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第四話 The Hesitationer

第四話


 短い休暇を終えて戻ってきたヴィクトリアはいつも通りの日常に戻った。

 だが、彼女達が戻ってから少しだけ変化があった。

 いつもは全勢力を偵察に向けるA部隊の半分を本部待機にすることだ。これで、基本的に全勢力の八分の七が本部に駐留していることになる。

 これほどまでの人数を本部に駐留させることに意味はあるのかとヴィクトリアは“マザー”に尋ねた。そこで彼らが見せられたのは数日前のボデージュ達の戦闘で回収された敵のファイルである。

 中にはいかにして鉄壁の守りを固めるロベミライアにねじ込むかが詳細に書かれていた。おそらくボデージュ達が交戦した部隊はそれの初動部隊だったのだろう。早い段階で彼らを発見することができたのはロベミライアにとって大きなことだった。

 まず人間達の目的を挫くためには本部施設の専守防衛が第一だった。そして、反撃の暇を与えずに全世界へとオートマータを送り続けることだ。こうすることによって、少しずつだが確実にロベミライアへと戦局が傾きつつあった。

“マザー”は戦力となるヴィクトリアを優先的に待機命令を出し、戦力としてはまだ未熟なアンドロイドを偵察へと出した。彼らが敵戦力を発見した場合は即座にDチームが現場へと送られ、徹底殲滅することとなった。

 そして、ロベミライアは当面のヨーロッパ侵攻を諦めることにする。今の状況ではヨーロッパへと攻撃を行うことによって足元をすくわれかねないからだ。

 こうして防衛で身を固めたところで反撃の策を考える。

 資源的が豊富なアフリカ大陸を有することは持久戦においてかなり有利に働く。だが、その一方で人間側は他の全大陸を手中に収めることによって、やはり物資的に有利であることは変わらない。

 だが、無尽蔵とも言える資源によってオートマータを無限に作り出し、世界各地へと送る技術を持つロベミライアと、戦える兵には限りがある連合国側では戦力的にロベミライアの方が勝っていた。これを生かしきればたとえ物資量が不利でも勝利へと傾く。

 だが、悠長に全世界を少しずつ攻撃するだけの作戦だけで押し切ることはできない。なぜならば、ロベミライアの技術はオートマータの破片などから少しずつ解析されつつあったからだ。

 相手もこちらと同じ攻撃手段を取れるようになれば有利になるのは連合国だ。絶対的な量は確実に格差となってロベミライアを不利へと追い込む。だから、どこかしらで逆転の一手を打ち込むことは必須だった。

 そこで現れたのが例のファイルである。

 この作戦を逆手に取って、逆に相手を攻撃する逆転の一手とする。これは有意義かつ効果的な作戦であるといえよう。

 だが、このファイルがロベミライアへと漏れていることが向こうへ伝わっているのは確実だ。となると、人間側はこのファイル通りに行動を起こさないかもしれない。

 そこで世界最高峰のコンピュータである“マザー”の出番だった。

 チェスの相手の手のパターンを全て読み切るようことによって確実に勝てるようにするのと同じで、相手の切れる札を全て予測し、それを逆手に取る戦術を考案する。

 もちろん、人間は滅ぶべきだという答えを一瞬で導き出した彼女にはそんなことは容易いことである。

 すでにそれは案から行動へと変えつつあった。



 そんな高度な情報戦が行われていることなど知らず、ヴィクトリアは戦闘に出られないことを同僚にぶつけていた。Aタイプのアンドロイドは彼女を除いてほとんどが毎週どこかに出られるので、同僚達は快く彼女の話を聞いてやった。だが、それでも一向にイライラは晴れず、オートマータ相手の模擬戦闘で気を紛らわせながら毎日を過ごす日々を送っていた。

「姉さまといつも一緒にいられて嬉しいです」

 戦闘よりもむしろ内部事情のまとめなどを行うことが多いBタイプのアンドロイドであるアレクは喜んで彼女につき従う。彼と一緒にいられることはいくらかイライラを晴らす材料になったが、それでもまだ彼女の不満は完全に晴らされることはなかった。


「あー、もうイラつく!」

 もう何体目になるかわからないオートマータとの模擬戦闘を終え、相手を鉄クズへと変えてなおも苛立ちの晴れない彼女は模擬戦闘室を後にする。共に訓練にいそしんでいたのは内勤と外勤が交互に入るCタイプアンドロイドのレンシアだった。

