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第十話 The Imitationer

第十話


「こちらです」

 二人がやってきたのは巨大なドームがいくつも並んだ部屋だった。そこには以前戦いを共にしたオキシデリボ密属部隊の面子が揃っていた。

「じゃあ、まずはアレク、行ってきなさい」

「ええ!? 僕ですか!?」

「そ、まずは様子見かな?」

 ヴィクトリアはぽんとアレクの背中を叩く。

「じゃあ私が最初はやるー!」

 と、勇んで出てきたのは篠川リンだった。

「二人ともドーム内に入ってください」

 アレクは不安そうな表情を浮かべながら、リンは嬉々とした様子でドームへと入っていく。

「さ、どんなもんか見せてもらいましょ」

 二人の準備が整ったのか、モニターいっぱいに仮想空間のフィールドが表示される。今回の戦闘の舞台は廃屋だった。

『じゃあ……行きます!』

 アレクはフランシスカにまたがって空へと舞い上がる。一方、それを見上げながらリンはナイフを両手に構える。

『結構速いわね』

 ロケットエンジンを積んでいるのだ。スピードがあるのは当然だ。音速まではいかなくとも、時速数百キロは出ている。翼もなしにこの安定した飛行なのだから、さすがロベミライアの左手というだけのことはある。

『いつまでも空を飛んでいるだけじゃあ勝負がつかないわよ?』

 リンはナイフを指先で弄りながらアレクが降りてくるのを待つ。

 やがてアレクも頃合を見計らったのか、急降下して鎌を振り上げる。

『やあああぁぁぁっ!』

ロケットエンジンの推進力と重力の乗った攻撃は凄まじい速度を誇る。だが、素早さにおいて人間最速クラスのリンのスピードも伊達ではない。

『よっと!』

 紙一重で鎌を避けると、反撃のナイフを投擲する。

 だが、一瞬アレクの方がスピードが早かった。深々と地面に突き刺さった鎌を素早く引き抜くと、鎌を振るってナイフを弾く。

『ちっ!』

 リンは舌打ちすると、ナイフを両手に接近する。長物相手では接近戦は不利だが、相手の間合いの内側に入ってしまえばリンに分がある。

 だが、戦い慣れしていないとはいえ、アレクもそう簡単には間合いの内側にリンを踏み込ませない。

 そうして小競り合いがしばらく続く。リンが近付こうとしてはアレクの超高速の鎌が振るわれ、それをリンがあと一歩のところで身を翻す。それの繰り返しだった。

「人間なんかに負けるんじゃないわよ!」

 ヴィクトリアはアレクを応援する。持久戦が続けば有利なのは素の身体能力が高いアレクの方だった。

『いっちょ試してみようかしら!』

 リンは両手に数本のナイフを持つと、同時に投擲する。それは直線的な軌道を描きながらまっすぐアレクへと飛来する。

『させません!』

 それを鎌の一薙ぎで全て弾き落とす。だが、それこそリンの狙いだった。

 鎌を一度振ってしまえばもう一度構えるまで時間がかかる。そのわずかな隙を狙ってリンは一歩踏み出した。

 振動するナイフがアレクへと襲いかかる。だが、アレクもロケットエンジンをブーストさせてリンの体を吹き飛ばし、自身を大きく後退する。

『少しかすりました……』

 アレクの頬から一筋の血液がほとばしる。モロに食らえばアンドロイドといえど大怪我は免れない。

 狙うとすれば、オリハルコンコートで固められている体よりも、露出している顔だ。そこのところをわかっての攻撃だったのだろう。だがそれも致命傷には至らず、ほんのわずかなダメージを負わせただけだった。

