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第三話 The Player

第三話


 今日はヴィクトリアの非番の日だった。

 忙しい戦闘から解放されて、余暇を楽しむことができる一日だ。

 余暇はアンドロイドといえど重要で、休息があるからこそ安定して働き続けることができるというのが一般の説である。

 たまの余暇はしっかり羽を伸ばして休むべき、というのがロベミライアで生活するアンドロイドのルールだった。

 今日はアレクと二人で休暇を取ってロベミライア内の避暑地に出かける予定であった。

 ロベミライアの大部分は熱帯気候に属する。そこで二人は高山地へと出かけることにした。



「んー、たまにはこうやって二人で旅行に来るってのもいいわねー」

「そ、そうだね」

 専用のチャーター機まで用意してもらって、二人はのんびりと高山地帯に設けられた宿泊棟の前のテーブルに腰かけながら空を見上げる。

 空気は少し肌寒い。だが、アンドロイドの彼らにとっては風邪をひくようなことはないが。

 ならばなぜ避暑地などに来るのか。理由は思考回路が人間に似せて作られているので、暑いところでは暑く感じてしまうからだ。そのため、普段から暑い場所で生活している彼らは涼しい場所に来ると気持ち良く感じるのである。そこらへんは完全に人間と酷似している。

「たまにはこーいう場所でキャンプってのもいいわよね」

「そ、そうだね!」

「どうしたの? アレク?」

「いや、あははは、なんでもないよ」

 というアレクも、いっぱしの男の子のようで、女の子と二人きりというシチュエーションにそれなりに興奮しているようである。彼らに生殖、という機能はないが、生物らしさを出すためにそこらへんの基本的な部分はやはり人間に近い。

「ねえアレク、ご飯は何にする? カレー? 肉じゃが? それともロールキャベツってのもいいわね」

 彼らの食事とは主に水素補給である。アンドロイドは内蔵された水素核融合電池からエネルギーを得る。水素は空気中にも微量存在するほか、ほとんどの食物、つまりは水分を持つ食べ物を食べれば補給される。後の物質は他の生物同様、体の構成物質などを形成するのに必要な栄養分を吸収した後、残りカスは体内の不要物と共に便という形で排出される。その辺りはあらゆる生物と共通である。

 ちなみに味覚なども人間同様存在する。アンドロイドによって味の好みも分かれるし、アレクはさりげなくカレーが好物だったりする。

「僕、カレーがいいな」

「いいな、じゃないでしょ。あんたも作るのよ」

 アレクはヴィクトリアに腕を引かれて炊事場へと連れていかれた。



「あぁー、ヴィク姉とアレクちゃん避暑旅行かぁー。いいなぁあたしも行きたかったなぁー」

「流石に四部隊全部のリーダーが休みを取る、ってのは問題だと思うっす」

 ボデージュとレンシアは資料室で書き仕事をしながらくっちゃべていた。人間達もあまり動き回っていないようで、偵察のAタイプアンドロイド部隊から報告がない限りは動くことができない。

「でもぉー、つまりはあたし達仲良し小好しは一緒に遊べないってことじゃんー」

「この前のゲームで十分遊んだっすよね?」

「あれはヴィク姉の一人勝ちでしょ? 結局何の命令したかわかんないしぃー」

「せめてゲームの参加者に教えるくらいいいじゃないっすよね!」

「まったくだわぁー。あぁー、めんど。全部部下に押し付けちゃおうかしらぁー」

「それやったらまた“ママ”に怒られるっすよ……」

 レンシアはだらりと両腕をぶら下げ、頭を机に乗せて脱力する。いくら機械といえど、休憩も挟まずに計算作業を続けていればオーバーヒートもする。

「ああ、これじゃあ人間と一緒よねぇー……。仕事仕事っと……」

 一瞬脱力したことで少し集中力が戻ったのか、またレンシアはカリカリと書き仕事を継続する。人間と違って一瞬のリラックスである程度の疲れが取れる分、彼らは人間よりも優秀だった。



「ニンジンとかタマネギはもっと細かくした方が味が深くなっていいと思うわ」

「こ、こうかな……」

 アレクはヴィクトリアの指示の下、カレー作りにいそしんでいた。

  包丁にまったく慣れていないアレクでも問題なく料理を進行することができた。

 というのも、もともと彼は器用な性格なため、その分包丁の扱いも上手く、ヴィクトリアが見ていてあぶなっかしいというようなことはなかったためだ。

 野菜をみじん切りにする彼の様子を見て、ヴィクトリアは自分の仕事に熱中する。彼女の仕事は米を炊くことだった。

 米を研ぎ、幾度も水に漬けては研ぎ汁を流していく。

「ふう……。こんなもんかな」

 水に漬けても薄い白い水しか流れなくなる辺りが米研ぎの合格ラインだ。

 それを圧力鍋に詰めてスイッチを入れる。ご飯は高温状態で熱した方が早く調理が終わり、旨味を閉じ込めることができる。もっとも、それはあらゆる料理においても言えることだが。

