47話 報酬
「で、ですが私は長剣の報酬にこの袋を付けることを良しとしました、それはいけません」
ガストン「いいじゃねえかケンウッドさん。ルーナは欲しいもんが報酬でいいって言ってた、こいつにとってはそれがその剣だったのさ」
うむ、その通りだ。
私は彼に頷く。
「はぁ、そう言ってもらえるならこちらは大変助かりますが……」
ビクター「あ、あの、中に入れたもの、どうします? たくさん入れちゃいましたけど」
む、中の茸や肉はベルに食べさせるものだからな、出しておこうか。
卓の上に様々な素材や肉がどんどん置かれた。
袋の大きさ以上に入っていた中の荷が山になり、周囲を驚かせた。
ううむ、鞄に入らないな。
ベル「出しちゃった! 食べるの?」
ガストン「うん? しかしよくもまあ入ったなぁ」
ロムガル「生だぞ」
モード「そういう意味じゃないと思いますネ。でわはい、それなら中身はケンウッドさんが買い取ってあげて、“品札”に替えられては? 皆さんそれが一番気持ちよい解決だと思われますがネ」
しなふだ?
ガストンの説明によると、品札とは認識票みたいなもので、肉の札なら組合関連の店に持っていけば肉と代えてくれるらしい。
兄妹「なにそれ」「あたしも知らなかったよ」
二人も知らなかったようだ。
「ふふ、まぁ商人が扱うことが多い道具ですからネ」
既にモードの背後の職員が用意してるな。
モードの部下「お肉と交換できるにゃ、失くしちゃダメですにゃ?」
ちょっとふくよかな猫族の男だった。
やるなモード。
「じゃあそれで頼む」
品札と、袋の中のきのこ等、適当に入れていたもの全てを鞄へ入れ替えた。
あ、重さが変わったな。
なんとも不思議な袋だった。
武器も、鞄も全部袋に入れればもっと軽くなれるのだろうか。
あのゴブリン王の槍斧も入ったのだろうか?
ベル「じゃあそのお札を全部お肉に替えて持ってきて! 食べるから!」
兄妹「「全部!?」」
ガストン「やめろ、腹壊すぞ」
そう言って杯を持つ指を向こうに差した。
お、定食とやらが来たな。
良い匂いが立ち込めてくる。
オークかな?
酒場の奥に厨房があり、そこからずっと気になる匂いがして来ていたのだ。
給仕の女が、どうやってかわからんが両手に3皿持ってきた。
やるな。
皆「「わあ」」
ベル「わー! おいしそ~! オーク?」
興奮して飛び回る。グラスの水に羽の粉が入った。気にせず飲むが。
野営でただ焼いただけではない見事に調理された分厚いオーク肉、鼻をくすぐる黒い粒、調味料? が振りかけられている。塩だけじゃない。
丸いのは何だ、あぁベイリ村でも食べたパンだな。後はきのこの汁に、野菜か。あれもなにかかけられている。
よし、食べよう。
ボフッ。
ベルがパンの中に上半身から突っ込んだ。
ロムガルが驚いてるな。
気にするな、いつもこうだ。
モードはベルを見てかわいいですネとにこにこしている。
その後、警備が知らせてくれ、モードが買い取りが済んだと蛙の代金を持ってきてくれた。
ゴブリン達や行商の時よりも多い。
だが硬貨の入っている小さな皮の袋の方に興味がわいた。
これはいいものだ。
手放した魔法袋もよい感じだったが。
袋は動き回ると鞄の中の物がうるさかったり壊れたりするから入れておくと便利だからな。
金はあんまり興味がない。干し肉は買えるが。
よくわからんが蛙はガストン曰く、いい値段になったそうだ。
説明によれば本来は交戦時、刃で皮に傷がついて値段が下がるが、今回の品は横腹に穴が開いてるだけだからだと。
ガストン「そのワケと“用途”だが……ま、そりゃまた今度な、とにかくこいつを食わせてくれ、はむ」
ああ、食おう。
カチャ。
モード「さて、ケンウッドさんも同席しましたし、護衛依頼の完了処理をさせてもらいましょうかネ、他にも色々……」
行商組が揃ったので、護衛依頼の完了報告をこの場で処理してくれた。
彼女がずっと持っていた“板と金具に挟んだ依頼書”に魔法の筆で書き込みをしている。
ソニーと同じようにやっているな。
