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第八話 The Chaser

第八話


「準備OK。全員乗り込んだぞ!」

「忘れ物はないな?」

 ヨーロッパ、フランス郊外にて彼らは最後の確認を行っていた。

 これからヨーロッパを離れ、彼らはアメリカへ帰還する。それにくっついてヴィクトリア達もアメリカへと渡る。

 二人は既に予備電源モードに切り替え、省エネのために座席に座ってスリープモードに入っていた。何かあったら起こすように部隊員には言っておいたので、問題ないだろう。外から呼び掛けられれば起きるようにセットしてあった。

 徐々に空中へと航空機は浮かんでいく。部隊員約二十名を乗せた航空機はアメリカへと向かって飛んでいった。



「ヴィク姉とアレクちゃんの反応が消えましたぁー」

 レンシアは“マザー”の前に立って報告を行う。相変わらず柔和な笑みを崩さない“マザー”は次なる命令を演算し、はじき出す。

『わかりました。では……あなた達に出てもらいます』

「了解ですぅー。目標は生かして捕らえますかぁー?」

『可能ならば生きたまま捕らえてほしいですが……抵抗するときは破壊しなさい』

「わかりましたぁー」

 レンシアはくるりと背を向けて“マザー”のいる部屋から出る。

 彼女は両目を瞑ると、同じCタイプアンドロイドに語りかける。

「複数CPU同時並列モード展開ぃー。クレヤボヤンス能力強化によりぃー、ヴィク姉達の場所を発見するよぉー」

 テレパシー――離れた場所にいる仲間に語りかけるESP能力である。そして、ロベミライアの頭脳と呼ばれる所以である、同時並列演算モード。これは複数のアンドロイドの脳を接続し、高度な演算を行う能力だ。ざっと二十人ほどはいるCタイプ全員の脳を接続してクレヤボヤンス能力を使えば、彼女達に視えないものは――ない。

「西経二十二度、北緯五十四度地点にて飛行中のヴィク姉達を発見ー」

『オートマータを派遣しますか?』

 別のアンドロイドが語りかけてくる。だが、レンシアは首を横に振る。

「あたし達で直接殺るよぉー? 抵抗する場合は破壊してよしぃー。人間も全員殺してよしぃー。目標の完全破壊が今回の目的ぃー」

『いいのですか? レンシア様のご友人を……』

「友達でもまた作ればよしぃー。Aタイプアンドロイドのデータは本部に残っているものぉー。複製は可能だよぉー」

『ただし、記憶の複製までは……』

「いいのいいのぉー。どうせ“ジャンク”にはもう用事ないしぃー」

 レンシアは武器庫に向かってオリハルコンコートに着替える。

「本気でいくよぉー。各自戦闘配備ぃー」

 続いて何人ものアンドロイド達が兵器庫に入ってくる。各自それぞれの装備を身に付けると、レンシアの前に並んだ。

「航空機にて敵機に接近ー。向こうからの攻撃も予測されるので、並列状態は解除しないよぉー。プレコグニションで完全予測してぇー、全ての攻撃を回避ぃー。一定距離まで接近後、テレポートで敵機内に飛んで、直接制圧ぅー。おっけぇー?」

