十分すぎる理由
その一言で、胸の奥がぎゅっと熱くなる。
心臓がドクンと跳ねて、まるで体の内側から火がついたみたいだった。
「お、俺がいいって……本気で言ってる?」
「当たり前でしょ。冗談でこんなこと言わないよ」
「でも……なんで?」
「理由なんていらないの。わたしが“たかくんが好き”って思ったから、それで十分」
彼女の目はまっすぐで、どこまでも澄んでいた。
その視線を受け止めた瞬間、僕は言葉を失った。
「、、、でも、周りがなんて言おうと、俺なんかでほんとにいいの?」
「 “俺なんか”禁止!」
「えっ、、」
「わたしに選ばれたんだから、自信もちなさい。ほら、胸張って」
「う、うーん……こう?」
「そうそう。……あはは、やっぱりぎこちないね」
「いや、無理だって! 自分に自信もつとか、今までやったことないし」
「大丈夫。そのうち慣れるよ。だって、たかくんは私の彼氏なんだから」
そう言って彼女は、満足そうに僕の腕に自分の手を絡めてきた。
手のひらからじんわり伝わってくる温かさに、僕の顔は一気に真っ赤になった。
世間がどう思おうと、友人たちが首をかしげようと、関係ない。
彼女が笑顔で「たかくんがいい」と言ってくれる。
それだけで十分すぎる理由になる。
今までの僕の人生で、こんな奇跡みたいな出来事があるなんて想像もしなかった。
彼女の言葉が胸に響くたびに、僕はますます彼女を離したくなくなるのだ。
続きは29日21時です。
よろしくお願い致します。