『まだまだ!』

 同時に数本のナイフが投擲される。今度はロケットブースターでナイフを吹き飛ばした。これならば鎌を構える必要もなく、それと同時に相手から距離を取ることができる。

『それはちょっとズルいんじゃないかしら?』

 今度は素早く回って背後からのナイフ攻撃。身の軽さを最大限生かしての攻撃だった。

 アレクは素早く振り返ると、鎌でナイフをガードする。それも彼女は予見していたのか、素早く接近してナイフで切り込む。

『はっ!』

 だが、今度こそ勝機と捉えたのか、アレクはリンの胴を薙ぎ払うように鎌を振る。

 リンのナイフがアレクの首に届くと同時に、アレクの鎌がリンの胴体を薙ぐ。

「はい、終了です!」

 お互い同時に致命傷を負ったのだ。仮想空間のフィールドが消失し、二人の意識は現実世界へと戻ってくる。

 二人はドームから出ると、相手の健闘を称えてハイタッチする。

「なかなかやるわね!」

「リンさんも凄いですね。いい動きでした!」

 ヴィクトリアはアレクの元へと向かうと、頭をぐりぐりと拳をぶつける。

「もう、相討ちなんてBタイプアンドロイドリーダーの名も随分廃れたわね。もっと頑張りなさいよ!」

「あいたたた! 姉さま痛い痛い!」

 そんなアレクの様子を笑いながら見守るリン達。

「今度は私、ヴィクトリアがお相手するわ。次の対戦相手は?」

 ヴィクトリアは手を上げて名乗り出る。

 今度はヒロキが前に出る。

「おいらが相手するっす!」

「あら、あなたじゃ役不足じゃない?」

「な、こっちは部隊最強のスナイパーっす! 負けないっすよ?」

「スナイパーは相方とセットになって初めて真価を発揮するものよ?」

「う……確かにそうっすけど……」

「じゃ、ともかくよろしくね」

 そう言い残すと、ヴィクトリアはドーム内へと入っていく。負けじとヒロキもドーム内へと向かっていく。

「さ、最強のスナイパーのお手並み拝見といきましょう」

 ヴィクトリアの体の至る所にセンサーが取り付けられる。そして、目の位置にモニターが降りてくる。

「いくわよ!」

 今度の戦場は見渡す限りの荒野だった。

 先ほどの戦場と違ってわずかな遮蔽物しかない、どこまでも広がった荒野だった。

『え、ちょ、これじゃあスナイパーに有利にしてるようなものじゃない!』

『もう戦いは始まってるっすよ!』

 ヴィクトリアは慌てて頭をコートで覆う。その瞬間、軽くない衝撃が彼女の頭部を襲った。

『ちっ!』

 ヴィクトリアはともかく近くの大岩に身を隠す。

 先ほどの一撃で意識が飛びかけたが、なんとか意識を繋ぎとめる。

『なら、こっちもスナイパー勝負ってわけね』

 ヴィクトリアは体内のレーダーを起動させる。それは仮想空間でも有効なようだった。

 生命感知でヒロキの位置を確認すると、ヴィクトリアはドラゴリアを手に持った。

『私だってスナイパーよ。そう簡単には負けられないんだから!』

 ヴィクトリアはドラゴリアに電力を供給する。

『射撃誘導システム起動』

 勝負は一瞬だ。これを外せば彼女の負けは確定する。

『データ収集……充電開始』

 レーダーから相手の位置を確認する。見えなくても相手を狙える分、こちらの方が有利だった。

『手ブレ修正、ターゲットの移動先を想定』

 相手は一カ所から身を隠しながら、こちらの動きを窺っているハズだ。

『射撃準備完了、命中率99.8パーセント』

