48話 依頼書1 アプルの林
巨大倒木を回り込み進むと、赤い点がチラホラ見えて来た。
熟したアプルの実のなる木がたくさんある。
その幹の間をブンブンと羽音を立てて、人の頭ぐらいの大きな虫が
飛びまわっていた。
一、二、、見た所、八匹ほどいる。
黄色と黒の縞々だ。
蜂だな。
幹から垂れた汁にとまって舐めている。
樹液? だったか。
ベル(あの樹液、おいしそうだねっ)
そうだな。
ブブブ、蜂「……」
アプルを実らせてるから樹液が垂れているのだろうか。
樹液で蜂を呼んで、実を守らせているようにも感じる。
ガストン「待て、なんかおかしいな、“でかい”ぞ? 普段はあんな狂暴な感じで飛び回ってもない筈なんだが」
ビクター(せ、先輩、あ、あんなに大きいのは見たことないです!)
うん? あれが普通じゃなかったのか。
ガストン「こりゃ“奥地”から出て来たのかもしれねぇな……おい、誰か倒れてるぞ」
奥地。
ソロ……徐々に近づくと、わかった。
前も見た盗賊のような恰好の男が死んでいる。
周りに蜂が何匹も落ちていた。
男の首に穴が開いてるな。
そこから青黒く変色して、酷い顔で死んでいる。
男の死骸に群がって蜂が何匹も肉に食らいついていた。
ビクター(ひえええっいっぱいいる)
彼は硬くなって盾に隠れるように見ている。
スン、煙の焦げた匂いがするな。
なんだ? 焚火か?
向こうの林の中でも大きな樹の根元に、煙を僅かに出す焚火の山があった。
まだ燻っている。
ベル(ルーナ、上!)
彼女が髪の毛を引っ張る、指さす上を見ると、樹の上の方に巨大な何かがあった。
樹の一部だろうか、違うな、色も木の皮の感じとも違う、穴が開いているな。
あぁ、あれは巣か。
家ぐらいある蜂の巣が遥か頭上に出来ていた。
中にどれだけいるんだろうか。
何も音は聞こえてこないが……。
ガストン「マジかよ、どうなってんだ」
ビクター(お、“王蜜蜂”の巣がなんでこんなとこにできてるんですか!? いつもは遠くから蜜を取りに来るはずでは)
王蜜蜂というのかこの蜂達は。
ガズトン「わからんがあの盗賊は煙で巣の連中を眠らせたみてぇだぞ」
「落ちてるのは眠ってるのか?」
「ああ、そうだろうな、傷も見当たらねぇし、まだ生きてるぞ。だが問題はあのクソでかい巣だ。中にうじゃうじゃいるはずだが、騒いでる様子がねえ、多分中で皆おねんね中なはずだ」
ビクター(せ、先輩これはお試しってレベルじゃないですよぉ)
「ああ、悪ぃなルーナ、今のうちにさっさと撤退しよう」
うむ。
あ。
背後の林の中、右後ろをうろうろしていた一匹が、丁度こちらに出てきそうだな。
カサッ。
ルーナが突如弓の構えていた恰好のまま、背後に向きを変えた。
急なその動作に二人が驚く。
向こうの丸太の影になっているが、振動する羽が一部見えた。
ガストン「ああ、クソっ、塞がれた」
ベルのものよりはるかに大きい羽根だ。
先ほど私たちがいた場所をうろうろしてる。
そうか、奴ら“も”私たちの匂いを感知して嗅いでいるんだ。
背後で二人が構える気配がするな。
やはり、攻撃的な魔物なのか。
丸太から体を浮かせ出て来た。
こちらに気が付いたな。
蜂は動きを止め、私たちを見た。
カチカチカチ……。
ぶつけ合わせるような、高い音が聞こえる。
む、やる気だ、魔力の流れが羽に集中し始めた。
ガストン「風が来るぞっ」
なにっ。
背後で二人が横に飛ぶ。
私は矢を放った。
二射目を狙い様子を見る。
躱した!