「まあ、ヴィク姉は外に出られないもんねぇー。あたし達は適度にストレス解消してきてるけど、ヴィク姉はストレスが溜まる一方よー。“おかーさん”もたまにはヴィク姉を自由にしてあげればいいのにねー」

「“お母さま”には何かしらの考えがあるのよ。それを私達が理解しようだなんてしょせんは無理無理。でも、ぶらっと軽く散歩でもさせてくれないかなぁ」

「まあ、ヴィク姉は戦闘に偏ったDタイプを含めても最強の戦力だもんねぇー……。“おかーさん”が取っておきたいのはわかるかもぉー」

 二人は休憩室へとやってきた。イライラを解消するには糖分でもとってリラックスすることが一番だと学んだ彼女はジュースのボタンを押す。がこん、という音とともに自販機からはジュースの缶が吐き出された。

「なんかもう、最近は世界の改革だとか、そういうのはどうでもよくなってきたかな。以前はあんなに口すっぱくしてアレクに言ってたのに……。人間を殺すことは良いこと。だから人間を殺しなさい。もう、そんな風に思えなくなっちゃった。もう人間がどうとか地球がどうとか、どうでもよくなってきちゃった」

「うんにゃ、そういうことはあるかもねぇー。でも、それはやっぱり少し頭に異常をきたしたってことじゃないかにゃー? メンテナンスしてもらったほうがいいかもよぉー?」

「ううん。大丈夫、ほんの一時の気の迷いだから」

 ヴィクトリアはぐいっと缶ジュースを一気飲みする。口の中に甘味が広がっていって、少しだけ幸せな気持ちになる。

「“おかーさん”に少しよくならないか言ってみるよぉー。たまには散歩くらいさせてあげてってねー」

「うん、ありがと」

 ヴィクトリアは空っぽになった缶をゴミ箱へと投じる。それはゴミ箱の縁に当たって床に転がる。

「あはは、もうこんなこともできなくなっちゃったのかな」

「気にしにゃーい。たまにはヴィク姉もそういうことあるよー」

 レンシアは転がっている空き缶を拾ってゴミ箱に押し込んだ。

「じゃあ、さっそく“おかーさん”に言ってくるよー」

「もう行くの?」

「うんにゃ。どっちにしろもうすぐCタイプの定期集会だよぉー」

「そっか……わかった」

 レンシアはぷらぷらと手を振りながら別れを告げる。

 ヴィクトリアは寂しそうな笑顔を浮かべて彼女を見送った。



 それから数日後、ヴィクトリアは久しぶりに外に出る許可を“マザー”からもらった。

 そのことが嬉しくて、彼女は遠出をすることを希望した。

 行き先はヨーロッパ、人間との戦線の最前線だった。

 そのことを“マザー”は渋ったが、彼女は多少強引な手を使って欧州へと飛んだ。

「ここにはロベミライアはまだ侵攻していないって本当だったのね。人間がずいぶんたくさん見えるわ」

 彼女は遠くにいる人間達を眺めながら感心する。

 だが、不思議と今日は背中のドラゴリアにも、両膝脇に差し込んだレヴァンティンにも手が伸びなかった。純粋な悪であるはずの人間を討伐しようという気が起きなかった。

 ただ、純粋に人間というものがどういう生き物なのか彼女は観察したかったのだ。

 その変心がここ数日間閉じ込められていたことに対する反発なのか、彼女は気付いていなかったが、ともかく今日は人間を殺さないことに決めると、人間達へと近付いていった。

 アンドロイドの姿は人間に酷似している。はぐれた少女兵だといえば拾ってくれるかもしれない。

 彼女はそんなことを思いながら人間の兵達に近付いていった。

「誰だ!」

「待って、撃たないで!」

 そこで彼女は一芝居打つ。こうなってくると人間を騙すことが楽しく感じつつあった。

「私は第08対オートマータ部隊の者なの。オートマータに部隊を壊滅させられて、私だけが生き残って……」

 ヴィクトリアは目を伏せて肩を震わせる。自然と人間のように泣く真似ができたことに彼女は驚きを感じつつも、そのまま芝居を続ける。

「わかった。我々が保護しよう」

 彼らはあっさり信じ込んだようで、彼女を部隊に入れてくれる。

「こちらオキシデリボ密属部隊。第08対オートマータ部隊所属だと名乗る少女を保護した」

 通信機に向かって彼女の容貌を伝える。少女兵の数は決して多くないが、いないわけではない。そして、このヨーロッパには数多くの部隊が投入されている。全ての部隊を把握する者などいないし、ましてや架空の部隊名だ。もし同じ名前の部隊名がありでもしない限り、バレることはないだろう。