 ならば、その遮蔽物ごと撃ち抜けばいい。

 ヴィクトリアは大岩越しにドラゴリアを構えると、レーダーを頼りに照準を合わせ、引き金を引いた。

 決して軽くはない衝撃が手の中で爆ぜる。そして、大岩を貫き、ヒロキが身を隠す岩をも貫いてヒロキへと弾丸が届く。

「そこまで!」

 二人は仮想空間から解放される。

「あれはズルいっすよ……」

「ふふふ、もう少し銃の性能を上げてらっしゃい」

 二人は一度握手をして離れる。

「今度は誰? もう一度相手するわよ?」

「じゃあ次は私が出ます」

 そう言って出てきたのはユリだった。

「ああ、あなたね」

 この部隊の中でおそらく一番戦闘能力が高いのが彼女だと、ヴィクトリアは直感的に悟っていた。先日の戦闘において、見事なまでの剣さばきを見た限り、彼女が一番強い。

「あなたとは一度戦いたいと思ってたの」

「なんすか!? その対応の差は!」

 ヒロキが愕然とした様子で文句を言う。

「だって、あなたは弱そうだし」

「酷いっす……」

 二人はドームの中に入る。

 今度の戦場は密林だった。密林ならばあの鞭のように伸びる剣も扱いにくいハズだ。

 ヴィクトリアはまずは相手の位置を確認するためにレーダーを起動――しようとしたところでレヴァンティンを抜いた。

 その瞬間、レヴァンティンを握った右腕に痺れるような感覚が残る。

『初撃を防ぐとはなかなかですね』

『たまにはカンも役に立つわね』

 直感的に抜かなければ殺られる、と悟っての行動だった。

 剣の軌道上にあった木々が次々と倒れていく。それほどまでにあの剣の切れ味は鋭いのだろう。

 こうなっては身を隠すなんてことは意味がない。すぐさま近付いて攻撃を当てに行かなければすぐに殺られる。

 だが、近付こうにも次々に伸びる刃が襲ってくる。それを両手にレヴァンティンを持って防ぐので精いっぱいだった。

 密林が次々と開拓されていく。しばらく攻防を繰り返したときには、密林だったフィールドは視界良好の切り株畑になっていた。

『まだやりますか?』

『ええ、もちろんよ』

 再び刃が襲い来る。だが、正確すぎる攻撃は逆に避けるのも簡単だった。

 ヴィクトリアは攻撃を回避すると、一気に距離を詰める。

『後ろも注意しないとダメですよ?』

『え……!?』

 戻り来る刃が再び襲ってくる。ヴィクトリアは高く飛んだ。その位置を一瞬後に刃が通り過ぎる。

『空中にいれば避けられませんよね?』

 ヴィクトリアは慌ててレヴァンティンを交差させる。そこを狙ったかのように伸びる剣が襲い来る。

 なんとかそれを防いだが着地もままならず、ヴィクトリアはごろごろと地面を転がる。

 その隙を狙って再び剣が飛んでくる。ヴィクトリアは半身を起こしながらレヴァンティンで攻撃を弾いた。

 そして、ようやく左手のレヴァンティンの引き金を引く。重い衝撃と同時に広範囲を焼き払う弾丸が放たれた。

 だが、それを受けてもわずかに彼女は怯むだけだった。

『まさか……オリハルコン!?』

『私のコートもオリハルコン製なんです』

 頭を狙わなかったことを後悔しながらも身を起こすと、再び襲い来る刃の猛攻を両手のレヴァンティンでなんとか捌く。

 オリハルコンコート相手ならば、レールガンで無理やり撃ち抜くか、頭を狙うしかない。だが、この刃の猛攻の前では頭を狙う隙も、レールガンに電力を供給する時間もなかった。

