53話 依頼書6 生き池その3
ビクター「うわあああ!」
ガストン「おいこらアリエスタ! やり過ぎじゃねえか!?」
「うん、気合い入れ過ぎた!」
ベル「うきゃーーーとばされるー」
彼女は両腕で必死に私の髪の毛を掴んだ。
激しい嵐のような風が一帯に吹き荒れる。
林の木々は激しく揺れ、葉と近くのアプルを吹き飛ばしていった。
吹きすさぶ風は冷たく、体を冷やした。
男達は腰を落とし、耐えているな。
武具もあるし、まぁ飛ばされはしないだろうが、アリエスタはよく吹き飛ばされずにいるな。
私はこの程度の風なら問題なかった。
むしろ、心地よくて好きだな。
なんでだろう。
ビュオオオオ――キャークスクスッ――オオオオッ。
?
何だ? 風に混ざってなにか――ガストン「やったかあ!?」
ああ、見てみろ。
そのエルフの娘は逆巻く銀長髪など意に介さず、突風に平然とし崖縁に立ち下を見ていた。
やがて、全てが収まってきた。
アリエスタ「どうよ?」
皆は洞窟よりも冷え冷えとしている中を歩き、崖下を見下ろし、眼を見開いた。
全てが凍り付いてた。
崖の壁から、底まで、巨大スライムはもはや凍り付いた水たまりであった。
だが私には聞こえる。
奥底からかすかに小さく割れる音を。
巨大水溜まりスライム「……」
――sldfΞj、dgサムw§aヤhsal――。
大した生命力だ。
「行く」
ザッ、さすがに今度は短剣を逆手にし、壁に刺しガリガリと、靴も使って壁をつたい降りる。
皆「えっ」「あ!」
頃合いを見て、素早く短剣をしまい飛び降りる。
この助走なら……。
ヒュオオオオッ――。
魔力の集まる、魔石と思しき点めがけて、逆手にした長剣を両手で構え降りる。
ガッパキイィィィィィンッ!
スライム「――※§ΘЖ! ……」
手ごたえはあった。
長剣先端、ギリギリだったな。
刺さって割れたのを感じた。
魔力はそこから乱れるようにして霧散した。
そこにいったのだろうか、大気に溶けたのか。
巨大スライム全体が振動し、一瞬、治療魔法のように淡く光ったように見えた。
凍り付いた体のそこかしこからひび割れる音が崖穴中に響きわたった。
倒した。
手ごわかった。さらばだ。
ペキ。
む、剣を抜いた際、手ごたえが柔らかくなったな。
カチャ、シャッ。
剣を掲げ、試しに傍を斬ってみると、少し硬めの肉のような切れ味だった。
掘ることができそうだ。
この凍り付いたのがどれだけ持つかはわからないが。
ベル「わーいやったー! やったねルーナー!」
いち早く降りて抱き着いてきた。
小さな彼女の頭を指で撫でる。
その後、崖縁の幹に縄を括り付け、それを伝いながら三人は降りて来た。
ガストン「よう、お疲れ! やったな!」
ビクター「まるまるこれ全部がスライムですか!? 魔石があったんですか!? すごいことですよこれは!」
アリエスタ「おーい、待って、早ぇえよお前らあっ」
「ああ、この切れ目の奥の、待ってくれ」
取り出せるか? 切れこみを入れて、ここにも、これで。
なんとか、スライムをぶつ切りにしては取り除いてゆく。
ビクター「おお、手際がいいなあ」
ガストン「スライムの“ブロック”か……」
?
