始まり4
入学式から1ヶ月程が経過した。
この1か月、授業が始まったこと以外は特に大きなイベントもなかった。
学園生活になれるための順応期間のようなものだろう。
ただ、2週間ほど経過したころ告知があった。
1週間後から学園に通いながら管理局員として働いてもらうと。
今日がその日である。
殺す気か?と最初は思った。
が、そこまで私たちに負担を強いるような物でもないようで、学園は私たちを1週間のうち2日を授業、3日を管理局で経験を積ませるという。
私の代だけというわけではなく、毎年こういう知識よりも経験に重きを置いたスタイルでやっているらしいのでそこは安心した。
「"天"、おはよう!」
「おはよう"雫"」
流石に1ヶ月もあると仲は深まるもので、お互いに呼び捨てする様になった。
入学式以降毎日一緒に登校している。
「ねぇねぇ天。今日から管理局で仕事だけど、どこか働くならここがいいなって所とかある?」
下足室で靴を履き替えながら答えた。
「うーん、特に無いかな。あまり管理局がどういう所かも知らないし。そう言う雫は?どこか決めてるの?」
「私は候補先次第かなぁ。できれば保安隊がいいけど」
先生によると、今日あの試験の結果に基づいた配属先候補が書かれた紙が配られてその中から一つ選び、バイトのような形で配属される。
ちなみにちゃんと給料は出るらしいのでただ働きとわけではない。
よかった。
教室に入るとクラスメイト達の話声が聞こえた。
「わぁ、今日も雪羅さん綺麗ね」
「そうね、あの人と一緒のクラスになれてよかったわ」
そう、私は入学式に日以降、誰一人として友達ができていない。
あの日親分一味を撃退したせいでクラスメイトと仲良くなるどころか神聖視されていた。
そのせいで話しかけても相手がかしこまった態度を取って一向に距離が縮まない。
それに加えて私の事を陰で綺麗だとかかわいいだとか言ってるし!
さっきの会話もそうだけど全部聞こえてるよ!
言われてる側はめちゃくちゃ恥ずかしいんだから!
.....結局、雫以外友達はできなかった。
仲良くなれそうな雰囲気のあったあの妖狐族の子も、あの日以降学園に来てないし。
これも全部あの親分とやらのせいだ!
「よし、全員集まったな」
教室に檜山先生が教室に入って来て、教卓へと足を運んだ。
「全員席に着け、これからお前らの試験結果に基づいた配属先が書かれた紙を配布する」
配られたその紙を見ると縛霊との模擬戦闘で評価されたポイント、そして複数の配属候補が書かれていた。
どうやら私は今の主流の戦い方じゃなかったけど、近接戦闘で縛霊に勝ったこと、魂能の使い方が主に評価ポイントになっていた。
そして私の配属候補は....
技術部・中枢管理部・保安隊・特命課の4つだった。
うん、どこがどういう事をしてる部署なのか特命課以外は名前から察することはできるけど、改めて考えると何をしてるのか本当に知らないな。
「よし、全員目は通したか?そこに書かれている部署なら、お前らが配属されても問題ないと判断された部署だ。逆に言えばその部署以外に入ることはできない」
つまり私はこの4つの内から選べるって事か。
「おそらく、今それらの部署についてお前らは何も知らないだろう。今から各部署の仕事を説明し、その後管理局へ赴いて自分の希望の部署へ行って、その後はその担当者の指示に従え。ちなみに配属先は今週中に決めてもらう。よって、今日の授業は無しだ」
この中から一つ選んでそこに行き、体験のような物をする。それを通して入る部署を決める。話を要約するとこんな感じかな。
「では今から各部署の仕事内容について説明する」
先生は懇切丁寧に説明してくれた。
技術部・管理局のあらゆる機械やシステム、さらには新しい薬などの研究開発なども行っている。
中枢管理部・管理局にある部署のまとめ役のようなもの。予算の振り分けや政治的な対応などの雑務をこなす部署。
保安隊・特殊な空間に発生する縛霊という謎の怪物を狩り、黎界の治安維持を行っている。非常時には軍隊として機能する。管理局の中で一番人数が多い。
特命課・最近発足した新しい部署。管理局員を取り締まる内部警察のようなもの。現在2人で仕事を回している。
これ以外にも部署の説明はあったが、私に関係ある物はこんな感じだった。
「まぁこんな感じか。詳しい説明はそこに行けば聞けるはずだ。どこに行くかはお前らに任せる。私からはとやかく言うつもりはない。では、各自決めた者から管理局へ行くように、以上だ」
そういうと先生は足早にこの場を去った。会議がある日はいつもああいう感じなんだよね。それはそうと、私もどこに行くか決めないと。
技術部は、別に機械いじりとか研究とか興味ないしなぁ。
中枢管理部は...お母さんがいるんだよなぁ。
シンプルに一緒に働きたくない。
職場に親がいるってどうよ?
