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最終話 The Peace Maker

最終話


 鳥の歌う声が聞こえる。

 風のざわめく声が聞こえる。

 友の――仲間の呼ぶ声が聞こえる。

「姉さま!」

 ヴィクトリアははっとして目を覚ます。

 彼女の体は真っ白なベッドの上に横たわっていた。

「あれ……私……」

「よかった……目を覚まさないかと思っちゃいました……」

 アレクは目に涙を溜めながら、肩を震わせる。

「アレク……私どうなっちゃったの?」

 確か下半身が全部吹き飛んだはずだ。なのに両足はきちんと腰の下から生えているし、切り落とされた左腕もある。そして、体を動かす度に感じる微妙な違和感。

「姉さま……。僕達は勝ったんですよ……」

 アレクがあの後どうなったかを説明する。

 “マザー”を倒したヴィクトリアはあの後あの場所で一度死亡した。出血多量によるショック死だ。

 だが、記憶を司る部分には水素核融合電池から電力が供給され続けており、記憶や人格といったデータは全て保たれていたという。

 そして、その死体を一度デオキシリボが回収し、ロベミライアの倉庫から持ち出したAタイプアンドロイドの体にもう一度セットし直した。その結果が今の新しい体だ。

 といっても、リーダー格用の体ではないため、諸機能は大幅に低下しているハズだという。

「あの後どうなったの?」

 アレクによると、後からやってきた人間軍が半壊したヴィクトリアの体を回収した。そして“マザー”が万が一に備えて作っておいた自分自身のデータのバックアップを全てデリートしたという。

 そして、全ての施設内のアンドロイドとオートマータを倒し、この戦争は終結した。

「ロベミライアの起こした戦争は……終わりました。もう平和なんです。平和なんですよ!」

「私達が……勝った……?」

 アレクは嬉しそうにヴィクトリアの手を取る。

 ヴィクトリアは未だに実感が湧かなかった。

 自分達が勝った。それが本当なのかどうなのか。

「あ、ヴィクトリアさん、目を覚ましたんですか!?」

 ユイが病室に入ってくる。それと一緒にサトル達も入ってきた。

「どうですか、体に異常はありませんか?」

「少し違和感があるけれど、おおむねOKよ。話は大体アレクから聞いたわ」

「そうですか。なら改めて説明する必要もありませんね」

 ユイは近くにあったパイプ椅子を引っ張り出してベッドサイドに置いて座った。

「実際に開いて見るとアンドロイドの体って、未知の技術が大量に使われていましたね」

「メモリーを積み込むときに?」

「そういうことです」

 ユイはぴんと人差し指を立てると、説明を始める。

「人間は脳が全ての器官を制御していますが、アンドロイドにも脳に当たる器官がありましてね。それと記憶を保存するメモリー。こちらは大容量のデータをこーんなに小さくする技術が詰め込まれていて驚きです。それから……」

「あの、会長、そろそろ本題を……」

 ユイはサトルに声をかけられてハッとした顔を浮かべる。

「そうですそうですそうでした! 実はお知らせがあって来たんです」

「お知らせ……?」

「ロベミライア、及び残ったアンドロイドの今後の処遇についてです」

 ヴィクトリアはごくりと唾を飲み込んだ。残ったアンドロイド、というのはつまり自分達のことを指すのだろう。

「えっとですね、ロベミライアのあった場所は今後国連の管轄下となります。徐々に難民などを対象にロベミライアがあった場所へ移住させることとなります。そして、ロベミライアという国は解体し、元の国名に戻します。ですが、そのままだと色々と問題が発生するので、一度めちゃくちゃになったアフリカ統一機構をもう一度再組織し、その管理をアフリカ統一機構に行ってもらいます。で、その機構の運営なのですが、最初はアンドロイドにやらせようと思います」

「え……? どういうこと?」

 ヴィクトリアは驚きで思わず尋ね返していた。

「ロベミライアの倉庫に残っていたアンドロイドを起動し、人間排他主義に関するデータをデリート、ヴィクトリアさんとアレクさんのデータをベースにもう一度人格を作り直します。そしてそのアンドロイドに働いてもらうことになります。アフリカのことはロベミライアに所属していたアンドロイドの方が詳しいですからね。指揮はヴィクトリアさんとアレクさんにお願いしようと思っています。もちろん、引き受けてもらえますね?」

