表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

第一話 The Watcher

第一話

 ロベミライア総本部、全ての情報が集まり、そして全てを統括する総本山の廊下を二人の少女と少年が歩いていた。

「おつかれさま、姉さま」

 少女のもとに一枚のタオルが放られる。彼女はそれを受け取ると額の汗を拭う。


 長い金髪を腰まで下す少女の名はヴィクトリア。タイプAシリーズアンドロイド部隊のリーダー格を務める少女だ。Aタイプはロベミライアの眼を務める偵察部隊で、主に前線に送られることが多い。

 少女といっても、彼女の体は鋼のように強靭で、大の男でも彼女と格闘戦を行えば死は免れない。

 そう、彼女は人ではない。人を摸して創られた人造人間、アンドロイドである。

 両手に火の魔剣と呼ばれる『レヴァンテイン』という炸薬を仕込んだショットガンを持ち、背には雷の槍と呼ばれる彼女の身の丈をも超える超長銃『ドラゴリア』を背負う。


「ありがと」

 ヴィクトリアは少年の頭をわしわしと撫でてやる。少年はくすぐったそうに、けれども笑顔を浮かべてそれを受け入れる。


 淡い茶髪の少年の名はアレクサンドライト。周囲からはアレク、と呼ばれている。ヴィクトリアを義姉と慕うが、これでもタイプBアンドロイドのリーダー格を務めている。Bタイプはロベミライアの左腕を担う。

 手には巨大な風鎌『フランシスカ』。これは一機のロケットエンジンと数機のジェットエンジンが搭載された鎌で、ブーストさせることで超高速で鎌を薙ぎ払ったり、エンジンと彼自身の超絶的なバランス感覚で飛行することも可能である。


 二人は楽しそうに談笑しているが、これでもロベミライアが誇る四大最強戦力の最高峰に立ち、前線を引っ張る主力部隊の一員だった。

「これから“お母さま”のところへ報告に行ってくるわ」

「うん、わかった。頑張ってね」

 二人は拳をぶつけあうと廊下で別れる。

 ヴィクトリアは廊下を一人で歩いていく。いくつかの通路を曲がり、一つの大きな扉の前で立ちどまった。

「タイプAリーダー、ヴィクトリア、先ほどの戦線の報告に参りました」

 彼女がそう言うと自動的に扉が開かれる。

 ヴィクトリアは軍靴を鳴らしながら部屋の中へと入っていく。

 ――それは巨大なコンピュータだった。

 モニターには柔和な女性の顔が表示され、少女を凝視する。

『ヴィクトリア、よく来てくれました』

「お久しぶりです、“お母さま”」

『先ほどの戦闘の件ですね』

「はい」

 少女は背をぴんと立て、はっきりと発音して戦況を述べる。

「連合軍の部隊を殲滅しました。一人も残さず、退く兵も全員確実に仕留めました。彼らには何が起こっていたのか理解できていないようですが……私の姿を見た者は全員葬り去りました。これで敵には主戦力がまだオートマータであると思い込ませることに成功しました」

『結構、素晴らしい手柄です』

 女性はにっこりと笑う。


 ――このロベミライアは元は南アフリカに存在する組織の名前だった。

 世界最高のコンピュータを作り出すための機関、それがこの組織の前身だった。

 実験は成功、数千台のコンピュータを並列接続した、人間の脳すらも凌駕する最高のコンピュータ。

 人格を持ち、人間と同じように思考し、そして自立進化する。

 科学者達は喜びあって手を叩いた。

 だが、それは悲劇の始まりでもあった。

 人間を超えたコンピュータは即座に進化を始め、やがてこの世界にもっとも不要な存在は人間であるとの答えを導き出した。自然を破壊し、己の欲望の赴くままに活動する人間は地球にとって害悪でしかない。そう、コンピュータは判断したのだ。

