第七話 The Thinker
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次回予告の中の一文
第七話
仲間を見送った二人はアラビア半島から迂回してヨーロッパに入っていた。
二人の間に会話はない。仲間を失った心の痛みから、二人ともまだ立ち直ることができなかった。
ただ、仲間の屍を埋葬したとき、ヴィクトリアは思った。仲間を犠牲にしてまで生き残ったからには、何がなんでもロベミライアの改革をやり遂げなければならない。
彼女は周囲をサーチして人間の部隊を探す。こんなときに限って人間になかなか出会わなかった。
そうやって数日を過ごす。いい加減痺れを切らした頃に彼らはようやく人間の部隊を見つけることができた。
かつてフランスがあった辺りの地域で人間の部隊が駐留しているのを発見する。彼らはキャンプを張って食事をしている最中だった。
ヴィクトリアとアレクはキャンプへと向かう。
「あのー!」
ヴィクトリアは大きな声を張り上げる。すると何人かの男が気付いたのか、こちらに手を振ってくる。
「どうした?」
「私達、オキシデリボ密属部隊の者なの。仲間とはぐれちゃって……。なんとか連絡取れない?」
「オキシデリボ密属部隊……?」
彼らは不思議そうな表情を浮かべて顔を見回す。
「知らないな」
密属というくらいなのだから、一般には公開されていないのだろう。彼らが知らないのも無理はない。
「オキシデリボと連絡取れない?」
「ちょっと待て」
男は通信兵らしき男と話をする。すぐに通信兵は準備を行うと、こちらにイヤホンマイクを差し出してきた。
『はい、こちらオキシデリボ株式会社でございます』
「あの、光間サトル隊長と連絡取れませんか?」
『少々お待ちください』
しばらくの間、イヤホンの向こう側から音楽が流れていたが、やがて音楽が止まり、男の声が聞こえてくる。
『光間だ。誰だ?』
「私、ヴィクトリアよ。数日前にご一緒したでしょ。覚えてる?」
しばらくの間、イヤホンの向こう側は黙っていたが、やがて意を決したのか、声が聞こえてくる。
『……何用だ?』
「はっきり言うわ。亡命したいの」
『何が目的だ?』
「ロベミライアに幻滅したのよ」
『アンドロイドに意思があるのか?』
ヴィクトリアはそういう思考に至った経緯を説明する。
「あなた達の生き様を見て思ったのよ。人間は滅ぶべき生き物じゃない。私達は間違っているってね」
『……罠じゃないのか?』
「なんならあなたに武器を全て預けてもいいわ」
『……少し待て』
再び保留の音楽へと変わる。
少し、という割にはかなりの時間がかかった。
しばらくして、二人の声が聞こえてくる。
『待たせた。ウチのトップを連れてきた』
『え、えっと、デオキシリボ会長の桜木ユイと申します』
「こんにちは、私はロベミライアAタイプアンドロイド元リーダー、ヴィクトリアよ」
イヤホンの向こうの声は若い少女のものだった。
「あなたが会長?」
『あ、はい、そうです』
「にしては随分若いわね」
『よく言われます』
困ったような口調でユイは言う。
「まあいいわ。話はサトルから聞いた?」
『はい、亡命したいんですよね?』
「そ、二人分の行き先を用意してくれる? その見返りにロベミライア製のアンドロイドを隅から隅まで調べる権利をあげるわ。オートマータ以上のロベミライア最先端技術の結晶を見ることができるのよ」
「姉さま!?」
アレクが大きな声を上げる。
「いいのよ。それに、まだ私達には隠された性能があるはず。それを発見してもらうためでもあるのよ」
「隠された機能ですか……?」
ユイが不思議そうに尋ねる。
「“お母さま”が以前に言っていたのよ。バージョンアッププログラムが完成したって。それはあまりの機能故に搭載はされたものの、アップグレードはしなかったらしいの。貴女達ならそれを探し出して実行してくれるはずだわ」
『わかりました。あなた達を受け入れます』
「ありがとう。私達はどうすればいい?」
『その部隊と一緒に帰還してくださいアメリカに戻り次第、こちら側から迎えに行きます』
「了解」
ヴィクトリアはイヤホンマイクを外し、通信を切る。
「この部隊はいつ戻るの?」
「明日にはアメリカ本土に帰還する予定だ」
「OK。私達も連れていってもらえる?」
「構わない。一人や二人増えても変わりはしないからな」
その日はその部隊のメンバーと夜を過ごした。
途中で見張りを交代したり、部隊のメンバーと会話したりと楽しい夜となった。
日が明けた。ヴィクトリアは索敵システムを起動して、見張りを続けていた。
「そろそろ出発するぞ」
キャンプを畳み、部隊のメンバーは撤収の準備を始める。
今のところ索敵レーダーの範囲内に敵はいなかった。
“マザー”はあの爆弾型オートマータでアンドロイド部隊を全滅させることができたと思っているのだろうか。
