56話 解体所
受付のラウナに礼を言い、解体所とやらに向かった。
背後の酒場の喧嘩はモード率いる警備の男達が止めに行った。
ゴト、ゴト。
木床がだんだん汚れてきている。
ガストン「蜂の子は少し欲しいな。酒のつまみにいいんだ」
アリエスタ「あのでかいのが!? うぇっ」
ビクター「うーん」
解体所は建物自体が別だった。
しかし組合の建物とは廊下でつながっている。
こちらの方も天井が高く、倉庫、だと思った。
広い倉庫の中はたくさんの棚が並んでいて、様々な匂いをさせた大量の魔物の素材の数々があちこちに整理されて置かれていた。
様々な生き物の声が、そこら中にこだまし合っているようだ。
手前の受付の左は馬車が通れるほどの大きな扉があり、外に出られるようだ。
多分、ここから巨大森蛙を運び入れたのだろう。
大きな扉の横の壁には、普通の扉もある。
受付にはマルコ顔負けの巨体の男が肘をついて背後の解体所の職員に指示を出しながら、こちらをねめつけていた。
血まみれの前掛けで、口ひげが濃い、髪はある。
ビクター「こんばんわ、グンターさん」
ガストン「ようグンター、蜂の子あるか?」
アリエスタ(うわ、まだいたのか親父、さっさと家に帰りゃいいのによ)
と、小さく言ったな。
わかった、怖いんだなグンターとやらは。
ベル「うわー! これぜーんぶ魔物!?すごーい!」
天井の棚までほぼ魔物の素材や死骸に溢れている光景に驚き、ベルは男の頭上を通り過ぎ中に飛び込んでいった。
見ると壁に並ぶ棚の中央には広い作業場所があり、解体に使用するのか、ぶら下げる器具や、巨大な鋸や、抜いた血を受けるのか幾つもの大きな桶、様々な短剣や工具が並ぶ作業机等が所狭しと置かれている。
そしてグンターという男と同様に、前掛けを着けた屈強な男達が魔物を解体していた。
死骸は見覚えのあるオークと、巨大森蛙も解体中だった。
ああ、荷馬車で運んだ野営で仕留めたやつだ。
そういえば連中の戦利品、持ってた戦斧は大剣もあるし持ちたくないからと、ケンウッドに売っていいと任せたままだな……。
近くには盗賊のアジトで戦ったオーク達も解体を終えたのかぶら下がっていた。
アジトの衛兵団が運んで来たのだろうな。
デルンカだったか。
切り傷に覚えがある。
戦って、会話を交わした戦士が肉になっているのは……やはり厳しい世界なのだな。
腐らせるよりはいいだろうが、逆を考えると悍ましいものがあるな。
逆に奴らは人を食うと言っていたが。
そしてこの倉庫は底冷えする寒さがある。
肉が腐るのを遅くする為だろうか、どうやって冷やしているのかはわからない。
魔法だろうか。
グンターらしき巨漢の解体屋「おうコラ! フェアリーの嬢ちゃん! こっち入って来ちゃだめだい! こっちゃあ刃物扱ってんだい! あっぶねえだろがい!」
おお、ベル並に声がデカいな。
一瞬見ただけでベルがなんなのかわかったのか。
まさか、フェアリーも解体したことがあるのだろうか。
さっき組合から時々聞こえてきていたのはこの男の声だったんだな。
魔物じゃなかったようだ。
ベル「わぁ! 声おっきい! はーい!」
グンター「おうおう珍しいなぁ、何だってこんな人間の街なんか来ちまったんだい、
エルフに付いて来たんかい?」
「うん! そうだよ! 食べ物いっぱいくれるんだよ」
「ぐわはは、そうかそうか、良かったじゃねえかい! いっぱい食ってでっかくなれい」
大きな声のやりとりがすごいな。
アリエスタ「なるかぁ!」
コンコン。
ガストン「親父、解体した品、品」
彼は指に嵌めた指輪で高めになってる受付を叩く。
卓は背後の組合受付みたいに長く、解体所とこっちの通路を横切って仕切ってる。
ビクター「こんばんわです」
「こんばんわ」
グンター「おう、ぞろぞろ来たな、初見の奴が居るな、俺はグンターっつう解体屋の親父だい。その嬢ちゃんはルーナって名前だっけな? “女のエルフも”やっぱ白いんだな? よく見りゃハーフエルフかいお前さん。よろしくな。蜂はここに積んであるぜ」
受付にいるグンターが隣を指す。
運ばれていた蜂の死骸がきれいに並べられていた。
仕事の細やかさがうかがえるな。
棘のあるあの護衛蜂も分けて並んでいる。
蜂の子は、樽の中でぎゅうぎゅうになって蠢いているな。
ここは寒いから動きが鈍い。
蜂の子「……」
「そうだ。ルーナだ、よろしく頼む」
女のエルフも白い? はて。
アリエスタの師匠がエルフだとは聞いているから、男は白いと知ってのことだろう。
白くないエルフが居るみたいに話したな。
しかしハーフエルフだと見抜いたな。竜眼と目が合ってるからか。
ということは、エルフの眼はやはりこんなんじゃないということだな。
「おう、ずいぶん“切符”のいい娘っ子だい。まるで竜みてぇな蜥蜴族の良い眼だ、物腰も様になってる、気に入ったぜい。お前さんがあの化け蛙を“絞めて”ガストン達と蜂を採って来たんかい」
ああ。
「それに大層力があるそうじゃねぇか、おめえ組合に入る気はねぇかい? 食うに困らんぞい」
むむ?
