第十一話 The Mocker
第十一話
ヴィクトリアとアレクは模擬戦を幾度か繰り返した後、部隊の面々の弱点や直した方が良い癖などを指摘する。
確かに彼らは強いが、それぞれに弱点がある。だからこそ、その弱い点を補い合うコンビネーションが有効になってくるわけだが。
最後に部隊メンバー全員と、ヴィクトリアとアレクのチームが戦うことになった。これで最終確認を行い、これでヴィクトリアとアレクのチームを打ち負かすことができれば部隊の戦力は十分ということになる。
七人はドームの中に入り、センサーを体に取り付ける。
そして、意識は仮想空間へと飛んでいく。
今回の戦場はロベミライア本部を意識した戦場だった。ヴィクトリアの記憶から細かくフィールドの各所を再現したもので、模擬戦闘としてはこの上ないフィールドだった。
ヴィクトリアとアレクからすれば慣れた場所だ。フィールドの各地を熟知した彼女らならば、地の利を最大限生かして戦闘できる。
『いい、アレク。相手は絶妙なコンビネーションを用いて攻撃してくるわ。こっちもコンビネーションを組まないと間違いなく負けるわ。準備はOK?』
『はい、わかりました! いつでもいけます!』
二人は合流すると、通路の一角に陣を取る。そこは狭くて長い通路で、“マザー”への道がある場所だった。
『私は後方支援、あなたは前線にて戦闘。OK?』
『はい!』
レールガンはアレクを巻き込む恐れがあるので使えない。秒速二十二キロの弾丸が近くを飛んでいけば直接当たらずとも同時に発生する真空波に巻き込まれてしまう。
弾丸を通常弾モードに切り替え、劣化ウラン弾を銃身に挿入する。ここならば、通路の角まで弾が届く。
『来ました!』
サトル、リン、ユリの三人はほぼ同時に通路の角から飛び出してくる。
まず狙うはヒロキだろう。彼の支援射撃はかなり邪魔だ。
通路の角からライフルが覗いているのがヴィクトリアの目には見えた。
『シュートッ!』
彼本人を倒さなくても良い。ライフルさえ破壊すれば彼の戦闘能力を奪うことができる。
『ヒロキ、ライフルを引っ込めて』
その瞬間、ヒメの予知によってライフルの位置がずれる。劣化ウラン弾はわずかに外れ、壁にぶつかって炎上した。
『ちッ! 予知を先に潰すべきかしら!』
しかし、ヒメの姿は見えない。おそらく通路の角から予知能力で指示を送っているのだろう。
一方、アレクは一人でサトル、リン、ユリの三人を相手していた。
狭い通路内ではユリの戦帝も存分に扱うことはできなかった。それが幸いして、アレクはなんとか接近戦へと持ち込み、フランシスカを振り回す。
『アレク! まずはリンを潰しましょう! 彼女が一番弱いわ』
『了解!』
二人はリンへと照準を合わせると、一斉攻撃を開始する。
リンは少し後方に下がると、ナイフを投擲してくる。アレクはそれを避けながらリンへと距離を詰める。
だが、それを容易く許すサトル達ではない。ヒロキの絶妙な支援射撃や、ヒメの予知、そしてサトルとユリのサポート攻撃でアレクはリンへ接近できずにいた。
『ターゲット変更! 彼らを突破して、まずはヒロキとヒメを潰しましょう!』
『了解!』
アレクはフランシスカにまたがると、ロケットエンジンとジェットエンジンをブーストさせる。時速数百キロの勢いで突っ込んでくれば、サトル達も避けざるをえない。
『やあああぁぁぁッ!』
アレクはヒロキに向かってフランシスカを振る。一撃目はヒメの予知によって避けられたが、すぐにエンジンをブーストさせて鎌の軌道を変え、二撃目にてヒロキを倒す。
『次はヒメよ!』
『ヒメさんがどこにもいません!』
アレクの突破を許してしまった三人は通路を逆戻りして、アレクへ攻撃を始める。それに対応するために、アレクはヒメを探すどころではなかった。
『仕方ないわね……アレク、私が合図したら一度横の通路に入りこみなさい』
『どうするつもりですか?』
『レールガンを使うわ』
ヴィクトリアはドラゴリアのモードをレールガンモードに切り替えると、電流を流していく。
『射撃誘導システム起動』
レーダーを起動し、三人の動きをサーチする。
『データ収集……充電開始』
三人の動きを予測し、最適のタイミングでアレクが通路横に飛び込めるよう調整する。
『手ブレ修正、ターゲットの移動先を想定』
三人を倒せばヴィクトリア達の勝利は確定する。
『射撃準備完了、命中率99.8パーセント』
あとは引き金を引くタイミングだ。アレクが通路横に近付き、なおかつ三人が避けられないタイミングを狙う。
『今よ!』
『大きいのが来る。通路横に退避して』
アレクが通路横に飛び込む。それと同時に三人も通路横へと向かう。だが、それをヴィクトリアは許しはしない。
『シュートッ!』
引き金を絞る。重い衝撃と共にヴィクトリアの手の中の銃が爆ぜた。
壁や床に軌跡を残しながらオリハルコンの弾丸が飛んでいく。これなら確実に避けることはできないハズだった。
だが、撃つのが一瞬遅かったのだろうか。リンを衝撃波に巻き込んで倒すことには成功したようだが、サトルは攻撃範囲外に逃れ、ユリはオリハルコンコートで衝撃を無効化したようだった。
『ちッ! 私もそっちへ行くわ! それまで持ちこたえて!』
『わかりました!』
ヴィクトリアはドラゴリアを背負うと、レヴァンティンを抜き、足の筋肉へ電流を流す。レールガンを受けてボロボロになった通路を走りながら、レヴァンティンの刀身を加熱する。
