21話 変異
ビクター少年「うぇ、何ですかあれえ!」
「うおおなんだあの化けもん共は!?」
うん?
あ、そうか、見えてなかったのか。
ここは日が差す広場の最奥の暗がりだからか、影になっていて確かに目を凝らさないと見えない。特にあの部屋は壁の奥に隠れるように掘られているからな。
それより産まれた何かだ。
全身を覆う粘着質の汁が垂れて、乾いていくにつれ濡れた毛皮があらわになり、通常より大型の“魔狼”が起き上がる。
奇形に変異していて、顎の牙が異常に発達して狂暴に伸び、しかしばらばらに歪んだ並びで生えていた。逆に眼が退化? したかのように小さい。
退化ってなんだろう?
言葉は出たが……。
マルコ「なんだありゃあ! あの、あれが女王か!? ばかな! ありえんぞこれは!」
ガストン「どうりで今回おかしいことだらけなはずだよ」
彼らの知ってる女王とは違うようだ。
「ん」
逃げた呪術士が世話しているが、その一匹に突然、女王の水膨れした水死体のような腕がそいつを掴んで、口を歪ませるように変形させて、一息に飲み込んでしまった。
皆「「!?」」
「ウギュァボアアアア!」
変異女王の身体がボコボコと沸騰したように蠢く。
まるで、二首ホブゴブリンが強力になった時と同じだ。
「ギヒィイイヤダァ!」
もう一匹の法服を着た呪術士が悲鳴を上げて逃げ出す。
嫌だと言ったな今。
しかし、女王がまたもや捕まえて、いや、背中から拳を降ろし叩き潰した。
ゴブジャアアッ!
皆「「ぎえっ」」妹「ひいっ!?」
そして半殺しのまま、また飲み込んだ。
マルコ「あれ何してんだいってえ!? 食べちまったぞ!?」
「また何か産むのかもしれない! さっきも生きた魔狼を運び込んでいたんだ! それよりあの狼、来るぞ!」
ビクター「狼!? (あんなのが魔狼!?)」
妹ソニー「ルーナさんがわりと長めにしゃべった!?」
待ってくれてたわけじゃないが、調子が出たのか、少し渇いた変異魔狼が弾けるように爆走して来る。
ドタタッドタタッ。
だが変異黒ゴブより少し遅い。
そして全然魔狼と同じ動きだ。
ダッ。
私も走り、奴がやはり飛び上がったところを下をくぐり大剣で割いた。
ズバアアアアシャアアアッ!
結果は、上手くいった。
器用に大あごをよけて、奥から斜めに真っ二つに両断され、二つの肉塊が援軍達の目の前にドサァッと落ちる。
だが食いつこうとした牙、いきなり少し大きく変化していた。
地面に変異巨大化した頭が全部めり込んだ。
落ち溜まった埋没土が柔らかい。
露出してる下半身は斜めに斬れ割れている。
「「すっげ」」
ガストン「おいおい俺でも今の芸当はむずいぞ!?」
マルコ「ルーナおめぇ……腕を上げたな」
「うむ」
大剣がスヒュンと音を立てて血糊を弾いた。
ビシャッ。
ズルンッ!
ブチュルッ!
皆「「!?」」
奇妙な音がし、また何か生み出すのかと変異女王の元を見る一同、しかし何も産み出されてはいなかった。
「上だ」
なんと、涎を垂らし息を荒くする女王のすぐ横に、さっき食った呪術士の頭部が出現していた。
マルコ「お、おいありゃあ、村に出た二つ首みてぇになったちまったぞ! 自分を変異させたってのか!?」
ガストン「言わずもがなだな」
ソニー「あぁ! 呪文を唱えてますよ皆さん!」
彼女気づいたのか、やるな。
やはり呪文というのかあのブツブツは。
そして魔法の力、魔力だろうか、私にもわかるようになった。
呪術士の首が一緒に何か唱えている。
そしてそれは一つの頭で放つより強力な力だとわかる。
ソニー「あれは同時詠唱です! 強力なやつです!」
何。
だがしかも、二匹分以上に、更に膨れ上がっていた。
防がなければならないな。
既に、弓の狙いはついている。
ギリリ。
バシュンッ。
連続で放った。
呪術士の首と、ついでに女王の額も狙い撃った。
女王の手前の地面に黒い水溜りが出現している。
バシュバシュバシュ!
矢がなくなるまで、矢が駄目になろうと連射を続けた。
水たまりがどんどん広がる。
女王は息がある。呪文も止まらない。
弓持ちの村人も参加し妹も水玉を唱え参加してくれるが、止まらない。
ブツンッ!
「っ」
さすがに限界が来て弦が切れてしまった。
弾け当たって痛い。
矢は二十本近く、三つの首に見事に刺さり、もはや表情も見えなくなっていた。
右の頭が死んだように見える。
呪文は防げただろうか。
ビクター「す、すごい、でも、壊れちゃった」
ソニー「と、止まった? 詠唱……」
黒い水溜りの広がりは止まり、それはただの穴のように見える。
なんだか変だ。全然波打ってないし、水っぽくもない感じだ。
そして、嫌な気配が凄くアレからしている。
冷たく凍えるような、近づき難い感じが。
「「ゴクッ」」
息をのむ一同。
私は槍斧を拾いに走る。
夜警の青年「あ、ルーナさん左! ゴブリン王が!」
私は目を見開いた。
王の死骸に黒い水溜りができている。
そっちにもだと?
「?」
女王を振り返ると手前に同じものがある。
なんだこれは!?
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