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竜眼のハーフエルフ  作者: 二砂音
二章 湖の街編
43/68

41話 門前騒ぎ

 陽の光を遮る高い防壁に包まれた湖畔の街、その外側の草地で大きな蛙の魔物が潰れるように死んでいた。


 近くの入口に集う人々は、驚いてその様に見入っていた。


 あまりの登場に驚き、口を開けたまま気圧される一同。


 そこに、お構いなしにスライムが飛び跳ねて冒険者たちに襲い掛かる。


 ビチャ。

「……」

 ボタタ、ポタポタ……流石に動きが良いな。

 素早く背後に飛び下がったり、盾ではじき返している。

 お互いの距離や陣形を見て立ち位置を変えたり、魔法使いを守るようにして。


 ソニー「ルーナさん――」

 ビクター「ソニーだめだよっ」

 魔物が間に居るからこっちに近づけない。


 その魔法使い達が対処するようだ。

 すでに詠唱、をしている。

 ソニーも参加し、数人が魔術を唱え、飛び跳ねるスライムに火を投げかける。


 ボオオオオオッ。

 ボウンッ!


 それぞれまばらな大きさだが、大体が拳大の火球が、スライム達に飛びこみがすようにして蒸発させた。

 ジュワア~~ッ。


 あれが戦いに使う火魔法か。


 見事だ。

 当たり前のように動いて、戦い、倒した。


 蛙はアレだろうが、スライムとやらは日常的にいる魔物のようだな。

 そう考えてみると火球の魔力は最低限の力だったと思う。


 剣だとどうなんだろうな。


「……」

 ネチョ、ベトッ、ボトッ。

 血、体液、粘液、色んな汁が体中から垂れ落ちている。


 スライムはここにはいなかった。

 蛙にはもうくっついてない。

 居たとしても、暴れ回ってたみたいだから潰したのかもしれない。


 そんな中、淡く光る存在がエルフの娘に飛び回り大声で話す。

「ルーナお疲れ様! ネッチョネチョだね! ねぇ湖に行こーよ! 泳ごう!」


 いつもの様に抱き着いて来ようとしたベルだが、私の身体を見て止まり、後退して周囲を回る。

 なのでベトベトの手を近づけてみる。

「やー!」


 む、洗い流した方がよさそうだな。

 街に入る前に、壁に沿った空いてる方から湖に行けそうだが……。


「がはははは! よう! また騒ぎを起こしたな、おめぇ」


「ガストン、声を出してくれて助かった」

 騒ぎを起こしたのは蛙の方なんだがな。


 私はどうやら少し浮かれていたようだ。

 湖と街と、突然襲われた娘たちとか。


 装備は……あぁ、ケンウッド達が回収してくれて来たようだ。


 ガチャ、棘鉄球付の棍棒を見る。


 何故か色が変わっている蛙の、胃の中にあったものだ。

 死体や遺留品? がなかったので、恐らくさっき吹っ飛んでった鎧の冒険者の得物だろう。


 ソニー「レンちゃん! 大丈夫? どうしたの? 立てないの?」

 犬娘「あ、あ! ソニちゃん? ビクターさんも! わぁ~お久しぶりですぅ~、そうです~腰が抜けちゃったみたいで~」

 犬娘はソニーと知り合いの様だ。

 尻尾がすごく揺れ始めた。


 レンというらしい猫娘「ふにゃあっ、恥ずかしいにゃ、皆見てるから静かにしてにゃっ」

 腰が抜けるとは、立てない感じなのか。


 ソニーが治療術で治すだろうか。

 他に怪我はないみたいだ。


 後は、あっちに鎧の冒険者がいたような。

 無事だろうか。


 その方を見ようとするが、群衆が集まってきていた。


 荷馬車を門前まで連れて来たケンウッドもこっちに来る。

「ルーナさんご苦労様です。お見事でした。いや~どうなるかと思いましたよ。あと、衛兵方から聞きたいことがあるそうですよ」


 あぁ、やはりそういう感じになるのか。

 またギャレスだろうか。

 街に帰ったらしいし。


 いや、大丈夫そうだな。


 今回“羽付き兜”を被ってこっちに来るのは鱗がこん色の蜥蜴人だ。