これで、護衛が終わり、ケンウッドが雇ったガストンと兄妹の仕事は終わったのだそうだ。
兄「大変だった、冒険だ……」「だねえ」
夜にケンウッドの宿で会い、夕飯をご馳走すると彼が誘う。
ケンウッド「怪我をしていた私の方の御者の男もいますが、是非ルーナさん、ベルさんも来てくださいませんか?」
「わぁい! 行く行く!」
「ああ、行こう」
御者の話はあれだな、私が出くわす前に街道で襲われた件だ、この街に引き返して暴走のことを報せたとかいう。
モード「ケンウッドさん含め、商人の皆さんが“定宿”にしている“駅宿”はですね、馬車駅の隣にあって、通常より割高ですが、よい部屋と、おいしい食堂があるんですネ」
あー、あったな馬車の側に建物が。
といってもこの“街とやら”は建物だらけなんだが。
あれはなんというか、色々凝って作ってある、そんな感じに見えた。
ベル「ほんとっモード? 早く行こうルーナ!」
ガストン「だから夜だって」
兄妹「「も、モードさんを呼び捨てにっ!」」
「こほん、ええと、後は肝心のゴブリン暴走の討伐報酬ですね。これは皆さんが受けた依頼ではありませんが、結構な額の討伐報酬が自動的に支払われます。先日せっかく集めて解散させた、討伐隊の報酬を総取りという形になりますネ……」
なに?
ガストン「チッ」
どうした?
む。
周りの卓にいる冒険者達が睨んでるな。
感じる限り、あまり良い感情ではないな。
兄妹は委縮してしまっている。
ロムガルは微動だにしない。
モードはすましたような顔だ。
依頼書をパラパラとめくって確認している。
「あ、ついでに盗賊のアジト壊滅も依頼がありましたネ、これも皆さんが成し遂げましたが、衛兵団と協力ということですのでその分差し引いて支払われますネ」
ビクター「え、ちょ、も、モードさん、ここではあんまり……」
「後は、ルーナさんが単独で頭目一味を、頭目には逃げられましたが撃退したので多めに。さっきの組員のアリエスタさんを救出したと言うことで報酬が追加で支払われます。これは依頼書と言うより、貢献度みたいなものですネ。それも併せて支払いましょうネ」
パタン。
ザワザワ。
聞こえてる限り、皆、驚いた表情をしているな。
よくわからないが、モードはわかっていて言っているんだろうな。
モード「これに巨大森蛙の報酬も入れると……中々の金額になりましたね? 確認してください」
依頼書が束になっている。
一番上の色々魔術で書きこんでいた羊皮紙の線を引いたとこに数字がある。
うむ、まったくわからんな。
多いのか少ないのか。
隣で見ていたビクターが口をあんぐりと開け目を見開いて動かなくなったのを見ると、おかしな額なんだろう。
ガストン「おいおいここでそれを言うのかよ? たち悪ぃぜモードさん、そもそも俺らは手伝いみたいなもんで全部ルーナがやったんだぜ?」
彼は嫌そうにしているが、これはただの恰好だな。
あぁ、最初に舌打ちしたのはこの茶番? にか。
どうせ後でばれるから一気に言ったんだろうか。
周りの連中の感情はよいものじゃないからな。
要するに依頼の取り合いと同じだ。
アリエスタが喧嘩になったわけだ。
ギイ。
そして、椅子を斜めにして両腕を頭の後ろに組んで私を見て笑う。
ガストン「なぁルーナ、こういう、自分だけ異常に景気が良くなっちまった時はよ、ばら撒いちまった方がいいのさ、今日は全部驕りだっ、てな」
ほう。
それはずいぶん気持ちのいいことだな。
皆で分けるか。
「構わんが、お前達と、ベイリ村の男達のぶんはどうなる」
ギシ。
「! ああ、そういやそうだ。よく気が付いたな、偉いぞルーナ……モードさん?」
「うふふ、ええ、もちろんその分は取っておきますネ……諸々、そういうことでよろしいですか? 組合長」
ロムガル「グル、許可する」
すると、ガストンが椅子をガタンと言わせて立ち上がって叫んだ。
モードが大きな耳を畳むように塞いだ。
「おい聞けおまえら! 今日は新人冒険者ルーナがゴブリンの暴走をぶっ潰した記念に、飲み食い全部、驕るってよ! 感謝しやがれ!!」
ウオオオオオオオオオ!!
