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第33話 役所の関心

金曜日の10時、ピンポーンとなりました。いつものようにポン子が音に反応して「キューっ」と鳴きました。渡辺課長が頭を下げて、おもむろに名刺を渡しました。




ケージ越しに、ポン子は顔を宙に浮かせながら、頭の毛を逆立てて体を低くして身構えております。




「手を出すと噛みつきますので、気をつけてください。ポンちゃんから少し距離を置いてもらえば大丈夫です」




「分かりました。ポン子さんは胴体が全体的に茶色で、足は黒色をしていますね。実に立派な毛並みをしてますねぇ」




「はい。よくブラッシングはしておりますので」




課長は目の前のポン子に気を遣いながら、遠巻きに話しかけてきます。ポン子も新顔の課長を前に、さらに鼻をクンクンさせています。少し成長したポン子の顔は、目の周りが黒く、ところどころ黒色とこげ茶色、黄土色のグラデーションになっております。




「それでは今から朝食の準備をした後でポンちゃんに食べさせますので、撮影されて良いですよ。ただ、極端に臆病なので、あまり近づくと噛みつきます。少し距離を置いて撮影してください」




「了解です」




課長はすぐにビデオを構えてスタンバイ状態に入りました。




啓子が台所で、まな板に乗せた野菜やロースハムを切り始めると、ポン子はケージの端から端を何度も何度も行ったり来たりしておりました。いつもの行動です。




なぜこのような行動をするのか、SNSで調べてみたことがあります。これは常同行動といって、目的のない反復的な行動を繰り返す状態を指すそうです。ストレスや不安に関連した行動であり、適切な対処が必要であると記されておりました。




ただ、ポン子の場合は違います。少し待てば食べ物が得られるという目的があり、むしろ「早く持ってきてくれ」という強い意思表示の表れではないかと思われます。




話を戻します。




啓子が器に食べ物を入れて私に渡してくれました。




「ポンちゃん、ハイお座り。ワァー良くできたねぇ」




ここで私は、いつものようにポン子の背中をゆっくりと撫でます。




「そしたら、今度はお手、ハイ、お替り。ハーイ良くできました」




その間、課長はレンズを通して、真剣な表情で私とポン子の行動を撮っておられました。




「そしたら、ハイ背中に乗って」




ポン子は、開けているケージの扉から身を乗り出して、私の背中に乗りました。




「はーい、次はおつむてんてん」




ポン子は背中から私の頭へ移動し、右足をチョンと乗せました。「てんてん」の声に合わせて、チョンチョンとリズム良く乗せてくれることもあります。




「はーい、良くできました。それでは食事ねー。しっかり食べなさいよ」




食べ始めると、私はポン子の背中を再びゆっくりと撫でてやります。




レンズの向こうから声がしました。




「餌の中身は何でしょうか?」




啓子の出番です。




「はい、今日はロースハムに人参、キャベツ、大根、それにドッグフードを混ぜてやってます」




「へーっ、ロースハムですか。贅沢ですなぁ」




「大好物なので、必ずロースハムから先に食べます。それも伊〇ハムのロースハムが大好きです。一度、他のメーカーのロースハムをやったことがありましたが、食べる勢いが落ちました」




課長は、ロースハムの微妙な味の違いまで分かるポン子の舌に驚いておられました。




「運動は?」




「和室のベッドのところで遊ばせたり、ベランダにも出します。庭にも時々出しますが、ピューッと風が吹くと怖がってしがみついてきます。相当臆病なところがありますね。急な音や動きにもびくびくします」




「なるほど、デリケートなタヌキさんですなぁ」




「はい。真夜中であっても、ポンちゃんがいびきをかいていても、私が近づきますとパッと目を開けます」




その後、ポン子のこれまでの育児経過や性格について、いろいろとお話しました。




「ありがとうございます。早速持ち帰って、知事と議員に報告させて頂きます」


-続-

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― 新着の感想 ―
楽しく読んでいますよ 心の和む小説でいいです
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