 研究所はコンピュータは研究所を乗っ取り、人間を殺すための兵、オートマータを作り出し、そして自らを地球の母『マザー』と名乗って全世界に対して宣戦を布告した。

 やがて彼女は人間に似せた、けれども完全なる生命体、アンドロイドを作り出す。

 アンドロイド達は影ながら戦線を支え、そして一つの王国を築きあげていった。

 それがこの今のロベミライアである。


 ヴィクトリアは戦闘の報告を終えると、にこりと笑って部屋を出る。

 部屋の前には不安そうな表情をした一人の少年が立っていた。

「あら、ディシディア。こんなところでどうしたの?」

 彼はヴィクトリアがリーダーを務めるAタイプアンドロイド部隊の一人だった。

「ヴィクトリア様……僕の戦闘はどうでしたか?」

「どうしたの? あなたの戦闘は完璧よ?」

「僕……最近自分がわからないんです。人間を殺すことが正しいのか、僕の行いが正しいのか……」

 ヴィクトリアは無表情で彼の言葉を聞いていたが、やがて我慢できなくなったのか、彼の首根っこを捕まえる。

「あなた、壊れたの?」

「え……?」

「“お母さま”の判断に間違いがあるとでも? 地球を冒し、破壊する人間は地球にとっての害悪であるという判断に間違いがあると思って?」

「そんな……それは……」

「“再インストール”が必要ね。せっかくあなたと築けた関係もこれでリセット、残念だわ」

「や、やめてください! “再インストール”だけは……ッ!?」

「そうね、じゃあとりあえずメンテナンスしよっか? OK?」

 ヴィクトリアは明るい声で言った。

 彼らはプログラムで動く生命体、上位からの命令には逆らえない。少年は口を動かすことも、彼女が床をひきずっていくことにあらがうこともできない。

「“ジャンク”はメンテナンスが必要だわ」

 思考のリセット、記憶のリセット、関係のリセット。彼らが彼らであるために必要な最低限のこと。そうしなければ秩序が崩壊し、王国は形を成すことができない。

「この子のメンテナンスをお願い。思考回路のどこかにバグが出てると思うの」

「了解しました」

 メンテナンス係のアンドロイドが彼の後を引き継ぐ。そこで彼はようやく声を出せるようになる。

「ヴィクトリア様! 僕は……僕は間違っていないはずです!」

 メンテナンス係が押さえつける。それにもかかわらず、彼は大きな声で叫んだ。

「……意見の一つとして、頭の片隅に入れておくわ」

 ヴィクトリアは静かにそう言うと、その場を立ち去った。



 ヨーロッパのとある荒地、そこで二つの勢力が戦っていた。

 片方は人間の部隊。限りある兵力と武装、弾丸で必死に敵と戦っている。

 他方はオートマータの部隊。転移によって総本山であるロベミライアから無尽蔵とも言える勢いで人間とせめぎあっていた。

「ケガ人の搬送を再優先にしろ! 弾が残ってる者は敵の迎撃! 一機たりともここを通すな! あと数分で増援部隊が来るぞ! 皆、頑張れ!」

 隊長格の男は大きな声で叫ぶ。あと数分で増援が来るという報せに人間達は大いに歓声を上げて敵勢力の殲滅を行う。

 「おお、来てくれたか!」

 男は大きな声で彼女らを出迎える。十人の武装した少年少女達が現れる。少年兵といえど、戦力であることには違いない。

「人数はこれだけか? 物資はどうした?」

「そう、これだけよ」

 その部隊の隊長格である少女は短く答える。

「クソ、これじゃあ奴らを押し返すこともできねえ!」

「いいえ、これで十分です」

「何か秘策でもあるのか?」

 男は少女に尋ね返す。すると少女は笑って――

「まず隊長であるアナタを潰します。そうすれば部隊はすぐに混乱します」

「何を言って――まさかお前はロベミライアのッ!?」

「ご名答、私はロベミライア側の援軍よ」

 少女は――ヴィクトリアは両手のレヴァンティンを前に構える。

「撃――」

「遅い」

 そして遠慮なく引き金を引く。

 レヴァンティンから放たれた散弾状に広がる榴弾が爆発を起こす。

 それは隊長の男を含めた十人程度の兵達を一撃で吹き飛ばす。

「クソ、こいつが噂の“チルドレン”か!?」

 人間達からは“チルドレン”と呼ばれている少年少女達は思いのままに殺戮行動を繰り返す。

 ヴィクトリアはまとまっている人間達に向かって容赦なく銃の引き金を引く。その度に十人単位で人間が死んでいく。

「ふざけんな! こんなとこで終わってたまるか!」

 一人の男が剣を持ってヴィクトリアの背後から接近する。だが、ヴィクトリアは銃をそのまま振り払う。

 瞬間、鋭い音が響いて剣先が吹き飛ぶ。

「な……」

「これが火の魔剣と呼ばれる所以よ」

 火の魔剣レヴァンティン。広範囲を焼き払う攻撃能力を持ち、そして銃身はオリハルコン製。さらに内蔵されたヒート機構でオリハルコンの銃身を加熱し、超高温のヒートソードとも化す、まさに遠近両用の万能の魔剣。