『挟みうちにされる……!』
通路を曲がると、ちょうどアレクが通路の向こう側で戦っていたところだった。そして、ちょうどいいことに二人はヴィクトリアに背を向けて戦っていた。
『悪いわね!』
ヴィクトリアは全身へ電流を流すと、サトルの方へ飛んだ。サトルは振り返ってヴィクトリアを撃つが、それを素早く回避すると、ヴィクトリアはレヴァンティンを叩き込む。
『くっ!』
サトルは小さな声を上げて巨獣と清羽を交差させて受け止める。力はちょうど拮抗しているようで、押しつ押されつの攻防を繰り広げる。
『今のモードの私の攻撃を受け止められるなんて凄いわ』
『これでも結構鍛えているのでな』
ヴィクトリアは一度距離を取ると、地面を蹴ってアレクと戦っているユリの方へ攻撃を仕掛ける。
『獲った!』
『十八時三十二分二十二度から斬撃』
ユリはわずかに体の軸をずらす。頭に叩き込まれるハズだった攻撃は右肩へと降り落ちる。
『つッ!』
オリハルコンコートを着ているとはいえ、レヴァンティンの刀身は数千度だ。コート超しに熱が彼女の肩へ攻撃を届けるだろう。
ユリはヴィクトリアから離れると、戦帝を振り抜く。
それは壁にぶつかり、バウンドを繰り返しながら空間を制圧していく。
『なっ!?』
共に戦うサトルへ攻撃を当てないよう、かつ最大限の威力を発揮するように微調整された攻撃。それは前後にいるアレクとヴィクトリアを同時に襲う。
『トドメだ』
通路いっぱいに刃が広がり、身動きの取れなくなったところでサトルの巨獣が火を吹く。アレクは頭に受けて戦闘から脱落した。
『負けるないわよ!』
ヴィクトリアはなんとか刃の網から逃れると、両手のレヴァンティンの引き金を引く。オリハルコンコートを着たユリには攻撃が届かないだろうが、サトルだけでも倒すことができれば十分だった。
だが、刃の網がそれを阻む。ユリは伸び切った戦帝を操作しながら、ヒメの予知を聞いてヴィクトリアの攻撃を防ぐ。
そして、その隙間から清羽と巨獣の弾丸が飛んでくる。既に何十発もヴィクトリアは被弾しているが、オリハルコンコートが全ての攻撃を無効化してくれていた。
『キリがないな』
『私もそろそろ限界です……』
右肩をやられて左腕だけで戦帝を操るユリの動きにキレがなくなってくる。それを勝機と思ってヴィクトリアはレヴァンティンを何発も叩き込んだ。
『サトルさん、後は任せます……!』
ユリはブレードの網を解除すると、戦帝を狭い通路内いっぱいにバウンドさせてヴィクトリアへ最後の特攻をかける。
ヴィクトリアはそれを冷静に見切り、攻撃を回避する。そしてレヴァンティンをその隙間を縫って仕掛ける。
今度こそユリを仕留めることに成功する。だが、それによって出来た隙は大きすぎるものだった。
『終わりだ』
巨獣が爆ぜる。それはヴィクトリアの側頭部に噛みついた。
「そこまでです!」
七人の意識は現実世界へと戻ってくる。
ヴィクトリアはドームを出ると、大きく息をついた。
「ふう……五人ともいい動きだったわ」
ヴィクトリアは先ほどの飲みかけのリンゴジュースを口に含ませる。
「これだけ動ければDタイプ相手でも健闘するわね」
「ホントっすか!?」
ヒロキが嬉しそうな声を上げる。
「お前は一番最初にほとんど動かずに脱落してるだろう」
「はっ! そういえばそうだったっす……」
「あなたはいいわ。前線には出てもらわないつもりだから」
「早くも戦力外告知っすか!?」
ヴィクトリアは首を横に振る。
「スナイパーが前線に出てどうするのよ」
「ま、まあそりゃそうっすけど……」
「作戦会議しましょう。今の戦いを見て、各々の動きを決めたいわ」
ヴィクトリアはリンゴジュースをぐいっと飲み干すと、ボトルを箱に放り込んだ。
「じゃ、じゃあ作戦会議室へ行きましょう!」
「ユイ、案内は頼んだわよ」
一行はユイの後について模擬戦闘室を後にした。
どうもこんにちは、ほーらいです。
今回はロベミライアアンドロイダーズVSオキシデリボシークレッターズの試合act2です(何
なんかこう書くと野球かなんか(ry
OK、同じネタを繰り返しても面白くないからサクっといこう。
今回は二度目の模擬戦闘訓練です。
べ、別にこれで話数を稼ごうと思ったってわけじゃないんだからね!
というわけで総力戦なわけであります。
ぶっちゃけ、アンドロイド側が人数比的に圧倒的に不利ですね。
実際の戦闘を想定すると、アンドロイド側と人間の人数比は1:20くらいになります。アンドロイドはそもそも20*4=80しかいませんからね!
それを補うのがオートマータなわけです。
それと、アンドロイドが件のアップデートファイル(第七話のヴィクトリアのセリフ)を使用すると、もう人間ではどうしようもなくなるほどの強化が為されます。
ただ、これはリーダー格だけのみなんですけどね。
このアップデートの内容はまだまだ秘密!
では、次回予告です!
ヴィクトリア達アンドロイドとサトル達人間は作戦会議を行っていた。
いかにしてロベミライアへ攻め込むか、そして勝利を勝ち取るか。
「まず、本部の地図を全員頭の中に叩き込みなさい。さっきのバーチャルでもいいけど、当日迷子になったらお話にならないわ」
作戦会議は進む。勝利は――誰の手に落ちるのだろうか。
次話、第十二話 The Discusser