ドサッ。
ガストン「はぁ、やっと酒が飲めるぜ」
その後は、大騒ぎになった。
酒場の酒と料理は冒険者全てに解放され、皆が飲んで、食べた。
出入りする冒険者も話を聞き喜び参加する。
というか、周辺の住民も混ざっているな。
たくましい連中だし、関係者なのかもしれないな。
気になったので牢に入れた連中のことを聞いてみる。
「ガストン、依頼書を取り合ってた、暗夜、とやらも討伐隊参加者だったのか?」
「ん? ああ、そうだぜ。まぁ、お前がいなきゃ何人か死んでただろうな」
変異ゴブ王軍団は並じゃなかったな、と付け加えている。
なに?
ビクターの鎧が僅かに音を鳴らした。
「ふぅん、仕事の取り合いとか、喧嘩はいつもか?」
「ああ、俺らは馬鹿野郎だからよ、毎日そうやって命を掛け金にしてしのぎを削ってんのさ……わかってるって、牢屋の連中にもふるまえってんだろ? お人好しな奴だな、オーケイ、言っとくよ」
おーけい?
「そうか」
ならばいいのだ。
「おいっエルフっ、おいっ新人! ルーナってんのか! ありがとよ! 乾杯!」
「乾杯!」「すげえ眼してんなお前!」「ごちソうになりまス、エルフ様」「ごっつぁんっ!」「乾杯!」「姉ちゃんあんがとな!」「おい隻狼っ、上手いことやりやがったな!」
「ありがとよべっぴんさん!」「乾杯!」「歓迎するぜ嬢ちゃん!」「かんぱーい!」
私「ああ、乾杯」
酒瓶を掲げて飲み、肉を食った。
アリエスタは食い逃したな。
モードとケンウッドが腕を組み難しい顔をしたロムガルを挟んで話している。
「それで、戦利品は駅に入ったんですネ? それじゃあ魔法袋も含めて組合で査定しましょうかネ……」
「い、いや、モードさん、ちょっとお待ちをっ、商会と連盟の方々がすでに初めていますし、個別に買取の話も出ております。魔法袋は我が商会に必要なのです」
「あら、それはもちろん自由ですよ? なのでうちの職員をすでに向かわせているので、そこら辺の商談は一旦は置いといて頂いて、まずはスイレーン街長様のお膝元を預かる我々組合が、まとめて全部取り仕切らせていただきますネ」
「え……え、ええ、それはもう。魔物の暴走は王国及び、組合の責任にありますから。
おっしゃる通りでございます。ハハハ」
ロムガル「グル、ケンウッド、すまん」
よくわからんことをボソボソ話していたが、多分ナワバリみたいなことなんだろう。
昼食を食べた後、私は宴会になった食堂から離れ、依頼書掲示板とやらを見に行った。
大体読めるな。
一部、難しいが、あっちと、こっちの文字がわかるから、ああ、理解できた。
鞄に入れたままの何かの本も、練習に使えるしれないな。
勉強しよう。野営の時は素振りに夢中で開いても居なかった。
依頼書は難しさと報酬で別れている。
採取、討伐、調達、街の中の依頼もあるな。
倉庫の片づけ、掃除、散歩のお供、子守り、“羽蜥蜴”? 探し……。
一番高いのは湖の主とやらの捕獲で1万金貨だ。
主か。
これ、受けてみようか?
一万、一、十、百、千、万、で一万だな。
一番低いのは散歩のお供で二銅貨だ。
さっき食ったオークステーキとやらが二銀貨だったな。
色々種類や大きさとかでぴったりじゃないが、それはいい。
うまかったな……。
百銅貨で一銀貨だから、すごく安いな。
おっと。
カコンッ。
警護「こらあ! 誰だあ!」
依頼板に木杯が飛んできたから避ける。また喧嘩してるぞ。
ふむ、あのリゾット盗賊団の討伐、蜂蜜? の採集に、行方不明者の捜索がいくつかあるな。
水教会助祭? に、衛兵団第四中隊と、その副隊長、種族はアルマジロ? の獣人……む、挿絵? が描いてある。
魔物じゃないようだな。
不思議な種族だ。
鎧のような硬そうな鱗で包まれた丸い体躯で、見たことのないおもしろい獣人だった。
はて、昨日の野営の時に、何かガストン達が話してたような……秀才?
