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始まり6

 

 私の作った氷壁のおかげで私と雫はあまり吹き飛ばされずに済んだ。

 この壁がこれ以上吹き飛ぶのを防いでくれたおかげか、私は少し擦り傷ができたぐらいで済んだ。

 でも雫は私と違いそれほど頑丈ではないからなのか、気を失っている。

 何が起きたの!?

 

 氷壁にもたれかかっていた体を起こし、衝撃波が飛んできた方を見ると、誰かが馬乗りになって火山の首を絞めていた。


 「死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


 籠り過ぎた感情故なのか、抑揚も無くそう言い続ける。

 私は見て数秒経った後に気付いた。

 あの子だ。

 入学式の時火山にいじめられてた妖狐族の子だ。

 私がすぐに気づかなかった要因はやはり、あの額にある赤透明の一本角だろう。

 あんなの、入学式の時には無かった。


 「やめろ!手を離せ!」


 子分のうちの1人、鏑木が彼に体当たりし、倒れている火山を筒原が救出した。

 彼は上にのしかかった鏑木を蹴り飛ばし、ゆっくりと起き上がった。


 「痛いなぁ。どうして僕の邪魔をするの?」

 「どうしてって...火山さんが殺されそうだったからに決まってるだろ!」

 「どうして...殺しちゃいけないの?」


 私にはそれが彼にとってごく当たり前の事のような、心の底から出た純粋な疑問に思えた。


 「耳が気持ち悪い、尻尾が気持ち悪いと暴言を吐き、ずうっと僕を、いじめて、いじめて、いじめて」

 

 彼はスッと鏑木に掌を向けた。

 すると鏑木が何かに吹き飛ばされた。

 さっきの衝撃波も多分あの子仕業だ。


 「それだけじゃ飽き足らず、僕に親がいないことをいいことに家を荒らし、金をたかった。通報した所で保安隊なんてどうせ金を掴まされてまともに動いてくれない。君たちのせいで僕の心は、死んだんだよ」

 

