43話 竜眼
なんだかまだ帰れないみたいだな。
そろそろ昼時だろうか。あっという間だ。
猫娘が仕込みがあるから早く帰りたいと犬娘とひそひそしゃべっている。
ガストンが気を遣い隊長に聞いたら許可が下りたので、二人は事務所を出る。
「ホントにありがとにゃ、ルーナお姉ちゃん」
「ありがとうですぅ~ルーナさん~」
間近に来てお辞儀をするので、撫でてみた。
「ふにぃ~」
「わふぅ~」
レンからゴロゴロと音がする。
なんだろうか。
マギーは尻尾を激しく振っていた。
ベル「じゃあねー」
「さらばだ」
レンの家は猫屋という宿をやっていて、ビクターとソニーはそこを定宿にしているそうだ。
ぜひ食べに来て欲しいと言われた。
「早く行こー?」
ガストン「早すぎだろ、追いかける気かよ」
ちなみにだが、彼女らと一緒だった鎧の冒険者は気絶したままおんぶされて事務所の医務室? に運び、起きたら少し聞き取りをして調書の確認だけ取って帰すのだそうだ。
その彼の代わりに娘たちが依頼を無事達成したと組合に報告しておくと、ガストンに伝言して出ていった。
ふむ。
その組合をまだ知らんがな。
そうしてると部下たちが二人で鏡を運んで入って来た。
ベル「すごいすっごーい!」
ソニー「はぁ~立派な鏡ですねぇ」
「む? これが、私か?」
鏡の前に立ってみろというのでそうすると驚いた。
顔が、私が全部映っている。
こういう感じなのか。
「おぉ、私だ」
体をひねると後ろが見える。
自分の後頭部は、だめなのか。
泉などに反射してぼんやりと眼や姿かたちは見ていたが、こんなにはっきりと見れるものなのか。
お、触るとうっすら指の腹の跡が鏡に付くな。
ガストン「お、おい、そっとだぞ、割るなよ」
壊れやすいのか?
ベルも興味津々? だ。
なんだか常に怒っているみたいな目元だな。
耳もこんな形だったのか。確かにオークの言う通り“ナガミミ”だ。
触るのとはずいぶん違いがあるんだな。
髪の根本はこういう感じなのか。
ベル「キャハハハおもろい顔ー」
ソニー「あぁ、ルーナさん、そんな、引っ張っちゃだめです。髪が、皮膚も痛んじゃいますっ、ほっぺたもだめです! 赤くなっちゃいますよ」
その様にレガリアが口をぽかんと開け、ガストンが肩をすくめた。
そして、眼だな。
緑の蜥蜴のような眼だった。
自分で見てなんだかどきりとした。
全然皆と違っていた。
私「目が蜥蜴族や、レンと似ているが」
さっきエルフとは違うみたいに言っていたような。
鏡に顔を近づけてよく見てみると、陽が反射して照らされ、瞳、瞳孔だ。
それが縦に縮んだ。
レガリアやレンのに似てるが少し違う。怖めだ。
むしろ、魔物達のものに近いな……。
「目がなんだか怖いぞ」
ソニー「あはは、私は恰好良くて好きですよ」
ベル「うんうん! あたしがよく乗せてもらうカナヘビちんと一緒!」
ほう?
レガリア「ルーナ様、エルフ族は人族と同ジような眼なのでス。種族とシての瞳の色は金銀、白等があり、多いのはソれらと緑等でスな、猫目や蜥蜴目のエルフは、私の知る限りでは存在シまセん」
「うむ」
ガストン「さすがに詳しいな」
レガリア「ソシてルーナ様の眼は猫や蜥蜴等の俗に“猫目”と呼ばれるものでもないのでス、恐らく」
あれ?
「違うのか」
?
黙ったぞ。
ガストン「何か知ってんだな」
レガリア「……私はかつて、水竜――竜種と出くわシ間近で目が合ったことがありまス。その眼に見詰められた時ほど死を予感シたことはありまセん」
ガストン「マジかよお前」
衛兵達「「!」」
ザワッ。
部下も知らなかったみたいだ、驚いてるな皆。
「ドラゴン……」
竜とも呼ぶのか。
ガストン「最強の魔物だな。滅茶苦茶でかくてとてつもねえ炎を噴く空飛ぶ蜥蜴だ。誰も手を出さないし出せねぇ。どんなに強い冒険者も、国でさえもな」
「なに」
レガリア「魔物、あれはソのように分別できる存在でシょうか」
蜥蜴呼ばわりしてちょっと怒ったな。
「国を一日で焼き尽くして滅ぼしちまう魔物がいるんだよ、この世界には」
それは、大変なのではないだろうか。
「あぁ、ナワバリに入らなきゃ問題ないぞ。国同士の国境もそれを元に作られてるくらいだからな。入らなきゃいいんだよ」
レガリア「ソうだな……」
縄張りか。
ベル「ナワバリは大事だよ」
お。
ソニー「この世界の支配者みたいな感じですね」
ガストンが肩をすくめた。
じゃあ誰もかなわいということか。
「ガストンやソニーは見たことがあるのか」
「ん? あぁ、あるぜ。空のずっっと上空に黒い点みてぇに小せえほど遠くを飛んでんのをな」
ソニー「わ、私も同じです。すぐに雲の影に見えなくなっちゃいましたけど……」
それで皆がレガリアを見る。
それは見たことになるんだろうか。
滅多にいないのか?
