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第十六話 The Braver

第十六話


 一方、ヴィクトリア・コピーと戦闘を行ったヒロキは焦りを感じながら走っていた。

「なんでヴィクトリアさんが敵に回ってるんすか!」

 部隊員の間にも動揺が走る。あんなものが相手では、それこそ奇襲でもかけなければ勝ち目がない。

 だが、ヴィクトリア・コピーはその索敵能力を生かしてヒロキ達を追いかけてきている。これでは奇襲どころではない。

「隊長! どういうことか説明してほしいっす!」

 しかし、イヤホンマイクの向こう側から声は聞こえない。おそらく、ドラゴリアの衝撃を受けて壊れてしまったのだろう。

「チッ! 生きてる部隊員は陣形を組むっす! ヴィクトリアさんを迎え撃つっすよ!」

 ヒロキと逃れた部隊員は銃を構えて陣形を組む。そして通路の角からヴィクトリア・コピーが現れるのを待つ。

「来たっす!」

 部隊員達は一斉射撃を行う。だが、ヴィクトリア・コピーも一筋縄ではいかない。素早く身を隠すと、銃口だけを覗かせて狙撃の準備を行う。

 ヒロキは素早く精霊を構えると、ドラゴリアの銃口を狙って狙撃する。

 その瞬間、ちょうどレールガンが射出されて、ヒロキの精霊が当たった結果、銃口がズレて壁にオリハルコン弾が撃ち込まれる。

 激しい音を立てて壁に大穴が開いた。あんなものを直接撃ち込まれれば即死することは間違いない。

「それにしても丈夫っすね。おいらの精霊を受けて銃身が曲がらないとかありえないっすよ」

 ドラゴリアはオリハルコンで作られている。たとえ劣化ウラン弾であっても、オリハルコン銃身を曲げることはできない。

 第二射の準備が向こう側で刻々と行われているのがヒロキにはわかった。

「仕方ないっすね……」

 ヒロキは精霊を背中に背負うと、別の銃を取り出した。

「これでどうっすか!」

 引き金を引くと榴弾が飛び出していく。爆弾のような弾を射出するグレネードランチャーである。

 弾丸はヴィクトリア・コピーが身を隠している辺りまで転がっていくと、激しい音を立てて爆発した。

 結果として、ヴィクトリア・コピーは爆風に煽られて吹き飛ばされる。

「レールガンは再射撃のために冷却が必要っす! 今がチャンスっすよ!」

 部隊員は駆け足で通路の奥まで走り、角を曲がった。

 そこには狙撃準備を行おうとしているヴィクトリア・コピーの姿があった。

「頭を狙うっす! オリハルコンコートで体へのダメージは無効化できても、頭まではその防御は及んでいないっす!」

 部隊員は一斉に銃を構えた。だが、ヴィクトリア・コピーの方が一足早かった。

 ヴィクトリア・コピーはドラゴリアの引き金を引く。その瞬間、ドラゴリアから劣化ウラン弾が吐き出され、部隊員の一人が吹き飛ばされる。

「そっちのモードは使用可能なんすか!? でも、今攻めないでいつ攻めるっすか! 全員撃ちまくるっす!」

 ヴィクトリア・コピーはコートの裾で頭を覆うと、レヴァンティンを抜いた。

「ちぃッ! 全員退避っす! 白兵      戦に持ち込まれたら勝ち目ないっすよ!」

 隊員達は一度銃の射撃を止めると、急いで通路の角を曲がる。

「少しはこれで追撃が防げるといいっすけど……」

 ヒロキはポケットから手榴弾を取り出すと、ピンを抜いて転がした。

 爆炎が通路いっぱいに満たされる。だが、その中を平然とした様子でヴィクトリア・コピーは進んでくる。

「やっぱりダメっすか……」

 ヒロキは後退しながら後方に向けてマシンガンで斉射する。だが、それでも彼女の勢いは止まらなかった。

「もう……終わりっすね」

 ヒロキは走りながら思った。アンドロイドと徒競争をしても勝てるはずがない。それでも精いっぱいの抵抗とばかりにマシンガンの引き金を引き続けた。