「了解です!」

 一向は武器庫を出ると、格納庫へと向かう。一機の飛行機が準備されていた。

 彼女らがそれに乗り込むと、低い音を立てて少しずつ浮かび上がっていく。

「じゃあいっくよぉー!」



 ヴィクトリアとアレクを乗せた航空機は順調にアメリカへと向かっていた。目的地はアメリカ東部、ニューヨークである。

 ニューヨークは未だ戦地となっていない地域である。南アメリカの大部分は荒野と化したが、まだ北アメリカでは一部の地域しか大規模な戦闘は行われていなかった。

 もちろん、転移によるオートマータ兵派遣による戦闘によって、度々研究所を攻撃されたことはあった。そう――今のこの地球上に安全な場所などないのだ。

「超高速で接近する飛行物体がレーダーに映っています! 所属国籍不明、おそらくロベミライアです!」

 スクランブルが鳴る。その音にヴィクトリアとアレクは叩き起こされた。

「転移じゃなくて航空機による接近……まさかアンドロイド!?」

「僕出ます!」

 アレクはフランシスカを手に取ると、ハッチに手をかける。

「待ちなさい!」

「大丈夫です、僕、覚悟をもう決めましたから」

 そう言うと、彼は航空機から飛び出した。

「この航空機には戦闘装備は積んでないの!?」

「艦載機関砲が二門なら……」

「横から来るわよ! 各自戦闘準備をしなさい!」

 既にヴィクトリアの短距離レーダーにもロベミライアの航空機は映っていた。このスピードだと、間違いなくニューヨーク到着前に戦闘が行われることは確実だ。

 ヴィクトリアはハッチを開くと、そこからドラゴリアを構える。

 ドラゴリアには二種類モードがある。彼女が好んで使っているレールガンモードと、通常のライフルと同じように火薬によって弾丸を射出する通常射撃モードだ。

 ドラゴリアを通常射撃モードに切り替えると、劣化ウラン弾を挿入し、構える。

 彼女の目には既に敵機の姿は見えていた。だが、まだ射程距離外である。

 彼女は焦らずに、照準を合わせる。まだだ、まだ早い。そう言い聞かせながら唾を嚥下する。

 一方、一人で飛び出したアレクは間もなく敵機に到着しようとしていた。ロケットエンジンとジェットエンジンをうまく操りながら接近する。

「やあああぁぁぁぁっ!」

 フランシスカを大きく振り上げると、右翼のエンジンへと思い切り突き立てようとした。が、その瞬間航空機が傾いてエンジンではなく翼にフランシスカが突き刺さる。

「げ、アレクちゃん飛んできたのぉー?」

 ハッチが開かれ、レンシアが飛び出してきた。

 サイコキネシスで飛行しながらミッドナイトを指から放つ。

「ッ!」

 アレクは航空機から一旦離れる。ミッドナイトの射程範囲内に入れば最後、引き斬られることは間違いない。

 射程を考えれば、明らかにアレクの方が不利だった。

「二対一はズルいよぉー」

 レンシアはミッドナイトを網状に編んだ。その瞬間、そこを狙って劣化ウラン弾が飛んでくる。ミッドナイトの壁に弾かれ、炎上した。

「姉さま!」

「今のうちに!」

 ようやくヴィクトリアの劣化ウラン弾の射程範囲内に入ったのだろう。こうなれば、レンシア一人ではさすがに不利だ。攻めるならば今がチャンスだろう。

「やあああぁぁぁぁっ!」

 今度こそエンジンへとフランシスカを叩き込む。右翼エンジンが大破し、航空機が傾く。

「皆、行っくよぉー!」

 その瞬間、レンシアの姿が消えた。そして、航空機も徐々に離れていく。

「え……?」

「やられた! テレポートでこっちに侵入された!」

 ヴィクトリアはレヴァンティンを抜くと、ヒートソードモードに切り替える。機内で戦うのに、ショットガンは使い辛い。

「あっはははぁー! ヴィク姉とは一度本気で戦ってみたかったんだぁー!」

 ヴィクトリアは両手のレヴァンティンをミッドナイトに叩きつける。オリハルコンの糸で編まれた壁は簡単には突破できない。

「うわぁっ!」

 他の部隊員も突然のテレポート奇襲に驚きふためいていたが、なんとか武器を構えると、アンドロイド達と狭い機内で戦っていた。だが、アンドロイド部隊は身体能力の差で人間よりも圧倒的に有利だった。

 ただ、数だけは人間の方が上だ。アンドロイド二人と、人間およそ四十人。アンドロイドの二倍はある。

「二人一組で行動しなさい!」

 いつの間にか、部隊の指導権はヴィクトリアに移動していた。部隊員はヴィクトリアの命令を聞いてそれぞれ攻撃する。

「姉さま、お待たせしました!」

「アレク! 二人でレンシアを倒すわよ!」

「はい!」

 ミッドナイトの最適射程は中距離だ。ある程度離れた距離からの攻撃が最も威力を発揮する。ならばその距離に入らずに畳みかければ良い。

 ヴィクトリアは近距離戦に持ち込んで、レヴァンティンを続けざまに叩き込む。レンシアはガードに手いっぱいで、攻撃する暇がなかった。

 そしてアレクとの連携攻撃で少しずつ糸を薙ぎ払い、壁を打ち崩していく。

「さすが最強候補ってことだけはあるねぇー。それにアレクちゃんとのコンビネーションー。あたしの予知でも凌ぎ切れなくなってきたよぉー」

「二対一ってのはちょっと気が引けるけど、確実に勝つためよ!」

 アレクはロケットエンジンをブーストさせて糸の壁を薙いだ。鉄壁だと思えたミッドナイトのガードがついに崩れる。

「トドメよ!」

 ヴィクトリアはレヴァンティンをショットガンモードに切り替えて構えると、引き金を引いた。

 この近距離ならば弾丸が散らばることもない。全弾命中させれば確実に仕留められる。

「あうっ!」

 爆炎に煽られてレンシアはハッチから外へと吹き飛んでいく。

「やった!」

「この調子でいくわよ!」

 他の兵が戦っているアンドロイドの元へと二人は分かれて攻撃しにいく。超能力を扱うアンドロイドが相手というだけあって、人間も苦戦しているようだった。

「クソ! 攻撃が当たらねえ!」

「皆伏せて!」

 予知能力を持っている敵が相手ならば、予知能力をもってしても避けられない攻撃を繰り出せばいい。

 レヴァンティンによる広範囲の焼却。これがCタイプアンドロイドに対する戦法としてはもっとも有効だった。

 爆音と共にアンドロイド達が吹き飛ぶ。戦闘不能にするには頭だけ吹き飛ばせばいい。

 何人かのアンドロイド達が刀剣を手に迫ってきたが、基本スペックはリーダー型であるヴィクトリアの方が上だ。予知能力がなくとも、その程度の攻撃であれば簡単に避けることができる。