グンターという男、眼がすごく良いのだな、解体屋の経験、とやらでだろうか。
アリエスタ「またかよ! 勧誘され過ぎだろ!」
「おぅ小僧! 最近見なかったな? またウロチョロしやがって、悪さしてねぇだろうな?」
「俺はイタズラ小僧か! もう死骸卸さねえぞおっさん!」
「ぐわははは、こっち来い小僧! ちゃんと食ってんのかぃ?」
「ひいっ、捕まるかボケ! 握力はんぱねえんだぞ」
なんとか捕まらずによけたな。
仲が良さそうだ。
「おぅガストン、でどうすんでい。仕切ってんはおめえだよな?」
「ああ、蜂の子と、うーん、護衛 (蜂)の素材はルーナに欲しいな。後はいらねえ。皆他に欲しいのはあるか?」
「任せる」
さっぱりわからん。
ビクター「いえ、大丈夫です」
グンター「よし! おうビストマっ、こっち来て会計してくれぃ、来いやガストン」
ガストン「お前らもこっち来て見てみろよ」
アリエスタ「えー全部売らないのお前ら? もったいな」
護衛蜂の死骸に集まり、素材を取るようだ。
グンター「やっぱ顎だな。棘付の外殻もいいがよい、昆虫に強い甲冑士はこの街にゃはもういねぇし、蛙皮ぐらいしかいじれねぇからな」
ビクター「は、はあ」
ふむ。
ガストン「ルーナ、甲殻は置いといて、この顎なんだが、革靴を真っ二つにするほど鋭いんだよ」
(護衛のは)くらってないが、やはりか。
「ほう、短剣にするのか」
「それもいいけどな、俺が狙ってるのは逆だ。こいつはなぁ、砕いて鉄と混ぜればお前がその剣で突いても多分、貫けなくなるぜ。腕のある奴が上手く精製できりゃの話だけどな」
なに。
アリエスタ「うっそだぁ!」
ビクター「あ、それって……」
ガストン「つっても数が少ねえから、腕手当てぐらいにしか使えんがな。面白いだろ、素材ってのも? 護衛蜂級になると丸ごと売ってもこの街の店には並ばねぇしな」
グンター「そりゃそうでい。都や王都に持ってきゃ高く売れんだからな」
ビクター「確か、先輩の鎖帷子と“団長の鎧”も、上級王蜜蜂の、顎砂製? ですよね」
うん?
ガストン「ああ。鉄板じゃなくてこいつは“鉄紐”を曲げ繋げた代物だけどな。“団長の胸当ては女王の顎製”だぜ」
ほう。
グンター「おう、よく知っとるなビクター。お前が生まれる前だぜい、女王を解体したのは。なぁガストン、これだけ全部揃ってて、女王のだけほんとに手に入らなかったってのかい?」
「だからモードさんから聞いたんだろ? でっけえスライムに溶かされちまったんだって」
アリエスタ「はぁ~あ、いい金になっただろうなぁ」
すまん。
グンターがビクターを褒めている。
なんでも死骸の切り口で誰がどうやって仕留めたかわかるらしい。
もっと褒めてやってくれ。
あ。
鞄から女王の顎を探し出した。
グンター「おいおい! そりゃ、女王の顎じゃねえかい!」
「この素材でベルの鎧は作れるか?」
ベル「ほえ? 呼んだー?」
蜂の子達がまだうねうねしてるのを瓶越しに眺めてる顔を上げた。
護衛の顎も切り取り、合わせて使ってみようということになった。
最初男達は驚いたが、ベルの大きさに精製したら、どんなものが出来上がるのかに興味がわいたようだ。
私より、ベルの安全をもう少し確保したいと思ったのだ。
敵の攻撃なら当たらなければいいんだから。
彼女はそれより夕飯に行きたいとゴネたので、買取をさっさと済ませる。
会計時、金を用意してくれた眼鏡の細い若者が、なかなか強者だということがわかった。
どことなくモードに似た雰囲気だった。あと、あの雇われ女衛兵か。
受け取った金をアリエスタがうらやましそうに見ていた。
蜂の戦いには関係ないからな。
彼を覗いて均等分けした。
「世話になった」
「おう、また仕留めたら死骸持ってこいよ! なるべくきれいに倒すんだぞ! 飯もちゃんと食えよ! 返事しろい小僧!」
「ああ」
ガストン「あいよ親父」
ビクター「ありがとうございました」
アリエスタ「わぁかったっての!」
ギギイィー、出る際に、大扉をついでに通って出てみた。
外は夕飯の匂いがした。
ガストン「よおし、初めての冒険者依頼はこれで終わったな。さて、ケンウッドさんの夕食に招かれに行くとするかっ」
アリエスタ「初めてで巨大スライムとか蜂の巣全滅する冒険者がいるか!」
ベル「はーい!ここにいまーす!」
ガストン「がっはっはっ、そうだ、お前さんも来いよアリエスタ」
ああ。
「商人宿だろぉ? 金ねえからむり!」
「スライムの報酬じゃ足りないのか」
「俺は金貯めてんの! 安い飯で十分なの!」
む?
借金とやらはいいのだろうか。
ビクター「えと、確か、ケンウッドさん持ちだったような? うわっ」
「あー腹減った! おい早く行こうぜ!」
彼を押して一緒に行き始めた。
ベル「あーはらへった!」
ふふ、一緒に行くようだな。
読んでくださりありがとうございます。
デルンカ、R.I.P……。




