32話 穴
飛んでったベルに追いつき落ち着いたが、妙な穴を見つけたので、もう少しだけ“偵察”してみることにした。
盗賊のアジトとやらに向かう穴だろうか?
土を掘った穴で、入口は階段状に掘られていた。
降りていくと、すぐ平らな道になり曲がって伸びていた。
土階段は崩れたり、すっ転んだのかぼろぼろになってた。
見通しは悪く、天井は木の根がたくさん生えている。
ベルがうすく光っているので、この中だと特に見やすかった。
外は月明かりで眩しいくらいだから。
不思議な子だな。
彼女の光の軌跡である粉のようなものを指にとって見てみる。
指の腹がキラキラしてるが、これは彼女の光を反射しているのだろう。
光は、ベル自身から治療魔術のように優しく灯っている。
ジャリ、コトン……音が響く。
ベル「なんの巣ー?」
大きく響いた。
(しー、盗賊のじゃないか?)
奴らの足跡しかない。
根っこがぶら下がる空洞を進む。
途中で土の壁の中から小さな何かが土を掘り進む音が聞こえる、モグラだろうか。
この空洞も、巨大な何かが掘り進めたのかもしれないな。
そうやって曲道を進むと、先が開けた場所になっていた。
武器、いや、シャベル? 落ちている。いくつも。ゴミとかも色々。
匂うな、割れた酒瓶に尿の跡、食い残して腐った残骸。
ベル(ばっちぃね~)
向こう側に見える壁に、木の扉がある。
その扉に開いた小さな窓から光が漏れ、向こうで奴らの気配がした。
松明を焚いてさらに奥へと進んでいるのだろうか?
そう考えながら小窓の向こうに意識を向けて開けた空間に入って行く。
「……?」
何か、胸の奥が騒めく、何だ?
油断していた。
カチッ。
ガッタン!
「ほえ?」
フワフワと浮かぶベルを置き去りにして、私は突然床に開いた穴に落っこちた。
――ヒュオオオッ――「っ!」
咄嗟に縁を掴もうとするも、“落とし穴”の丁度真ん中に立っていた為、無理だった。
「ルーナー!」
ヒュン――バタンッ。
動き続ける仕掛けがすぐに穴を閉じる。
その寸前ですき間をすり抜けベルが飛び込んで来た。
ジャキッ――大剣を抜剣し土壁に突き刺し、勢いを削ぐ。
ズザザザザザザガガガガガガッ!
ビュオオオオオオ――。
ゴガラガガガガラアッ!
壁が土から石、岩に変わった。
それでもかなりの速さで穴を落ちていくと、下が見えてきた。
いかん、大剣が折れるな。
途中だが剣を離す。
ヒュ~~~~ドサアッ!
なんとか着地無事にする。
離して割とすぐが地面だった。
「けほっ」
土埃が――ガラアンッ。
瓦礫が降って来るから避ける。
これは、奴らが掘った落とし穴ではないな。
洞窟だ。
ピチョンッ。
落ちた所か途中の壁からか、闇の向こうから水滴が垂れ落ちている。
ヒュインッ。
ベル「びっくりしたー! だいじょぶ?」
「ああ」
彼女の淡い光のおかげで、辺りがうっすら照らされ、私の夜目ではっきりと見渡すことができる。
落ちた先にはさっきより少し広い空間になっていた。
壁に幾つもの大小の、多分鉄製の檻が積み重なって置いてある。
出口らしき扉がある。
これも檻のように格子になっている。
上を見上げると、一見暗闇だが、目を凝らし“夜目”で見ると、ずっと上に蓋が見える。
そこまで思っていたよりも離れてはいなく、蓋の裏や仕掛けがかろうじて見える。
……上でなにやら盗賊達が戻って来て話しているような音がしている。
「もう! なんであいつら落っこちないの? ここどこ? あっちは?」
自分たちの罠にかかるだろうか?
さて、閉じ込められたか?
ガシャン!
扉は開かない。
「あたしは通れる~♪」
ベルが格子の隙間をぐるぐると行ったり来たりしている。
思い切り斬るか蹴るかしたら破れるだろうか?
「これが罠ってやつだろう。上の穴の周りに足跡があった気がする。そういうことなんじゃないか?」
よく見ていれば落ちなかった。
“その眼”を持っているのに落ちた私は馬鹿者だ。
「そういうことかぁ」
――ぐぅ~~っ――。
「あ! 誰かいる! ホラ! あれ? 寝てるよルーナ!」
うん。
何かが檻の中の一つに居るのは感知していたのだが。
寝てるみたいだな。
結構騒いだんだが。
檻にだって瓦礫はちょっと落ちたんだぞ。
「子供?」
魔法使いみたいな法服を着た、ニコより少し大きな男の子がうつ伏せに寝ている。
「あ! わかった! あたし知ってる!」
「知り合いか?」
「違う違うの、え~とねぇ? あれ? 何だっけ? ……ねぇルーナ、お腹減った」
この子の正体を知ってるということだろうか?