『あなた達を少し舐めていたようね。少しは本気を出せそうじゃない!』

 ヴィクトリアは立ち上がると、全身の筋肉に電流を流す。

 ヴィクトリアの特殊能力は目だけではない。レールガンに電力を供給するために、彼女は内蔵水素電池に蓄えられた電気を自在に操ることができる。

 それは自分の体に電気を流すことによって、筋肉を刺激し、全身を一時的に強化することが彼女には可能だ。

 これによってDタイプ以上の身体能力を発揮する。だが、このモードのときはレールガンを扱うことはできない。

 紙一重で伸びるブレードを回避すると、戻ってくる前に接近する。狙うは頭部のみだ。

 レヴァンティンをヒートソードモードに切り替え、ユリの頭部の辺りを薙ぎ払う。

 戻ってきた刃によって足が飛んだが、ヒートソードが肉を焦がす音が聞こえる。とりあえずは勝った。

「そこまでです!」

 二人の意識は仮想空間から現実世界へと引き戻される。

 ドームから出てきたユリとヴィクトリアは拳をぶつけ合う。

「いい戦いができました」

「こちらこそ。予想以上に強くて手間取っちゃったわ」

「そんな、私なんてまだまだですよ!」

 ユリは謙遜して首を振る。だが、ヴィクトリアはぽんと肩を叩いて

「あなたは強いわ。自信を持ちなさい」

「……はい!」

 連続の戦闘で疲労が溜まったのか、ヴィクトリアは体が重くなるのを感じた。

「そろそろ休憩にしましょう。仮想空間での戦闘でも結構疲労するんです。ヴィクトリアさんは連続で戦ってますし……」

「そうしてもらえると助かるわ。なんか飲み物もらえる?」

「あ、はい、ちょっと待っててくださいね」

 ユイはぱたぱたと足音を響かせながら部屋を出ていった。

「皆さん強いですね……。僕じゃユリさんなんて絶対勝てませんよ」

「ユリは元々日本軍の主力兵器だったからな」

 サトルが苦々しい表情を浮かべて答える。

「兵器って……人間が?」

「そうだ。まあ、色々と紆余曲折があって今はオキシデリボの主力部隊の一員として戦っている」

「ふーん……さすが主力というだけはあるわね。私も負けそうだったもの」

 ヴィクトリアは椅子にぱたんと座り込むと、手をぱたぱたとやって風を送る。電流によって全身を強化した後は反動が強い。確かに強力ではあるが、そう何度も使えるものではなかった。

「あいたたた……コレはホント疲れるわね……」

 肩をコキコキと鳴らす。そして大きく伸びをして椅子に体を預けた。

「はい、どうぞ。皆さんの分もあります」

 ユイが大きな箱を持って戻ってきた。中にはたくさんの水やジュースの入ったボトルが入っていた。

「私リンゴジュースもらい」

 ヴィクトリアはリンゴジュースを手に取ると、くいっと傾ける。

「次の模擬戦闘はいつにしますか?」

「そうね。じゃあ一時間後でどうかしら?」

「わかりました」

 そうしてヴィクトリアとアレクの二人は部隊の面々と話をしながら時間を過ごしていった。

素敵な予約掲載様のおかげでだいぶ安定して小説を供給できました、ほーらいです。

今回はロベミライアアンドロイダーズVSオキシデリボシークレッターズの試合です(何

なんかこう書くと野球かなんかの試合っぽいな。アンドロイダーズ二人しかないけど。

アレか、キャッチャーとピッチャーしかいなくてバッターの球は全部ピッチャーが走って取りに行くんですねわかります。

じゃあ攻撃のときどうするのかって? 全部ホームランに決まってるじゃない。

きっと普通の人がピッチャーフライするところをアンドロイダーズは力が強すぎてホームランになるんだろうね。

まあそんなことは置いといて解説!


仮想空間模擬戦闘システム自体は第二部にも出てきたね、ゲーセンに置いてあるやつ。

まあ、アレはゲーセンで民間人が民間人向けに作ったものだからそこまでリアリティがないのだけれども、今回は企業がリアリティさ重点的に作った本格仕様なので、皆さん大満足です。

ちなみにダメージは本人にフィードバックします。いやマジで。

だから、殴られりゃ痛いし切られりゃ痛い。まあ、リアリティ重視なので。

民間向けとは違うのだよ、って感じです。

あ、もちろん本当に傷ができるわけじゃないです。擬似的に痛覚を与えるだけなので、実際にはケガしませんので安心仕様となっております、たぶん。


そんなわけで次回予告へGO!


模擬練習を繰り返し、最後に一同は最後の決戦を行う。

それは両者全員で行う団体戦。

アンドロイド最強と、人間最強の7人が戦ったとき、どのような結末となるのか。

『いい、アレク。相手は絶妙なコンビネーションを用いて攻撃してくるわ。こっちもコンビネーションを組まないと間違いなく負けるわ。準備はOK?』

『はい、わかりました! いつでもいけます!』

模擬訓練と言えど、誰一人として手を抜く者はいない。


次話、第十一話 The Mocker


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