「え、ええ」

「わ、わかりました」

 ユイはうんうんと頷く。どうやら断らせるつもりはまったくなかったようだ。

「ま、もう一度最初からアフリカを作り直すと思えばいいんです。演算処理能力も人間よりアンドロイドの方が高いので、基本的にアンドロイドに任せちゃった方が効率いいと思うんです」

「またロベミライアのようになったら……?」

「そのときはヴィクトリアさん達が止めてくれると信じていますから」

 ユイはにこりと笑って答える。

 ヴィクトリアは内心ただただ驚くだけだった。国連がアンドロイドを頼りにして仕事を依頼してくるだなんて思ってもいなかったからだ。

せいぜい放置か、最悪の場合廃棄処分だとすら思っていたくらいだ。

「それと、これは頑張ったご褒美です」

 そう言うと、ユイは二つのメモリーチップをテーブルの上に置いた。

「レンシアさんとボデージュさんの人格データ、及び記憶のメモリーです」

「俺が回収しておいた。何かに役立つかもしれないと思ってな。他にもアンドロイドがいたが、リーダー格のメモリーチップだけはオリハルコン製でな。他のヤツらのものは戦闘でほとんど壊れてしまったが……こいつらだけは無事だった」

 サトルがそう言っていつもは堅い表情を綻ばせる。

「もちろん、人間排他主義に関するデータはデリートしてしまいましたが……基本的な部分は残っています。これをどうするかはあなたにお任せします」

「姉さま! この前は二人だけでしたが……今度こそ皆でキャンプに行きたいです!」

 アレクは嬉しそうに言った。

 それを聞いてヴィクトリアはふっと笑う。

「そうね……それもいいかもしれないわ」

 ヴィクトリアはそう言うと、その二つのチップを胸のポケットにしまいこんだ。

「ご報告は以上です。一応経過観察はしたいので一週間ほどヴィクトリアさんには入院してもらいますが、退院したらアフリカに向かってもらいますね」

「わかったわ」

 ユイはパイプ椅子を折り畳んで部屋を出ていく。

 だが、サトル達はまだ言いたいことでもあるのか、部屋を出ずにヴィクトリアのベッドの周りを取り囲む。

「ヴィクトリア、勝てたのはお前のおかげだ」

「おいらがピンチのときも救ってくれたのはヴィクトリアさんっすし」

「レンシアを倒したのもあんただもん」

「だから祝勝会をする」

「ありがとうございます、ヴィクトリアさん」

 彼らはあらかじめ用意しておいたのか、クラッカーを弾けさせる。

 パンパン、と小気味の良い音が鳴り響いた。

「お菓子も飲み物もたんまり持ってきたっすよ!」

 そう言ってヒロキはお菓子の入った袋を、サトルが様々な種類のソフトドリンクやアルコールが入ったボトルをテーブルの上に広げる。

「他にはほとんど病人もいないみたいだし、騒ぎまくるわよ!」

「ヴィクトリアは何を飲む?」

「まあまあ、皆さんヴィクトリアさんはまだ病み上がりですから……」

 ヴィクトリアは面々の行動にあっけにとられて茫然とする。

「ここは皆さんの好意に甘えておきましょうよ!」

 そう言ってアレクは早くもオレンジジュースのボトルを選び出し、紙コップに注ぎ始める。

「おいらビールっす!」

「俺はウィスキーだ」

「じゃあたしハイボール」

「シャンパン……」

「皆さんお昼からアルコールは……。私はリンゴジュースにしておきますね」

「姉さまは何がいいですか?」

 ヴィクトリアは人間達があまりに浮かれているのでふふ、と笑みを浮かべる。

「そうね、私もアルコールに挑戦することにするわ」

 ヴィクトリアは生まれてからアルコール飲料というものを一度も飲んだことがなかった。というのもロベミライアにはアルコール飲料がなかったからである。ヴィクトリアはアルコールは体に悪いイメージがあったが、こういう宴のときくらいは構わないだろうと思った。