奴の魔力の流れは乱れない。
羽から何か突風に似た圧力を持つ風が飛んで来た。
見える、透明だが、魔力の塊が刃のようになっている。
縦に短剣の斬撃のような大きさの風の刃が私の顔面に迫る。
身体を捻って躱し、二射目を放った。
ヒュンッ。それも躱したっ。
恐るべき速さだ。
飛び込んでくる矢が見えているんだな。
ドスッ。
だが、早めに連射した“三射目”は厳しかったようで、胴体に刺さって落っこちた。
ガサンッ。
ビクター「おおっ!」
ベル(当たった!)
ガストン「こりゃ逃げられねぇな。さっさと立てビクターっ連中がブチ切れて襲い掛かって来るぞ!」
シャキイイインッ。
ビクター「ひえええ!?」
ほう?
彼は大剣を抜き、アプルの樹にむかって構えた。
チラと風の刃が通って行った先を見ると、地面にやはり、短剣で切りつけたような跡が残っていた。
ふむ、ビクターの盾や、私の鉄板入りの籠手なら十分防げそうだな。
皮はわからん。
ブブッブッブブブーッ……蜂は手足を滅茶苦茶に動かしもがいて、やがて動きを止めた。
急所は外れていなかったようだ。
む!
奴の針が少し出た尻から、鼻の奥がツンとする匂いをまき散らしたな。
ガストンが警戒したのはこれか?
その途端、周囲に広がる羽音が激しくなる。
同時に、蜂達がカチカチと音を出し始めた。
盗賊の死骸に群がってるのも飛び上がる。
ガストン「お互いの背中を守るんだ!」
見ると、顎を嚙み鳴らしている。
威嚇か?
今回、矢はあまり向いていないかもしれん。
カサ、草むらに矢筒と弓を置き、長剣の柄を握る。
ガストンが右、私、左がビクターだ。
一部は風を、他は尻から短剣大の針を出し突っ込んできた。
同時か。
前方から針三匹、左から風。
風の刃は奴らが矢をよける速度を越えてまっさきに切り刻もうと飛び込んでくる。
私は試すためにも、左の籠手で刃を上に受け流すように当ててみた。
ギィンッ!
金属音と共に、傷を作って向こうに飛んでいった。
そのまま、左に逆手に持つ短剣を手前に飛び込んでくる一匹に、針を避けながら銅に刺した。
続けて長剣で二匹目を両断し、最後の三匹目を思い切り蹴っ飛ばしてみた。
ザンッ!
バキャッ!
両断される一匹、身体がつぶれ、羽が飛び散り吹っ飛んで幹にぶつかる一匹。
風を飛ばした奴がその様を見つめて留まっている。
虫の“意識は感じづらい”が、恐らく恐怖も驚きもない気がする。
隙を見て短剣に刺さったまま、もがいてそこから針を私に刺そうとしている一匹を、投げつけるように振りかぶる。
避けた。
だが、意識半分が飛んでいった一匹に向いている。
ダッ――ヒュパンッ。
突っ込んでくる私に反応すると同時――長剣が下からすくい上げ斬った。
四匹倒した。
ブブブー三匹が追加でこちらに飛来してくる。
ブオンブオウンッ、ブンッ!
グシャッ、バシャッ、ズパンッ。
ガストンは見事にかわして、斬り、躱して、斬って倒している。
三匹の死骸と風の跡がたくさん、地面に落ちている。
足さばきが見事だ。
動きが少なく、大剣は的確に蜂を屠っていた。
蜂がどう飛ぶか完全にわかっていて、分厚いそれで一撃の元に全てを叩き潰し斬った。
これがガストンの戦い方か。
ビクターは比べて荒い動きだが、しっかり中型角盾で防いで長細剣で突き、叩いてはじいて隙を突いている。
一匹倒したな。
カンッ!