そう簡単に死ななそうだから、生きてるかもしれないな。
アリエスタのようにどこかで捕まっているかもだ。
後は、“王都”とやらからの商人の荷馬車そのものが消えたというものだ。
どうやって馬車を消すんだろう。
リゾット盗賊団の仕業か? 森の拠点にはそういったものはなかったようだが。
随分危険な世界なのだな。
他には、湖に広がる汚染の調査等、様々なものがある。
アリエスタの受けた依頼は何だったのだろうか気になるな。
剝がされたらもう見れない。早い者勝ちか。
一万Gの主討伐の羊皮紙は、かぴかぴに渇いて古くなっていた。
(※捕獲です)
外に出る簡単な依頼を一つ、受けてみようか。
“ここら辺”を見て回りたいから。
この、オークを見つけて捕獲、もしくは、肉の確保、これを受けてみようかな。
口についたステーキのソース? を舐める。
場所は不明、とあるな。アジトの周辺にまだうろついてるだろうか? ちょっと大変そうだな。
そういえばこの後はどうするのだろうか?
ベル「ルーナ~」
ガストン「おぅ、ルーナ見てるな、よし、ちょっと一個受けて出ようぜ! 夕飯までに帰れりゃいいから、色々教えてやるよ」
彼女を頭に乗せて来たぞ。なんだかゆらゆらしてないか? それがいいからか?
よし。
依頼を受けることになった。
だがちょっと鼻が赤いが大丈夫だろうか。
ケンウッド「それではルーナさん、私は“商会所”のほうに戻りますね、夕飯時に是非皆さんと隣の宿にお越しください。この度は大変貴重な経験をさせていただき、誠にありがとうございました」
「私もだ。世話になった、ケンウッド」
「あぁ、そんな、最初の時より立派に喋られるようになりましたねぇ……」
なんか感動してるな。
そうか?
お辞儀をしたな、あまり撫でてはだめだから我慢するぞ。
私もお辞儀を返す。
ベル「じゃあねー!」
出ていった。
兄妹がなにやら相談しているな。
ソニー「ガストンさん、ルーナさん、私は協会の方に魔法陣を見せに行ってきますね、夕飯で合流します、あ、魔法協会ですよ」
言い直したが、わかるぞ、水教会とやらがあるのは聞いている、わかりづらいよな、文字じゃないと。
「ああ、よろしく頼む」
大事なことだからな。黒衣の男のことは調べなければ。
ベル「ばいばい!」
ビクター「先輩、ルーナさん、僕も参加していいですか?」
ガストン「おぅ、来い来い、ここで飲んでてもいいんだぜ?」
ビクター「いえ! ルーナさんの戦いはすごく勉強になるんです! お願いします! あと僕はお酒苦手ですっ」
そうなのか?