 だが、ヴィクトリア・コピーの動きは止まらない。

 陽炎を立ち上らせるレヴァンティンが振り上がる。銃を撃ちながら走ったので、最後尾はヒロキだ。もうレヴァンティンの攻撃範囲内に入ってしまった。

「せめて痛くしないでほしいっす」

 最後にそう呟くと、目を瞑った。

「――まだ諦めるのは早いわよ」

 甲高い金属音が鳴り響く。ヒロキはゆっくりと目を開いた。

 彼の目の前では二人のヴィクトリアがレヴァンティンをぶつけあっていた。

「ヴィクトリアさんが二人!?」

「こいつは私のコピーよ。レンシアにトドメ刺した後、移動してたら戦闘が起こっているのがレーダーに映ってね。もしやと思ったら……通信機が壊れて連絡不能だったヒロキの部隊だったとはね」

 お互いの実力は完全に拮抗しているのだろう。一度二人は距離を取ると、剣戟を始める。

 鋭い音を立てながら陽炎が揺れる。一撃でも食らえばお互いタダでは済まない。

「しょせんコピーのダミープログラム、まったくもって弱いわね」

「……」

 ヴィクトリア・コピーの方がわずかだが遅れを取っている。経験の差というヤツなのだろう。

『SPsystem set up...system all green.

Electron control mode.Are you ready?

System start.Prepare impct!』

 超高温に熱せられたレヴァンティンをヴィクトリア・コピーは素手で掴んだ。その瞬間、肉の焦げる臭いとともにレヴァンティンがバラバラになる。確かに触れればレヴァンティンを破壊できるが、火傷によるダメージの方が大きい。

「あらら、SPシステムまで搭載してるのね」

 壊れた方のレヴァンティンを放り投げると、ヴィクトリアは残ったレヴァンティン一丁で迫る。

「甘いわ。一つ破壊できてももう一つあるのよ」

 そのままヴィクトリア・コピーの頭部を薙ぎ払う。ヴィクトリア・コピーの頭部が一撃で吹き飛んだ。

「ふぅ……。いっちょ上がりっと」

 ヴィクトリアはレヴァンティンを冷却モードに切り替えると、膝のホルスターにしまった。

 そして、ヴィクトリア・コピーの亡骸からレヴァンティンを一丁失敬する。

「ま、壊れたら相手のもらっちゃえばいいんだけどね」

 使ってる武器も同じ仕様のハズだ。壊されても、奪ってしまえば問題ない。

「さーて、行きましょ」

「あ、はい、わかったっす!」

 ヒロキはあまりの戦いの凄さに何一つすることができなかった。生粋のスナイパーといえど、剣戟戦を繰り広げているところへ味方へ当てないようにマシンガンを撃つ、なんてことはできない。だから、彼にはただ見ていることしかできなかった。

「悔しいっす。ヴィクトリアさんは一人で勝てるのに、おいら達は何一つできなかったなんて……」

「そんなことないわよ。あなたがいてくれたおかげで私は助かったわ」

 ぽん、とヒロキの肩を叩く。

「他に敵が来ても安心して任せられるもの。あなたの実力は折り紙付きよ。リーダー格じゃなければ対等に渡り合えるもの」

「ヴィクトリアさん……」

「さっさと合流しなさい。ヒメ達は先に監視室へ向かったわ。後はボデージュさえ倒せば……残りは“お母さま”だけになる。そのボデージュも今サトル達が追っているわ。まあ……彼らだけに任せても大丈夫ね」

「ヴィクトリアさんはどうするんすか……?」

「私は……“お母さま”と決着を付けてくる」

 ヴィクトリアはそう言うと、手に持っていたレヴァンティンを膝のホルスターに収め、一人ひょうひょうと歩いていく。

 ヒロキはただ黙ってその背中を見送っていた。



 サトル達はボデージュを追い詰めようと追いかけていた。だが、ボデージュの走る速度は人間に及びつかない。だが、それでもなんとか背中を追いかけながら見失わないように追い続ける。