 そして、すれ違いざまにレヴァンティンを撃ち込む。これの繰り返しだけでアンドロイド部隊のほとんどを掃討することができた。

「ラス一!」

 アレクが戦っているアンドロイドに横から撃ち込む。アレクには当てず、敵だけに当たるようになんとか軌道を逸らして撃つ。

「ふう……。損害は?」

「死傷者十二名、負傷者二十七名です。エンジン小破、他にも一部破損しましたが、航空機の運航には問題はありません」

 そう言って兵の一人がドリンクの入ったボトルを差し出してくる。

「ありがと」

「ヴィクトリア殿は我々の隊長よりもよっぽど現場慣れしていますな」

「で、その隊長さんは何してたわけ?」

「先ほどの戦闘で亡くなられました」

「そう……それはお気の毒にね……」

 場がしんみりとした空気に包まれる。

 それを晴らすように、ヴィクトリアは明るい口調で言った。

「全滅を免れたことを喜びましょう!」

「そうですな。私が副隊長なのですが、隊長はあなたが務めた方がよさそうだ。到着するまでの間、隊長を務めてもらっても構いませんか?」

「おっけー。といっても、残存戦力的にあと戦えて一回くらいでしょうね」

「チルドレンは少々手厳しいですが、オートマータならなんとかなります」

「生き残ったメンバーはとりあえず各自自分の怪我の治療を。私は寝るわ。またなんかあったら起こしてね」

 そう言うと、ヴィクトリアは堅い椅子に座り、シートベルトを締めるとスリープモードに入った。

「それじゃあ皆さん、お願いします」

 アレクも隣に並んで眠りに入る。二人は少しでもエネルギーを節約したかった。

「各自怪我の手当てと武器の再確認を! 次の戦闘に備えて準備をしろ!」

「「はい!」」



「まさかここまでこてんぱんにやられるとは思ってなかったぁー」

 海の上に浮かびながら、レンシアは一人愚痴る。

「オリハルコンコートがなかったら一撃だったなぁー。やっぱりアンドロイド最強の名は伊達じゃないなぁー。さっすがヴィク姉ー。まさか全滅させられるとは思ってなかったぁー。かなわないにゃぁー」

 サイコキネシスで海から浮かび上がると、ゆっくりしたスピードでロベミライアの本部へと向かう。

「一応救助信号出しとくかなぁー。あたし一人のために船を出してくれると助かるんだけどぉー。ま、とりあえず自力で帰るかぁー」

 ふわふわと浮かびながら彼女は空を飛んでいった。



どうもこんにちは、ほーらいです。

予約掲載機能を使ってみました。これ便利ですね。

これを使っておけば予定通りに投稿ができます。


さて、それは置いといて解説行きましょうか。


各タイプアンドロイドには特殊能力があります。

Aタイプはロベミライアにおける眼の役割を果たし、強力な視覚能力及び、索敵能力、狙撃能力に優れます。

特殊能力として体内レーダーによる広範囲に及ぶレーダーを持っています。

Bタイプはロベミライアにおける左腕を司り、小手先の器用さなどが特性です。実はあんまり細かな設定を決めてなかったり(汗)

Cタイプは頭脳の役割を果たしており、強力なESP能力を得意とします。

今回のお話で出てきましたが、彼らの能力は多才能力マルチスキルです。

一人一人の能力は本当はこんな大きなものではありません。

そもそも超能力というものを人為的に発生させるのは非常に難しく、これはある種の突然変異によって生まれる力となっております。

ですが、常人を二十人集めれば、その脳を並列的に並べて一つの巨大な演算装置と見ることにより、強力な計算を行うことが可能となります。

これによって、通常世界に影響を及ぼす超常的能力(すなわちESP)を引き起こす計算式を生み出し、その計算式に従って超常現象を発生させるのがESPとなっております。

個人がやる場合、この計算を人間一人の脳みそで行わないといけないわけですから、相当頭が良くないとムリです。

ちなみに部品第一部のレン君は例外です。彼の場合、別人格が超能力を使っており、その結果を彼自身に見せているため、彼自身は特別頭がいいわけではないです。でも別人格はヤバイ頭いいです。性格破綻者っぽいですけど。

他の超能力者は皆頭いいですよね。部品番外編の彼女やら、第二部のヒメちゃんなどは頭いいです。

もちろんアンドロイドも頭がいいので、個々人が超能力を一つくらいずつ持ってはいます。

・・・あれ、何かとある魔術のインテグラルさんっぽくなってきた。まあいいか(蹴


さて、忘れ去られそうなDタイプさんは右手を司っています。戦闘能力重視した彼らは強力な体力を持っており、白兵戦能力はトップクラスです。

さて、今日の解説はこんなもんですかね。

それでは次回予告へいきましょうか。


戦いを終えた二人はニューヨークへと到着する。

一方、レンシアも本部へと帰還していた。

大打撃を受けたアンドロイド部隊。しかし“マザー”は不敵に笑う。

『問題ありません。既に手は打ってあります』

完璧主義の機械は一体、何を思っているのだろうか。


次話、第九話 The Smiler

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