「俺じゃないんだな……」
「あっ、せ、先輩もです!」
ベル「ねぇオークの依頼があるよ! これにしよう!」
ガストン「いや、それどこにいるかわかんねーし、夕飯に間に合わないぞ絶対」
ビクター「あれ? ベルは文字が読めるの?」
「んーん、読めない!」
「へ?」
ガストン「? ……あぁっ、オークの“文字の形”だけを覚えたんだな?」
ベル「せいかーい! フフフッ」
ああ、なるほど。
「この採取依頼でいいんじゃねえの、湖の傍の林で、アプル集め。嫌そうな顔すんじゃねえよビクター。今回はルーナの勉強なんだからよ」
ビクターはやる気満々だったのが、一気にしょぼんとなった。
「先輩なんだから教えてやれよ色々、教えんのも修行になんだぞ」
ほう。
「ぼ、僕がルーナさんの先輩? (ちょっと先に冒険者になったってだけくらいなんだけど)」
文句を言わせず依頼書を剥がし、ガストンの教えてる通り受付に歩く。
受付の、組合のエリア? は、人が少なくなっていた。
皆酒場に殺到したのだ。
まぁ、昼時でもあるからな。
入った時から酒場に皆いたし。
依頼書を受け付けの、獣人の女職員に見せる。
代わりに出してきた羊皮紙と筆に、ガストンが名前を書き込んだ。
そして職員が依頼書に何か、判? を押して模様を付けた。
ガストン「この“ハンコ”で受理されたってことになる、受付で俺が依頼を今日受けましたよって記録する。ここまでいいな?」
「ああ」
「依頼の内容次第だが猪を一頭取ってこいってんなら取ってここに運んでくる。アプルの実もそうだな。大体基本はそんな感じだ。ほんじゃ早速行こうぜ」
組合を出る。
職員「行ってらっしゃいですルーナさん」
ベル「いってきまーす!」
冒険者達「おう行くのか姉ちゃん達! がんばって来いよー! 驕りあんがとなー!」
お、ロムガルとモードが手を振ってるな。
さらばだ。
依頼書『アプルの実の採取 依頼主ベルナス 内容 新鮮なアプルの実を十個ほど頼む。多ければ多いほどいいぞ。俺はそれで新しい酒を造って見せる。絶対だ。 補足 直接持ち込み可能 場所 ベルナス牧場 報酬 一個三銅貨』
※罰金 五十銅貨 期限 一か月
通りに出た。
湖の傍の林とやらに行くのだろう。
右手の湖側だろうか。
ガストン「のんびり湖を眺めながら行くとしようか、この通りの先に港があってな、その横にある裏口を出てよ、湖沿いに歩きゃすぐ、アプルの林だぜ」
「ずいぶん簡単そうだな? 何故依頼主が自分で取りに行かない」
「がっはっはっ、そりゃそうだ、行けるなら行くさ、そこに住んでる魔物が倒せるならよ」
ビクター「えっ」
ほう。
どんな魔物だろうか。
ガストン「だめだめ、行ってからのお楽しみだって」
ビクター「アプルの林? ……あ!」
何かを思い出したのか、少年は外して手に持っていた兜をいそいそと装着し始めた。
何がいるんだろう。
途中、松明を買ったな。
私たちにも買っておけと指示する。
いつでも灯せるようにしまっておけとも。
ビクターは緊張して装備を確認しているな。
話しながら通りを歩き街をながめる。
食べ物の屋台がいくつか並ぶ場所に来た。
ベルを引き留めるのが大変だった。
全部食べると宣言するので、一店だけ許した。
それはアプルの実を焼いたものだった。
何か粉と液体をかけているな、皆で一個ずつ食べた。
一個七銅貨だ。
甘いのと酸っぱいのと、なんだろう、粉の変わった味が合わさって美味かった。
ベル「おかわり!」
何かの獣人の店主「ごめんよ、ちっちゃいお嬢ちゃん、シラモンが切れちまって、もう作れないんだよ」
隣の客「珍しい子やねぇ、何族かね、ずいぶんちっこいねぇ」
通行人「フェアリーが居るぞ? あれフェアリーだよな? うおっ!? え、エルフ!?」
ベル「シラモン? あ、この粉? 抜きでいいよ! もう一個!」
ガストン「もう行こうぜー」
彼は通行人が集まってきてるのが嫌そうみたいだ。
「ベル、わたしのをあげよう」
「わっふーー!」
わっふー?
出店を少し進むと、街の中に川が流れていて、橋、がかかっていた。
ちょっと上りになってるな。
川を見ると、魚人の子供達が飛び込んで遊んでいる。
泳ぎがとてもうまい。
水面から出ているヒレが大きいのの中に、出てないのもある、蜥蜴の子も混じっていた。
泳ぎ方に違いがあるのだな。
尻尾を強く揺らしているのが蜥蜴人だ。
チラと見かけただけだが、男達は珍しくもなんともないようだな。
シャグシャグッ。
手の平の上のベルは持ってるアプルに夢中だ。
渡ると、川の向こうに湖が広がっていた。
やっと見渡せるとこに来れたぞ。
ベル「きれーだねー、あ! あれいっぱい浮かんでるのなんだろー、ダンゴ虫かな?」
ビクター「何で!?」
ガストン「船ってんだよ。すげえ簡単に言えば木の板に漁師達が乗っててよ、魚でも獲ってんだろうな」
ビクター「簡単ですね、あれ!? ホントに板に乗ってる人が居た!?」
湖には船がいくつも浮いていた。
ガストン「先に行きゃ間近で見れるぜ、船が止まってる、港ってとこがあんのさ」
ベル「行きたい!」
「だから行くんだって」
橋を渡って、下りになっていく道を行くと、賑やかな声が近づく。
こちらは魚人や蜥蜴人が多く住んでいるな。
湖が近いからだろうか。
家の作りも違って、床が高い。
水路みたいな流れがあちこちにある。
野菜かなにかを籠に入れた、青いローブの連中もうろうろしている。
橋を渡ったこちらの地面が一段低くなったのと関係あるのかもしれないな。
向こうの水たまりで集まってるのは何だろうか?
