閑話1 未明
小鬼の洞窟から帰還後、盛大な宴の熱が冷めた頃、酔いつぶれたマルコを背負い、眠ったまま歩くニコの手を繋いで、彼らの家へ入ってまた泊まり、寝させてもらった。
そしてハッと目が覚めた。
誰だ?
誰か呼んだか?
天井が見える。
まだ日も登ってないが、真っ暗でもない、夜と朝の間か。
マルコのイビキが変だな。
体を起こすとわかった。
ガストンが数時間前に入って来て、マルコの上に折り重なるように倒れているからか。
カタカタ……。
なんだ?
鞄から音がした気がする。
ほんの微かな音。
ニコの小さな寝息よりも小さい。
獲った蟹でも動いたか?
探るがこれと言って変な物はなかった。
ん、これは。
キィ……。
音もなく静かに部屋を通り、ボロボロの扉を油断なく開けて出た。
そろそろ外れそうだった。
む、鳥が、鶏がもう起きて土をほじくっていた。
(お前たちか?)
鶏は首を傾げて、くちばしにぶら下がるミミズを飲み込んだ。
裏か?
回り込んで進むと、草原と小川が見えた。
切り株が幾つかまばらに残った、村の裏手、ニコがさらわれた広場。
境界線の様な川の向こうの森は、まだ真っ暗で夜が潜んでいる。
居た。
お前か。
闇に紛れ込んで、出てこない。
冷気に運ばれて臭いでわかった。
女王の最後の子供か。
闇の申し子の様な、真っ黒な小鬼の王子だった。
そして向こうも臭いを辿って来たのか。
この木彫りの像、女王の残り香を。
祭壇で何度起き直しても倒れて転がり落ちていくから、結局持って帰ってしまった。
それとも、憎しみと復讐の為私の痕跡を嗅ぎ辿って来たのだろうか?
だが、違うと感じた。
ただ奴は迷って、何もわからずにいるだけだ。
あの肉塊で歪に変異した小鬼達。
ニコをさらったり、人を食う魔物達。
子供と一緒に襲い掛かって来た腹の大きな女の小鬼。
戦士だった王。
帰りに見かけた、邪気のない、逃げるだけの小動物みたいになった小鬼達。
目の前に隠れてこちらをうかがう奴は、ただ、迷っていた。
ニコのように。
小川の近くまで来ても動かなかった。
川の真ん中の、石の島になってるとこに乗ってもだ。
向こう側の切り株に女王の形見を置いて、振り返って戻った。
振り向かずに。
カサッ。
「……」
家に入って体を横にした。
翌朝、ニコとそこらを散歩した時、像は消えていた。
奴の匂いも。
終わり
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ルーナ被害者の会、その1




