第30話 一匙の油と涙
帰宅してポン子をケージに入れると、ホッとしたのか、私も啓子も夕方にもかかわらず疲れ果てて、しばらく眠り込んでしまいました。
翌朝、久永さんのフェイスブックに、元ちゃんへの切実な思いが綴られていました。
元ちゃんは自由に外を走り回っている反面、自然の猛威や野生動物の影響を受けます。
久永さんは、元ちゃんに次のように語りかけておられました。
―元ちゃん、雨や雷の時は隠れていてね。身体を冷やさないようにね。神様、タヌキの子元ちゃんをよろしくお願いします。そうつぶやきながら毎日ご飯を届けております。地面にご飯を置くのが忍びなく、クズの葉を敷いています。翌日には葉っぱだけが残っています。元ちゃんが確実に食べたかどうか確信は持てませんが、その都度ホッと致します…
読んでいるうちに、久永さんの優しさに思わず涙が滲んできました。
「元ちゃん、頑張って生き続けてね」と、心の中でエールを送っておりました。
不幸なことに、ポン子の災厄は続きました。
啓子がネットで「タヌキの好物はチキンの唐揚げ」との情報を見つけました。早速、鶏肉を買い求め、オリーブオイルで揚げて与えました。ポン子の晩ご飯代わりです。とてもおいしそうに夢中で食べてくれました。
ところが、しばらくすると嘔吐し始めました。ケージの中で何度も吐き続け、床やハンモックに油の混じったチキンを戻す始末です。
「グエッ、グエッ」
しまいには胃液まで吐き、次第に元気もなくなっていきました。
いつものドッグフードやロースハムを与えても、見向きもしません。
何も食べず、しょんぼりしている姿を見ていても、成す術はありませんでした。
「大丈夫、大丈夫。明日も戻すようやったら、T先生のところへ連れて行こう」
そう自分にも言い聞かせました。
幸いなことに翌日は嘔吐もなく、通常通りに朝食を終えることができました。
ネットの情報は簡単に得られて便利ですが、時には誤った内容も含まれています。
鵜呑みにすることの危うさを、改めて痛感しました。
-続-




