閑話2 ビクターの視点
最後の閑話です。
先輩のガストンさんが口利きしてくれたおかげで久々に大きな仕事が決まる。
地震、雷、火事、小鬼、のゴブリンの暴走だ。
って言うんで組合が大騒ぎで討伐隊が組織され始めたので、僕らも乗っかろうとしたんだけど、ガストンさんに鎧えりを引っ張られて、というか路地裏まで引きずられて止められた。
なんでも新人なんて、せいぜい取りこぼれた小鬼を数匹倒して、報酬はその耳ぶんと、参加報酬の最低額で銅貨数枚だそうだ。
今回の荷馬車便の護衛依頼の方が圧倒的にお得だと。
内容は近隣の、ベイリ村までの支援物資と食料の通常配送だって。
一度ゴブリンに襲撃されて引き返したらしい。
護衛兼御者と馬が一頭負傷し、今回は一頭立ててで、輸送速度は遅くなる。
暴走がもう起き始めていてゴブリンも増えて危険かもしれないと。
代わりに報酬はよい。
ガストンさんは同郷出身でお世話になってて街でも名のある大剣使いだ!
だから、妹と前向きに相談したら、さっさと受けて来てと怒られたので引き受けることにした。
妹と手分けして旅の支度をする。
買い出しに研ぎに出した細剣を受け取って、当日まで色々忙しくし顔合わせと報酬の交渉後、出発した。
ガララッ。
聞いてた通り、町からベイリ村は近かったんだけど、やはりゴブリンが出た。
でもゴブリンが罠を張って待ち伏せしてるなんて聞いたことも見たこともなかった!
前をガストンさん、後ろと僕とソニーの配置で雇い主のケンウッドさんが御者をし、馬が荷馬車を進めていた。
ソニーの奴、ケンウッドさんをなでたいって密かに狙ってるけど。
怒らせちゃいけないから絶対にやるなと言っておいた。
僕だってウズウズしてるんだぞ。
あんなにすべすべでかわいいけど、僕らよりずっと年上の大人の人なんだからな。
曲がり角に差し掛かったその時だった。
突然脇道に穴を掘り潜んでいた射手から待ち伏せされ、ガストンさんが不運にもtィエインメイルの隙間の脇を撃たれ、敵襲を知らせるも驚いた馬が暴れ、暴走を阻止できず、馬車が溝に片輪をかけてしまい、そのまま突っ込んで溝にはまってしまう。
ガストンさんは馬車を守って、あぜ道の泥に足を取られてしまったんだ。
そうじゃなきゃゴブリンなんかにやられっこない。
あっという間に潜んでいたゴブリン達に囲まれ襲い掛かって来るも、飛び降りたガストンさんが振り回す大剣に近づけないでいた。
どくどく血が垂れてる!
僕らもケンウッドさんを守ろうと妹を背後に前に出る。
いつもならなんとかなんとかできるのに、この小鬼達は全部が小鬼に似つかわしくない中々の盾を持っていて、妙に連携してきて全く倒せなかった。
信じられない。
これが暴走を放置すると作られる軍団!? 早すぎない!?
待ち伏せの奴もこそこそとボルトを撃ってくるし。
そうこうしてると回り込んだ奴が馬車に入りこみケンウッドさんの背後を狙おうとした。
引きずり降ろしたガストンさんの利き腕に、待ち伏せ穴から放たれたボルトが食い込んだ。
目の前には四匹もいる。
「キャアッ!」
カァンッ! もうすこしで妹が撃たれるところだった。
腕が痺れる。
疲れてもう体が動かない。
来る。
僕は死を覚悟した。
その時だった。
森の中から矢が何度も放たれ、後ろの二匹が一撃で死んだ。
待ち伏せ穴の中の奴も悲鳴を上げた。
ベイリ村の人達だと最初は思ったけど、違った。
弓を放り投げながら、すごい速さで女の人が森の中から飛び出してきて、すごく大きな鉈でソニーに襲い掛かる奴を背後から斬る。
片手で?
なんて力だ。
そして、すごく美人だ……。
僕の方は残る一匹を相手に手いっぱいだ。
「一対一なら!」
必至で戦い、なんとか倒した。
よし!
彼女は鉈を引き抜き肩に担いで向こうを見ている。
待ち伏せは!? 死んだ? あと何匹――。
彼女がいきなり大ナタを向こうに放り投げた。
「ひっ」
あっ、荷馬車の後ろ、ガストンさん!?
