを刺さなくてよいのだろうか。


 ケイラッド「さて、俺は“この人達をお送りする”ので、この場で起きたことは全て俺が保証するから、引き続き楽しく過ごしてくれ。騒がせて済まない」

 ケイラッドは周りを見渡し、全員に向かってそう言った。

 気絶するヴァインを肩に担ぎながら。


 保障?

 

 長だろう。

 裁きは?


 なぜ、お前が謝る。

 

 皆恐らく、殺されかけたのだ。

 一言ぐらいシュトレイに言いたいな。


 次に見かけたら斬ると。


 気付けば隣に来ていたガストンが、私を静止した。

「待てルーナ、すまんがこらえてくれ」


 むう、気に入らんな。


 帝国か。

 覚えたぞ。

 上手い酒をマズイと言う、味音痴な奴らめ。


 ベル「ねーもう終わり? あー、ご飯おいしかった! まだ残ってる?」


 読んでくださりありがとうございます。

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