「うん? あぁ、鞄に……干し肉がある、ほら」
「わーい! はむ、むぐ」
この二人はこの危機的な状況で自然体に、平然としていたのであった。
ゴソ、ガタ、ドタスタ……。
檻扉の向こうから誰か来るな。
階段でもあるのか、降りてくる音がする。
「あ! 親分、あのエルフだ! あのクソエルフがひっかかったぜ!」
「うっひょ~やっぱ上玉だぁ、へっへっへぇ楽しみだぜ!」
「なんかちっこく光ってんぞ? ……虫か?」
「虫ぃ? あ! ばっか、ありゃあフェアリーだ!」
檻扉をのぞき込む盗賊達。
???「おやおやおや、こりゃあいいもんが罠にかかったな」
こぎれいな身なりで背が低い奴が一人いる。
襲ってきた連中の一番奥にいて指示を出していた気がする。
確か真っ先に逃げた奴だ。
「おい、どけ! くっくっくっ。今晩わ、エルフのお嬢さん。と、小妖精のお嬢ちゃん。俺様の名前はリゾット。こいつらのボスだ。ようこそ我らリゾット盗賊団アジトへ。一体何しにこんなとこまで追ってきたのかな?」
やはり奴が頭目のようだ。
靴まである長く黒い外套、の襟と黒い帽子に手をやり大げさな動作をしている。
挨拶か。
腰の短剣がチラと見えたな。
手にはソニーの持っていたような片手杖の、黒い版を持っている。
魔法使いか?
それほど強い魔力はわかる限りでは感じられないが……。
「……」
さて、どうしたものか。
バキ、私も干し肉をかじる。
塩気と肉汁が出て来て噛めば噛むほどうまいな。
「おい! 聞いてやがるのかこのクソアマ!」
「親分が聞いてんだろ! 答えやがれ!」
「干し肉なんか食ってんじゃねぇぞ!」
「びびってんのか!」
リゾット「ええいうるさい! 耳元で喚くなバカ共! 下がれ! 下がれえい! そのクロスボウをよこせ!」
うるさいし臭いな。
弩を手下から受け取って向けきた。
その隙間からなら十分狙えるな。
私の短剣も狙えるのだが、鍵を持ってる奴が後ろに隠れてて今はまだ駄目だ。
射線からベルを外すように少し体を動かす。
???「なぁおい、俺にもくれよ干し肉」
別の方向から声がした。
「ん?」
寝ていた少年が起きてこっちに檻の中から手を出している。
少年「なぁ、エルフとフェアリーの姉ちゃん達」
ベル「むぐむぐ、あ、ほひた~!」
「干し肉は……もうなくなった」
いま食ってるこれで終わりだ。
「なんだよっ、ないのかよ!」
「む、蟹があった。ホラ、これを食え」
「うわっ、いるかそんなもん! 投げんなっ……うわ! まだ生きてんじゃねえか! 生き物を投げんな! 大事にしやがれ! それに喰えるか生で! なんで鞄に生きた蟹が入ってんだよ、そもそも誰だおまえら」
よくしゃべるな。
「さっき川で拾った」
「子供か!」
ベル「あははあんたも子供じゃん」
「違え! 俺はこう見えてもガキじゃねえからっ、十九だぞこれでも。小人だよ、小人族う! てかお前なんでそんな小っこいのに声でかいの? フェアリーのくせに」
なに?
ベル「あ! そうそうそれ! あたし知ってるよ! 小人族だ! ……チビだね? ねぇ何でこんなとこで寝てたの? 家?」
小人「うるせええ! おめえは更にチビだろがぁ! あと家じゃねえし! 捕まってたんですぅー! あと俺の質問に答えろや!」
ベル「あははは! おもしろいねこの子、ねぇルーナ」
ビシュン! カァンッ!
小人「うおわ! 何すんだてめえ!」
ベル「ちょっと! あぶないでしょ!」
私たちと小人族の間の檻に出口から放たれたボルトが当たった。
誰にも当たらない狙いだったので見送ったが……。
リゾット「ゴチャゴチャうるせい! なんだ、ずいぶん声のでかいフェアリーだな? こっちの質問が先だ! 俺様を無視すんじゃねぇぞチビ共!」
小人族「俺はチビじゃねえ!」
「ちょっとどこに行くか後を追ってみただけだ。大人しく捕まれば命は取らないぞ、降伏しろ」
確か犯罪者? とやらは捕まえていいらしいようだからな。
小鬼の耳と同じだ。
耳を取るだけはいいのだろうか?
盗賊達「……」
小人「捕まってるやつが言うそれ?」
「ギャハハハばかだこのクソアマ!」
「親分馬鹿にしてんのか!」
「落ちて頭撃ったんじゃねえか! ギャハハ」
「びびってんだろ!」
「だからお前らうるせえっての! あ痛っ、コラァ! そのでかい図体どけろぉ!」
ドカッ。
リゾットとやらが手下を蹴っ飛ばしている。
大笑いする連中の、大男の手が後頭部、に当たったのだ。
小人「はははバーカ」
「おいリゾット、あの、オーク? はなんだ? なぜ魔物と一緒にいる」
「俺様はリゾット様だ! ……おい、お前らも狙え。エルフ! その馬鹿みたいにたくさん持ってる武器を全部こっちに投げろ、じゃないと穴だらけにするぞ! そんで空いてる檻に入って、自分で扉を閉めやがれ」
答えないな、内緒なんだろう。
小人「おいっ、エルフ! この檻はなぁ魔法の――」
ビシュン――パシッ!