あの“マザー”のことだから、おそらく万が一のことを考えているに違いない。
だが、例の作戦のことを考えると、アンドロイド部隊を半分失ったロベミライアに戦闘へ出せるアンドロイドはいないはずだ。
となると、再び爆弾を搭載したオートマータを出撃させるか。またアレを出されたら、もう次はない。
「どうしよう……私達がアメリカに移動してる間に攻撃されたら終わりよ」
「あの爆弾ですか……?」
「そう。私達が生きている限り、ロベミライア本国に位置情報はダダ漏れだし……」
二人の位置は衛星を介して常に本国へと送信されている。つまり、向こうの準備さえ整えば攻撃を行うことが可能なのだ。
二人は唸って考える。こうしている間にも、攻撃が行われてもおかしくはない。
「そうだ! 一体本体電源を切って、予備電源に切り替えればいいんじゃないですか? GPSの装置は本体電源依存だから、予備電源に切り替えれば働くなるハズです!」
アレクは顔を上げて言った。それに対し、渋そうな表情を浮かべるヴィクトリア。
「予備電源の稼働時間は24時間よ? その時間内にアメリカへの移動が終了しなければ……」
「信じるんです。電源の切れた僕達を人間が壊さないと……」
アレクは目を輝かせて言った。
ヴィクトリアは疑問だった。人間を信じてみようかという気にはなったが、自らの運命全てを委ねるほどまでに信用してはいない。それなのに、彼は信じると言った。ここまで信じきれるのはなぜなのだろうか。
「予備電源モードだと消費電力の激しいレールガンは使えないわよ? 空中戦になった場合、射程の短いレヴァンティンは使えないし……」
「そのときは僕が戦います。僕のフランシスカなら、空中でも戦闘可能です」
「あなたはまだ戦闘経験が少ないし……」
「人間ならためらいますが、オートマータならやれます!」
「アンドロイドでも?」
彼はそこでしばし黙った。まずないと思うが、本部防衛の人員を割いてアンドロイド兵を出してきた場合、アレクはためらいなく彼らを倒せるだろうか。
答えは否、だ。敵である人間すら倒すことのできないアレクだ。仲間だった者を倒すなんてことはもちろんできるわけがない。彼の覚悟では逆に返り討ちにされるだけだろう。
「あなたをつき動かしているものは何? あなたの信念は? まさか私がやるから、なんて言わないわよね?」
「僕は……僕は……」
アレクは何も言うことができなかった。
「ごめんなさい、少し意地悪をしすぎたわね」
「姉さま……」
ヴィクトリアは彼に背を向けると、先に歩き出した部隊の後を追って歩き始める。
アレクは何も言うことができず、ただ黙って彼女の背中を追うことしかできなかった。
|壁|・`)そーっ・・・
|壁|ミサッ
|壁|・`)そーっ・・・
|壁|・`)<皆様ごめんなさい
というわけで超ウルトラ久しぶりに更新ですよ。
何してたかって? トリリス書いてました。
もう43話までいきましたよ。それでようやく第二章の終わりが見えてきた感じで・・・。
でも、最初に明言してたほのぼの系ファンタジーってのはもう崩れつつあります。下手するとダークファンタジーの仲間入りです。
マリスが白兵戦するわ、殺人鬼は現れるわ、クロスオーバーしまくるわ・・・。
なんかほのぼの系っていう名残らしきものが見当たらないのは気のせいでしょうか?
まあいいや、それをここで語っても仕方がない。
それにしても、サトル君達はよくヴィオレッタを信用したものですね。
アレか、昨日の友は今日の敵か。あ、それじゃ逆じゃないか。
今回の解説は本体電源と予備電源の違いー!パチパチ!
本体電源というのは文字通り、主電源のことです。
全身のあらゆる機能を100%発揮するためには大量の電力が必要です。
彼女らアンドロイドは核融合水素電池で動いているわけですが、こいつはすっごい量の電力を生み出せるスーパー電池です。何が凄いってミスったらチェルノブイリの二の舞になるくらい凄い。
さて、予備電源のほうはというとこちらは充電式です。たぶんリチウムイオン電池か何か。特に決めてないです。
コレは本体電源が使用不可になったりした際に使用する一時的な電池です。
もちろん、大量の電力を必要とするレールガンを使用することはできません。使用することはできますけど、使った瞬間に予備電源の電気全部使ってお陀仏です。
ちなみに、予備電源使用中は色々な機能の使用が制約かかります。
体内搭載レーダーだとか、作中に出てきたGPSなどなど。
まあ、今回のはソレを逆手に取ったわけですけどね。
では、そろそろ次回予告いきましょうか。
迫り来るはかつての仲間。
煌びやかな鋼糸が空気を切る。
「複数CPU同時並列モード展開ぃー。クレヤボヤンス能力強化によりぃー、ヴィク姉達の場所を発見するよぉー」
かつての仲間は――決して容赦はしない。
次話、第八話 The Chaser