35話 ボスサマ
「くっくっくっ、どうしようか? 教えてやらんでもないが? まぁ別にすぐ会えるだろうよ。お前と、ついでにこのチビ虫をお見せする時にな」
教えてくれなかった。
もうちょっと頼んでみようか、いや、他のことを聞いておこう。
なんだか上で騒ぎが起きている気がする。
もしかしたら、もしかするかもしれない。
「では、リゾットのことを教えてくれ、魔法使いなのか? その杖はアリ、アリウェスタの杖らしいが」
「うん? おしゃべりしたいのか? まぁ別に構ねぇけどな。おい! お前、この籠持ってろ、邪魔だ。あ、鍵もだ。俺様が持っててもしょうがないだろ」
「……こほんっ、そう! 俺様はボスとして君臨せねばならんからなっ。魔術の一つや二つ、たしなんでいるに決まっている!」
ビシッ!
杖を頬に当てられた。
痛いな?
体がいつもと違って弱っているようだ。
絶対この後やり返すからな。
「あの魔術士にしちゃあ貧乏臭ぇ臆病なチビ小人のもんにしては、高くて良さそうな杖だろう?」
わからん。
黒くて作りはしっかりしてるようだがな。
「まぁもう、俺様のもんだけどな。そんなことより次はお前の番だお前! どこの誰でどっから湧いて出やがった。ここら辺でエルフなんて珍しい種族見たことねぇぞ!」
手下の盗賊「あ、ボス、“スイレーン”の“魔法ギルド”のお偉いさんが、エルフ族らしいっすけど……」
ほう?
いいことを聞いた。
「うるせぃ! 知ってんだよんなこと! そういうお偉い様連中じゃなくて、野良だよ、野良! 野良オークとかそんな感じの! あと魔法ギルドじゃねえ! “魔法協会”だばぁかっ、水教会とも違ぇんだかんな? これだから学がねえ奴らは……」
「な? いねぇだろ? 普通野良オークなんか、なぁ豚共」
オーク「あぅ、おでラ、あんまり巣かラ出ねぇかラ……」
「何言ってっかわかんねぇんだよ豚ァ!」
ドカっ!
「アッ、いたっ、くないけドやめデっ、ボス!」
なんなんだこいつは。
ガラァァァンッ。
うん? 遠くで音がしたか?
出口で座ってるオークが湾曲した鉄の、曲剣? を持ち上げながらしゃべる。
「おデ、このボスきらいダ、つぶしテたべちゃってイイカ? おデハラヘッタァ」
蹴られたオークが答える。
「だ、だめダ、がまんしロ、ボスサマがおこルゾ」
「……私は記憶がない、数日前に石丘? で目覚めたばかりだ」
「ああん? なんだそりゃ? おい! 檻はどうしたぁ!」
私が入り戸口を通れる大きさの檻が見つかったようで引きずってきている。
すいぶん重たいようだ。
それとさっき、上で騒ぎが起きている音をわずかだがはっきり聞いた。
「チッ、イライラさせやがって……」
この場を長引かせるのは成功してきているかもしれない。
「あとリゾット、私はオークの言ってることがわかるぞ、何故か」
「はぁ? さっきから何を言ってやがんだこのイカれエルフは」
ポン、ポン。
黒杖で肩を叩きながら、貧乏ゆすり? をして見下ろしてきた。
「皆おまえが嫌いみたいだし食べたいと言っているぞ。これから背後に気を付けるんだな」
「!? なんだと! おいホントか豚共ぉ!!」
リゾットが怒りだしてオーク達に詰め寄った。
彼らのほうが大きくて強いのにまったく動じてない。
私を見て、何言いつけてんのおまえ、というアリスタみたいな顔をしている。
拘束している光がさっきより弱まっているな。
もうちょっとか。
「おいリゾット! オーク達は勇敢な戦士だ、それに引き換えお前はすぐ逃げるし罠も卑怯だし弱虫だ」
「ぷぷっ」
リゾット「っ誰だこらぁ! 今笑った奴はぁ! 出て来やがれぇ!!」
ものすごく怒っているな、顔が真っ赤だ。
コートから短剣を抜きオークや手下たちに向け、唾を飛ばしながら怒鳴っている。
「ちょっと待て! リゾット!」
「あああ! もう何だ! イカれエルフ!?」
「魔法封じが弱まってるぞ?」
ブチブチブチィッ!
私はさっきから爪で傷つけていた縄を、渾身の力でちぎり解いて立ち上がった。
魔法陣から出る紫の光と嫌な音は、もう少ししか出ていなかった。
リゾット「ふぁああっ!?」
キィイン! ドガラアアン! バタン! ウオオオ!