 このままだと、火山は間違いなく殺される。

 普通なら今すぐにでも止めるべきだと思う。

 でも私には、彼を止めない方がいいのではないかと”思えてしまった”。

 彼は火山にゆっくり近づいていく。


 「こっちに来るな!」


 火山は手のひらから炎を出し、その炎で槍を形作った。

 その槍は岩をも打ち貫くかのような速度で彼めがけて発射された。

 が、その槍は衝撃波によって打ち消されてしまった。


 「でももう君も、僕の心を殺した君ののうりょくも、怖くない!」


 彼は立ち止まって、すっかり腰の抜けてしまった火山に手のひらを向けた。


 「もう僕の魂能ちからは、手元の物を軽く揺らす程度の物じゃない!」


 彼が火山に手を下そうとした瞬間、その腕を青透明の大きな鳥が掴み、衝撃波はあらぬ方向へと飛んで行った。


 「天!何してるの!早く止めないと!」


 そうだ、止めないと。

 いくら自業自得とはいえ、一つの命が失われようとしてるんだ。

 彼の経験も、選択も私には理解できる。

 だからこそ、彼を罪人にしてはいけない__


 「あの時止めてくれた龍神族の人だよね。あなたは分かってくれるよね?」

 「うん、分かるよ」

 「ならこのまま「でも、あなたを止める」

 「どうして?あなたも僕と同じでしょ!?」

 「ううん、違うよ。私に、あなたの同胞を名乗る資格は無い」


 そう、私は半端な混ざり物なのだから。

 彼は雫の鳥をもう一方の腕で掴んで引きはがした。


 「はぁ、できれば恩を仇で返すような事はしたくないんですけど、僕を止めると言うなら容赦はしない」


 脳が冷却され、思考が研ぎ澄まされていく___

 授業で習ったことがある。

 多分彼の魂能は属性を持っていない、特殊魂能とかいうやつだと思う。

 相性による対策ができない分、出力の平均値が極めて低いって習ったけど、彼のそれは平均値を遥かに超えている。

 さっきの発言からして何かしらの強化が施されていると考えられる。

 彼の注意が私に移っている間に、雫が後ろに回り込み右のふくらはぎを狙って銃撃した。

 しかしそれは腕に着けていたリストバンドにより防がれた。

 私は間髪入れずに銃剣の銃身で殴ったが、彼はそれに反応して腕を固めてガードし、それと同時に銃剣も折れてしまった。

 普通の霊人なら骨折してもおかしくないが目立った傷は無く、身体能力も強化されているのか住宅の外壁に打ち付けられる程度だった。


 「ハハハ、凄いや」


 彼は腕を見て無傷であることを確認し、立ち上がって私に手のひらを向けた。

 私は折れた銃剣を捨てて、拳をに握り固めた。

 衝撃波が来るかと思われた瞬間、炎の槍が彼の腕をかすめ、装着していた金属の腕輪が壊れた。

 どうやら火山も子分二人に支えられながらも加勢してくれるらしい。

 すると彼はさっきまでの落ち着きを失い、地面に落ちてしまった腕輪を拾い、何とか付け直そうとしていた。


 「嘘嘘噓噓噓噓噓嘘嘘、ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ。なんでよ!壊れないって言ってたじゃん!」


 額に生えた赤透明の一本角の根元から皮膚が徐々に赤く染まっていく。

 赤色の部分は顔面を覆うと、その侵食を止めた。


 「痛い、痛いよぉ。_____助けて」


 彼がそう呟くと痛みが限界に達したのか気絶してしまった。

 終わった?

 ...いや、違う。

 私の本能が危険だと冷淡な声で告げている。

 雫も感じ取ったのか、魂能で作り出した四足獣で私の腕を引っ張り退避するよう促した。


 「離れて!」

 「あ”あ”あ”あ”あ”あ”ああああああああああああああああああああ」


 その咆哮が聞こえた瞬間鼓膜に激痛が走り、思わず耳を塞いだ。

 痛い、が視線は彼から離さず一挙手一投足を注視する。

 咆哮が鳴りやむとまるで操り人形のような挙動で立ち上がった。

 咆哮により、鏑木及び筒原は耳から血を吹き出し気絶した。

 火山は気絶はしていないものの、なんとか意識を保っている状態だ。

 彼の顔を見ると先ほどまでは無かった仮面のような物で覆われていた。

 武器もない、あったとしても銃剣は私の筋力に耐えられず、銃弾もリストバンドにより防がれる。


 「私が足止めする!」


 雫は四足獣を起き上がったばかりの彼に飛びかからせた。

 彼はそれをジャンプして回避し、空中で足から衝撃波を出し私の方へ腕を突き出しながら急速接近してきた。

 一歩前へ踏み出し突き出している腕を逸らそうと手の甲で触れると、擦り傷を伴い弾かれた。

 咄嗟に地面を蹴って横へと回避した。

 勢いを殺しきれず通り過ぎていく彼を横目に呼吸を整える。

 彼の体、おそらく微弱な衝撃波を体中から放出してる。

 私は拳を作り、魂能で作った氷で肘の辺りまで覆った。

 これで少なくとも直接肌に損傷を受ける事は無くなった。

 つけすぎた勢いを殺すために体勢を崩した彼の背後を取り、氷で覆われた拳で思いっきり後頭部を殴った。

 頭は勢いよく地面に叩きつけられた。

 追撃を入れようと蹴りを構えると、彼の体から発された衝撃波によって吹き飛ばされた。

 まずい、上手く受け身の体勢を整えられない。

 ある程度の衝撃を覚悟していると、どこからか駆けてきた青透明の四足獣に受け止められた。

 私は四足獣を足場にして飛び上がり、翼を使って空中から彼に接近した。

 私のアシストを終えると四足獣は消えてしまった。

 ありがとう、雫。

 

 上から拳骨をくらわそうとしたが回避され、反撃はされずに彼は私を無視して雫の方へ衝撃波で加速しながら向かって行く。

 雫の魂能は近接戦闘向きじゃない。

 いくら魂能で作り出した獣がそばにいたとしても、今の状態の彼に近づかれてしまったら雫はやられてしまう。

 雫が作り出した四足獣が彼の行く手を阻んだが、衝撃波によって再生する間もなく辺りに水となって散った。

 雫は必死に背を向けて迫りくる彼から必死に逃げたが一瞬で追いつかれた。

 雫が危ない。

 私は思考を放棄し、遮二無二走った。

 でも、分かってしまった。

 絶対に間に合わない。

 彼の衝撃波を纏った手が雫に触れようとした瞬間、赤髪の男が刀の鞘で叩き落した。


 「ハル、仕事を始めるぞ」

 

 なんでカグツチさんがここに?

