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竜眼のハーフエルフ  作者: 二砂音 
二章 湖の街編
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49話 依頼書2 王蜜蜂

 ベルを落っことした。

 すっぽ抜けて離れてしまった。

 さっき回転しながら飛んだ時に抜けたのだろうか。

 そこから離れた所をフラフラと飛んで、何やら茂みの奥上から話しかけている。

「あれ~? る~な? 何してんの~?」

 

 目が回ったのか?


 ガストン「だめだこりゃ、おい! 蜂が起きて来たぞ急げ! ズラかるぞルーナっ!」

 彼は寝起きでのろのろな蜂を次々斬りつけ叩き殺している。

 ビクターは気が付けば丸太の方に下がってこちらに手招きしてるな。


 何だ? 近づく途中で眠っている蜂が羽を唸らせ始めたので止めを刺す。

「ベル、どうした? 早く逃げるぞ」

「あれ? ルーナそっち? ねぇ、あんた誰ー? お酒臭いよ?」

 誰か隠れているようだ。

 羽音ですっかり気づかなかったぞ。


 感じる。

 謎のそいつはだいぶ興奮していて、酒の強い匂いを漂わせていた。


 藪をどけて見てみると影の中に、盗賊の生き残りが耳を塞ぎ小さくうずくまっていた。

 空の酒の瓶が転がっているな、これを身体中に振りかけたようだ。

 濡れた体から酒の匂いがしている、蜂は嫌がりそうだな。


 ベルが下りて近づき、怯える盗賊をつついた。

「ひ、ひぃ!?」

 ベル「わっ! むぎゅっ」


「あっ」

 咄嗟に振り向きその手がベルを掴んでしまった。

 

 その時だ。

 ブブブブワアアアアッ。

 辺りに羽音がまた鳴り響き始めた。

 とうとう起き出したか。

「っ」

 特に上の巨大な巣からものすごい音が重なるように鳴り響き空気を揺らす。

 巣穴から、次々に蜂達が飛び出してきた。


「むぅ~離してよ!」

「おい、ベルを離せ。蜂から逃げるぞ」


「ひゃ、ななな何だてめえらはあ!?」

「っ」

 ヒュウンッ。

 刃の曲った小剣を抜いて振り回した。


 近づくのを防がれたな。

 さっきのビクター以上に怯えていてまるで聞こえてないようだ。

「落ち着け、敵意がないなら、私は手を出さない。その子を離すんだ」

「ひっ、ひっひぃ! 羽音が! 羽音が!」

 ブブブブブブウウウウッ。

 みるみる内に巣の中から大量の蜂があふれ出し、奥から大きな黒い影が浮かび上がってきた。


 集中すれば抜けれるかもしれない。

 ブブブブ――羽がゆっくりになる――だが、こいつらお互いぶつからずに器用に囲んできている。

 どんどん狭くなって退路を塞がれている。

 これは私でも逃げられないかもな。


 そもそも“二人”を放って逃げられない。


 ガストンは針に毒があると言っていた。

 今はソニーもいない。

 ううむ。

 そうだ、あれをやろう。


 ゴブリンの王と戦うつもりの気持ちで挑もう。

 ソニーと何度か瞑想をした時の魔力の流れ、風蜂の魔力の集中等を意識してみる。

 よし。

 すぅぅぅ……。

 巣の上空に顔を向けた。


「ガアアアアアアアアアアア!!」


 盗賊「ひぃぎゃああ!?」

 ベル「おおー!」


 トサッ、ガサッ、ボトボトボトボトボトボトボトッ!


 いつもとは違う咆哮が出た。

 風の刃のように、“魔力が乗った”気がするな。

 ビュオオオオッ。

 衝撃並のような振動が地面や木々を激しく揺らし、土埃を立てた。

 蜂達が次々と衝撃を食らい弾けるように落とされた。

 ドサドサドサドサッ。

 アプルの実もたくさん落ちたな……。


 見ると羽の付け根が弱かったようだな、羽がちぎれて飛べずにもがいて生きているのがいるが、多くは気絶したようだ。

 最後に、護衛らしき通常より大き目の、棘の多いのが四匹と、ボスらしき真っ黒で巨大なビクターと同じくらいのが残った。


 ガチガチガチガチッ。

 ――コドモ――エサ――。

 む。

 甲高い高音の中からそう聞こえた気がした。

 あのでかい奴か?