四角いこれはブロックとも言うのか。
何故 (唯一の右目を)半目にして嫌そうに見てるんだ。
スタッ。
アリエスタ「いよっと、うお~カッチコチじゃねえか、ホントに死んでんだろうな?」
ああ。
よし、魔石の場所まで来たぞ、“それ”をほじくり取った。
ガストン「これは……」
ビクター「ま、魔石だ。ホントにあった。それにこれ、なんですかこれ?」
アリエスタ「どけよビクター、見えねえ、うおすげえな! 割れ目は通常のもんなのに表面が、ホラ! 後ろの手が透けて見えるぜ!? すっげー!」
ビクター「ホントだ! 何で!?」
ベル「なにこれ? とうめい? わー、上が見えるよ!」
ガストンやビクターがそれぞれ手に持つ割れた魔石。
その表面は、そこにあるのに半透明に透けており、魔石の下にやったアリエスタの手が、魔石越しに上から見えていた。
同じようにベルが遊んで下に回り込み、私に手を振っている。
魔石を挟んでだ。
「ねーふってふって!」
私も手を振り返す。
ガストン「ハッハッハッ。通りで見えねぇわけだぜ」
ビクター「先輩、これ、大発見なのでは?」
アリエスタ「いくらで売れっかなー! 楽しみだな!」
「えーなんか勿体ないなぁ」
ベル「ねぇ、そっちのとくっつけて元に戻して! わぁ! うきゃー見えなくなっちゃった!」
目の前のそこの手の上にあるのは半透明だからわかるが、遠目に、しかもスライムの見通しの悪い体内では判別は無理だ。
ビクター「先輩、他のスライムとかもこうだってことですか?」
ガストン「いやー……大型種なら、あるいは、うーん、わからん。こいつだけかもしれんし」
アリエスタ「なぁ早く換金しに行こうぜ」
ガストン「そうだな。いやちょっと待て、こん中の戦利品を回収しねえと」
ビクター「あ、そうでした。糞はありますかね?」
ベル「うんちとるー」
アリエスタ「おいやめろ」
足元がじゃりじゃりしているな。
溶けてきたのかもしれない。
ビクター「な、なんか地面が柔らかくなって来てませんか?」
ガストン「溶けだしてるんだろ」
ベル「え? 生き返ったー?」
アリエスタ「違うわ! 凍り付いてたのが元に溶け戻ってきてんの!」
魔法はそんなに保たないらしい。
組合の氷弾は溶けていたな。
「保つ魔法は勿論あっけどな」
ふうん。
「なぁ、この死骸には酸はあるのか?」
一同「「……」」
ガストン「種類によっては、ある」
ビクター「ええ!? こ、このスライムはどっちですか先輩?」
どうだろうな、中に居た時、“途中から酸になった”気がする。攻撃してきたからか?
アリエスタ「ベル、ちょっと舐めてみろよ」
「え? えーと、いいよ~……は! んもうっ! アリ! 酸だったら舌が溶けちゃうでしょお!」
怒ったベルが小さな拳でアリエスタの頭をぽかぽか叩く。
だが、だんだん彼女の怪力が乗り強くなってきた。
「ハハハ冗談だよ! やめ、やっ、いたっ、痛ぇ! やめろっ、悪かったって! ……ひえ~なんて力だよ! そりゃ檻も捻じ曲げるわけだ」
ガストン「あー大丈夫だ、酸はないな。おい聞けっホラ、残ってる水が煙出してないだろ? 本来なら盗賊を溶かし消し去っちまうぐらい強いはずだ」
普通に表面を撫でて指でこすって確かめていた。
あの酸は、巨大スライムが魔法のように出していたのだろうか?
ガストン「一応言っとくが元々が酸で出来てるスライムも世の中にゃいるからな」
ほう。
その後相談した末、階段になるように切り外していけば、取り出せるのでは?
ということになり、各自作業を始めた。
色々中に浮かんでる中に、“糞とやら”は薄っすら底に見えていたから。
日が暮れて来て崖下の穴には陽が射さないので、すぐに暗くなってきた。
ベルがぼんやり明るくなってきたのでわかりやすい。
ホワン、更にはアリエスタが“灯火”という魔法を唱えて明かりの玉を浮かべてくれた。
「これが保つやつだぜ(ずっとじゃねーけど)」
ほう。便利だな。
ベル「わーっ」
ビクター「うわっ」
アリエスタ「やめろバカ、通り抜けんなっ消えちまうだろっ」
そうなのか。
「熱くないのベル? びっくりしたよ」
「え? へーき!」
やはり焚火の火とは違うらしい。ビクターが驚いていたが、私は感じていたとおり、手を近づけてもそんなに熱くないからな。
灯火は私達、いや彼の頭上に勝手について来て照らしてくれた。
ガストン「おっ、これはなかなかいい短剣じゃないのか?」
ビクター「こっちは盾です! でもこれ、衛兵団のでは?」
アリエスタ「なんだこれ! ただのベルトのバックルじゃねえか! あ~疲れた。なぁーこれじゃあ俺の依頼は明日になるんじゃねえの?」
ガストン「わかってる、ちゃんと手伝うから、手ぇ動かしてくれ」
「誰かスコップ持ってきてねーのかよ!」
ビクター「持ってきてないですよ~」
すこっぷ? 知ってて浮かぶのはシャベル? だったと思うが。同じものだろうか。
「ふむ」
私も掘り進んでやっと取り出してみると、金属の匙だった。
ベル「あーおさじ? こっちはおさじでーす」
アリエスタ「放り投げちまえ!」
ガストン「んあ待てっ待てルーナ! 真に受けて投げるなっ、それ“銀”だぞ!」
売れるのか?