 よく見るとカグツチさんの肩には小さなクモのロボットが乗っていた。

 しかもハルさんまで。


 『今回のはかなり鬼人化が進行してるから捕獲した方がいいかも』

 「了解」


 カグツチさんは腕を叩き落とされ姿勢を崩している彼に蹴りを入れて雫から突き放した。

 私はすぐさま雫に駆け寄った。


 「大丈夫?」

 「いやー、もうダメかと思っちゃった」


 怪我もないようでよかった。

 一呼吸置くとカグツチさんは鞘から刀を抜き、再度近づこうと向かってくる彼の両足のアキレス腱を一瞬で切ってしまった。

 するとハルさんが蜘蛛の糸の様な物を出して、彼を拘束した。


 『だいぶ弱ってたね』

 「ああ、そうだな」


 頭の中が再び暖かくなった様な気がした。

 ふぅ、終わったー。


 「ねぇねぇ天?そのいつまで付けてるつもりなの?」

 「あ、忘れてた」


 私が手に纏っていた氷を砕いていると、私たちの元へカグツチさんがやってきた。


 「あれと戦ってたのはお前らか?」

 「はい」

 「戦ってたのはほぼ天だったけどねー」


 カグツチさんは頭を掻きながらとても気まずそうにこう告げた。


 「非常に言いにくいんだか、一応事情聴取しなきゃいけない決まりになっててな、これから少し付き合ってもらえるか?」

 「その前に一ついいですか?」

 「ああ、いいぞ」

 「これから彼はどうなるんですか?」

 「...俺から言えるのは、もうああなった以上助かる方法は無い」

 「そうですか...」


 それから火山達も含め私たちはカグツチさんに連れられ管理局保安隊本部へと向かった。

 試験場を発つ前に後ろを振り返ると、ハルさんは彼を連れて居なくなっていた。

 事情聴取が終わった後そのまま解散となり、今日起きた事の口外を禁止された。

 あの後試験は中断され、その時点での成果で評価する形になったらしい。

 私達は試験の合格条件を満たしていたので、合格扱いにしてもらえるそう。

 やったね。

 

 翌日、事件の影響を受けて休みに...ならなかった。

 彼一人が居なくなったとしても、何ら変わらない日常が続くんだと実感した。

 今日は学園で授業の日ではなく、管理局で働く日だ。


 「天、保安隊はこっちだよ?」


 雫は4階行きのエレベーターを指差しそう言った。


 「ごめん雫、私行く所があるんだ」

 「...そっか、頑張ってね!」


 B1と書かれたエレベーターに乗り扉を閉める。

 彼を見て思った。

 鬼人でなくとも、次に正しい主張の為に罪を犯そうとするのは誰なのか。

 異形だれか、タマさん、雫、火山、鏑木、筒原、檜山先生、あるいは...私?

 この階で唯一人気のある部屋の扉を三度叩いた。


 「どうぞー」

 「失礼します」


 誰がなったとしても、一度罪を犯してしまえば例え正当性があったとしても悪になってしまう。

 彼らが罪人になってしまう前に誰かが止めてあげないといけない。


 「ここにもう一度来たって事は、そういう認識でいいんだよな?」

 「はい、これからよろしくお願いします!」


 でもそんなのは建前で、ここで働けば私が生物かれらの綺麗な部分・醜い部分に触れることができるはず。

 そうすれば魂、感情について知れると思ったから。

 私が私を知るために__

 私が人であると証明する為に__

 

 


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