第二話 ちいさな命のリズム
「少しぐったりしているけど大丈夫でしょうか?」
「すぐにミルクをやってみましょう」
乳飲み子は、両手足の先だけが白く、全体的にすすけたような黒っぽい毛で覆われておりました。頭はずんぐりとしており、顔の大きさに比べて鼻が丸くて太く見えます。両耳はくっついており、目はまだ開いていません。口まわりが広く、ふっくらとした感じでした。
妻が哺乳瓶の先を口に入れようとしても、口を開けてくれません。今度は私がスポイトに替えて、何度も口の横をこじ開けながら、無理やり少しずつ口の中へ流し込みました。初めて飲んだ粉ミルクの味は、どうだったのでしょう。根気よく続けているうちに、身体がピクピクと動きだしたのです。
「良かったぁ!」
側溝から救い上げてから、かなり時間が経っておりましたので、おそらく脱水症を起こしていたのかもしれません。富田さんも田中さんも、乳飲み子を育てた経験がなく、猫仲間のよしみで、この子を我が家に預かってほしいというお気持ちでした。
そんな空気を察しまして、しかも妻とも阿吽の呼吸で、
「この子、しばらく家に預かって面倒を見てみましょうか」
と申し上げました。お二人とも、私の声を聞いて重い荷物を下ろしたかのように安心して帰られました。
段ボール箱の中で、天真爛漫に眠る姿を二人で見つめながら、
「今まで何回も乳飲み子の世話をしてきたけど、この子は今までで一番ブスやね」
「フフっ、そうねぇ」
小さなお腹が小刻みに動いております。
「ブスやけど、見てたら本当に可愛いねぇ」
「フフッ」
妻も私も、つい口角が上がりました。そっと抱えて体重計に載せると、160グラム。温州みかん一個半くらいの重さになりましょうか。
その後も、頑固なのかミルクを飲ませるのに難儀いたしました。しばらくはスポイトで、口の横からミルクを流し入れておりました。それから哺乳瓶に替えて飲ませようとしましたが、瓶の口先が太くてうまく入りません。すぐに口先の細いものを買って付け替えましたら、ようやく上手に飲んでくれるようになりました。
なかなか気を抜くことができない状態のまま、二人で3〜4時間おきにミルクを与え続けました。