「もう大丈夫だ。一人で心細かったろう?」

「お腹は空いていないかい? レーションやジェルドリンクであればあるが?」

「何か飲み物をもらってもいいかしら……?」

 すぐに一人の兵士がジェル状の栄養ドリンクを差し出してくれた。ヴィクトリアはそれを受け取ると、少しずつ口に含んでみる。味は悪くなかった。

「ここはいつ戦闘が起こってもおかしくない地域だ。仲間が戻ってきたら一旦退こう。君の名前は?」

 リーダー格の男が彼女に尋ねる。一瞬本名を言うべきか悩んだが、どうせこちらの情報はほとんど漏れていないのだ。それにありふれた名前だ。問題ないだろう、という結論に至り、ヴィクトリアは自分の名前を告げる。

「ヴィクトリアよ」

「ヴィクトリアか、わかった。短い間だがよろしく頼む」

 兵達はヴィクトリアを保護するために一度キャンプに戻ろうということになった。ヴィクトリアは複数の強肩な男達に囲まれてぞろぞろと移動する。

「君の故郷は?」

「……ヨーロッパの今は名もない王国だった場所の出身よ。生まれてすぐにオートマータに家族を殺されて、奇跡的にその場に急行した部隊に助けられたの。それからは部隊の皆と一緒に過ごしてきたわ。でも、もう部隊は……」

 そういう話はよくある話だ。もちろん、これは彼女のでっちあげであるが。だが、彼らはその話を即座に信じて、励ましの言葉をかけてくれる。

 彼女は次第に人間は悪しき存在ではない、そんな風に感じつつあった。

「あなたはどうして部隊に?」

「俺か……。俺も似たようなものさ。家族を幼い頃に殺されて、復讐心に燃えて戦いの道を歩んだ。その後軍に離反したりしたこともあったが……今は所属をオキシデリボに変えはしたが、結局戦う道を選んだ」

「あなた名前は?」

「光間サトル(こうま さとる)だ」

「コウマサトル……? もしかして日本人?」

「ああそうだ」

 それがオキシデリボに? オキシデリボといえばアメリカの製薬会社だが、現在は国際連合の傘下にあるという。以前はロベミライアとも親交があったが、今では完全に国際連合に支配された企業と変わり果てた。それも密属部隊とはどういうことか。ただの製薬会社ではないことは確かだった。