「どわぁ! なんだいきなり!」
見ると、大鉈が顔にめり込んだゴブリンが、更に向こうへと吹き飛んでいくところだった。
そんな馬鹿な。
やばい、ゴブリンより怖い。
耳が長い。
人間じゃないぞ。
でも、なんて奇麗なんだ。
ケンウッドさんが話しかけても何も答えない、と思ったらすごい速さで森に戻って入ろうとして、いや弓を拾って矢をつがえて振り向いた。
二本同時に。
そして明後日の方向に撃った。
奇行に驚いていると藪から飛び出した二匹のゴブリンが、その矢に二匹とも撃たれて、藪に戻って飛んでいった……。
ありえない。
感が良すぎる。
みんな茫然としていると、突然馬がまだ生きていた小鬼の頭を踏み潰して殺した。
そんなの見たことも聞いたこともない。
その後、どうやら彼女はエルフ族で、おかしいのはそういう種族だからだということ(誤解です)、ベイリ村の人らしいことだとわかった。
でも、でもあの眼、まるで蜥蜴族、いやそれよりも凄い眼だった。
一瞬目が合った時、体の芯まで竦んだ……。
ホントにエルフなの?
知ってるのと全然違うと思うんだけど?
話に割り込んでガストンさんに怒られた。
後で先輩が言ってたけど、ケンウッドさんもやっぱり警戒して、穏便にしつつ、相手がどう出るか探りながら話していたそうだ。
やっぱりガストンさんは頼りになる。
ゴブリンだってもう少しで、油断したところを一気にあの大剣で倒してた筈だ。
その時僕は怪我してたかもしれないけど……。
全然ルーナさんに気後れしてなかった。
ソニーの奴なんてずっと僕の服を掴んだまま後ろに隠れていた。
ガストンさんを治療してる時、ルーナさんが滅茶苦茶見つめてきたので真っ赤になった時のやり取りもそうだけど、キリッと真剣な顔してるのに、長い耳がピクピク動いていてなんだかおかしかった。
照れてるだけなのに怒ってると勘違いしたの?
エルフって感情とかがあまりないのだろうか。
その時のケンウッドさんとの会話で、ゴブリンも魔法を使う奴がいると聞いて驚いた。
呪術と呼んで、呪術士とか、シャーマンとか呼ぶそうだ。
勉強になるな。
ルーナさんもふむふむと頷いている。
あれ? 知ってるのかと思ってたけど。
ベテランなんだよな?
でも、すごく強くて経験豊富なのに治療魔術を知らないのは、なんだかあべこべだと思った。
あん時は得体が知れなくて、そっけない態度を取っちゃったのが悔しい。
次会ったときはちゃんとしよう。
それに、ベイリ村のことを話した時、なんだか優しい感じの、その後少し寂しそうな顔になってたな。
なにかあったんだろうか?
僕らの尊敬するガストン先輩と同じぐらい、ちゃんとした態度を取らなきゃな、と思った。
その後報酬のやり取りをして、急ぎだからって全部断ってた。
それなのに馬車を道に戻すのを手伝ってくれたけど、本当にすごい力持ちなんだと知った。
ケンウッドさんがせめてもと渡した魔法薬のことも知らないみたいだった。
知っている、酒だなってキリッと言いきったときは妹と一緒に吹き出しそうになったよ。
変な人だ。
そして大の大人のケンウッドさんの頭を子供みたいに撫でているのもびっくりした。
うらやましい!
ありえねーエルフ。
戦利品を回収し、先を行く間、もう少しで着くんだけどケンウッドさんはビクビクしていた。
ルーナさんが一緒だったら心強かったろう。
僕はそれが悔しい。
頑張って護衛しよう。
妹が無事でよかった。
いつものようにそれぞれの額を合わせて、無事を祝う。
ガストンさんは、さすがに手に入れた盾を常に前にして警戒している。
ルーナさんが村から来たって言ってたからには、この先は安全だと思うけどなぁ?
僕らはこの後、更に驚くことになる。
エルフが全員ルーナみたいなわけがあるか!
あいつがとんでもなく変人なだけだ! とマルコっていう言う、先輩の元同僚の、髭もじゃの大男の人と同時に頭を小突かれた。
彼の頭の上はツルツルだったけど。
もしかして、あの有名な“旋風”本人?
滅茶苦茶痛かった。
護衛任務で初めて怪我したよ。
終わり
読んでくださりありがとうございます。
一章終了、二章へ続きます。




