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始まり3


 試験は基礎試験と実技試験の二つがあるそうで、基礎試験から行われた。

 基礎試験の内容は、体力・握力・筋力などの身体能力を見るTHE基礎という内容だった。

 半分とはいえ私も龍神族なので、身体能力の項目は全て満点を取らせていただいた。

 やったね。

 その後特に休憩なども挟まず始まった実技試験では順番は決まっておらず、先生曰く「自信のあるやつからやれ」とのこと。一番最初に手を挙げたのは勇気ある男子生徒A。

 名前はまだ覚えられてない。

 ごめんなさい、ホントに。

 実技試験の内容は、特殊な技術によって作られた仮想敵との戦闘。

 

 「この試験の目的はお前らの戦闘能力を測るというのもあるが、ここを卒業して管理局の保安隊に入った場合、魂の残骸から生まれる縛霊ばくれいと戦う必要が出てくる。その場合に備えてお前らに慣れてもらうという目的もある。このことを頭の片隅にでも置いておいてくれ」


 試験を始める前に、どうやら使用する武器を選べるらしい。選べるとはいっても遠距離武器か刀しかない。

 私の聞いた所によると、対縛霊における主流の戦法は遠距離ちくちく戦法らしいので、大多数の人は銃剣・拳銃・弓などで稀に刀やガントレットなどの近接武器を使う人がいるので仕方なく置いてあるんだそう。

 Aくんは銃剣を選んだ。


 「ちなみに一定以上の威力の攻撃を食らったと見なされるか、縛霊を討伐した時点で試験を終了する」

 

 先生が開始の合図を出すと、何も無かった所に奇怪な頭をした人型の怪物が現れた。

 Aくんは開幕縛霊の頭部めがけて弾丸を放った。

 その弾丸をくらい縛霊が少し後ろにのけ反った後急に前へ体を倒し、Aくんへ急接近した。

 不意を突かれた様で、縛霊の接近に反応する事なく渾身の一撃をくらった。

 その瞬間Aくんが手に持っていた銃剣が淡く発光し、バリアを作り出して攻撃から守った。


 「よし、試験終了だ。次にやりたい奴は手を挙げろ」


 クラスメイト達は前の生徒が負けてしまったからか手を挙げる者はいない。やるなら今しかない、と思った。今ならあの縛霊に負けても、まあ仕方ないか、とみんなも思ってくれるだろう。私は誰も手を挙げていないか確認してから名乗り出た。


 「やります!」

 「わかった。雪羅、まずは武器を選んでくれ」


 先生の隣には大きな台と、その上に様々な武器が並べられていた。

 今更だけど、もしかして私、どの武器も使ったことない?

 うーん、先生は使ったことがあるか、一番使えそうな武器を使えって言ってたっけ。

 それなら刀になるのかなぁ。

 私がまだ幼かったころ、病床から庭で剣術の修練をしている父の姿を今でもはっきりと覚えている。

 この負けても仕方ない空気が流れている今、刀に挑戦できる絶好のチャンスでは?

 1分程迷った末に、私は刀を選んだ。


 「雪羅、本当にそれでいいのか?」

 「はい」


 この先生が心配するほど、対縛霊戦においては不利なのだろう。

 でも脳裏に焼き付いたあの父の姿に今でも私はあこがれている。

 せっかくのチャンスなのにやらないという選択肢はない。

 前に進んで縛霊が実体化される。


 「制限時間は5分だ、それでははじめ!」


 掛け声とともに縛霊が動き出した。

 その瞬間、すうっと頭の熱が吸収されたかと錯覚するほどに冷たくなり、思考が研ぎ澄まされるような感覚に陥った。

 だが大した違和感は感じなかったので気にせず続けることにした。

 近接戦闘能力が高い、という情報しか私は知らない。

 小手調べで足を狙うことにした。相手がどのくらい速いのかわからない今、できるだけ速く攻撃する。

 まず最初に私は反応される前に懐へ入りこんだ。

 刀の柄を握りしめ足を切りつけようとした瞬間、視界の隅に縛霊の腕が見えた。

 想定外の攻撃速度に対して、咄嗟に刀を攻撃方向の腕の側面に刀身を添わせて防御した。


 結果として防御はできたが、踏ん張りが足りていなかったのか吹き飛ばされた。

 私は翼を広げて勢いを殺し、そのまま体勢を立て直した。

 思ってたよりも強い!

