第十一話 小さなイノチと私たちの日々
静岡の元は、晴れの日も雨の日も庭の囲いの中で過ごしているようです。
なぜかとお聞きしましたら、自然状態に慣れさせるためとの返答でした。結局、自然の中へ返すことを決められました。それ以来、並々ならぬ努力をしておられます。
囲いの外に久永さんが置いた蚊取り線香に向かって、元は鼻をクンクン動かしながら360度の屋外体験をしております。写真や動画を観ていても可愛すぎて見飽きないのです。
今日もまたポン子とムーを連れて中岡獣医のところへ健康チェックに連れてまいりました。中岡獣医は待合室で犬・猫の診察で待っておられる皆さんに、
「ほら、見て見てー、狸の赤ちゃんよ、可愛いいでしょう」
すぐに好奇の目が一斉にポン子へ向きます。
「この子は雑餉隈の市街地の側溝で瀕死の状態だったところを、猫の保護をしている沢井さんが助けられて…」
その瞬間、私も啓子も英雄になったような心持ちがいたしました。すぐに
「まぁ、かわいい」が呼応しました。
「へーっ、たぬきってこんな顔? もっと丸い顔と思っていたけど」
そのくらい町中では珍しい存在なのでございましょう。
相変わらずミルクを爆飲みしております。歯の成長とともに噛み癖がついてきておりますので、そろそろ離乳食への切り替えです。ところがこれが意外と難儀でございまして、なかなか離乳食に進みません。
いろいろ試してみました。子犬用のドッグフードの粒をくわえては、しばらくの間口の中で転がして遊んでおりました。ミルクを混ぜたり、フードクラッシャーでつぶして与えても、なかなか口の中へ入れてくれません。ポン子の歯が野生をむき出しにするのはこれからです。それでは今日はこの辺で。またのお付き合いよろしくお願い致します。
続く




