”もうひとつの顔” 第2段
彼女は教育学部に通っている。
周囲からすれば「きっと将来は小学校の先生になるんだろうな」なんて、誰もが自然に想像するはずだ。
黒髪のボブ、清楚で上品な雰囲気、礼儀正しい立ち居振る舞い。まさに“理想の教育学部のお嬢さん”というラベルを貼られている。
でも、そのイメージが彼女の本質とどれだけずれているか、僕は誰よりも知っている。
「ねえ、将来はやっぱり先生になるの?」
ある日、僕が何気なくそう尋ねると、彼女はポテトチップをぽりっと口に入れながら、ものすごく気楽そうに答えた。
「えー? ならないよ」
「え? ならないの?」
「うん。だって受験のとき、一番入りやすかったから教育学部にしただけだもん」
「……は?」
思わず吹き出してしまった。
清楚な顔でさらっと爆弾を落とすからずるい。
「いやいやいや! そんな理由で学部選んだの?」
「いいじゃん、別にー。合格したんだから」
「……いや、まあそうだけどさ……」
「それに教育学部って、外から見ると“すごく真面目で将来性のある子”ってイメージあるでしょ? だからなんか得してる気分」
「計算高っ!」
「ふふん♪ たかくん、わたしがただのお嬢さんだと思ったら大間違いだよ」
そう言って得意げに胸を張る彼女の顔が、あまりに楽しそうで、僕は笑いながら肩を落とした。
周囲の人たちは、きっとこう思っているだろう。
「教育学部=将来先生」
「彼女はきっと、子ども好きで、優しくて、家庭的で……」
そんな“理想のお嬢さん像”を彼女に押しつける。
実際、学部の仲間やバイト先でもよくこう言われる らしい。
「さっちゃんって、将来は絶対いい先生になるよね」
「子どもたちに慕われそう!」
「すごく落ち着いてるし、しっかりしてるし」
でも、
僕は知っている。
二人きりになったときの彼女が、まったく違う顔を見せることを。
続きは30日21時です。
よろしくお願い致します。