嫌でしょ。
となると消去法で保安隊か特命課かな。
「ねぇねぇ、天はどうするか決めた?」
雫が肩を叩いて話しかけてきた。
「まだだよ。保安隊にするか特命課にするか迷ってるんだよね」
「そうなんだ、私は保安隊にするよ!あの忌々しい縛霊ぶっ殺したいし」
「へ、へぇー」
目がマジである。
ちょっと怖い。
まぁ店壊されてるし、仕方ないか。
雫が保安隊に行くなら私も一緒に行こうかな?
誰か知り合いがいた方がいいと思うし。
「天、迷ってるなら特命課の方に先行けば?」
「え、どうして?」
「だって期限は今週末だよ?私が保安隊に行くから後からでも教えてあげられるし」
確かに、1日目から行かなくても雫がいるから前日にやった内容教えてもらえるのか。
すぐ決めるんじゃなくて、他のところを見てから考える方がいいもんね。
「じゃあそうしようかな」
雫のアドバイスに従って、まずは特命課から行くことにした。
管理局の入口までは一緒なので、雫と一緒に向かう。
入口に着くと、そこには局内マップと書かれた地図が置いてあった。
建物は地下2階から5階まであり、その3階が管理局と黎界の各地をつなぐ列車の駅になっている。
保安隊は4階と5階、特命課は地下1階にあるようだ。
「ここまでみたいだね。じゃあ天、頑張ってね!」
「うん、雫もね」
中へ入り雫と別れた。
管理局の中は非常に人が多く、大半の人は1階にある中枢管理部に用があるようで、受付窓口と書かれている所に行ったり、その前の椅子に座ったりしていた。
まるで大都会の病院のそれで、違うのはみんな健康であることだ。
地下1階に行く方法を探していると、エレベーターを発見した。
その横には大きな文字で2階と書かれている。
この建物に階段は無く、それぞれの階に専用のエレベーターが付いているようだ。
私はその隣のB1と書かれたエレベーターのボタンを押してその前で待機した。
このエレベーターは他のものと違い、あまり、というか全く人が並んだりしていない。
そういえば先生が特命課は最近発足して、二人しかいないんだっけ?
チーンとありきたりな音を立ててエレベーターの扉が開く。
それに乗り込むと自動で閉まり、あまり揺れを感じないまま、階数表示の数字だけが変化していった。
扉が開くとそこは大きなフロアだったが、気持ち悪いくらい人がいなかった。
というか私以外この階に人がいるか怪しいレベルだった。
すると足元に奇妙な気配がしたのでそこを見ると、クモがいた、それも機械の。
「うわぁ!!!」
びっくりして閉じたエレベーターの扉まで下がった。
『あなたが雪羅天?』
「うわ、喋った...」
なんかもうびっくりを通り越して若干それを受け入れてしまった自分がいる。
クモが機械で、しかもそれが喋って、ん?どういうことだ?
誰でも目の前にクモ型の機械が現れて、それに話しかけられたら誰だって混乱するだろう。
「あの、あなたは誰ですか?」
『私?私はハル。特命課だよ。あなたを迎えに来た。私についてきて』
この人?このクモ?が特命課なんだ....とりあえず従っておこう。
小さな機械音を立てながら移動し始めた。
『あなたがここにいるってことは特命課に入るって事?』
「いえ、まだ決めては無いです。とりあえず説明を聞いてから考えようかなと」
『そう』
なんか淡泊だなぁ。
さっきこの階に私以外の人がいるか怪しいって思ってたけど、本当に誰もいない。
1階はあれだけいたのに人っ子一人にも合わない。
それの動きが止まって、その多い足の内一本を使ってドアを指差した。
『ここだよ、中で私の上司が待ってる』
「あ、ありがとうございます」
一度深呼吸してから扉を開ける。
まあまあの広さをした部屋、壁にはいくつか扉が見える。
ここ以外にもいくつか部屋があるのだろう。
そしてその中央にはデスクがあり、そこに赤髪の男が座っていた。
「来たか」
「雪羅天です。よ、よろしくお願いします」
相手がだれであれ、第一印象は大事だ。
「俺はカグツチ。この特命課を仕切らせてもらっている」
カグツチさんは何やらデスクの引き出しを漁り始めた。何をしてるんだろう?漁り終えると、一枚の紙を渡された。
「この部署の説明は聞いているか?」
「はい、先生からある程度は」
その紙には部署の説明が書いてあったが、それは先生がしてくれた説明とほとんど同じ内容だった。
「まぁざっくり説明するとだな、ここは特殊命令遂行課、略して特命課だ。中枢管理課からきた依頼をこなしたり、局内の治安維持を行っている。以上だ」
「簡潔すぎませんか?」
「今言った以外にもやっている仕事はあるが、それは説明できるのはお前が入った後だ」
なにそれ、まぁ新設する位だからよほど重要なことをしているんだろう。
「ただ、待遇は学生の中で最高のものを用意しよう。というか今人手不足過ぎて入ってくんないと俺らが過労死する」
そう言う男の目は、死んでいた。
私はどうするべきなのか思考を巡らせた。
そして私が導き出した結論は
「お断りします」