 ところで、この再現された縛霊にはどのくらい知性があるのだろうか。

 本物の縛霊を知ってるわけじゃないからもちろんその知能レベルも知らない。

 私がどういう動きをしているかとか、分析できるのだろうか。

 私はもう一度接近してさっきと同じ動きをした。

 たださっきと違うのは切る為に構えている刀や腕に力が入っていないことだ。

 また同じ対応をするなら受け流す、フェイントだと見破られたら力を入れて切る。

 縛霊が取った行動は、前者であった。

 刀身をななめに構えて薙ぎ払いを受け流し、その伸びきった腕を切り落とした。

 再現されている物だからなのか痛みや恐怖を感じている様子はない。

 縛霊というのはもともとああいうものなんだろうか。

 近接での攻撃手段である腕を片方切り落としてやったので、少し距離を取った。

 間髪入れずに私は氷の魂能を地面に這わせるように展開し、縛霊の足を封じた。

 私の魂能特性は、”無形”。何かをかたどらせようとしても無形であるがゆえにすぐ崩れてしまう。

 しかしなにかを形作れない分、そのままの出力は同レベルのものと比べても高くなっている。

 足を封じている氷にひびが入った。

 私は拘束を解かれる前に全速力で接近し、振りかざしてきた腕をかわして縛霊の首を刎ねた。


 「試験終了だ。次」


 深呼吸をして、荒れた息を整える。

 最初はどうなることかと思ったけど、うまく出来てよかった~。

 雨笠さんが駆け寄ってきて、「お疲れ様」と声をかけてくれた。


 「あれ?雪羅さんなんか目が...」

 「え?」

 「ううん、なんでもない。気のせいだったかも」


 私の目がどうしたんだろう?私は何も感じてないけど... まぁいいか。


 「雨笠さんもがんばってね!」

 「うん!雪羅さんのお陰で何だか私も勇気が出てきたよ」


 まだ誰も私の後に手を挙げた者はおらず、雨笠さんが手を挙げて試験が開始された。


 「では、始め!」


 先生の掛け声と同時にタイマーが動き出す。

 彼女が選んだ武器は、1人目と同じ銃剣だった。

 初動は彼女が縛霊との距離を一定に保ちつつ、隙を見て撃つ。

 それを繰り返していた。

 だが縛霊も黙ってやられる気は無いようで、大きく飛び上がり雨笠さんに襲いかかった。

 その瞬間、どこからか青透明で四足歩行の動物が姿を現し、彼女を背に乗せて縛霊から距離をとった。

 雨笠雫の魂能の属性は水、その特性は"動物の再現"。

 本人が知りうる動物全てを水で再現し、操れる。同時に再現し操れるのは1体のみ。

 距離を十分話した後、雨笠さんは背から飛び降りて銃剣を構える。

 再現された四足歩行の動物は縛霊の方へと反転し、足に噛みついた。

 そしてその隙に雨笠さんが銃剣で攻撃している。

 雨笠さんがあんなに強いのにも驚いたけど、あの四足歩行の動物は何だろう?

