4話 森
殺した二匹を見てみる。
短剣持ちに背嚢が、棍棒の腰巻に小袋があった。
中は小さい蟹が四匹と茸がいくつか。
背嚢にはよくわからない骨がたくさん入っている。
これらは別の何か臭いがする。
剣といい、こいつらのものとは思えないな。
なんでそう感じるのだろう?
私はこいつらのことを知っているのだろうか?
錆び槍は抜いた時に折れ、長めの錆び短剣も欠け、棍棒は腐って割れていたので捨てた。
残った短剣一本だけ拾い、全てを少し割れているぼろの木盾の上に乗せて、さっさと丘を降りることにした。
山脈の切れた、森が続いてる方向に行ってみよう。
ジャリ。
殺した小鬼、そう、小鬼だ。
思い出した。
大きいのもいるのだろうか?
とにかく小鬼達が来た方角とは反対の方へ。
「……」
振り返って“石が色々ある丘”を最後に少しだけ見てから、私は森に入った。
ガサ。
クシャ。
色々たくさん落ちてる。
小鬼の通った跡がある。
ずっと暗くなったがわかる。
少し入ってから周りから隠れるようにして屈む。
背嚢の中にある骨やがらくたを全部捨ててからっぽにし、ぼろぼろのそれを細長くなるように破き、槍についていたぼろ縄も取って、うまく使って腰巻みたいにした。
これで小鬼には負けていない。
そこに小袋もぶら下げた。
短剣は無理だったので手に持つ。
これも錆びだらけだが、さっきの長めの槍よりは状態が良いのでまだ持つだろう。
そうこうしつつも森を探っていたが、様々な気配や音に溢れていて面食らっていた。
なんだかわからないがとても安心するし、好きだと思った。
しばらく慎重にしつつも探索し、色々試したり、確認したが、どうやら自分は夜目が効くようだ。
月明りなしでも暗闇の中を見ることができる。
不思議だ。
集中すればなおさら見える。
多分小鬼もそうだと思う。
そういった集中に意識を向けると、地中を行く小さい生き物の位置や、樹木の枝葉に潜んでいる小動物の息遣いも聞くことができた。
どうやら森の生き物は自分とは違いよく音を出す。
そしてそれは自分だからわかるのだとも理解した。
自分はどうやら耳も良いようだ。
よくわからないのが、実態のないフワフワした煙のようなものも漂っていることだ。
それらは丸かったり、なにか小声で囁いていたりもする。
それも近かったり遠かったりと存在があいまいで、なんだか気味が悪い。
なるべくそれは避けて進んだ。
草も樹も、たまに“目を開けて”こっちを見ていたりする。
つる草が動いていたりする。
なんなんだろう。
小鬼じゃない。
臭いも重要だった。
手に入れた茸や見つけた木の実はそれで確かめたり、少しかじってみてから食べた。
蟹は焼いてからにしよう。
そう、火だ。
火をどうにかして出し、炙ればマシになるのを思い出した。
そうやって森の歩き方や物の名前等を一つ一つ、思い出すかのようにして、理解して進んでいくと、また奴ら、小鬼の気配を察知した。
数が多い。
でかいのもいる。
避けていこう。
そう決めて慎重に離れようとした時だった。
(……母ちゃ……助けて……)
「!」
ハッと振り返り凝視すると、小鬼の集団、デカいのの横、中くらいの奴が背負う大きな袋が少し動いていた。
声は多分そこからだろう。
その娘は、通常では考えられない距離から、ズサ袋の中の音を聞き取っていた。
あのでかいのが、その声に反応するように袋を殴った。
動かなくなる。
連中は下卑た笑いを出している。
なんだかひどく気分が悪くなった。
それを消す方法はもうわかっていた。
まずは先回りした。
どうやって、どこで戦うか考えながら。
カサッ。
手ごろな石をなるべく拾って、鋭い木の枝も見つけてから、樹の上をスルスルと昇った。
ススス、ヒュッ、タッ。
猿、みたいだなと思いながら待った。
連中が近づいてきた。
小鬼小集団、小が五で短剣二、棍棒二に、弓持ち。
中ぐらいのやつが二匹で、槍と恐らく話せる生き物入りの袋を持っているのと、木の棒に服を着たやつがいる。
更に大きいのが一匹いる。
中くらいの剣と、皮製の鎧? とギラリと光る、鉄兜を被っている、計八匹の集団だ。
まず無性にあの弓が欲しい。
そして木の棒持ち、ぶかぶかの服に包まれひょこひょこと歩いている一匹の得体が知れない。
“丘に感じた力”みたいなものを感じる。
なんだろうか?