中心で、お腹の大きな女性の蜥蜴族が半身を浸かっているのがちらりと見えた。
角を曲がると、港が一望できた。
魚の匂いがしていたしな、あと何か……。
子供達「港だよー」
ベル「へー!」
橋のとこで、飛び込みをやったり、見てた子供たちがなんだかついて来てるな。
やはりこの子らもエルフ様呼ばわりしてきている。
魚人や蜥蜴人を主とした、体つきのよい男達が、船を出入りしたり、荷を降ろしたり、桶にたくさんの様々な魚を入れたり出したりしている。
魔物も捕れているようだな。
大きな蛇みたいなのが見える。
恐らくあれが通常の大きさと思われる、森蛙があるな。
いや、湖蛙? かもしれない。
人々の中には、商人も混じっていた。同じ格好だからケンウッドがいないか探してしまった。
こうしてみると漁師と商人の違いが分かりやすいな。
獣人で衣服がゆったりして、外套、の恰好と、槍を持ちほぼ腰巻と下履きのみでたくましい鱗の亜人? 達。
移動して、売って、買って、運んで、馬車に乗せて行っている、裏門の方へ。
右手にも通りがあるな。
あちらは街の店などに運んでいるのか。
女達も直接買いに来ているのがいるな。
魚はどれも新鮮に見える。というかぴちぴち跳ねてる。
ベル「うわーあたしこんなたくさんのお魚初めて見た! すごいいっぱい死んでるね!」
ビクター「あはは」
私もこれは始めて見るな。
湖に面した港は、両側から外壁が囲うようにせり出した中に作られていた。
確か、入江? とかいう構造だった気がする。
船が出入りするの場所は門のように、水中にある巨大な檻状の門がせり上がって閉じるのだろう。
その仕掛けも門も見える。
両側にせり出ている外壁のような橋には、衛兵達が警備しているな。
これは、湖にも魔物がいるからなんだろう。
漁師達は危険なのでは?
見てみると、屈強な蜥蜴人の漁師達は傷跡のある者が多い。
そして、強そうなのが何人も港にいる。
皆、戦えるのだろう、ちょっと変わった三又の槍を携えているな。
魚を刺し貫いたまま帰って来る漁師たちもいる。
そういうことなのだろう。
湖は、蜥蜴人と魚人の戦士たちの狩場なのだな。
港の者達「「!?」」
ザワザワ……。
ビクター「あれ? な、なんか視線が……」
ガストン「あぁ、ルーナが珍しいんだろ?」
大勢が私を見かけるや、驚いた顔をしている。
とりわけ近くにいる蜥蜴人と目が合うと、尾をぴんと立てて固まってしまった。
蜥蜴人の老人「……だめジャなこりゃ、なんジャあこの焦げ臭いんは?」
魚人の女性「……う~ん、わからないねぇ、魔物の毒かなんかじゃないのかい?