 ヴィクトリアは疑問に思ったが、きっと複雑な事情があるのだろう。そんなもの、一兵士に過ぎない彼女には関係ないだろう。

「隊長、また女の子口説いてるんすか? ユイちゃんに怒られるっすよ?」

 なんだかボデージュに似たような口調の男がやってくる。

「ユイちゃんが席外してる隙に口説くとは……なかなか隊長もやるっすね」

「口説いてるわけじゃない。身の上話を聞いてるだけだ」

「同じようなモノっすよ。あ、ユイちゃん来たっすよ」

 すると、髪が真っ白い少女がやってきた。歳はまだ若い。

「お待たせしました。って、あれ、その子どうしたんですか?」

「戦地で拾った。部隊が壊滅させられたらしい」

 と、別の少女がひょっこり顔を出す。

「拾いモノってずいぶん珍しいもの拾ったのね」

 彼女は遠慮せずにサトルの隣に座った。

「あ、私は篠川リン、よろしく」

「俺は近藤ヒロキっす」

「私はユリ、よろしくお願いします」

 今まで黙って端の方で読書にいそしんでいた少女も、ゆっくり顔を上げて言った。

「烏丸ヒメ」

 彼らがどうやら頭をつとめる部隊らしい。まったく、若いというのによくやるものだ。

「オキシデリボも随分柔なのね。まだあなた達、子供じゃない」

「子供で何が悪い? そういうお前も子供だろう?」

 サトルに反論されて、自分は違う、とヴィクトリアは言いそうになったが、よくよく考えれば今の彼女は不幸な少女兵、という設定だった。それを思い出してぐっとこらえる。

「私達はこれでもエリートなのよ? そこらへんの一般兵とは違うんだから」

「ふーん、まあでも言うだけならいくらでもできるけどね」

「ねえサトル、こいつ生意気よ?」

 サトルは眉間に皺を寄せて苦々しい表情を浮かべて言った。

「ケンカするな。不和が原因で壊滅した部隊もあるくらいだ」

「まあそうだけどさ」

「なら、私達が強いってことを示せばいいんじゃないですか?」

 と、ユリが提案する。それナイスアイデア、とリンは明るい表情を浮かべて言った。

「どうやって証明するんすか……?」

「う、それは……」

「待っていれば敵はやってくる。それまで待てばいい」

 サトルは落ち着いた口調で言う。ヴィクトリアはそれを見て、この男はなかなか場数を踏んでいるな、と思った。

 そのとき、ヒメがふと本から顔を上げる。

「来る」

「ッ!?」

 その少女の一言で彼らは武器を構えた。

「え、何が?」

 ヴィクトリアだけはぼーっとしたままのんびりとしていたが、サトルに武器を持つように言われてとりあえずレヴァンティンを二丁、手に持った。

 空が捻れ、そこに隙間が開く。そこから現れるのは多数のオートマータ兵。現れるとほぼ同時にサトルは両手の銃を連射する。

 巨獣ベヒーモス清羽ストライカーという大小不格好な二丁拳銃を持つサトルは軽い一撃をまず当てて弱らせてから、的確に大きい一撃を当ててオートマータを倒していく。

 やがて空中にいたオートマータも降下してきてブレードや銃を乱射してくる。

 だが、ヒメの適切な指示の下、彼らは攻撃をかわしながら確実にオートマータ兵を殲滅していく。

 ヴィクトリアは最初、彼らの実力を測るために見ていたが、ぼさっとしてないで戦え、とサトルに言われてオートマータへ攻撃をしかける。

 オートマータはアンドロイドには攻撃しないようプログラミングされているが、ヴィクトリアはそれに気付かれないよう接近する前に確実に倒す。

「ひゅうっ! ヴィクトリアちゃんもなかなかやるっすね!」

 と、ドラゴリアのように長いライフル、精霊シルフィードと、近接用の銃器を使い分けながらヒロキは感心する。

「ま、長いこと戦ってるからね!」

 ヴィクトリアは返事をしながらオートマータを焼き払う。アンドロイドの前ではオートマータなど敵ではない。

「ふむ、場数は踏んでいるようだな」

 冷静な分析をするのはサトル。彼はかなり冴えているな、とヴィクトリアは思った。

 そして、何より凄いと彼女が思ったのはユリという少女だ。鞭のように長く伸びるブレード、戦帝ルーラーを味方に当てないよう、それでいて上手に操ってオートマータをぶつ切りにしていく。この手の武器は扱いにくいハズなのに、それを難なく扱っていることに舌を巻く。

 そして、口の軽さ同様、身のこなしも軽いリンの動きもなかなかに関心すべき動きだ。今まで数多くの人間とヴィクトリアは戦ってきたが、彼らと戦うことになるとすると、なかなかに苦戦しそうだ。

「トドメーっ!」

 銀狼シルバーハウンドという超振動ナイフで敵の首を討ち取ると、リンは勝利宣言する。

「リン、勝利宣言はまだ。もう一匹、大きいのが来る」

 そうヒメが言ったとき、再び空間が割れた。

 現れたのはとてつもなく巨大なオートマータ。ヴィクトリア達がXL級と呼んでいる、オートマータの中では最強クラスのものだ。

 ヒメがミサイルの動きを予測して言った。まさにその通りの動きでミサイルが飛んでくる。彼らはヒメの指示に従って動いた。

「まさか、プレコグニション?」

「当たりよ。あの子は三秒後の未来が視えるのよ」

 と、答えるリサは素早い動きでミサイルを回避する。

「私に任せてください」

 ユリがそう言うと同時に彼女はブレードを振るう。わずか一撃で巨大なオートマータの右腕が落ち、オートマータは悲鳴を上げた。

 ヴィクトリアはそれを見て、あのブレードはただのブレードではない、と気付く。おそらくレヴァンティンと同じヒート機構が搭載されているな、と当たりをつけた。そうでもなければ特殊合金装甲のXL級のオートマータの装甲が一撃で斬られるなんてことはありえない。

