表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

再会

 ──そして、10日が経った。


 その日、オレはルーアの部屋をのぞいた。


 ベッドの上、丸められた毛布の中で、ちっこい3匹の子猫たちがもぞもぞと動いていた。


 まだ目は半分しか開いていないけど、耳がぴくっと動いたり、前足でぎゅっぎゅっとベッドを押したりして……ああ、ちゃんと生きてるんだなって、実感する。


 産まれたばかりの頃に比べると、体もほんの少しだけ大きくなっていて、毛並みも、前よりふわっとしてきた気がする。


 茶トラが、横たわるルーアの身体の下に潜り込もうとする。黒いのは、特等席でお乳を飲んでいる。もう1匹の黒猫は、尻尾と足先が白い。あらぬ方向へはっていって「ミャー」と泣く。


「ちょ、そっちじゃないって〜。こっちこっち、おっぱいこっち〜」


 ルーアが手を伸ばしてくいっと押し戻す。ふにゃっとした子猫が方向を変えて、彼女の下腹のほうへ動いていく。しばらくすると、ぷるぷる震えながら、おっぱいをぱくりとくわえた。


「そーそー、えらいえら〜い!」


 その様子を見ながら、ルーアは「ふふん♪」って顔で、めっちゃご満悦だった。尻尾をパタパタ揺らしながら、3匹をすっぽりと囲い込むように寝そべっている。


「……こいつら、名前つけたんよ」


 部屋に入ったオレに気付いたルーアが、話しかけてきた。


「茶トラがラルフィ。女の子だけどめっちゃ元気で、すぐ他の子の耳をかじるヤンチャ系。全身黒いのがリアーナ。こっちも女の子で、食いしん坊でいつもお乳を欲しがってる。耳とシッポと手足の先が白いのがルディ。男の子なのに泣き虫で、自分で迷子になっておいて、すぐに、みゃぁみゃぁ鳴くの」


「みんな元気そうだ」


「そうだよ……すごいしょっ……」


 そのとき、オレのふところから「ミーミー」と小さな鳴き声がした。


 ルーアが、ぴくっと耳を動かして、オレを見上げた。


 オレはそっと、ふところから三毛の子猫を取り出した。前より少しだけふっくらして、毛並みもやわらかくなっている。抱きかかえていた手をゆっくり下ろして、ルーアの横にそっと置いた。


 ルーアの目が、まんまるに見開かれた。


「……!」


 息をのんで、震える手で三毛の子を包むように引き寄せた。


「えっ、ちょ……あんた……マジで? うっそ、帰ってきたのぉ……?」


 三毛の子は、おぼつかない足取りでルーアの体に鼻先をすりつけた。クンクンと匂いをかいで、ふるふる震えながら前へ進んでいく。やがて、ふにゅっとおっぱいをくわえた。


「……おかえりぃ! アタシがママだよ~!」


 ルーアは、完全にテンションだだ上がりで、三毛の子をぺろぺろとなめながら、顔をくしゃっとゆるめた。


 こうして並んでみると、この子も他の3匹と同じくらいの大きさになっていた。


「……この子の名前はね……そう、レイチェル。頑張り屋さんで、きっと誰とでも仲良くなるの」


 そうしてルーアは、4匹まとめて自分の体に巻き込むようにして寝そべる。それから、子猫たちの身体をなめて、おしっこをさせる。子猫たちがウトウトし始めると、そっと抱しめる。


 オレは、黙ってそれを眺めていた。いくらでも眺めていられそうだった。


 ……平和で、のどかで、あったかい光景だった。


(……もう1匹を埋めた庭の隅のことは、いつか教えてやろう……)


 しばらくして、ルーアがぽつりとつぶやいた。


「……あーあ……ウチのママや兄弟や、彼ピにも見せたかったなぁ……。みんな、子ども好きだから、めっちゃ喜んだと思う……。友達とか呼んで、パーティー開いて、『見て見て〜うちのベイビー超かわいくない〜?』って自慢しまくってぇ……」


 彼女の声はいつもの調子だったけど、語尾だけがちょっと震えてた。


 それを聞いて、オレは──召喚という、この世界の理不尽な仕組みに、すっかり嫌気がさしていた。


 確かに、最初は「勇者」なんて呼ばれて舞い上がっていた。けど、特別な能力をもらったわけでもない。よく考えてみれば、元の世界に残してきた読みかけのマンガや、やりかけのゲームだってあった。


 それに──もし、今この子猫たちを残して、また別の世界に召喚されたら。

 オレは、たぶん、おかしくなってしまう。


 なのにルーアは、子どもたちの温もりを感じながら、くすっと笑った。


「んー……でも、いいの。この子たちが元気でいてくれるなら、それでいーもん。泣いてないし? 全然泣いてないし〜! アタシはママだから……アンタたちのママだから……アンタたちを守るからね!」


 何も言えずに、オレはルーアたちをただ見つめていた。


(オレには、すごい特別なスキルも、聖なる剣もない。でもこの、寝ぼけてママのおっぱいを探してる小さな命くらいは……守ってやりたい)


 ――それから3か月後、最強の魔獣があらわれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