弓と木の棒持ちは、まず先にやった方がよいと、危険だと、ヒリヒリと感じる。
大きいのは最後でよい、強敵だから。
背後は崖になっていて、かなり下の方に激しく水が流れている。
その流れる音がここら辺あたりに響いている中、連中のしゃべる声が近づいて来る。
なんだか楽しそうに喋りながらこっちに来る。
よくわからない流れで、鉄兜の目の前をゆく小さいのが、思い切り蹴とばされて崖から落ちていった。
ギャウギィアアアアアーーーーーー……。
驚きすぎたのか、落ちていく途中でようやく叫び出したと思うと、激流に飲み込まれて見えなくなった。
取り巻き全員が後ずさっている中、鉄兜一匹だけが、崖のフチからのぞき込んで、とても楽しそうにその様を大笑いしながら眺めていた。
唾を飛ばしながら大笑いし大きな腹をひとしきり揺らしきった後、吠えるように怒鳴り、別の一匹の尻を蹴とばして、連中を進めだした。
なんだろう、今後、小鬼は見つけ次第殺してくことにしようと思った。
棍棒持ちの小が一匹いなくなった。
残り七匹。
よし、位置に近づいた。
仕掛けよう。
まずは一番大きい石を木の棒持ちに投げつけながら、
弓持ちめがけて飛び降りる。
ズゴンッ。
「カヒュッ!?」
ボキッ。
石を背中にくらい、木の棒を落として倒れる衣服の中型。
両足の着地の一撃で多分骨が折れた足元の弓持ちの小。
勿論矢筒は避けて踏みつけた。
矢は四本くらい入っている。
ドサッ、カラアンッ、ドスッ。
ドンッ。
すぐ横、左の崖縁に突っ立っていた短剣持ちの小を蹴っ飛ばす。
「ハギャッ!? ――……」
崖に落ちて見えなくなった後、すぐにその場から逃げ出す、残四。
ギャウギャウギャウアーーーー……。
「「!?」」「ワンギャウ!?」「ウギャギャッギャアアアアア!」
騒ぐ連中を背に、すぐさま樹の上を駆け上がる。
そういう樹を選んだ。
上に用意していた石や枝を拾っては次々と連中に投げつける。
ヒュヒュヒュンッ!
枝が短剣持ちの一匹の足に刺さり屈みこんだかと思うと、続けて飛んでいった石が丁度そいつの頭に当たって倒れた。
メキッといってそこの骨がへこんでいた、残三。
鉄兜はすぐさま、小棍棒の首を掴み上げて盾にするようにして投擲物を防いだ。
そいつの目に刺さる木の枝、残二。
連中はお騒ぎしている。
その間、私はすでに木の枝から飛び上がり、槍袋持ちの中型小鬼にめがけて飛び降りながら短剣を振り下ろしていた。
ギャリッ――ギイイイッ――ビキッ!
槍と短剣がかち合う金属音と、鈍く、折れるような音。
防いだ槍はくの字に歪みつつも小鬼を守った。
短剣にはひびが入る。
袋を持ち、自分は盾を持ち、お互い片手の状態だ。
続けて盾で殴りつけようとしたその時、鉄兜が死んだ小鬼を投げつけてきた。
バキャアアアンッ!
とっさに防ぐも、盾がバラバラになる。
ドサッ、ボタメキャガラアンッ。
ドサァッ――(ぐえ)
槍持ちが袋を落とし、槍を構える。
袋からくぐもった声がした。
ブウウンッ!
両手で折れ歪んだ槍を振り回しつつ、中型がこちらに突っ込んでくる。
ダスダスダスッ。
危うく飛び退って横に避けると、中型は突進ながら、背後の崖の方へ突っ込んでゆき、そのまま見えなくなった、残一。
「ギイアアアアッ!? ――……」
裸で腰巻の私はなんとかよけ転がったが、身体のあちこちがすりむいてひどいことになりながらも、剣を振りかぶり迫り来る鉄兜に向け、折れかけの短剣を投げつけた。
「フウアアッ!」
ギイイイィィンッ!
高い金属音が兜から響く。
防がれた。
その隙に死んだ小型二匹のそばに落ちる、短剣や棍棒にめがけて走った。
「っ」
ズザアッ。
が、なんと生きていた棒持ち服の中型が通りがかった私の足をうまいこと掴んできて、転ばされた。
倒れたままで奴はニヤけながら、もう片方の手の棒をこちらに向けながら、なにかブツブツ囁き始める。
そのとたんに、目の前が真っ暗になった。
「!?」
これは――魔法だ。
読んでくださりありがとうございます。