「私も黙って見てるだけじゃないんだから」

 ヴィクトリアは背中のドラゴリアを構える。

『射撃誘導システム起動』

 攻撃される恐れはない。確実に邪魔されることなく撃てることから、彼女は時間がかかっても確実に仕留められる方法を選ぶ。

『データ収集……充電開始』

 このまま自分がただの一般兵と変わらない、と思われるのは嫌だった。

『手ブレ修正、ターゲットの移動先を想定』

 ならば、少しでも凄いところを見せて、彼らを見返してやりたい。

『射撃準備完了、命中率99.8パーセント』

 そう思った彼女は迷わず引き金を引いた。

 決して軽くない衝撃とともに手の中の銃が爆ぜる。一筋の閃光を残してオートマータの心臓部を貫いた。

 その一撃でオートマータは大きな音を立てて倒れた。

「凄いわね。見直しちゃったわ」

 リンは驚きを表情に浮かべて言った。

「それ、どういう武器なんすか! 見せてほしいっす!」

 と、ヒロキはドラゴリアに触りたがる。

「どういう機構の銃なんだ? 俺も興味があるな」

 銃マニアのサトルも覗きこむようにドラゴリアを見た。

「凄いです! どこ社製の武器なんですか!?」

 まさかロベミライア製とは言えず、ヴィクトリアは苦笑いを浮かべた。

「……まあいい。そろそろ本部に戻るか。そろそろ弾もなくなってきた。補給が必要だ」

「そうね。食糧も大分減ってきたし。そろそろ退き時よね」

「あ、それなんだけど」

 その時、彼らの傍に巨大な航空機が舞い降りる。

 そこからヴィクトリアの部下のアンドロイドが顔を覗かせた。

「ヴィクトリア様、そろそろ本部へ戻られる時間です」

「ま、そういうこと。私、ホントはロベミライア側なのよ」

 一同の表情に驚きが走る。中には武器を身構える者さえいた。

「ヴィクトリア様、この人間達は掃討していきますか?」

「その必要はないわ。彼らは――まあ一応一緒に戦った仲だしね」

 ヴィクトリアは彼らに背を向けると、航空機の扉の縁に手をかけた。

「またどこかで会いたいわ。戦場以外の場所で……ね」

「待て。お前は一体……」

 サトルは銃も手に持たずに航空機へと駆け寄る。

「私はロベミライアのアンドロイド、ヴィクトリア。あなた達がチルドレンと呼んでいる部隊の一人よ」

「俺達を敵だとわかって言っているのか?」

「一緒に戦ってわかったわ。あなた達は悪い人じゃない。あなた達を戦友と思っての言葉よ。信じる信じないは自由だけどね」

 航空機が舞い上がる。風が大きな音を立てているが、それに負けないよう、ヴィクトリアは叫ぶように言った。

「さようなら! またどこかで会いましょう!」

 そのまま彼女を乗せた航空機は彼らを残して上がっていく。

 ヴィクトリアは扉を閉じると、中の椅子に座った。

「人間を殺さなくてよかったのですか? それにあんなことまで言って……」

「さあね。なんとなく言いたかったから言っただけよ。それに彼らは殺したくないわ。誰か他のアンドロイドの手にかかって死ぬことを祈りましょう」

 航空機はまっすぐにロベミライアの本部へと向かって飛んでいく。

 その道中、彼女は共に戦った戦友の背中をしっかりと脳内のメモリに焼き付けながら、彼らの言葉の一つ一つをしっかりと噛みしめていた。

どうもこんばんは、三話連続更新の最後の一話ですね、ほーらいです。


第二部のメンツが出てきました。

もはや前部での登場人物がなんらかの形で登場することはもはや定番となりつつあります。

前部では物語の根幹にそこそこ関わっていた第一部のメンツですが・・・第三部では第二部のメンツはどれくらい登場するのでしょうか?

せっかく連合側最強のユリがガチバトルできるようになったのですから、活躍させてあげたいですね。

というわけで、今後の彼らの活躍を楽しみにしていてくださいね。

では、次回予告です。


人間との共同戦線を経験したヴィクトリアは大きな心の変化を感じていた。

何が正しくて、何が間違っているのか。彼女にはそれがわからない。


そうしてひたすらに図書館に通い続けてそして彼女は一つの結論に至った。

正しいことなのかはわからない。間違っていることなのかもしれない。

けれども、彼女はその答えを信じようと思った。


次話、第五話 The Betrayer

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