首をかしげていると、ガストンが高く売れると言った。
アリエスタ「よし! もっと探すぞおまえら!」
ザクッザクッ。
ビクター「あれ? 元気になった」
ベルがやりたいというので渡した匙を、スコップのようにして掘ってくれている。
……彼女なりに、手伝ってくれている。
あ、本当にやってくれた。
硬貨を一枚掘り当てた。
見事だ。
両手でぶら下げて傍のビクターに見せに飛んだ。
「ベルちゃん、この硬貨、“王国のお金”じゃないね……なんだこれ? 小さい、メダル?」
それでも、ベルはお宝を手に入れて喜んでいた。
ベル「わーいっ」
その後、槍の穂先だけや、錆びつきへこんだ兜、金具、金具、釘、枠、折れた鋸、何かの勲章? 等、様々な金属が掘り出される。
ビクター「先輩」
冒険者の認識票もあった。
「ああ……」
錆びていて古いが、拾ったガストンは黙ってそれを握りしめていた。
落ちた盗賊や蜂の女王は姿形もない。
それを思うと、やはり恐るべき相手だったな。
よい戦いだった。
女王の素材は残念だった。
顎刃だけは鞄にあるが。
日が暮れて来てそろそろという頃。
巨大スライムの採掘場となった崖底の、本当の底で、ついに最後の糞《金属》が見つかった。
その頃にはだいぶスライムは溶けかかっていて、皆何度か滑って転んだ。
アリエスタ「だあくそっ、なんでルーナは全然こけねぇんだよ? わけわかんねぇ! もうやだ! ベットベト!」
ビクター「ははは、すごいですよね、足運びが上手なのかな? 先輩もあまり転ばないし」
ガストン「あぁ、俺は靴裏に少し刺が付いてるからだぞ――お! やっとだ。“底の穴”に転がってやがったぜ」
とうとうスライムの糞とやらを見つけ出した。
そこには、様々な種類の溶けずに残った金属が一塊になって、崖底のくぼみの中に集まっていた。
ぱっと見た所、どれも錆びが多く、少し古いように思える。
鉱石の塊も転がっているな。
それらの下に大きな塊がのぞいている。
アリエスタ「何? もー暗過ぎて見えねぇ」
崖の底だし、私達の影もあるからな。灯火は最初より明るくなくなっていた。
明かりをまた強められないのか?
ビクター「あ、松明付けますか」
ガストン「あーいや、一旦全部回収してさっさと昇って戻ろう。すぐに真っ暗になるぞ」
ふむ。
多分、彼はさっきからずっとだが、“ここに”居ることを嫌がっている。
上の周囲を気にしてる。森のてっぺんが見えるな。
というか、今上からは私達は恰好の的だ。
ベル「ねえルーナ見える? ごつごつのうんちだった」
アリエスタ「言い方ぁ!」
「“からくり”が見えた」
ガストンは腰を少し気にしてるな。
ビクター「うわっ、これすごく重たいですよ」
「私がやろう」
皆作業で疲れたのだな。
私が代わりに底の糞を全て、発掘した戦利品用に使っていた大袋に詰めて持ち、スライムの階段を上った。
崖に垂らしてある縄を登り、崖上に皆戻った時には、森の向こうに見える夕日で辺りが赤く染まっていた。
ビクター「あれ? ……昇ったらまだ明るいですね」
ガストン「高いとこにゃまだ日が射してるからな」
そういえば、街道からここへは昇って来たな。
アリエスタ「ベルひっぱってくれ~、ひぃ~やっと上がれた。俺は肉体労働は苦手なんだよ、もう疲れたぁ~」
肉体ろーどー?
「しょうがないなアリは! でも氷の魔法すごかった!」
「ん? へへ、俺じゃねぇよ? ルーナの“魔力量”がイカれてんだよ。でもまぁ、そいつを“制御”したのは俺の実力だけどなっ」
「ねぇおなかへったー、早くかえろーよー」
「聞けよ!」
ガストン「ふう、痛つつ、とんだ冒険になったなルーナ」
「うむ、良い、冒険だったな」
ガシャンッ。
私は戦利品の袋を肩に担いだ。
うお、ちょっと重いからぐらついた。
読んでくださりありがとうございます。
重たいからくりもですけど、小さなメダルの正体は何でしょうね?