 近づいて来る隊長らしき蜥蜴人、けっこう強そうだ。

 彼も槍使いのようだ。


 チラと外壁や門を見ると、衛兵達が展開してるな。

 弓も弩も見える。


 私が行かなくても片付けていただろう。

 猫は食われていたかもしれないが。


 蛙の下はあそこまでは、届かないな。

 跳んでから伸ばしたらわからないが。


 街を守る衛兵達は槍持ちと、蜥蜴人が多い。


 しかし、なぜ彼らは私と目が合うとびっくりするのだろうか。


 門前に並んでいた者達「守護隊長だぞあれ」「あの亜人が?」

「この街は亜人の方が多いからなぁ」


 そう思いながら目の前に来た隊長のする対応に、私は首を傾げた。


 蜥蜴人の隊長「これはエルフ様。お会いできて光栄に存ジまス。私はスイレーン街衛兵団第二中隊、通称“守護隊”の隊長、レガリアにごザいまス」

 守護隊。


「化け物蛙の退治、お見事でス。とりあえズお身体も清めたいとお察シシますシ、お話もお聞きシたいので、門横の事務所にご同行願えまスでシょうか」

 様と呼ばれ、屈んでお辞儀された。


 衛兵団第二中隊?

 確か、ギャレスとゼラは第三だったか。


 ベル「お見事ですだって! 蛙おいしいかなぁ?」


 ガストン「ふぅん。やっぱそういう感じか」

 彼はなぜこうなったか知っているようだ。


 ビクター「え? え!?」

 ソニー「あれ? お兄ちゃん、レガリアさんがおかしい!?」


 ヌメヌメを拭かせてくれるみたいだな。

 行こう。

 蛙の味も聞いてみたい。


 あ。


「あの猫と犬族の娘を逃がして吹っ飛んでったのは、大丈夫だろうか」


 見ると、遠くの方で他の冒険者たちが調べていたようで、皆で見ているのに気づいてこちらに大声でしゃべる。

「気絶してるだけですぜーっ!」


 ふむ。


 ガストン「おーい誰か組合のやつ呼んできてくれ! このでかぶつを片付けねぇと。ビクター、ここで待っててくれるか、嬢ちゃんと事務所に行ってくる」

 そうなのか。

 ビクター「了解です。よろしくです先輩」


 彼の向こうでは、落ち散らばった草を籠に拾い集めている犬娘がいる。

 横では、ソニーが猫娘を介助して私とレガリアの元に連れて来た。


 レン「にゃあ~、お姉ちゃん。助けてくれてありがとうにゃ」

 犬娘「はぁはぁ、わ、私もっ、助けてくれてありがおうございますぅ~」


「私より先に守ってくれた冒険者がいた。手伝っただけだ。おかげで間に合った。怪我は大丈夫か?」


 近くに来て二人でお辞儀された。


 撫でてみたいが、今はベトベトだからやめておく。

 多分かわされるだろう。

「はいです、彼にも二人でお礼を言わなきゃだね、レンちゃん」

「はいにゃ~」


 ソニー「ルーナさん、この子はレンちゃん、こっちの犬族の子はマギーちゃんって言って、私のお友達なんです」


「そうなのか。よろしく頼む。その一杯ある草は何だろうか、カエルはそれを狙っていた気がするが」


 レン「これは甘水草って言う、お料理に使う草にゃ、うちのお店の看板料理に使う大事な草にゃん」

 落ちたそれを拾い、ばらけてしまった一本を齧って彼女はそう言った。


 一片を差し出すので私も齧ってみると、おお、甘うまい。


 ベルは、蛙の死骸に興味が向いている。


 レガリア「失礼エルフ様。ソの件も含めて、お嬢ちゃん達も来てもらおうか。話を聞かセてくれ。守ってくれたあっちの冒険者は……気絶シてるのか、おいお前、事務所までおぶって来い」

 部下「ハッ」


 娘たち「「えっ」」

 

 やじ馬と共にビクターを置いて、皆で門の方へ向かう。


 去り際、彼らがスライム、とやらについて、通常より色が薄いと、そして酸が強くて変だなと話しているのが聞こえた。


 ソニー「あっ、あっ、あんなに人が一杯いるっ、るルーナさん、ちょっといいですか、うわっ結構ネッチョリしてるぅ、せめてもう少し体をきれいにしさせてください。……水流の精霊よ、清らかな浄化を……ウォッシュ」