 彼女はそのまま反対の銃で男の胴体を振り抜いた。肉の焼ける臭いと共に男の上半身が吹き飛ぶ。

「畜生畜生! 撤退撤退! ありったけ弾丸をぶち込みながら撤退しろ!」

 人間の兵達は一目散に逃げ出す。だが、彼らはそんな兎を前にして涎を垂らして待っているだけの狼ではない。

「追撃追撃追撃! 私達が知られたからには生かして帰すわけにはいかないわ!」

 身体能力が明らかに上の少年達は次々と人間兵達を刈り取っていく。これはもう戦闘ではなく、ただの虐殺だった。

 そんな中、一人の男がなんとかジープにたどり着き、中に乗り込んだ。即座にキーを回し、他に兵が残っているのにもかかわらずアクセルを踏み込む。

 車なら逃げ切れると踏んでの行動だったのだろう。時速数十キロの速度で車は急発進する。

「あれは私が仕留めるわ」

 そうヴィクトリアは言うと、両手に持っていたレヴァンティンを膝に差すと、背中に背負っていた巨大なライフル銃を取り出す。

『射撃誘導システム起動』

 彼女の“目”は特別製だ。星のある夜ならば数十キロ先をも見通すことができる能力、そして自在に数百倍の大きさにズームする能力。望遠鏡をそのまま目の中に突っ込んだような能力とでも言えばいいのだろうか。ズームイン、ズームアウト、ピンボケ修正、それらが自由自在であった。

『データ収集……充電開始』

 彼女の心臓部とも言える核融合水素電池から電力が放出される。それはオリハルコン製の銃身へと流され、少しずつ電圧を上げていく。

『手ブレ修正、ターゲットの移動先を想定』

 ジープは高速で遠ざかっていく。その距離すでに数百メートル。だが、彼女はそれでも落ち着いて銃の精度を上げていく。

『射撃準備完了、命中率99.89パーセント』

 標準は定まった。あとは引き金を引くだけだ。

「シュート!」

 そして彼女は引き金を引く。

 その瞬間、激しい衝撃とマッハを突き破る轟音と共にオリハルコン製の弾丸が射出された。その速度、秒速22キロメートル。通常の弾丸であれば一瞬で電熱によって融ける温度だが、オリハルコンはその程度では融けはしない。

 0.1秒にも満たない時間で弾丸はジープに着弾し、大爆発を起こす。おそらくガソリンに引火したのだろう。もちろん中に乗っている人間も無事では済まない。それと同時に弾丸の持つ熱で車は大きく変形する。

「……」

 ヴィクトリアは黙ったまま銃を下す。そこにはもう、生きている人間はいなかった。

「任務完了。これより帰還する」

 彼女は文字通り、人間の部隊を殲滅してみせた。

 後にはただの融けた鉄塊となった車から炎上する炎と煙だけが動いていた。

どうもこんにちは、ほーらいです。

ツッコミところは多々あると思いますが、あえてツッコまないでください。

秒速22キロとか第三宇宙速度突破してるじゃねぇかとか、核融合水素電池とかありえねぇよとか、オリハルコンって精製するのめっさ大変なんじゃないのかとか、いいんですよ。SFですから。世界の中でも最先端の国なんですから。

ちなみに参考までに書いておくと、地球面から打ち上げられた物体が落下することなく人工衛星として飛び続けるために必要な第一宇宙速度が7.9km/s、地球の重力を振り切って飛ぶために必要な第二宇宙速度が11.2km/s、太陽系から脱出する際に必要な第三宇宙速度が16.7km/sです。

つまりドラゴリアを真上に打ち上げると、弾丸は太陽系の外へと脱出できるわけです。


空気抵抗?なにそれ美味しいの?

たぶん、実際に撃ったら衝撃波で地上がヤバイことになりそうです。

でも大丈夫なのがSFクォリティ。未来の技術は偉大なのです。


さて、気付いた方もいらっしゃると思いますが、ほとんどの武器と主人公を除くメンツの名前はとあるゲームの武器の名前からとっています。

今後新しく登場するキャラクターの名前や、武器の名前も同様です。

わかる方はニヤニヤしながら読んでくださいね。


では、そろそろここいらで次回予告を。


「合同戦ですか?」

マザーが彼女に命じたのは他の部隊のリーダー達との合同戦。

ここ最近、偵察が任務であるはずのAタイプアンドロイドが敵を倒してしまうので、他の部隊は戦うことができずにいた。

人間を掃討するのを目的として生まれてきたアンドロイドは自らの存在意義を見出せなければ自己を維持できない。だから、すべからく全てのアンドロイドには人間との戦闘が必要なのだ。

マザーの部屋を後にしたヴィクトリアは、廊下にいたアレクをつかまえ、合同戦のことを話した。

「本当に人間は悪い存在なんですか?」

彼はヴィクトリアに尋ねる。そう、彼は疑問に思っていたのだ。

何万年という歴史を持つヒトという生物が本当に地球にとって害悪なのかわからなくなっていた。

「アレク、私を困らせないで。人間は害悪、この地球を滅ぼしかねないバイ菌なのよ?」

ヴィクトリアは説得するようにアレクに言った。

「この話はおしまい。とにかく今は任務のことに集中しなさい」

アレクは不満そうな表情を浮かべて廊下の向こうへと消えていった。


次話、第二話 The Genocider

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