 完全に警戒し顎の大きな威嚇音を私に向かって鳴らしている。


 ガストン「うぉ~びっくりした! 何だ今の声! マルコの親父やベル以上にでかかったぞ!?」

 ビクター「だ、だいぶやりましたけど、“女王”と“護衛”がまだ無事です!」

 女王と護衛だと。


「ば、ばけもんだ! ぎ、ぎゃああああ!! かあちゃあああん」

 私の事だろうか、ばけもんと呼んで、盗賊が怯えて帰り道とは別の方へ走り去る。


 ベルを掴んだまま。

「もおおお離してええええ!」


 ダッ。

 くっ、追うしかない。


 ガストン「あルーナ! そっちは崖だぞぉ! ――……」




 ドンッ、ドズザアアァッ。

 盗賊「うぺっ」

 太っていて足が遅い。すぐに盗賊に追いつき蹴り倒して、首の後ろを手剣、で気絶させて、ベルを解放した。

「もう! べちょべちょ~」


「落としてすまないベル、おいで」


 スルッ。

 なっ!?

 止まらせるように手で包もうとすると、フワリと抜けて跳び上がった。


「ぷんぷんだ!」

 上空に逃げられた。


 なにを――「危ないから鞄に入って!」

「や! あたしも戦う! シュッシュッ!」

 どうやらやる気みたいだな。


 林が途切れて、開けており、すぐそこはガストンが後ろで警告してくれた通り、崖になっているようだ。

 ここから見えた限りの向こう側の崖の方には、深い森がずっと広がっているようだった。


 ブウゥゥゥンッ! ビイィィィインッ!

 追っかけて来たな。

 

 ベルから離れるように移動して引き寄せる!


 来た。

 ブブイイイイイイイイイ――先行した護衛の一匹が回り込むようにして横から襲い掛かる。

 顎は長くて大きく、針ではなく、頭から地面スレスレに飛び噛みついてきた。

 足を千切りそうな形だな。

 ギインッ!

 噛みつかれるギリギリまで引き寄せ、頭と胴の細い部分を斬った。

 やはり、普通のより硬い手ごたえだ。


 そしてオークの戦士ほど頭が良くないのか、眼が優れているくせに、剣の変化する軌道に弱い気がする。


 それを意識して上空から降下し襲い掛かる一匹に対して、逆手に持った長剣を、首に食いつこうとする奴の背後に向けて回り込ませるように切りつけた。

 ガチンッ! ――ズドッ!

 逆手突きで刃がズレ、刺した部分から斬り抜ける。それはいい。

 体制が崩れた。


 ドカッ――ズザアッ。

 だが樹を蹴り、走る軌道を飛ぶようにして変える。


 タタタッ……そしてわざと遅めに走る。

 さあ来い。“間合い”に。


 ブブブブ、蜂「……」

 カチカチ、カチチチチ……死に落ちる二匹を見て、残り二匹を取り巻きにし、女王が飛ぶ高さを上げた。

 ブブブゥーーーーッ。


 なんだ?



 ――魔法だ!

 発動が早いっ。

 ガチチチチッ!


 それは羽からではなく、女王のこれもまた長く凶悪な顎から放たれた。

 ボウンッ!


 早すぎる。

 躱せないな。


 腕を交差し守った。

 ズガガガガっ!


 それは風の刃ではなかった。

 全く別の魔術だ。

 真似ではないのだろうが、さっき私が放った咆哮に似ている。

 音、衝撃波? のような。

 風が斬撃なら、今のは面、盾の一撃だ。

 ビクターが高速で盾をぶつけてきたような感じだった。

 遥かに強力で、樹も砕けるほどの。


 籠手の金属が悲鳴を上げ、私は衝撃で吹っ飛んだ。


 バキッ! ドザァッ!

「っう!」

 吹き飛ばされ、右肩だけ幹にぶつかって変な方向に飛んで落ち転がる。

 もう少しずれてたら背中の大剣で守れてたんだが。


「うわっ、あっ、わぎゃああああぁぁぁぁぁ――――……」

 背後で盗賊が崖からずり落ちていった。

 衝撃に巻き込まれたか。

 すまない、まったく気にかけていなかった。


「ぅ、はぁっ」

 ガサ、腕が痺れる。

「!」

 かろうじて立ち上がると、護衛達までが二匹共、両脇から魔法を放つところだった。


 衝撃で持っていた長剣は落とした。

 気が付けば背後は、崖の縁だ。

 ビュオオオオオオオッ。


 ――ヤレ――。

 女王の声が頭に入って来る。


 護衛の魔法は羽からだ。

 風の刃だな。

 魔力を見ると右の奴の方が発動は遅い。

 私は腰の小剣を抜きざま、そいつの口の中に向けて突っ込んだ。

 ズジュッ! シュババン!