「初心者にはチューハイとかオススメっすよ」

 そう言ってヒロキは缶に入ったチューハイを勧める。ヴィクトリアはそれを受け取ると、コップの中に注いだ。

「それじゃあ不肖ながら、おいらが乾杯の音頭を取らせていただくっす」

「ま、バカ騒ぎ担当のあんたにはちょうどいいわね」

 ヒロキは少し眉間に皺を寄せる。

「なんかその刺々しい言い方はどうかと思うっすけど……まあ祝い事をするときくらい聞き流すっす! それじゃあ勝利を祝って」

「「乾杯!」」

 一同は紙コップを高く掲げ、勝利を祝った。



―― 一年後 ――


「あの戦いが終わってからもう一年が過ぎますね」

 ヴィクトリアは休暇を取って、あのコテージを訪れていた。

 一緒に旅行に出かけたアレクはもちろん、あのときは一緒に来ることができなかったレンシアとボデージュも来ていた。

「やーっと来ることができたっすよ」

「長かったねぇー」

 レンシアとボデージュは顔を見合わせて笑い合う。

 というのも、ここ一年の間働き詰めで四人同時に休みを取るなんてことはできなかったからだ。

 涼しい風が吹き抜ける中、ヴィクトリアは高台から山の向こうを見渡す。

「んー! やっぱりここはいいわ! 涼しくて過ごしやすいし……」

「ヴィク姉と一緒に来れてよかったぁー。この前は置いてけぼり食らったもんねぇー」

 レンシアはミッドナイトではなく、手に包丁を持ってキャベツを切り分けていた。

「それにしても、俺達が負けて一年っすか……。地球上には相変わらずこんな綺麗な場所があるんすね」

「人間も少しは地球のことを思ってるんだねぇー」

 ボデージュはひき肉をパッケージから取り出して、レンシアの切り分けたキャベツでひき肉の塊を包み込む。

「ああ、そこはそうじゃないの。タケノコのみじん切りとかを入れるのよ」

「そうなんすか? 気付かなかったっす……」

 一同の間に笑いが走る。

「ボデちゃん料理しなさそうだしねぇー。疎くても仕方ないかもぉー」

「わかったっすよ。俺は端っこで見てるっす」

 ボデージュは少し不満そうに言った。

「まあまあ、そう怒らないの。あなたにもできる仕事はあるから……。はい、お米。これはね――」

「おっと、大丈夫っすよ。お米の研ぎ方くらいは俺にもわかるっす。任せてほしいっすね」

 がしがしと力を込めてボデージュは米を研ぐ。力を入れて研いだ方がお米は美味しくなる。力自慢のボデージュにはちょうどいい仕事だろうとヴィクトリアは思った。

「さ、私達はロールキャベツの仕込みをしましょう」

「はぁーい」

「わかりました!」

 肉やその他の混ぜ物をした肉の塊をこぶし小のサイズに取り分けて、一個ずつ糸で結んでキャベツを巻いていき、それを鍋の中に配置していく。

「さーて、あとはできるのを待つだけよ!」

「こっちも完了っす。あとは釜に入れて炊くだけっすよ」

 ヴィクトリアはボデージュの持つ鍋の中身を見てため息をつく。

「これじゃ水が多くてぐじゅぐじゅになっちゃうわ。お粥じゃないんだから、こんなに水はいらないのよ?」

 ヴィクトリアは鍋を傾けて水を少し流す。

「お米を水平にならして、手の平を広げて置いて、水がちょうど手が漬かるくらいの量のお水でちょうどいいの」

「そうなんすか……」

 ボデージュはうんうんと頷きながらヴィクトリアの様子を見ていた。

「ヴィク姉ぇー、火ぃ付けていいー?」

「はーい。ちょっと待ってね」

 ヴィクトリアは素早く鍋をセッティングすると、竃の上に鍋を二つ並べた。

「じゃあいくよぉー。ファイアぁー!」

 と、言いながらレンシアはバーナーで薪と紙を組んで作った竃へ火を付ける。

 紙に火が付き、そして徐々に薪へと燃え移っていく。

「見事なもんすね」

「でしょ? たまにはこういう大自然キャンプもいいのよ」

「圧力鍋使ってる時点で大自然じゃないけどねぇー」

 四人は顔を見合わせて笑い合った。


 ヴィクトリアは思った。いつまでもこんな平和な日々が続いていればいいのに、と。