 門に集まっている群衆に近づく前に、ソニーが私を手で引き留めて、手を離した。


 そして水の魔術を私に使ってきた。

 水球とは少し違う、水流、のようなものがソニーの杖から私に放射された。

「むっ!」


「だ大丈夫です攻撃じゃないです! 水でちょっと洗うだけですっ、あぁん逃げないでくださいっ」

 わかった。くらおう。


「うきゃーっつめたーい!」

「ベルちゃん、ちょっとどいてっ、あぁ、魔力が乱れちゃった」


 衛兵達「……」


 ケンウッド「はは、申し訳ありません、すぐに付いてまいりますので」


 チョロ……杖からの流れが留まった。

 水の雨の中にベルが混ざりこんで喜ぶと、放射はすぐに終わってしまう。


 見るとソニーの魔術の魔力の流れがベルの乱入で確かに乱れていた。


 ふむ、気持ちいいな、身体のネバネバの大体が落ちた。

 正直ちょっと気持ちが悪かったのだ。

「見事だ。ありがとうソニー」



 近づくと思った以上に大きな門の前には、騒ぎを眺めていた商人や街の人々で前にもまして賑わっていた。


 皆、思い思いに様々なことをしゃべったり、話し合ったりしていた。

 ベイリ村よりとても人が多い。


 マモを散歩させてる人もいる。

 マモットだったか?

 もっとも、飼い主は出店から動かずにいるマモに困っているが。


 街人の他に、戦える恰好をして顔つきもそれなりな、冒険者らしい者達。

 ケンウッドのようにひらひらした者達、鎧兜に槍を持つ衛兵達。

 青いローブ姿の魔術士のような連中。


 そして、獣人だ。

 様々な種類の獣人たちがいる。

 とりわけ、蜥蜴人が多い。


 二番目は“魚人”だろうか。

 蜥蜴人に似ていて、よりひれや背びれ、水かきが多い。

 手指の間を見ると水かき、があるな。

 水の戦いが上手そうだ。

 湖と関係あるのだろうか。


 群衆の中足元を滑るように“青い蛇”が消えていった。

 ああいうのもいるんだな。

 

「うわっ!エルフだっ」「耳が長いぞ!」「エルフ様だ!」「雷女王だ!」「違えよ!」

「あそこっエルフの娘がいるぞっ、しかもすげえ美人だ!」「黒くねえぞ?」

「だから人違いだって!」「人族じゃなかったのか?」

「蛙に食われてもピンピンしてるじゃねえか」「いきなり出て来たよな?」

「見た! 足早っええよな」

「ありゃあきっと都の冒険者だな」「うわぁ~蛙の汁まみれで汚ったねぇなぁ」

「あのナリのままで街に入るのかよ」

「ばかっサっき洗ってただろ!ソういうこと言うんジゃないの」「滅茶苦茶かわいいじゃん!」「連中ベイリ村の方から来なかったか?」


 群衆に近づくと、街道の脇に皆どいてくれたが口々に色々言っている。

 門の両脇に槍持ち衛兵がいるな。

 装備も中々だ。


 レガリアが顎を動かし連中に目を合わせた。

 門を通れるようだ。

 本来ならここで何様か誰何すいか? をするのだろう。


「おい! なんか近くに小せぇのが飛んでるぞ」「使い魔だろ?」

「いやっフェアリーだ!」「フェアリー? ウソ付け!」

「なんでこんなとこに小妖精がいるんだ?」「あのエルフが連れてるんだよ」

「ガストン! おかえり」「なぁ、こいつらひょっとしてベイリ村に行ってた連中じゃねぇか?」


 ガラガラガラゴツンッ。

 コツ、カタ、カシャ。

 音が響く、馬車の車輪や皆の装具、靴が石床に当たって。


 開かれた門を通り、街壁内部を通る、マルコ二人分くらいの太さだ。

 ゴブリン王が突進してもこれは破れないだろうな。


 ベイリ村との違いを感じる。


「何でレガリア隊長と一緒なんだ?」

「衛兵隊に連れられてるから、事務所に連れてくんだろ」

「ねぇ父ちゃん何で? お姉ちゃん何も悪いことしてないじゃん」

「別に捕まえるわけじゃないよ、騒ぎを起こしたあの獣人の娘達と一緒に、いろいろ話を聞くんじゃないか?」


 街壁をすぐに抜けると、両横に街が広がっていた。

 道はまっすぐ向こうに続いていって、少し坂になってるから湖がキラキラしてるのが見えた。

 間の群衆でよく見えないが。


「あのエルフ会長の知り合いかな」「会長? 冒険者のギルマスか?」

「違う、魔法協会だよ」「ああ、あのクソ迷惑な“水爆弾オヤジ”か」

「シっ使い魔が聞いてるゾ!」「え? どこ? あ! 青いのが居たっ」

 

 冒険者たちが気になることを言っていたのでそっちを見ると、建物から生えた棒、看板かな。


 その先端に、小さな青い鳥が止まっており、こっちをじっと見ている。

 ふむ、あれが使い魔というものなのだろうか?