「っ」

 抜き放たれた刃が護衛の顎の間の“口蓋”に食い込み、背後で風が地面を大きく切り裂く。

 ビュオオオウッ。

 葉や塵、小枝に混ざって煌めく銀貨みたいな糸――髪がちぎれて飛んでいる。

 ドサアアアッ。

 一匹は撃ってきて、もう一匹は死に落ちたままの勢いでこっちまで墜落して来る。


 カチカチカチチチチ――女王が大顎をかち鳴らす。

 また衝撃が来るな。

 目の前でビクビク痙攣する護衛の顎を掴んで、女王に放り投げた。

 構わずに風撃を放つ女王。

 ボフウンッ!

 

 バキャアアッ。

 甲殻を砕かれながら明後日に飛んでいく護衛。

 ビュオオオオオッ。

「っ――!?」

 む、衝撃が弱かったぞ!?


 うお、すぐに二発目をすぐに放とうとしている!


 同時に最後の護衛が腹めがけて突っ込んでくる。

 これは困ったな。


 なんとか跳び避けて機の後ろに、途中で飛ばされ崖から落ちるか賭けだが――。


 ――ベル「ルーーナーー!」

 そこに、女王の背後からベルが飛んできて、背中に体当たりした。

 バギイイィッ!

 顎が上に向きのけぞる。


 見事だベル!

 安全に横から飛び込んできた護衛を躱して、“腰の小剣”で斬る。

 ガギキッ!

 硬い。

 長剣の切れ味より悪いからか。

 護衛蜂の甲殻は、こんなにだったのか!

 だが十分深手で、瀕死だ。


 あ。

 見上げるとのけぞった女王ごと、ベルが崖に落ちていく。


 ダッ。

「ベル!」

 私も追って飛び降りた。


 躊躇なく降りたが、下は水だ。

 多分大丈夫だろう。

 ビュオオオオ――私の方が後だったが重さなのか、女王に迫りつつ落下している。

 まだ生きている女王が回転しながらもがいている。

 乱れた魔力がまた顎に集中し始めた。


 私に向けている。

 多分、ベルが背中に突っ込んだのは私の何かだと思っているのかもしれない。

 それでいい。

 ベルは力を使って疲れてるように見える。


 落下する中、即座に小剣を納め、背中の大剣の柄を握る。

 ガチガチッ!

 風撃が飛んで来た。

 お互いの距離がもう間近な状態でだ。

 小鬼ゴブリン洞窟でワンドの大火球を槍斧ハルバードの横腹で弾いた時のように、大剣の腹をぶつけるようにして振り抜いた。

 バギイイイィィィンッ!


 折れたか、良い剣だった。

 だがこっちは全然平気だぞ。


 代わりに、風撃が弾けるようにして吹き飛ばされた。

 さっき食らった奴より強力だったな。

 最後の懇親? の一撃だったのか?



 いやっこれがか!

 魔法で離れたが、思い出したかのように羽を振動させ、落下を緩めると同時に顎を広げ食らいかかって来た。

 ――エサ――ナレッ! ――。

 落ちながらも体を捻り躱す。

 ギャリイッ!

 ギザギザの顎が皮鎧の胸の金属板を擦った。

 これも躱したぞ!


 ビュオッ――なんて奴だ、尻の大針を同時に股に向けて突いてきた。

 小剣程もあるかという大きさの大針が迫る。

 躱したばかりを狙ってきた。

 流石女王だ。


 ガッブジュッ!

 奴の顎を掴む。

 手の平に棘が食い込む。

 掴んだとこを頼りにして、針を膝で蹴り躱した。


 ビュオオオオオ――もう地面だな。


 ベルは顎が来たら辺で落下から飛び上がり、上の方へと見えなくなった。


「っあああああ!」

 女王「ギチチチチ!」

 ギリギリで、痛む両手で顎に力を入れ、なんとか女王を下に向け、淀んだ水たまりに思い切り落下した。



 ボチャアアアンッ!


 その時、何かががおかしいと感じた。


 落ちた下は、水なんかじゃなかった。


 読んでくださりありがとうございます。

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