 縛霊がその四足獣に向かって拳を振り下ろし、胴体を潰した。

 普通ならその拘束が解けて今すぐにでも彼女との距離を縮められる。

 だか、その四足獣は生憎と体が水で出来ていた。

 その体は再生し、その場から縛霊を動かそうとしない。

 ただ動けないだけでなく、止まっている今は雨笠さんの格好の餌食である。

 何度も銃弾を受けた縛霊の防御が段々と剥がれていく。

 遂にその銃弾は脳天を打ち抜き、それは倒れて消えた。


 「試験終了だ」


 正直、私よりも雨笠さんの方が強い気がする。

 彼女が選んだ武器を元の場所に戻し、私の方へやってきた。


 「どうだった!?うまく出来てた?」

 「うん。雨笠さん、あれだけ動けてて倒せるんだから将来安泰だね!」


 私がそう言うと「いやぁ、褒めすぎだよぉ」と頭を掻きながら恥ずかしそうにしていた。

 私も雨笠さんも縛霊を倒しているが、私は刀でほとんどゴリ押しの様なもの、雨笠さんは魂能を最大限活用した遠距離戦術。

 どちらの方が評価が高いのかは明確だ。

 どんな観点で見られてるかは知らないけど、私が評価する立場だったら刀を魂能でごり押した私よりも雨笠さんを評価する。


 「それでは試験開始だ」


 雨笠さんと話しているあいだに次の人の試験が始まった。

 その後も順調に試験が終了し、結果はクラスの半分ほどが縛霊を倒すことに成功していた。


 その後私たちは教室に戻され、陽目先生から配布物をもらい、明日の連絡事項を言い渡されて本日の予定はすべて終了した。


 「では、今日はこれで終わりだ。各自帰宅して明日からの授業に備えるように」


 先生が教室を出ると、みんな帰る準備をし始めた。私も無事に終われてほっとしたのか今朝からあった不安がなくなった。これからもなんとかやっていけそうだ。


 「雪羅さん、いきなりだけど一緒に帰らない?」

 「う、うん。いいよ」


 本当にいきなりで少し動揺してしまった。

 せっかく仲良くなったのに断る理由もないし、断る気もない。

 雨笠さんはもう帰る準備が終わっていたので、急いで荷物をカバンに詰めた。

 配布物で行きより少し重くなったカバンを背負い、雨笠さんと一緒に教室を出た。

 雨笠さんと私の帰り道は偶然にも途中まで一緒だった。

 道中でいろんな話をした。

 そこで聞いた話によると雨笠さんの実家はパン屋を営んでいて、彼女も親の跡を継いでパン屋になるつもりだったらしい。

 だがある日突然市街地に縛霊が出現してそのパン屋があった建物は倒壊。

 突然の大赤字に貯金まで無くなってしまい、遂には借金を負ってしまった。

 この黎界で1番稼げる仕事は管理局員。

 雨笠さんは管理局員になろうと決めたが、それになるにはまず学園に入らなければならなかった。

 もちろん学園も誰でも無料で入れる訳ではないが、入学試験の時に十分な学力を示せば奨学金が、才能を示せば無償で学園に通う事ができた。

 雨笠さんには魂能を扱う才能があり、その基準をクリアして通うことが出来るようになったらしい。


 「雪羅さんはどうしてこの学園に通うことにしたの?」

 「あー、それはね...」


 私は雨笠さんに学園へ通うことになった経緯を説明した。

 経緯って言ってもある日私の祖父に「天ちゃん、学園行こっか」と言われ気づいたら学園に通うことになってたってだけなんだけど。

 正直あまり気乗りはしなかったけど、雨笠さんと出会えたし、今はよかったと思ってる。


 「え、雪羅さん試験受けてないの?」

 「うん、一回学園に行ったけど、試験は受けてないよ」

 「絶対裏口入学じゃん」

 「oh...」


 そうだったのか...学校ってそうやって入るものだと思ってた。

 私の家、そんなに権力持ってたんだ...


 「雪羅さんってお嬢様だったんだね!」

 「そ、そうなのかな...」


 以外だ。てっきり雨笠さんは苦労して入って、私は裏口入学したから嫌われても仕方ないと思ってたけど、私が思っているほど世の中悪い人だらけではないらしい。

 そんな調子で楽しく会話していると突然雨笠さんの足が止まった。


 「私、こっちの道だ..」


 雨笠さんは左、私は右の道だ。

 もうちょっと話していたかったけど、今日はここでお別れかな。


 「じゃあ、また明日」

 「うん、バイバイ!」


 雨笠さんに背を向けて私は家路を辿った。

 そこから龍神族の屋敷はそれほど遠くなく、歩いて5分程の距離だった。

 帰宅するとタマさんが晩御飯の準備をしていた。


 「天ちゃん、学園どうだった?」

 「これから楽しくやれそうです!」

 「そう、それならよかったわ」


 それからはタマさんに今日あったことを話した。

 友達ができたことも話すととても喜んでくれた。


 晩御飯を済ませた後、疲れが押し寄せてきたのでベッドに入った。

 体が病弱だったあの頃よりも、うんと楽しくなりそうだ。

 明日からは本格的な授業が始まる。

 それに雨笠さん以外にもたくさん友達作りたいし。


 ああ、早く明日にならないかなぁ______



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