1話 丘と石
とりあえず始めます。よろしくお願いします。
石でできた棺の闇中で、死体の様な白い美女の、竜の瞳が見開かれた。
とうとう彼女が目覚めた。
そのエルフらしき美しい娘は石棺の中で、人知れずに。
辺りは暗闇だった。
夢を見ていた気がする。
とても長い夢を。
ひんやりとした固い感じが、二の腕から、手の甲からする。
(……石?)
そして息から感づく、狭い。
石の中? 地中? ――どこだ?
彼女のぼんやりした意識がだんだんと覚醒していく。
「ぅ……ぁ……」
けれども頭の中が朧気でどうにもはっきりとしなかった。
ここはどこで、自分は誰なのか、わからなかった。
心のどこかで寝起きにたまにそうなることがある、というのが浮かんだが、どうもそういうのがずっと続いている。
これは、夢?
夢って、なんだ?
手足を動かしながら、狭い石棺のような長方形だと手探りしながら、記憶が全くないことも手伝って、恐怖に焦る自分がいた。
すぐ目の前に見えないが壁がある。
自分は埋葬されたのか? ここは地面の中なのか!?
「……ぁあ、あー……あ……た、たす……誰か……助、けて……」
「誰かぁ!」
「……」
どこかからかすかに、虫の声が聞こえる気がする。
夜?
なぜかわからないけど、そんな感じがした。
記憶がまったくないのに、なぜかわかるような気がする。
夜の虫の声? 夜も、虫も、石も、手足は体のこともわかる。
知っている。
思い出や、両親? のことといった記憶がなかった。
自分が、自分がどういう人間でどうやって生きてきたかがわからなかった。
いらだち、怒り。
それを吹き出すように目の前の壁を叩く。
ゴツンとした石の響く音が、振動が広がる。
腕を振りかぶる隙間もない。
力を込めて叩けなかった。
手足をバタつかせて殴る蹴る。
暴れる。
「っ!!」
目の前の壁一面だけが動いた気がした。
壁? ……蓋!? 本当に石棺だった!?
地中でもない? 両手で思い切り押してみるが、すごく重い。
「んのおおおおっ!」
両手で思い切り押すと同時に、蹴っ飛ばしてみた。
蓋が少し吹き飛んで落ちる地面? に落ちる音がする。
目の前の視界が大きく開けて広がった。
キラキラと瞬く星々と、まばゆく輝く二つの月が明るく照らしていた。
半身を起き上がらせ、その手を石棺のふちにかけて、周りを見ると、そこは丘の頂上だった。
夜の丘の上に大小の石柱や岩の塊がゴロゴロと、不規則にぐるりと石棺を囲んで並んでいた。
周りは真っ暗だが、月明りで木々の群れ……森、だとわかった。
見渡す周囲全て森が広がっていた。
この丘だけがなぜか、無人島、のようにポツンと存在していた。
自分はその真ん中の、棺の中で目覚めて、月明かりに照らされてたのだった。
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