丁度、金属のかちあう、戦いの騒ぎの音と盗賊の警告の声が上の階から響いた。
(敵襲ぅー! 親分っ“衛兵”だぁー!)
同時に上に居るらしき他の手下が、こちらに向かって叫んだのが階段から聞こえた。
衛兵?
「なっ!? ええええ!? くっっそおおお!!」
リゾットが汗を流しながら、私と上の階を交互に何度か見た後、別の方向に走り出した。
そして何もない岩の壁の、でっぱりを掴んで、くるりと回した。
ゴットン!
でっぱりが動いたかと思うと、奴の目の前の壁に穴が開いた。
落とし穴に似てるが、横道が暗闇に続いているのが奴越しに見える。
また逃げるのかこいつは。
ドサガラァアンッ!
奪われた私の武器を抱えていた盗賊が、全て投げ捨てリゾットに続く。
「ま、待ってくれ親分! お俺もっ」
「うるせえええ! 俺の傍に近寄るんじゃねえぇえ! てめえは迎え撃って時間稼ぐんだよっ」
ドカァ!
「あ痛たぁ!」
奴が追いすがる手下を私の方へと蹴とばす。
ドサアッ!
「むっ」
私は走り寄って拾い上げた短剣を、邪魔が入り奴に投げられなくなった。
「豚共もおまえらも迎撃だ! 迎撃ぃ! 全員ぶっ殺せ! 俺様は援軍を呼んで来る!」
そう言って穴に入って行くリゾット。
ほんとだろうか。
振り返ったと思うと、通路の壁に何かしている。
罠か!?
ゴトッ。
盗賊「あっああ!」
カシャアンッ――ベル「うべっ」
ズズズズウン!!
別の盗賊がベルの籠を放り出し、走り寄って穴に手が入った瞬間、岩壁が落ちるようにして急に閉じ、男は手を挟まれた。
ああ、閉めたのか。
「ぎゃああああ! 手がああ! 親分んん!!」
バンバンッ!
挟まれてない方の手で必死に、仕掛けらしいでっぱり部分をいじるも、びくともしない。
向こう側でもう動かないように、何かしたのだろうか。
蹴りまくれば壊れるかもしれないが。
ブズン!
なんと傍にいるオークが、突然男の手に斧を振り下ろした。
「ひぎゃあああ! 手がああ! オヤビュガアア!!」
左手がちぎれて大量の赤い血が噴き出ているのを、もう片方の手で押さえ崩れ落ちながら、汗びっしょりになりって盗賊が叫ぶ。
オークが彼を助けたようだな。
無表情で見下ろすオークと違い、すごい形相でものすごく痛そうだな。
ソニーを呼んでくれば治してくれるかもしれないが、血を止めないと全部出切ってしまうんじゃないだろうか。
ん?
ケンウッドが何かくれたような……。
他の盗賊「おいバカッ、布を当てろっ! 血を止めるんだよっ、落ち着けっ、そんぐれぇじゃ死なねぇからよぅ」
「うるさイにんげンだナァ、ボスがタタカエいうノ、キカナイから、ばかダナ」
「ぶフ、ああ、うるさいナ。あド、いろんなシルをとばしテテ、すごくきたなイ」
オーク達は傷みに暴れる盗賊を眺めて笑いあっている。
「あれー? なおったー! 元気になったー!」
ベルも大丈夫になったようだ。
さて、鍵を奪い、ベルを出し、盗賊達をなんとかし脱出し、皆のとこへ戻らないと、夕飯を食べそこなうぞ。
そんな私を、オークと盗賊達が私を囲みだす。
オーク達「まわりコめ、この“ミミナガ”、できるゾ」「にんげんヲかべにスル」
「オイッ、ミミナガは、おれタチのコトバ、きいてるルゾッ」
盗賊達「へっへっへっ、こんなべっぴん殺すのはもったいねぇなぁ?」
「なぁ、臭ぇオークに食われちまう前に、なんとかとっ捕まえちまおうぜ」「げっへへへぇ」
オーク達とは違い、盗賊達はニヤニヤと笑っているな。
手のない盗賊「ひぃーっひぃーっあぁーーっ」
だが、彼らオークも、どこか楽しそうな気配だ。
戦いが好きなのだろうか。
出口近くの一人が上をチラと見て気にしているが、まず私を先に片付けてから、というつもりのようだ。
体が軽い。
思わずニヤけてしまった。
私も、そう思っていたところだ。
読んでくださりありがとうございます。




