半同棲の日々
僕たちは別々の下宿に住んでいるはずなのに――気がつけば、生活のほとんどを一緒に過ごしていた。
朝、目を覚ましたら僕の部屋に彼女がいて、カーテンを開けて「朝だよ、起きなさい!」なんて言うし。
昼はそれぞれバイトや授業に行くけど、夕方になれば自然と彼女が僕の部屋にやってくる。カバンをぽんと置いて、靴下を脱ぎながら「ただいま~」って笑う。
いや、ここ、君の家じゃないから! ……と心の中でツッコミを入れつつ、そんな姿にほっとする自分もいる。
夜になれば、彼女は当然のようにキッチンに立つ。
「今日の夕飯はハンバーグだから。たかくんは洗い物担当ね」
「おお! ハンバーグ! 、、、って、俺も手伝おうか?」
「だーめ。あなたがやるとキッチンが汚れるから」
「ひどっ! 俺、そんなに信用ない?」
「ない!」
即答された僕は、思わず苦笑するしかない。
でも、フライパンを片手で器用に操り、もう片方の手で玉ねぎを炒めている姿は、まるで新米の奥さんのようで。
エプロン姿の彼女が、僕の台所を完全に自分の縄張りにしている様子は、なんだか妙に心地よい。
それでも僕が負けじと食器を取り出したり、野菜を切ろうとしたりすると――
「……」
彼女は無言で包丁をちらつかせる。
その目は言っている。
「これ以上邪魔したら、わかってるよね?」と。
「ひ、ひぃ……」
「なに? 今なんか言った?」
「いえ、何も……」
さらに、僕が調味料を持とうとすると
ガチャン!
彼女が鍋のフタをわざと強めに置いて威嚇してくる。
いや、そんな音で威嚇するなよ! でも、怖い。……いや、でもそれすら可愛い。
「はい、もうすぐできるから。テーブル拭いといてね」
「、、、それくらいなら」
「何その言い方! 家族のために動くのは当然でしょ?」
「家族って……俺らまだ大学生だよ?」
「いいの。予行演習!」
「よ、予行演習……?」
「ふふん♪ そのうち慣れるから安心して」
彼女は、料理をしながら当然のように未来形の話をする。
まるで“僕と一緒にいるのは決定事項”みたいに。
その自信満々な態度に、胸がじんわり熱くなる。
確かに怖いときもある。無言の圧力も、包丁チラつかせ攻撃も、鍋フタガチャン攻撃も。
でも、結局その全部がかわいく思えてしまう。
そして、彼女が作ってくれるご飯を一緒に食べて、笑いながら洗い物をして、同じ部屋で過ごす夜。
それはもう、立派な“半同棲生活”だった。
僕はその日々が、どこかくすぐったくて、でもかけがえのないものに思えて仕方がない。