小人「うおわっとぉ!?」
檻の中の小人の顔スレスレに、ボルトが撃ち込まれようとしたので、咄嗟に彼の目の前で掴む。
跳ね返ると危険だからな。
「「!?」」
手下「なっ……何ぃ! 掴みやがった!?」
リゾット「チッ、おいクソチビ小人! これ以上しゃべったらぶっ殺す! 次はこいつを食らわせるぞ!」
奴はコートから弩に似た、“弓部分”がない“武器らしきもの”を構えた。
それのこちらの先端に、穴が開いてるな……。
新しい弩だろうか?
「くっくっくっ、こいつはさすがにつかめねぇはずだ。試しに一発見せてやろう」
ズドォンッ!
シュカンッ!
小人「うわ!」
ベル「きゃっ!」
大きな音と煙と共に、向こうの方に何かが飛んでいって、見ると、壁に穴が開いていた。
確かにボルトより速いな。
私の眼には丸い鉄のような金属? の球が見えた気がした。
丸いボルトを飛ばすのか。
仕掛けの弩とかじゃないから、魔法か何かだろうか。
もの凄くうるさかったな。
小人「なんだ今の!? 蒸気か?」
蒸気……。
「ゴホゴホっ、どうだおいエルフ女! “蒸気銃”の威力は! 食らいたくなきゃ早く武器をよこせ!」
蒸気じゅう?
穴と手元からすごい煙が出ているな。
煙たそうだ。
連射されたらちょっとまずいな。
さっきから、装填はしないのだろうか、それとも筒の中に玉がたくさん入ってるのだろうか。
あ、何か、金属の瓶のようなもの武器に取り付けごそごそとやっている。
カシューーッ!
?
“空気”を入れた?
隙だらけだな。
「わかった」
私は言うとおりに武器を投げた。
ヒュヒュッ! ヒュンッ! ドサドサッ! ドサァッ!
二本両手から、更にはもう一本!
見事に三人、死んだ。
檻の柱が邪魔で、頭目と、隠れている鍵持ちは狙えなかった。
敵「「!?」」
ドサドサアッ。
小人族「うわ! こ、こいつホントに投げ返したよ!(ちゅ、躊躇なく殺しやがったし……まじかよ)」
リゾット「ひえっ! マジかっ! クソぉお!」
ガラアンッ。
奴が金属瓶を投げ捨てて振り返って向こうに逃げた。
「あ、お頭!? うわああ待ってくれえええ!」
ドタバタ。
見える範囲からいなくなる。
また逃げられた。
早いな。
追い打ちしようと更に投げようとしていた手の短剣を、鎧に戻した。
ベル「ふえ~あっという間に倒しちゃった」
小人族「すっげ、ナイフ投げの曲芸士かよ……すげぇなエルフの姉ちゃん」
「ルーナだ。曲芸?」
あとお前の名前は――。
小人族「んなことよりどうやって脱出するかだよ! おいいちびっこ! 飛んでって鍵奪ってこい! そうすりゃ逃がしてやる!」
鍵を持ってる盗賊はあそこの死体にはいないはずだ。
「あたしはベルだよ! あんたはなんてゆうの?」
小人族「俺はアリエスタ。こう見えても街でも有数の魔術士だぜっ」
ゆうすう、アリ、エスタ?
「ゆうすう? 強いってこと? ほんとぉー? 何で捕まってんの? 魔法で出ればいいじゃん」
アリエスタ「だからぁ、魔法が使えないんだって! 言ったろお?」
「えー、言ってないよ? 何それ?」
「だって使えねえんだもんよ、あの帽子野郎に杖も取られたしよ、ほら」
あぁ、リゾットのあれは彼の杖だったのか。
アリなんとかが手の平から何かをしようしているが何も起きない。
私の目には、魔力が集まって、それから不安定にぶれて霧散するのが感知できた。
檻だ。
アリが魔力を集め出した瞬間、檻が気分が悪くなるような音を出して振動していた。
わずかに、紫に光る模様が浮き出ている。
この檻に入ると魔法が使えなくなるのか。
それなら、寝るしかないな。
「な?」
「あたしこの檻きらーい!」
ギィィィィイ。
ベルが振動する檻に飛んで行き、アリエスタを捕えている檻を両手でぐにゃりと曲げ開いた。
アリなんとか「……へ!?」
「おおっすごい力だ」
ベルにそんな力があるとは知らなかった。
読んでくださりありがとうございます。
さて、最初の一人目が登場です。
ベルは+α枠ですから。




