34話 罠
「む!? ぐうぅっ」
ベル「ふべっ!」ペチャッ。
動きが止まった。
ウウウウウウンッ!
窒息オークを斬ろうと走った時、部屋の中央辺り、落とし穴と同じ形で今度は魔法陣が怪しく紫に輝いて浮かび上がり、部屋中を照らした。
唸るような低い耳障りな音も鳴り続けている。
小鬼のねぐらの“あの魔法陣”とは模様も色も違うし、大きい。
これが出た瞬間、身体がとても重くなり、動けなくなった。
羽のような軽さ剣が急に手にズッシリと重くなって、腕ごと下がる。
鉄版補強した皮の軽鎧も、こんなに体に負担をかける動き辛いものだっただろうか。
急に身体に力が入らなくなったんだ。
「え~ん、動けないよぅ」
弱々しい声に振り返ると、ベルも床の魔法陣の上に浮かんでたのか、落ちて倒れてしまっていた。
アリエスタは戸口に立っていて無事だ。
「まじかよ、まだ罠あったのかよ……」
「ゲホッゲホッジヌガトオモッダ、ブヒュ~、ブヒュ~」
窒息オークの顔面の水球がただの水のようにこぼれた。
「お? おおお!? 魔法封じが効いたのか!? 何故に!? 魔法なんか使ってたのかクソエルフ? 妖精も、何だ? 動けねえのか?」
どういうわけだ。
思っていたのと違ったみたいに不思議がっている。
「ふん……だが、よし! くっくっくっ、どうだ! 俺様の罠の味はぁ! おいっおまえらビビってないで来て見やがれ! このリゾット様がクソエルフ共を捕まえたぞ!」
階段に見え隠れしていた手下たちを呼び、リゾットは弩を構えた。
「おい! クソチビ! てめぇも動くんじゃねえぞ! 魔法なんて撃って来たって無駄だぜ! “魔法封じ”で消えっからな!」
魔法封じ。
この魔法陣の、光と音が?
私は魔法なんて使えないのだが……違う!
魔力かっ。
それを乱しているのか。
私は今まで、魔力で動いていたのか……。
よくわからないな。
こういう魔法陣もあるのか、転移とかじゃなく。
リゾットが指示して手下に縄を用意させている。
しかも、更にもう一匹オークが現れた。
「今の今まで寝てやがったのかこの役立たずのクソ豚がぁ! 手伝え!」
「ズ、ズマネエボス」
「ブヒブヒうるせえ! 人間様の言葉をしゃべりやがれ! ホラ! クソエルフを捕まえろ! 油断するなよ! まったく、使えない手下だらけだぜ」
む?
リゾットはオークの言葉がわからないようだ。
さてどうするか、このままでは捕まるな。
拳を握る。
(悪ぃ、ルーナ、ベル。俺行くわ)
アリエスタが背後でそう囁いたと思った瞬間。
気配がなくなった。
「!」
アリエスタが急に跡形もなく消えたのに気が付いた連中が騒ぎ出す。
奥の檻部屋を探し回るも、いないようだ。
はて、どういうことだろう。
まさか転移したのか?
何故か、魔法封じのせいなのか魔力の感知や、色々な感覚が全く効かなくてわからない。
なんというか、耳に詰め物でもしたかのような鈍い感じが体中にある。
ベル「あれ? アリ、いなくなった?」
「あ!? クソチビィ! 魔法で逃げたのか? チッ、だから檻に入れたもんを……てめぇら~、おい! さっさと縛り上げろ! そこの、潰れてる小妖精を踏みつぶすんじゃねぇぞ! おまえら豚共より高く売れんだろうからな!」
チュウッ。
「うわっ くそっ! ったく鼠だらけだなここは!」
騒ぎに驚いたのか知らないが、鼠が急にリゾットの足元を横切ったので驚いている。
ベル「え~あたし達を置いて逃げちゃったの~? ひど~い、助けてあげたのに~裏切りものめ~」
「くくくなにをボソボソ言ってんだチビ虫、さっきまでの威勢はどうしたあ? どうだ、すっげえだろう、リゾット様の罠の効き目は!」
「あたしは虫じゃない~! 怒るよ~」
床に大の字になってぺちゃっとなった状態で頭をわずかに動かして、上から見下ろしニヤけるリゾットを睨む。
アリエスタは逃げたのか?
上に盗賊がいくら残ってるかわからないが、あのひょうひょうとした感じだと、上手いこと逃げきりそうだな、と思った。
彼の魔法は封じられていないからな。
手下たちに武器は全て奪われ、縄でぐるぐる巻きにされた。
抵抗すると腹を蹴られたが、中々痛かった。
今まで一番かもしれない。
ベルもつまむように持ち上げられて、鳥が入るくらいの檻に入れられてしまった。
連中曰く名前はそのまま鳥籠だった。
「……」
リゾットが手下から鍵を受け取り、鍵を閉めベルを閉じ込めて、外套にしまったのを見た。
私も檻に入れるとか話してる。
――魔法陣が――時間が――さっさと――等とかすかに聞こえた。
声も聞こえ辛くなってる。
まいったな。
檻を持って来いとベルの籠を片手にぶら下げて叫んでいる。
戸口を通るサイズが見当たらないとぼやく手下の尻を蹴っ飛ばして、探せとさっさと怒鳴っている。
リゾット「なんで檻部屋の扉がひしゃげちまってんだ? 貴様らの仕業か豚共ぉ!」
ズリ……だが、こうして落ち着いて様子を見てみるに、強い力がでないだけで、動けそうだな。
拳を握るも、以前より力が入らないものの、動くことはできるみたいだ。
走って逃げようか?
出口は追加で来たオークが座ってる。
ベルを置いて去るのは嫌だな。
私は側で見張っている、窒息しかけていた奴を見る。
死んだ仲間の斧を拾い調べている。
ホブゴブリンや王や近衛兵達と雰囲気が似ていたので、思わず声をかけた。
こいつら私たちの言葉をわかっているからな。
「オーク、おまえは戦士だろう。なんでこんな弱い奴らの言うことを聞いているんだ?」
オークは少しビクッとして私を見た。
話しかけられるとは思ってなかったのかもしれない。
「オ、オデはちがウ、オデは“ボス”の“ボスサマ”にしたがってルかラ……ボスサマは強いかラ、ちがウっ」
何?
リゾットの上に強い奴がいるということか?
「ボス様とは誰だ?」
今度ははっきりと驚いている。
なんだこいつ、とばかりに後ろに少し下がった。
オークの言葉がわかるとは思ってなかったようだ。
私も最近同じ気持ちなんだが。
「ブヒ!? オメ、なンでオデらのコトバ、わかル!?」
出口のそばの床に座り眠そうにしていたオークも、驚いてこちらを見ている。
リゾット「おい! なにをごちゃごちゃ言ってんだ! なんだ豚、腹でも減ったのか? 意地汚い豚共が……」
奴がこっちに来る。
「くっくっくっ、しっかしこれほど珍しい、美人で腕の立つエルフだ。売り払うより、“あの方”への捧げものにした方が得かもしれねぇな。けっこうな報酬が期待できるかもだぜ!」
なにやら更に上の奴がいるようだ。
ボス様というやつだろうか。
私の顎を持って動かし顔を近づけて見て来た。
息がゴブリンの腰巻みたいに臭いな。
気づいているのだろうかこいつらは、“紫の光が弱くなっている”のに。
ググ。
私の力も戻りつつあるな。
それで私はわかったのだが。
「リゾット、あの方とは誰だ?」
読んでくださりありがとうございます。




