第20話 最悪の結果
それから5日目の朝でした。徳田社長から連絡が入りました。啓子がスマホを取り、私にも聞こえるようにスピーカーフォンにしますと、
「実はポン子ちゃんがスタッフの吉田の手を噛みつきまして」
「ええっ?」
「病院で15針も縫って。それだけではありません。龍之介とも相性が悪く、中の間仕切りを外すとすぐ喧嘩になりました。このままにしておくとポン子ちゃんが死んでしまう可能性があります。沢井様には申し訳ございませんが、引き取りに来てもらえませんか。詳しいことはこちらでお話いたします」
相変わらず野太い声ではありましたが、あの豪快な笑いは消えておりました。最悪の結果です。
また同じ道を通って、連れ戻しに参りました。白亜のお屋敷の中で、その後の様子がわかりました。
「まことに残念ながら、吉田は最初からポン子さんと気が合わなかったようです。何度か手や腕を噛まれたものですから、マジックハンドを使って餌をやっておりました。間仕切りを取って龍之介と対面させると、お互いに匂い合い、そこまでは良かったのですが、次の刹那、龍之介がポン子さんの顔を舐めようとしました。その途端、ポン子は『ウーッ』と唸り声をあげて龍之介に噛みついたのです。怒った龍之介も負けじと噛みつき返したそうです。まだ恋というものを知らんのですなぁ」
「我が家でも私にしか懐かないくらいですから。そうかもしれません」
「吉田が溶接用の長い手袋をして、なんとか引き離して、その場は収まりました。その後、マジックハンドを使って躾をするように仕向けたそうです。沢井様からお聞きしておりました“お座り”や“お手”、それに“お替り”のうち、マジックハンドを使うと、毎回“お座り”をするようになりました。それで吉田も気が緩んだのでしょう。檻の中に入って手を伸ばし、何度か『お座り』と言って手で触って従わせようとしたところ、いきなり吉田の手を思いきり噛みついた次第です。まことにお粗末千万。申し訳なく思っております」
連れて帰ってケージに戻すと、普段と変わらないポン子がそこにいます。我が家のケージの中は、よほど落ち着くのかもしれません。
徳田邸に行かなくて良かったと思います。
後で分かることですが、今回の話には後日談がございます。とても信じられないようなお話ですが、散々な一日で、ポン子も啓子も私も疲れておりますので、今夜はこれにて失礼いたします。
-続-