レガリア「基本的には目撃はサれまセんな、我々の暮らシている場所には寄り付きまセんから」
ふむ。
「とにかくルーナ様、大変言い難いのでスが、あなた様の眼は、ソの竜の眼と瓜二つなのでス。私が見た水竜とは色合いが少々違いまスが」
ガストン「マジか」
ソニー「まじですか」
「ふむ」
レガリア「ソシてでスな、話に聞くルーナ様の勇猛ぶりや、優れた知覚、魔力感知等の感覚の鋭サを考えると、通常のエルフ族より高いものと伺えまス」
パラ……調書をめくってそう言った。
書類の“紙”だが、かなり薄い。羊皮紙じゃないぞあれは。
「ふむ?」
ガストン「普通のエルフはでっけえ槍斧を片手で振り回せないってよ」
「では、私は竜か」
部屋の一同「違うっ」「そうなの?」「違いまス」
レガリア「……恐らくルーナ様は、エルフ様と“竜人”様の間に産まれた御子ではないかと存ジまス」
ガストン「ああ! あの!」
一同「竜人?」
今度はほとんどが知らない感じだった。
ソニー「ルーナさんはハーフってことですか? ゼラさんみたいな」
彼女はゼラのことをよく見ていたようだな。
レガリア「ああ、ソうでスね、ノーデント卿は一応ソうなりまス。母君が我々蜥蜴人との混血でいらっシゃいまス」
誰だ?
ガストン「ゼラだぞ」
ソニー「えと、ゼラさんの貴族の家名ですね」
私をチラと見て補足してくれた。
ああ、そういうのがあったな、ありがとう。
ベル「むずかしい!」
ガストン「別に難しくねーだろ、そんで竜人てのはよ、さっき言った竜のナワバリん中に住んでる連中が居てな、噂だぜ? 遠目にはリザード族に見えるんだが羽が生えてたって見た奴が証言しててな。竜に仕える神官、竜人族だって伝説もあるんだな。眉唾だと思ってたんだけどなぁ」
レガリア「竜人様と我らは呼んでおりまス」
ベル「りゅうじん~?」
ガストン「見たことあんのかレガリア」
「私ジゃなくて、二代前の族長が“禁域”……竜のナワバリ近くでお会いシたと言っていた。半信半疑だったが」
ガストン「へえ? でもはっきりしねえな」
禁域?
「いや、爺様はお年のセいか、心に霞が出来てシまい、死に場所と決めて、竜に食われに禁域に入って行ったのだ。スると竜人様が現れ道を塞ぎ、迷惑だと追い返サれたと言っていた。爺様は驚きスぎて心が戻り、帰って来てそう言った」
ザワッ。
ガストン「禁域に入っただ? 普通にそれ死刑だぜ? マジかよおい」
そうなのか。
「大昔の話だからな……だが、怖気づいて嘘を吐いたと部族は決めつけ信ジなかった。
ソシて爺様から、竜人様は竜と同じ目や鱗をシていたと聞き伝わっている、これが全てだ」
ソニー「じゃあ、本当に実在してるんですか!?」
ガストン「ルーナの眼がそうだって? 竜と、竜人の眼に?」
レガリア「恐らくな。いや、わからんゾ? ソれにソうだったらスごいなって思っただけだ」
ガストン「なんだよ!」
「ふむ」
ガストン「はぁ……竜眼か」
ベル「かっこいい!」
ソニー「恰好いいですね!」
「うん? ドラゴンとエルフじゃないのか」
ガストン「できるかい! 大きさが全然違げぇだろ」
「大きさ? ああ、ちんちんか」
ニコがちんちんの歌を歌っていたな。
ソニー「ちん……ルーナさん!?」
ベル「チンチン!」
ソニー「ベルちゃんっ、シぃっ!」
ガストン「ちがっ、ハァ!?」
ブフッ!
レガリアが茶を口から噴いた。
「失礼。おいガストン! ルーナ様にレディとシての知識を貴様、教えておらんのかぁ!」
「ええ? 俺に!? 本気で言ってんのかてめぇ! ソニーだろこういのは」
「ええ!? あたしですか? そ、あ、う、嫌ぁぁ見ないでくださいぃっ~~」
ちんちんが面白かったか?
「よくニコが裸でちんちんを振り回しながら『ちんちん歌だ!』と歌っていてな、
確か、ちんちんぶらぶ――『たんま! ルーナしぃっ!』――ら~♪」
ベル「チンチン♪ ブラブラ~♪ キャハハハハ」
入口から驚愕の顔で衛兵達が覗き見ている。
窓の外の青い小鳥が枝から落ちた。
ソニー「……あれ? 神話に黄金竜が人の姿で現れて、小さき子(種族達)らに野に住み耕すことをお許しになられた、みたいなのがあったような?……」
読んでくださりありがとうございます。
タイトル回収!