兜に針が当たって首が少し曲ったが、後は引っ込めるようにさらに警戒し戦っていた。
「ひいっ、はぁっはぁっ! 見えない!」
兜で視界が悪いのか。
動きも普段より悪くなってきている。
そっちに四匹飛来してるが……。
こちらの三匹が先に来るな。
手助けはすぐにできそうにない。
奴らの速さ、風の大きさと切れ味は見たな。
突進する角度、高さ、風を出してくる距離も大体わかった。
私は短剣を納め、両腕で長剣を携え、歩幅を狭め、ガストンの動きを意識し、適度な高さに剣を構える。
チャキ。
ガストンがルーナの状況を視界に納めるようにして戦っているその時、彼は見た。
急襲する三匹にほぼ同時に黒い線が走ってゆき、ルーナの腕がブレるように視認できなくなったかと思うと、蜂共の動きが突然ふらつき、真っ二つに分かれながら落ちていった。
見ると足元の地面に擦った後がいくつもある。
早い。
そしてそれは自分の、師から伝わり実践している動き、剣術の流れであった。
「たまらんなぁ、もうモノにしやがって」
悔しいのか、嬉しいのか内混の感情の中に、どこか誇らしさもあったかもしれない。
ブブウンッ。
「おおっとっ!」
すぐにまた突っ込んでくる蜂を躱し斬る。
ルーナ程感が良いわけではないが、もう何年も何千匹も屠って来た為、彼は羽音で大体の動きがつかめているのだ。
横目に、苦戦するビクターに向かって走るルーナが見えた。
ベル「ルーナ! 死体のとこにいるよ!」
なに。
ビクターの後方の盗賊の死骸、群がっていた蜂はいないが、少し動いた。
ああ、外套の影で食事に夢中だったのだろうか。
ビクターの元へ走る。
ヒュヒュパンッ!
手前の二匹を斬った。
二匹目が気付くや直ぐに反応して避けようとしたが、斬撃の方が早い。
棘よりも私や剣の“長さ”だ。
追いかけて来るように背後から一匹が迫る。
私は回転しながら飛び、あえて追いつかせた奴を上から見下ろす。
奴は特攻を羽を激しく動かして制御し、上に飛んだ私を見上げ、尻針を剥けるが、回転しながら横から剣を振り下ろす軌道には反応できていなかった。
真っ二つになりそこで止まった。
着地と同時に、ビクターが盾で風を防御しているのが見えた。
やはり、風を飛ばす奴らに突きがなかなか届かないでいる。
どうも、風を飛ばした奴は針で突っ込み、逆もそうだ。
風を放った奴がその後突っ込んで来て盾に齧りついていたりする。
交代して魔法を放っている。
連携しているな。
盗賊の死体から蜂が飛び上がり、ビクターの首筋を狙い、針を出した。
動きは見えているしわかっている。
「ビクター後ろだ!」
飛び込む瞬間、私が投げた短剣が刺さる。
「え? うわっ!」
突撃が防がれ、短剣が刺さりよろけた蜂を、ビクターがすかさず長剣で突いた。
隙を突いた蜂が盾から顎を離し、尻針を間近で刺そうと迫る。
「う、うわあああ!」
暴れて盾を振り回す。
盾をよける蜂。
まずいな。
ガストン「兜を外せ! 羽音にしっかり耳済ませばお前なら避けられる!」
ビクター「!?」
私もそうだと思う。
私は風蜂を無視し飛び込んで、その蜂を殴り飛ばした。
ガンッ!
幹に跳ね返り、地面に着地するようにして落ちた。
まだ息があるが、瀕死だ。
拳もいけるのだな、少し痛いが。
彼の背後、風蜂が飛ばす刃を籠手で跳ね返すように弾いた。
「ビクター落ち着け、針は刺させない」
彼は怯えた状態で、私と、盗賊の首に穴の空いて変色した死体を見比べた。
「は、はい!」
カチャカチャ、ガランッ。
兜を外し放り投げて、彼は気合いの入った顔で答えた。
うむ、持ち直すとよいが。
刺されたら多分、ソニーを探しに急いで帰らないといけないからな。
もう起きているものは数匹だ。
だが、ピクッ――眠り落ちている蜂の足が動き始めているな。
――はえ~~目が回る~~――
?
妙な方向から声がする。
うん?
「!」
ベルが袋にいない。
落とした。
読んでくださりありがとうございます。