ああ、ほら、こりゃ中からだめだね、せっかく獲って来て悪いけど売りもんになんないよ、どこの荷だい? ……」
魚人の青年「……うす、第二桟橋のあの船っす。西で獲ってきたやつっすね。スライムがなんとかって言ってたっす……」
蜥蜴人の老人「……湖にスライムがおるんは当たり前ジャろうが、ソれを食ろうてここらの生きもんは暮らシとるんジャろう、バカタレが……」
向こうの方で妙な会話をしているな。
恰好からして、偉い人達のようだ。
蜥蜴族の老人は、体つきがロムガル並に良い。
彼が長かもしれない。
……確かに、わずかに“焦げ臭い匂い”が連中の見る魚からしているな。
む、魚を積んだ荷車で見えなくなった。
ガストン「ルーナ、あの裏門だぜ」
見るのを待ってくれていたが、もう行こうと言う。
ビクター「港門とも言うんですよルーナさん」
ああ、先に進もう。
裏門にいる衛兵の人族達にガストンが話して通る。
出入りする人々もそうだが、特に自由に出入りしているようだ。
いや、馬に乗って街に入るのはダメなようだ、降りるように言われている。
騎馬兵「いや今降りるとこだっだろう?」番兵「シューうるサい、サっサと降りろ」
それに門番衛兵が厳しく見張ってて、面白がってさっきからついて来ていた子供達は、通せんぼされていた。
ガストン「ホラガキ共はここまでだ、遊んで来い」
子供達「ちぇっー」「冒険者だよ」「いってらっしゃーい!」「魔物やっつけて来てー」
「ああ」
ベル「うわーーっ!おっきいねー!」
元気に飛び回り、高く跳び上がって叫んでいる。
見渡す全て、広大な湖を一望、できた。
頬に当たる風達は涼しく、時として冷たく、耳をくすぐるようにして、笑いながら通り過ぎていった。
陽が暖かく射す中で湖面がきらめき眩しい。
遠くや、手前港に、漁船の影が行き来していた。
街を出ると、左に湖を望みながら、街道が添うように続いている。
ずっと回って行けるのだろうか。
外壁と森の間は木が切られて開けており、今も木こり達が衛兵の護衛の元、仕事をしている。
「こっちの街道はまっすぐ行くと別れて湖沿いと、都行きに分かれてんだ。俺らは手前の右の丘に登るからな」
ベル「泳ぐ?」
ガストン「いや、だからアプルの林に行くんだっての、あとここは泳げないぞ? 魔物が出るんだからな?」
ベル「ルーナがいるもん!」
「わかった、わかった、西門の方に出たら小さい安全な湖があっから、連れてってやるよ。てゆうか桶に水を入れるんじゃだめなのか?」
ベル「それはお風呂なのっ、湖で泳ぐの!」
ガストン「わかったわかった、今度な」
ビクター「なるほど、いいなぁ~」
ふろ?
ガストン「ルーナは風呂は……そうだよな、知らねぇか、ケンウッドさんとこの宿に上等なのがあるんだよな、頼んで借りてみるか? 溜めた湯船に入るんだ。気持ちいいぜ」
湯舟……。
ビクターが聞いた話の中には、北の寒い地方に自然にお湯が沸いてる泉があるそうだ。
道が少し昇りになってきた、街道から逸れて、丘を登る。
木が多くなってきたな、何か実がなっている種類の木があるが、まだ若く小さい。
店で見た赤色と違って緑だな。
私は森蛙を思い出していた。
ガストンの動きは街道の時とは違って慎重だ。
多分耳を澄ましている。
酔いは完全に冷めているようだな。
ビクターも真似をしている。
私はベルに静かにするように囁き、いつも通りだ。
ベル(はーい)
林の中に入りこんで少し行くと、ガストンが後ろに続く私たちに手の動きで待て、をした。
巨大な倒木の地点でしゃがんで、こちらに近づくように言われ影に皆が集まる。
「さて、アプルの木が密集してる場所がもうすぐそこだ。ルーナは多分もう聞こえてるんじゃねぇか?」
「ブンブンとうるさい羽音のことか?」
ビクター「すごい」
ベル(え? 羽音なんか聞こえないよ?)
ガストン「俺らにも聞こえねぇよ。まぁすぐ出くわす。尻から飛び出す針に気を付けろよ、毒がある。あと“風魔法”も使ってくるからな」
なに。
ビクター「よ、よりによってソニーがいない時に……」
ということは、彼女は毒も魔法で癒せるのか。
「ベル、袋に入っておくか」
(うん、見ててもいい?)
とひそひそと答えた。
ベル用に左胸に作っている“ポケット”に飛び込んで収まり、顔を出す。
「ああ」
ガストン「さて、準備はいいな。ルーナの弓矢のお手並み拝見と行こうか」
ビクター「ゴクリ」
ほう?
そんなに早いのか?
読んでくださりありがとうございます。