「こっちもできたよ」

 粉々にした野菜と豚のひき肉を圧力鍋にセットしたアレクは鍋を釜にセットし、薪を炉に組んで火を付ける。その隣の釜にヴィクトリアはご飯の入った圧力鍋を持ってきて、火を付けた。

「たまには原始時代の料理ってのもいいわね」

「圧力鍋使ってる時点で絶対原始時代とかありえないですけどね」

 そうして煮込むこと数十分、あっという間にカレーとご飯は完成した。

「さ、食べましょ」

「うん!」

 熱々のカレーライスを皿に盛り、銀のスプーンを片手に二人は大自然の中にセットされた椅子とテーブルに座った。

「「いただきます」」

 さっそくカレーライスを口へと運ぶ。

「うん、やっぱり姉さまの作った料理は美味しいや」

「あなたも半分作ってるのよ?」

「えへへ、そうだったね」

 二人はまるで姉弟のように笑いあってカレーライスを食べる。

 そうしてはしゃいでいるうちに刻々と時は過ぎていき、やがてカレーとご飯の鍋は空になった。

「あー、美味しかったです」

「うん、満足満足ね」

 二人は使った道具の片付けを始める。アレクはカレー鍋を洗い、ヴィクトリアはご飯の鍋を洗う。

「また行きたいわ」

「僕もこんなキャンプなら大歓迎ですよ」

 二人はにっこりと顔を合わせて笑いあって、再び作業へと戻っていった。



「昼は書類仕事、夜は奇襲、まったくアンドロイドも楽じゃないわぁー」

「まあ仕方ないっすよ。さっさと片付けるっすよ」

 二人は軽口を叩きながら人間兵達を掃討していく。

 素早い連携攻撃を組みながら、アンドロイド達は人間達を殺戮していった。

「ねえ、こいつぅー」

 膝から先が千切れ飛んだ男の首根っこをレンシアは掴んでつまみ上げる。男はまだ殺されていないことに恐怖を覚えながら、ガタガタと震えていた。

「見てぇー、こいつが持ってるファイルー」

「なんすか……?」

 ボデージュは一瞬でファイルの内容を読み取ると、しばらく首をひねって何かを考えるような仕草をした後、ようやく答えを出す。

「人間も色々考えるんすね。これは“ママ”に報告した方がいい内容っすね」

「まさかこんな方法でこちらに攻め入ってくるなんてねぇー。まったく驚きだよねぇー」

 レンシアはオリハルコン糸を素早く動かし、腕から先を引き斬って、ファイルだけを奪い取る。そして腕はそこらへんにぽいと捨て、もう足と手が一本ずつになってしまった男の体も放り捨てる。そして頭を踏み砕き、楽にしてやる。

「このファイル持ってAタイプアンドロイドのぉー――あぁー、君でいいや、君は“おかーさん”に報告ー。他は全人間兵殲滅後に適当に帰投でいいかなぁー?」

「それでいいんじゃないんすか?」

 レンシアは網目のようにミッドナイトを放って周囲の人間を斬り刻む。

 ボデージュはデルリングヘルリアで頭を一撃で打ち砕き、可能な限り瞬殺する。

 彼らも殺人衝動のようなものがあって人間を殺しているわけではなかった。彼らは悪だから殺している。そこに何の感情もない。だから、殺す時は痛みを感じる前に即座に殺す。確実に殺す。それを用いて楽しく殺せるときに遊ぶことはあっても、意味のない殺人には何の感想を抱かずに殺す。

 殺す、殺す、殺す。

 頭を打ち砕いて、腕を引き斬って、心臓を打ち抜き、足を千切って、そして最後には殺す。

 彼らは地球のためと信じて殺し続けた。

 やがて着ているものが返り血で真っ黒になるころに、彼らは殺戮を終えた。

「ふうー……任務かんりょぉー」

「やっと終わったっすね」

 二人は軽く息を整えてから、武器についた血糊を拭い取る。いくらオリハルコン製といえど、こまめな手入れが長持ちさせる秘訣であることには変わりない。

「じゃ、帰ろっかぁー」

「そうっすね」

 少年少女達は血で鉄臭くなった草木を踏みながらその場を後にした。




どうもこんばんは、ほーらいです。


今話はロベミライアの休日のお話です。

彼女らも普通の休日を過ごすことがあるのですよ。

そんなときくらい、戦いから離れることも必要です。

もっとも、レンシア達は相変わらず人を殺し続けているようですが。

では、そろそろ次回予告をば。


休日を過ごした彼女の日常に少しだけ変化があった。

それは今までに比べて戦闘回数の減少。

人間軍が新しく考えた戦術に対抗するために本部施設の守備に重きを置くために、特に戦闘能力の高いヴィクトリアを本部待機にするというものだった。


だが、その結果ヴィクトリアはイライラを抱えることになる。

レンシアが“マザー”に頼み込んだ結果、なんとか外出をする許可を彼女はもらった。

そこで、彼女は“彼ら”と出会うことになる。


次話、第四話 The Hesitationer


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