29話 装い
最後の話です。
戦利品の武具やお宝の話になった。
村の農具や金物、毛皮のなめしも一手に引き受ける男が、まかせろとルーナの装具を手直ししてくれることになった。
戦利品は街と取引をしているケンウッドが買い取り、支払った金の分配は討伐隊の面々に多く均等に分配され、残りは村と、護衛を提供してくれたケンウッドへ。
ルーナには何度も受け取りを勧めたが、断った。
いくつか武具をくれれば良い、と望むので、優先して分配の前に良い武具を選ばせた。
使ってみたいと言い昨晩から危なっかしく振りまわしていた業物の長剣を気に入っていたようなのでまずそれを。
そして他にもガストンやマルコらが見繕ったものを持っていけと進呈した。
冒険者の先輩としてのアドバイスだと言う。
そういうわけで、装具の手直しや補強、加工の話になったのであった。
ルーナを優先して強化しよう、改造しようと、男共は一致団結した。
女達は反対にルーナを着飾らせようと団結するも、失敗に終わった。
美しい銀髪にいくら泥がこびりついていようが全く気にもせずに肉の塊に謎の小妖精と一緒になって齧りついている様を見て、彼女達は溜息を吐いた。
皮の軽鎧は調整され、鉄の胸当て等を取り付け補強された。
露出の多い部分、二の腕なども鎧を追加し、急所部分のほとんどに鉄板を取り付ける。
ただの村人の革靴は履き替えさせ、丈夫で補強してある旅用のブーツにし、籠手も丈夫な皮を選び装着させる。
鉄兜などは一部を外し削りもしてバランスを見たが結果、断念した。
動きや、重さなどもガストンらと模擬的に動き合って調整した。
ベルが入ったり、留まったりする為のひっかけや袋も何故か本人から注文され、職人の男は目を白黒させていた。
武具の研ぎや固定位置の調整等も仕上げていく。
さすがにルーナも動きやすく、戦いやすくなったのを実感し、早く何かと戦ってみたく高揚感を覚えたのだった。
その他に関しては街を訪れた際、調整を依頼するか購入するかの段階に入り、終わった。
いい加減にニコがグズり、ルーナを引っ張り村を出る。
裏手の門を出ると、畑が広がり、ニコがゴブリンにさらわれたという小川が流れていた。
ある程度木が切られて草原が広がり、野花が咲き、風に揺られていた。
そこでは子供らが駆け回って遊んでいたり、女達が楽しそうにしゃべりながら水場で洗い物をしていた。
本来の姿に戻った光景を眺めながら、手を繋いで歩く。
ニコとベルと三人で川沿いを歩いた。
装具を外し、だが長剣だけ鞘に腰巻いて、村娘のいで立ちで、さらわれた時に落としたという小さな木の斧を探した。
出会った時の話や、洞窟の話や、たわいのないことなど色々話した。
感覚ではすでに、痕跡等を辿って、斧が落ちてある場所はわかってはいたが、知らぬふりをして探した。
明日、行商の皆と共に街に行く。
旅立つことはすでに話してあった。
気が付くと、ずっと下を向いているニコの目に水があふれていた。
「どうしてさ……」
「……またいきなり何かが襲ってこないように、もっと外を見回りに行ってくる」
そして帰って来るからと。
――――
翌日。
朝、表門前が賑わっていた。
横の魔物の死骸はとっくに片付けられていた。
あれだけあった魔狼の肉は宴でほぼ残っていない。
出発の時間が来ようとしていた。
荷馬車は満杯で重さが増し、ケンウッドさえも徒歩で帰る羽目になった。
昨夜のお別れ会と銘打った酒を飲む口実の、二日続けての宴会で少し飲み過ぎ、頭痛に顔をしかめるガストン。
装備や荷物を確認し合う兄妹。
そして、エルフの娘を囲む村人たちの集団。
ある者は弁当を、ある者は手作りのお守りを、ある者は息子を無事に連れ帰ってくれた感謝を、ある少年は鞄に何かを忍ばせ、ある娘は結い上げた花の冠をかぶせ、
ある者は着こなしを調整する間、彼女の大剣を代わりに持ちよろめいた。
「どうせすぐ戻って来るんだべ?」
「ばっかおめぇ、街さ行ってもっとでっけぇ手柄取るんだぁ、こんなクソ田舎もう用はねんだっつの!」
「え~やだぁ、また戻って来てよぉルーナちゃん!」
「またゴブリンの奴が出ても俺らでやっつけれっから! 安心して行って来てくれろ!」
「そうだそうだ!」
マルコ「おい頼んだぞガストン! ルーナのやつ多分迷子になりそうだからな」
ガストン「ハッ、ばーかおやじ、んなわけある……おう!」
ルーナ「世話になった。また肉を食いに来る」
ベル「まったねー! ばいばーい!」
一同「おーう!」「わははは!」「またねー!」「結局ついてくのかよあのちっこいの!」
ブルルッ。
ガラガラ……そうやって、荷馬車を引く一行が街道を歩いて行った。
マルコに肩車されたニコは最後の最後まで、少し昇って、降りて、見えなくなる馬車を見つめていた。
「坊主、強くなったらまた会えるかも知れねえぞ? 俺の息子だ。保証するぜ」
「……うん」
街道を、荷馬車を護衛しながら歩く、エルフの娘がいた。
なんだか、胸の中が、嬉しさと、そして少し寂しいのが混じっていた。
そういえば、と鞄の中を探る。
あった。
小さな木の斧が鞄に入っていた。
そこには二つの模様が刻んであった。
これは、文字。
そしてこれは、私にもらった名の、一部だと知っている。
父と、母の名を一つずつ取ってニコ、と書いてある。
何も覚えていない。
親も名前もどこから来たのかもわからない。
全く空白な自分。
次第に感じて大きくなっていた、宙に浮かぶような、すき間が空いた感覚。
それはいつの間にやらずいぶんと小さくなっていた。
もうたくさん埋まったから。
連れて行こう、一緒に行こう。
この先へ。
薄暗さが濃くなろうとしている、明るい向こうを見に。
一章 終わり
読んでくださりありがとうございます。
ひとまず一章はここまでです。
閑話が少しあります。