 アフリカでは土地の権利や貧富の差を巡って未だ争いが耐えない。人間という生き物は本当に愚かだ。自分のことしか考えない、わがままで自堕落な生き物だ。

 でも、そんな人間がヴィクトリアは大好きだった。

 だからこそ持っている優しさや、連帯感、光り輝くような希望などはアンドロイドにはない、素敵な宝物のように見えた。

 だからヴィクトリアは思った。こんなに素敵な人間を守っていくのは間違ったことじゃない、と。

 これからも人間は間違いを冒し続けるだろう。人を傷付け、環境を破壊し、自らの領分を広げていく。

 けれども、その度に彼女が導いてやればいいだけのことだ。

 アンドロイドは正確だ。故に間違うことはない。

 だからといって、その頭脳が導き出した答えが必ずしも地球にとってもっともふさわしいものかどうかはわからない。

 だが、人間と一緒に地球の未来を考えることは、きっと地球にとっていいことに違いないだろう。

 彼女は信じていた。人間の優しさを。誠実さを。温かさを……。

 そして、いつまでもこの星は宇宙に浮かぶオアシスであり続けるに違いない。

 ヴィクトリアはこの星の行方を人間になら委ねてもいいと思った。


Fin.



ついに終わりましたね!

こんにちは、ほーらいです。


途中で休載を挟みましたが、4月から2月まで10ヶ月にも渡る長い連載でしたね。

部品としての私、そして『I as parts』シリーズ、これにて完載です。

今のところ、アフターストーリーや続きは考えていません。

いやまあ、今後別作品との絡みはあるんですけどね。

そのあたりはクロスオーバーということで、今後に期待してください。


とりあえず、部品シリーズの連載が終わったのでトリリス第二部でも再開しようと思っております。

現在、トリリスの第二部は全て書き終わっておりますので、あとは連載を待つだけとなっております。

だったら早くUPしろよって言いたくなりますでしょうけど、もう暫しお待ちください。

今までの連載から続けて来週から連載を再開しようと思います。

懐かしいトリリスの三姉妹にまた会える日を楽しみにしていてくださいね。


では、最後に。

途中で休載を挟みつつも、それでも辛抱して読み続けてくれた皆さん。

応援してくださった皆さん。

本当に感謝しております。ありがとうございました。

これにて『I as Parts』シリーズは終了となりますが、まだまだほーらいの小説は終わりません。

これからも、末永くお付き合いください。


それでは重ね重ね、皆様ありがとうございました。

ほーらい先生の次回作にご期待ください(


-----------------------

以下書き足し


連載日設定ミスってごめんなさい、ほーらいです。

うっかり予約投稿の設定ミスって火曜日連載になってしまいました。

というわけで、お預け食らってしまった読者様のために、ご愛玩ありがとうございました&予約投稿ミスってごめんなさいキャンペーンとして、設定資料のほうを公開したいと思います。

あくまでも執筆中に執筆用、つまり公開することを考えずに自分のためにまとめた内容なので、ウソも多いです。

考えていたのに使わなかった設定や、考えたけど使えなかった設定、実際と異なった設定も満載です。

けれども、執筆環境の一部を知ってもらうことで読者の皆様と感覚を共有できたらなって思って公開しようと思います。

ちなみに、部品第一部から第三部までシリーズ全作の設定を公開します。

一週間に一作品ずつ公開していこうと思います。

こちらは短編小説という形でシリーズに追加するつもりです。

部品シリーズの裏の世界を楽しんでいってください。


それでは最後に。


助言をしてくださった友人の皆様。

応援をしてくれた書き仲間の皆様。

最後まで読んでくださった読者の皆様。

本当に、本当にありがとうございました。

これからもほーらいの動向を見守ってやってください。

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