第28話 1200坪の約束
啓子も私もポン子をこのまま飼う方向で毎日過ごしておりましたところ、一本の電話が掛かって参りました。
「あのう、こちら甘木市内で“さざんかの里”という旅館の女将をしております内藤と申します。初めて連絡をさせて頂きますが、いつもフェイスブックでポン子ちゃんを拝見致しております。フェイスブックで猫の里親募集をされた時、携帯番号が載っていましたのでかけさせて頂きました。ポン子ちゃんはまだそちらにいますか?」
「はい、ポンちゃんでしたらここにおりますが、何か」
「旅館でポン子ちゃんを飼わせて頂こうと思っております。ぜひ譲ってもらえませんか」
丁寧な言葉に、啓子もつい頭を下げながら話しております。途中で私にも聞こえるようにスピーカーフォンに切り替えたのです。
「1200坪の庭の隅に小屋を設けておりますので、そこで大切に育てたいと思っております」
「えっ、1200坪? 無茶苦茶広いですねぇ」
思わず声が大きくなりました。
「はい。ただ、1200坪と言いましても田舎ですから、大した価値はございません」
これまで老獣医師も会社の社長も男性だったので、今回の優しい語り口の女性に心が惹かれました。
「ポンちゃんが幸せになるのであれば、願ってもないことですが。タヌキを飼われたことはありますか?」
「はい。今は飼っておりませんが、これまでに何度も。この辺りにもタヌキやキツネ、それにイノシシは出ますので」
何度も飼ったことがあると聞いて、余計に安堵の表情に変わりました。
「いつごろお連れしたらよろしいでしょうか?」
「それでは、来週の初めくらいに連れて来て頂けませんか?」
「わかりました」
連絡先と日程を確認し、電話を切りました。興奮がまだ抜け切りません。今度こそ、ちゃんと育てて下さるところにポン子がもらわれます。ポン子も喜ぶことでしょう。
早速、明日ポン子を洗面所でシャンプーを使ってきれいにしなければ。寂しくないと言えば嘘になりますが、啓子も私も重い課題から解放される気持ちでいっぱいでした。
今夜は羊の数など数えることもなく熟睡できそうですので、この辺で失礼致します。では
-続-