「ヒメ、監視室は制圧できたか?」

『完了。そこにいたアンドロイドと戦闘があったけど、勝った』

「パーフェクトだ。ボデージュを見失わないように見ていてくれ」

『了解』

 ついにボデージュの背中すら見えなくなる。だが、ヒメの指示の元、ボデージュの向かった先へとサトル達の部隊は走る。

『サトル、注意して。アンドロイドがボデージュの向かう先に集結している』

「わかった。何かあったら教えてくれ」

 サトルはついにその部屋の扉を蹴り開ける。

 とてつもなく広い部屋だった。ロベミライアの模擬戦闘室だった。

 そこには、十数人のアンドロイドとボデージュ、そして数多くのオートマータが待っていた。

「Cタイプ、Dタイプ、オートマータを全部集めてもこれだけっすか……。ったく、人間ってのは以外と強いんすね」

 ボデージュはぽりぽりと頭をかく。

「でも、ここまでやられて黙っているほど俺達は甘くないっす。総力戦っすよ」

「ああ、望むところだ」

 サトルは両手に不格好な二丁拳銃を持つと、構える。

 ユリもリンもアレクも各々の武器を手に持ち――

「これが最終決戦だ。生きて帰るぞ」

「当たり前じゃない」

「頑張りましょう!」

「負けませんよ!」

 それぞれ答えた。

「「了解です!」」

 隊員達もそれに答える。人数を見れば人間の方が明らかに多かったが、オートマータを頭数に含めばロベミライア側の方が上だ。だが、人間の部隊は今もその人数を増やしつつある。ヒメの命令の元、人間の部隊はこの部屋に集まりつつあった。

「行くぞッ!」

「「はいッ!」」



「ついに始まったみたいね」

 イヤホンマイクの向こう側でサトルが戦線布告をしているのが聞こえてきた。

「おかげでだーれもいないわね」

 アンドロイドはおろか、オートマータすら一体もいなかった。人間も模擬戦闘室へと向かう者達にたまに出くわすくらいで、ヴィクトリアの手助けを必要としている者はいなかった。

「じゃ、私は大元を叩きにいきましょう」

 ヴィクトリアは巨大な扉の前に立つ。人間を殲滅したときの戦闘の報告をしてから数カ月が経過している。この扉の前に立つのも久しぶりだった。

「月日って、長いようで一瞬なのね」

 あの頃はまだ、人間を害悪と考えていた。

 だが、今はまさに希望そのものだとすら思っている。

 月日というものはこんなにも人を変えてしまうものなのだろうか。

 まだひ弱だったアレクを引っ張って戦いに出向いたときのことが思い出される。

 私をもっと信じなさい。そう彼に命令を下した。

 世界大戦に終止符を打つ。それがあの命令の起こした結果だった。

 ヴィクトリアはぴしゃりと頬を打つ。

「気合入れていかないと!」

 自分の戦いの結果で全てが決まるのだ。

 人類の未来も、地球の未来も……。

 ヴィクトリアは扉に手を触れる。扉は音もなくすーっと開いた。

 そこに満ちる闇は彼女を深淵えと誘う崖のように深い暗闇だった。

「かかってこい、ってことなのかしらね」

 ヴィクトリアは一歩ずつ、あの日のように軍靴を鳴らしながら部屋の中へと進んでいった。

こんにちは、ほーらいです。


ここ数話戦闘が続いていて解説が必要なことが少ないですね。

まあ、ヴィクトリア・コピーについてのお話でもしましょうか。

彼女はヴィクトリアのコピーです、はいそのままです。

この前お話したアンドロイドコピーのヴィクトリアverです。

もちろんですが、SPシステム使えます。

ただ、所詮コピーというだけあって、ヴィクトリアの前にはかないませんね。やったね、ヴィクトリア最強!

ヒロキ君もよく頑張りました、彼は頑張ったよ。

ヒメちゃんからの支援なしにこれだけやったんだ、誇っていいよ。

さて、次回予告です。



「撃て撃て撃て! 弾が切れた者は後方に下がって弾込め! ヤツらに隙を与えるな!」

サトル率いる人間軍と、ボデージュ率いるアンドロイド&オートマータ軍は最後の決戦を繰り広げていた。

その一方でヴィクトリアは“マザー”と対峙する。

全ての戦いが終わりへと向かっていた。


次話、第十七話 The Last Armer

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