 森で見た鳥たちのようにキョロキョロと動かないので、ただの鳥ではないかもしれないな。

 魔力もある気がする。


「なぁ、ベイリ村だって? ゴブリン暴走の?」「もう終わったって話だろ?」

「討伐隊が空振りシたんだって」「デマだったんだろ?」

「違う! 俺らが向かう前に壊滅したんだよ!」

「デマだってんならあの荷馬車の戦利品の山を見てみろよ」

「うわっホントだ! すっげえ!」「ホンマケンウッドさん儲けよったな~」

「なぁあの魔術士の子もけっこうかわいいよな!」


「チッ、ガストンの野郎、護衛依頼の方を取って大正解じゃねぇか!」

「先に手出ししてかっさらってよぉ!」「てめぇふざけんな隻狼!」

「いや、先に行ってやれるもんじゃないだろ」「そうだ、馬鹿なんじゃないの?」


「え? じゃあ討伐したのって、あのエルフの女か?」

「いやいやばっか、一人でやったわけじゃねぇんだから」

「ベイリ村の連中とあのおっさんとか、あっちの盾持ってる坊主とかとだろ?」

「ソんな数人で暴走は止められねぇよばか! ゴブリンキングがいたんだゾ!」

「じゃあ、あのエルフ様が……」「化けもん蛙も一人でやったんだぜ……」

「まぁ蛙は倒したんだ。スゲェじゃねぇか」「エルフの姉さん、よくやったー!」

「ケガはねぇかー猫と犬の娘っ子ぉー」「猫屋にまた飯食いに行くからなー」


 人が多いな。

 どんどん集まってきている。


 だがすぐ左の建物に入るようだ。


 右手には馬車がたくさん止まっていて、なんだか獣人が大勢集まってこちらを見ていた。

 皆ふわふわしてるな。


 あぁ、商人か。

 皆ケンウッドのようにゆったりした布で、帽子をしている。

 商人の子供「なんか飛んどるよ? なんやあれー?」

 ベル「あっ! 子供のふわふわもいた! かわいいねルーナ!」


 馬の様に、マモにまたがっている子もいる。

 喋り方が独特だ。


 私たちの後ろから、気絶した冒険者を背負う衛兵が追いついて来た。

 娘っ子たちを守って吹っ飛んだ男だな。

 鉄の兜と鎧だが、衛兵と比べると黒ずんでいてぼろだ、そしてへこみができていた、蛙にやられたのだろうか。


「え? じゃあ滅茶苦茶強いの?」「すげえのが来たな……」「さすが都の冒険者」

「引退シたマルコサんみたいに上級ってことか?」

「ばかっただの上級じゃねぇぞありゃあ」

「暴走を止めたってんだから、王都の特級クラスだろ」「さすが王都の特級冒険者……」


 ガストン「はぁ……。おいルーナ! これが終わったらさっさと冒険者登録しちまおうぜ! 田舎から出て来て人の多さに驚いたろ!」

 急にガストンが大声でしゃべった。


 ベル「まねしたー!」

「ガストン、隣で叫ぶと耳が痛いからやめてくれ」

「やれやれ、こっちだぞルーナ」


 ケンウッド「守護長様、私めと馬車は衛兵方の事務所にお邪魔でしょう、一度“駅”に引っ込み、直ぐ様ご挨拶に伺わせてもらいます」

 レガリア「あぁ、ケンウッドだったか、気を遣わセて済まない。エルフ様はスぐにお返シスる」


 ケンウッドが耳をこしょこしょして来た。

「ルーナさん、しゅごちょ――レガリア様は、ギャレス様とはまた違う気質の方ですので大丈夫ですからね(まあ御仁の様子を見ると、大丈夫でしょうけれど)」

 よくわからんが、頷いておいた。


 ガストン「要するに暴れるなってこった」


 ふむ。


 相手によるぞ。


 読んでくださりありがとうございます。

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